紙の本
時代に流されずに生きろ!
2007/07/25 14:56
14人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は猪瀬氏が著書『 日本人はなぜ戦争をしたか (原タイトルは「昭和16年夏の敗戦」』をベースに東京工業大学で行った「日本の近代」と銘打った講義の概要をまとめたものである。面白くて一気に読み終えてしまった。猪瀬氏の言いたいことは、戦後サヨクが垂れ流した「戦前まっくら史観」は丸でウソなのであって、戦前の日本は今の日本と基本的に連続した社会であり、当時起きたことと似たようなことは今も起きている。まずこのことを銘記せよ、というものである(サヨクが垂れ流した東條を筆頭とする悪辣な軍部が日本を戦争に引きずり込んだのではない)。日本人は独裁者が大嫌いである。リーダーシップが大嫌いである。少しでも権力を集中的に行使しようとする「カリスマ」が登場すると、よってたかって難癖をつけては引き摺り下ろそうとする(小泉純一郎がヒトラー呼ばわりされたことを思い出せ!)。日本人が大好きなリーダーは「神輿に乗るタイプ」「良きに計らえタイプ」のダラ幹である。ダラ幹なら幕僚(課長クラス)で組織をすすき放題に支配できる。課長の出来ることは知れている。他の部局の根本的な利害に係わることには口出しできない。これだと組織が全体として上手く機能しているときは拡大均衡を通じて全員が旨味を享受でき、うまくいく。しかし、権力を分散させることで、トップがリーダーシップを発揮出来ない『弱い指導者』をよしとする日本的意思決定機構は、危機に瀕したとき、無限の無責任体制に陥り、誤りを修正できずいたずらに傷口をひろげてしまう。先の戦争のときの軍部・政府がそうだったし、今次のバブル崩壊のときの大蔵省がそうだった。東大法学部のトップ層を集めたはずの日本のベストアンドブライテスト組織はバブル崩壊を前に手も足も出ず、ひたする地価の反転上昇を祈るのみで、不良債権処理が出来なかった。日本の組織は変わっていないのである。日本の意識決定方式は変わっていないのである。そしてこれは日本人にとって、大変不幸なことなのである。本書で非常に共感を覚えたのは猪瀬氏が本書の冒頭で戦後の論壇について評している下りである。皆のために引用する。「いまから思えば、戦後の論壇はひどいものだった。何かあればCIAの謀略だ、アメリカが悪いといえば済んだ。プロパガンダは『左翼』が得意とした。何しろソ連邦(当然、北朝鮮も)を理想の国のように論じていたのだから。論壇は、極めてマイナーな存在だから無責任でいられた。実証的な調査や研究は一段と低いものと見られ、『理論』が正しいとされる傾向があった」と嘆じている(私の好きな山本夏彦氏はこれを「論より証拠というが、左翼にとっては証拠より論なのだ(南京大虐殺や沖縄の日本軍自決強要事件を見よ)」。いまから振り返ると「笑うしかない」ひどい論説を垂れ流し続けた岩波書店の雑誌「世界」や「朝日ジャーナル」、丸山真男、小田実、大江健三郎...このあたりの論壇のひどさについては奥武則著『論壇の戦後史』参照。
そして続けて猪瀬氏は「このごろ『右の左翼』と呼ぶしかないような体質の人々が現れている。事実をないがしろにした過激な発言は歴史への冒涜である」と嘆いている。全く同感である。
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東条英機は太平洋戦争を回避したかった。
そんな今まで教えられてきたこととは正反対の話から始まり、どうして開戦になってしまったのか、世論などとは別の“空気”が官僚制を支配したことが述べられている。同じことが道路改革でもおきていたと、その当事者自身が語る。
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山本七平『空気の研究』を援用しながら、太平洋戦争直前に設立された総力戦研究所や、理工系学生の戦争観を記述している。某大学での講義を書籍化したもの。
「必敗」と分かっていながら、日本は空気に流されて対米戦争に突入した。その過程を丁寧に追っている本書は、「KY」という言葉が流行する今、読んでおくべきであろう。なお、猪瀬氏の著作『昭和十六年夏の敗戦』は総力戦研究所を描いた作品であるので、併せて読むとよい。
ちなみに、「空気を読む」という言葉自体は戦前期から存在したようで、先日長野の地方名士の日記(昭和初期)を読んでいて「彼ハ空気ノ読メヌ奴・・・」というフレーズを目にした。
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けっきょく、戦争の原因は石油なのだと。
日本が戦争を始めたのも石油が無かったからだと。
後、何となく、雰囲気で始めたみたい。統帥権を持った人たちが陶酔して。
こんどは、全世界で石油が無くなるようです。
ピークオイルというもので。
陶酔してる場合やないなぁ。
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予想したほど面白くはなかったが、負けるとわかっている戦争に向かっていった「組織」に、その方向性を決定付ける有無を言わせぬ「空気」があったことを実証主義的に叙述しており、意義は大きいと思う。
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太平洋戦争開戦前の昭和16年、軍部が「総力戦研究所」を立ち上げ、戦争の成否についてシミュレーションし、戦争は持ち堪えられないとの結論を得ていたのに、当時の空気と捏造した数字と神頼みで戦争に突き進んでいく哀れな日本の姿が、現在の日本とも重なって見えます。
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近衛首相も東條陸相も、「大政治家というものは、正しいと自分で判断した場合、国民などを黙らせてもその方向へ引っ張っていく」という強いリーダシップは発揮しなかった。
数字をごまかすと国は滅びると、僕は信じて疑わない。官僚機構は、虚実を匠に使い分けると、知っている。局所的な実に拘泥しながらついに全体を見ない、全体が虚であっても責任を取らないのである。
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技術者という自分の役割の中で自分にできることは何かを「事実」にもとづいて、論理とデータで考えて行くことだ。そうやって社会で働いていれば自然と「空気」とは無縁の「オンリーワン」になれる。
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満州での利権に拘るあまりに、アメリカより石油の禁輸制裁を食らったために、インドネシアへの南進を諮ることとなった日本。完了より石油備蓄の試算の説明を受けた後に決断を請われて、東条は「泥棒せというのか」と怒鳴ったという。東条英機は当初は開戦論者であったが、昭和天皇より開戦の回避を指示される。天皇の忠臣であった東条は、なんとかこれを模索するが自らが作った流れは変える事が出来ず開戦と至った。正直以外な事実であった。いったん作られた流れが止められずに破壊的な結末に至るのは、もう日本人の民族的な特性といっても仕方がないであろう。しかし、あの時代から学ぶことなく同じ事を繰り返すのであれば、太平洋戦争で死んでいった先人はうかばれない。経済が疲弊していくなか、自らを変えられない日本人。結局、市場による暴力的な調整によって再度の敗戦を迎えなかれば変わる事はできないのであろうか?
