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紙の本
冷静な実況の根底にある、サッカーへの熱意
2007/09/11 00:23
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木の葉燃朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はNHKの、いや日本のサッカー中継において、記憶に残る言葉をいくつも残している山本浩アナウンサー。この本では、1985年のW杯メキシコ大会のアジア最終予選から2006年のW杯ドイツ大会本大会まで、約20年間のサッカー界を、日本代表を中心に振り返る。
この本の中には、山本氏がこれまで中継の中でしゃべってきた言葉が、いくつか紹介されている。それを読むと、自分が見ていない試合であっても、試合の様子が思い浮かぶ。それは、サッカー番組などで使われる過去の試合の映像に、山本氏の実況が流れることが多いからだと思う。それだけ、山本氏の実況と日本のサッカーが結びついていることを感じた。
比較的冷静に書かれている本なのだが、最後の「第四章 1400日をまたいだ自信」の、2006年ドイツW杯の部分では、山本氏のサッカーへの思いが他の部分よりも熱気を持って綴られている。
ひとつは、ドイツW杯で勝利できずに終わった日本代表に対して。日本の選手は「おしなべてプロ化され、そしてあらんことか部品化の傾向を余儀なくされている」(p.274)。「そこには人間味や個性やサムライ精神は不要なものであるかのように映る」(p.274)。
しかし、そうしてW杯に臨んだ日本代表は、「ドイツでは信じられない負け方をした。あってはならない形から混乱のまま敗戦を迎えた」(p.274)。サッカーは、理想的な環境下でのみ戦えるわけではない。「気象条件。内なる不安。相手の行動。オフィシャルの対応。(中略)不安定要因を踏み越えながら戦って発揮される実力が、『勝てる、勝てない』の境目を構成する」(p.275)。この環境下で勝ち続けることが、「結果を見なくても日本は『強い』と言われる時代」(p.275)のために必要である。
そしてもう一つはサッカーそのものについて。「W杯決勝のあとの興奮は、いつもは格別だ。それがこの大会は後日テレビを通じて中継されるイタリアの祝賀式典にしか感じることができなかった」(p.283)。ドイツの組織委員会による「フーリガンの登場を許さない。スタジアムをサッカーを楽しめる場所にしたい。暴力と余分なエネルギーを取り除くために最大の努力を惜しまない」(p.283)という計画と実行は確実なものだったが、「かつて地響きの伝わったスタンドは、一切震えることもなくなった。野蛮な声の固まりは、スタジアムの外からは聞こえなくなった」(p.283)。
著者はそれを、次のような言葉で表現し、この本を締めくくっている。「歓声と拍手と口笛と、そして光の瞬き。W杯を商品としてグレードアップさせるのと引き替えに、勝利に対する熱と渇きをどこかに置いてきてしまったのかもしれない」(p.283)。
この考え方には賛否両論があると思う。でも、グラウンドも客席も含めて、洗練されていないサッカー(それはひょっとしたら、かつてのサッカーなのかもしれない)が持つ魅力について、考えさせられる部分だった。
こうした、山本氏の冷静な実況の根底にあるサッカーへの熱意が、特に印象的だった。
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