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みんなのレビュー26件

みんなの評価3.9

評価内訳

26 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

「黄色い爆弾」がはじけるときとは

2008/05/03 14:14

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る

小池昌代は詩人である。
この人の作品は『詩と生活』 (思潮社)、『屋上への誘惑』(岩波書店)『小池昌代詩集』(思潮社) 『井戸の底に落ちた星』(みすず書房)などを読んできた。
『永遠に来ないバス』で高見順賞、『屋上への誘惑』で講談社エッセイ賞、『タタド』で川端康成文学賞を受賞。

小池昌代の文は、飲み物でいうならドライシェリーのような味。きりっとして決してウエットでない。スカートをひらひらさせることなくパンツスーツをかっちりとはきこなした知的な文が小気味良い。

今回読んだ『タタド』は表題の「タタド」ほか、「波を待って」「45文字」の三篇からなっている短編集。

表題の『タタド』は中年を過ぎた夫婦の海辺の別荘にそれぞれの男友達、女友達が泊りがけで集まって過ごす週末。
筋書きらしい筋もないままの時の流れ。
海辺を散策する夫婦と男。そこへ夫の友達の女優が加わる。
夕食を囲み、ワインを飲む。
庭に植わっている夏みかんがぼたっと落ちる。
この夏みかん、すっぱさは空前絶後の味。

この夏みかんはこの物語の行く末を暗示するようで小道具のような役割でありながら大きな伏線をかもしている。
それはアダムとイブの「禁断の木の実」を思わせる。
男友達と女友達はこのとんでもなくすっぱい夏みかんを食べる。
黄色く輝く実をむさぼる様子はこの筋書きのないような物語に鮮烈なインパクトをあたえる。

それは梶井基次郎の「檸檬」の一節にある「夏の陽に/身を焦がした/樹液はやがて/黄色い爆弾となる」を彷彿とする。
この4人は朝を迎え「黄色い爆弾」がはじける時をむかえるのだ。
「禁断の木の実」を思わせる「黄色い爆弾」がはじけるときとは何だろう?
それは読者へのお楽しみとしておこう。
まるでフランス映画を見ているような物語。

あとの二編も味わい深い。
特に二編目の「波を待って」は中年夫婦の心の奥を描いて白眉。

たそがれを迎えようとする者の残照は朝日のそれとは異なり、鈍いが一瞬の輝きを放つ。
それを詩人らしく絶妙の表現をしていて舌を巻いた。

(五十半ばの夫の背中に日焼け止めのクリームを塗ろうとする主人公は夫の背中のまぶしいほどの弾力にたじろぐ。

それは蛤の力を思い出していた。つい最近、潮汁をつくったことがあったのだ。火にかけた鍋の中で、蛤たちが、次々と口を開くのを亜子は待っていた。いよいよというとき、おたまで鍋のなかをかきまわそうとすると、ちょうど、ひとつがぱくりと口をあけ、亜子がぼんやりと握っていたおたまを、ぐいと押しやった。そこ、どいてくれよと、いうように。亜子は驚き、その柔らかく決然とした拒絶の力に、自分の命が押し返されたように思った。それは驚くほど官能的な触感だった。

夫の背中には、あの貝と同じ弾力があった。
もっとも、貝が何かを押しのけてあくとき、それは貝の死ぬときである。だがその死は、亜子の目にはほとんど生の絶頂に見える。生きている貝の生は、貝が開く直前、波のように盛り上がり、沸騰点に達する。そしてついに、開かれた死のなかへ、烈しくおだやかになだれ込んでいくのだ.夫の背に見えたものも、死を内包した、生の絶頂の輝きなのかもしれない。)

小池昌代の作品は物語の筋を追うよりもその言葉がかもす一瞬の光芒にある。
その一つの言葉のために筋書きがあるのではないかと思うほどである。
食前のドライシェリーが食欲をかきたてメインディッシュへと誘い込むように一つの言葉が脳髄を刺激し、胃の腑を満たしていく。

どの短編も小粋である。


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紙の本

タイトルの意味や話の筋さえどうでもいいかもしれない

2007/12/04 23:08

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:つきこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

作中に夏みかんが出てくる。甘い果物全盛の中、すっかり人気の廃れた果物だ。文章を追うだけでその強烈な酸味が甦って口の中は酸っぱくなり、爽やかな芳香を鼻先にかいだような気がした。そしてこんな風に五感を呼び覚ますような文章には、近頃すっかりご無沙汰だった。読んでる本が悪いと言われればそれまでだ。

筋というべき筋もないような全三篇からなる短編小説集。個人的には官能の香りさえご愛嬌。ただ厳選された”ぴたり、ぴたりと石を置いていくように、言葉が胸に落ちていく”感覚をじっくりと味わい、吟味された一文一文を追う楽しみに、心ゆくまで浸りました。最低限の言葉で深い余韻を残す、そういう意味では詩人の小説だなぁとつくづく感じます。
この路線を踏襲しようとして、失敗した小説をたくさん知っている。小説はまず言葉ありきということ。ことばの力をまざまざと見せつけられます。
書店を賑わすぶ厚~い本の数々。著者畢生の著。十年に一度の大作。少々過大広告気味の宣伝文句も丸っきりの嘘ではない。どれも読み応えがある。あり過ぎる。著者の言わんとしたところを頭に詰め込まれすぎて、酸欠気味になるほどだ。貧弱な言葉でも、これだけは伝えねばならぬと千言万言を費やして語りたいことを語る小説なら、熱意だけでも買うことはできる。が、空間を生かすような小説でそれをやられると、もう目もあてられない。そこにあるのはただスカスカな枯れ木一本だったりする。がっと詰め込まれた雑多な情報で詰まった頭を、険しくなった眉間の皺をほどいてくれる本書は詰め込み型物語の逆をいく。

本当に大事な本なんて2、3冊しかない。その意見には賛成なのですが、じゃあどれが大事なのかを凡人が見極めるためには、やはり膨大な本を読まなくてはならない。

ぐっちゃぐちゃでカオスを極めたクローゼットがすっきりきれいに片付いた。そんな読後感です。何が必要で何が不要か、見通しが良くなってああすっきり。これでまた明日からたくさんの本が楽しめる。そしてまたいそいそと本を選びにかかるのであった。

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2008/02/13 23:31

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2007/10/24 16:20

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2007/10/27 10:35

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2007/11/28 00:00

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2011/04/14 21:31

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