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[ 内容 ]
太平洋戦争という日本の針路決定の陰に、二十代、三十代の若者達の戦いがあった!
東京工業大学の学生に向けた、目からウロコの名講義を再現。
「時代に流されずに生きるとは」を熱く説く。
[ 目次 ]
はじめに(戦前も「アメリカ」は流行だった;「右の左翼」の謀略史観)
第1章 東條英機に怒鳴られた二十六歳の高橋中尉(人造石油とバイオマス;少佐と中尉はどちらが偉いのか ほか)
第2章 三十代の模擬内閣のシミュレーション(『昭和16年夏の敗戦』;にわかづくりの総力戦研究所 ほか)
第3章 数字が勝手に歩きだす(口外してはならぬ;「虎穴に入らずんば虎児を得ずだね」 ほか)
第4章 霞が関との戦い(戦前と戦後をつらぬく官僚主権;歴史は繰り返す ほか)
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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他著書とのダブりも多い点を除けば満足の一冊。東工大での講義記録という性質上いた仕方なし。
東条英機に関する記載は、知らない人が多いだろうと思われる。
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著者の東工大での講義録。
第二次世界大戦の原因の一つは石油禁輸網であるが、その石油をめぐって当時の若手エンジニアなどの精鋭があつめられ総力戦研究所で開戦シミュレーションを提出、必敗という結果が。しかし数字が独り歩きして、戦争ができる、という方向にまがってしまいあの悲惨な結果になったという話があるらしい。
その話をもとに、技術者は空気社会日本の中でどう処していくか?という内容。
組織には猛烈な同調圧力がある。「同調圧力に屈しないためには自分探しなどというヤワなものにとらわれずに、技術者という自分の役割のなかで自分にできることは何かという事実にもとづいて、論理とデータでかんがえていくことだ(188)
組織の中の個人が組織の空気、システムに妨害されて力を発揮できないでいるとしたら、僕の役割は明らかだ。官僚的な日常性と逆の立場から、組織や時代の空気に流されずに生きろ!と励ますことだろ。(192)
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東工大での講義「日本の近代」が書籍化されたもの。内容は「昭和16年夏の敗戦」とかぶるところが大きいのでお買い得感がないのだがw、現代の学生向きに時代背景が補足されている。さらに重要なのは『本書のテーマは、戦前と戦後はむしろ連続してますよ、という視点で、これからの日本のあり方を考える』(P.10)点で価値がある。『実質的に日本を動かしていたのは官僚機構であり、天皇主権でも主権在民でもない官僚主権がつづいているという意味では戦前も戦後も連続しているといえる。』(P.11)
その連続性を考える上でのキーワードが「空気」となっている。空気に流されると、数字が一人歩きを始める。
『数字を誤魔化すと国が滅びる、と僕は信じて疑わない。官僚機構は、虚実を巧みに使い分ける、と知っている。局所的な「実」に拘泥しながらついに全体を見ない、全体が「虚」であっても責任を取らないのである。』(P.170)
いろいろ身につまされる言葉である。
山本七平の『「空気」の研究』もあわせて読みたい。
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ABCD包囲網のDはオランダ領インドネシア、インドとマレー半島はBのイギリス領。昭和16年8月1日にアメリカは対日石油禁輸措置を発令したが、実質的には6月21日に石油製品輸出許可制が完全実施されて以来一滴の石油も入手できなくなっていた。
筆者の前書『日本人はなぜ戦争をしたのか 昭和16年夏の敗戦』の内容。昭和16年4月近衛内閣が総力戦研究所を作った。官僚、学者、軍人、マスコミのエリート36名が集められ、もし日米が戦えばどのような結果となるかを研究させた。8月には結果がでた。初戦は勝つであろうが、やがて国力、物量の差が明らかになって、最終的にはソビエトの参戦という形でこの戦争は必ず負けると、近衛内閣閣僚の前で発表した。東條陸軍大臣は、机上の空論であるとしてこの研究の成果は決して口外しないようにと命ずる。
東條内閣の企画院総裁として、開戦直前の御前会議で燃料の供給消費予想を報告した鈴木貞一は、「僕は腹の中ではアメリカと戦争をやって勝てるとは想っていなかった」述懐するが、問題があるとわかっていながら、そのデータを出さざるを得いムードがあったという。空気である。
山本七平の『空気の研究』も紹介されている。また戦前と現在は様々な点でつながっているということも筆者は繰り返し主張している。
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結論ありきで数値を作る。複雑な状況下で判断下す必要があり、その作業が困難を伴うことは理解する。しかるに、