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「兵士」になれなかった三島由紀夫 みんなのレビュー

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紙の本

もうちょっと三島由紀夫の思想と行動について掘り下げてほしかったなあ。ザンネン!

2009/06/19 20:33

13人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る

著者の杉山氏が自衛隊と三島由紀夫に興味を持つようになったのは、彼とのあまりに運命的な「出会い」が契機となっている。当時日本一の進学校だった東京都立日比谷高校に入学した杉山氏は新聞部に入り、記者として自衛隊の閲兵式の取材にあたる。自衛隊は著者を来賓席に案内。肩から金モールを下げた礼服に身をつつんだ各国の駐在武官や華やかな装いの夫人たちが居並ぶ中で来賓席についていた杉山少年の前に、突如、三島由紀夫が夫人を伴って姿を現したのだという。それから二年がたち、1970年11月25日に杉山氏は18歳の誕生日を迎える。大学進学を控え、国会議事堂が窓から見える日比谷高校の校舎で何時も通り授業を受けていると教師がやおら「つい先ほどのことですが、三島由紀夫が市ケ谷の自衛隊に乱入して割腹自殺を遂げたそうです」と告げる。高校に入ってすぐの自衛隊取材で予想もしていなかった三島の登場と、それから2年後の18歳の誕生日での三島の自殺。この不思議な巡り合わせに著者は三島由紀夫、自衛隊に何か運命的なものを感じるようになって、それが彼に『兵士シリーズ全五巻(兵士に聞け、兵士を見よ、兵士を追え、兵士に告ぐ)』を書かせる原動力になったのだという。足掛け15年に及ぶ自衛隊取材に基づく4巻の内容は圧巻である。これだけの歳月をかけて自衛隊を追い続けたライターは日本では彼だけであろう。本書はそのいわば総集編である。

しかし、浩瀚な『兵士シリーズ』の総集編にしては本書はかなり物足りない。はっきり言って駄作だ。私は『メディアの興亡』以来、杉山氏のファンだ。杉山氏の著作の特徴はその厚さにある。400ページを超えるのは当たり前で、にもかかわらずその厚さを読者に感じさせず、書置くあたわずで読ませるのが彼の真骨頂であるはずだ。ところが本書はどうだ。ストーリーは三島が盾の会を率いて参加した陸上自衛隊富士学校のAOC・幹部上級課程の訓練風景の描写が延々と続くだけだ。ボディビルで鍛え上げた見事な筋肉を誇る三島が「どうだ」と言わんばかりに自己の裸体をひけらかす。しかし、それを見た自衛隊幹部は「こりゃだめだ」と一瞬にしてその弱点を見抜く。軍人に必要なのは見事な上半身ではなく鍛え抜かれた下半身で、下半身こそが兵士を死から守るのだそうだ。「兵士は膝から下で死ぬ」のだそうで、例えば進軍の都合上どうしても川を渡らなければならないとき、深さはさほどではなくても重たい装備を背負っていると、流れに足をすくわれて、それだけで命を落とすこともあるという。つまり足腰こそが兵隊にとっては生死を分ける生命線ということになるらしい(じゃあ、アメリカの大リーガーなんて、みんなソルジャーとしては使い物にならないな)。三島は貧弱なちんちくりんの肉体を悔やみ、中年以降ボディビルに明け暮れるようになった。努力の甲斐あって、彼は見事な筋肉を形作ることが出来た。きっと日夜パンツ一丁になって鏡の前でポーズを決めていたに違いない(気色悪!)。でも、見せるための筋肉と生きるための筋肉では鍛える場所が違うとは知らなかったなあ。

本書のクライマックスは富士学校幹部訓練課程でも最難関といわれるロープ訓練「水平渡り」に三島が挑戦したいと言い出し、よせばよいのに十分な練習もせず、ほとんどぶっつけ本番で訓練当日には奥さんまで富士学校に呼びつけて、ギャラリーが居並ぶ前でロープから転落して命綱で宙吊りとなってしまうところである。それにしても、いくら時代とは言え、三島夫人は富士学校に真っ白なミニスカートとブーツで現れたというのだから笑える(オー!モーレツ!)。ちなみに「水平渡り」という訓練は自衛隊の訓練でも難関中の難関で素人が失敗するのは当たり前なんだそうだ。だが豊かな筋肉さえあれば何でも出来ると自信満々だった三島由紀夫は己の惨めな姿を恥じ入り「ダメだ」「情けない」を連発し、相当しょげ返っていたという。

自衛隊市ケ谷駐屯地に乱入して「昭和の2.26事件」を呼びかけた三島に対し、それを取り囲んだ自衛隊からは嘲笑と罵声が浴びせられたという。日米安保体制がしっかりと根付く中で、日本の安全は確保され、経済はアメリカが寛大にも技術を移転し市場を開放してくれた御蔭で大発展し、ドイツを追い抜き世界第二の経済大国に日本は躍り出た。成功と幸せの真っ只中で、日本の自衛隊はちゃんとシビリアンコントロールの意味を理解し、それは彼らの血となり肉となっていたわけで、自衛隊の方々は健全なる常識を身につけていたわけだが、それは三島からは完全に欠落していた。このあたり、杉山氏はもっと書いてしかるべきだろう。三島がなぜなにを不満に思ったのか。私は経済的に豊かになることが国民が幸せになる近道で、貧しいまま幸せになることはほとんど不可能だと信じるが、この単純な真理になぜ三島が気が付かなかったのか。正直不思議だ。

また三島は日本人の精神の弛緩を憂いていたという。じゃあ聞くが、一体何時、日本人の精神が締まっていたのか。まさか泥沼のシナ戦争に突入し、負けるに決まっていた対米戦争に突入した昭和10年代ではあるまい。大正時代は戦争景気で沸いて、日本人の精神は緩みっぱなしで退廃し、なおかつ物凄い不平等社会であった。明治が良かったのか江戸時代が良かったのか。このあたりの三島の考え方とその問題点(異常さ)を浮かび上がらせても良かったのではないのか。

そもそも三島がなぜ割腹自殺までして日本人に何をアピールしたかったのか。今ではほとんどの人が三島の訴えたかったことを知らないし、興味も関心も持ってない。ただホモっぽい露出狂のナルシストが狂って自衛隊に突入してハラキリしたというのが平均的な三島認識だろう。このあたりの三島の思想と行動を、もっと掘り下げても良かったのではないか。三島が恐れていたのは全共闘・中国共産党・ソ連共産党による日本の共産化だったのか(三島は東大全共闘との公開討論に臨んでいる。私はそのテープを聴いたことがあるが、壇上のマイクをペニスに似ているだの何だのと脱線が続き、およそ真面目に聞くに耐えない、意味不明な脈絡のない話が延々と続いて辟易したのを覚えている)。はたまたアメリカ発の物資文明が日本人を拝金主義の虜として日本人が営々として築いてきた大和精神が汚染され滅んでしまうとでも妄想したのか。
三島は楯の会なる私設軍隊のようなものを組織して訓練に励んでいたようだが、その目的は何だったのか。まさか仕事のないプータローを100人近く集めて訓練して、それでクーデターが出来るとでも思っていたのか。だとしたら気が狂っていたとしか言いようがないが、それとも三島は今で言う「軍事オタク」「制服フェチ」で、軍服着て、人前で分列行進の真似事することに無常の喜びを見出す変人だったのか(私はこっちじゃないかと思う)、このあたり杉山氏はもっと掘り下げるべきだったろう。

分厚い本が四巻続いた後だっただけに、総集編が如何にも安直で無気力な仕上がりになっていたことが惜しまれる。

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2007/09/08 00:12

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2012/05/03 12:03

投稿元:ブクログ

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2015/05/12 19:32

投稿元:ブクログ

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