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紙の本
浮動票が時代を変える
2009/08/15 19:48
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
浮動票(層)と無党派層はどう違うのだろう。著者の表現では《浮動票の時代の中心をなすのは、無党派層+α(支持政党への離反層)だ。》とのことだ。
地盤が液状化し、組織・団体など既得権益の空洞化が広がったため、この浮動票の影響力が増している。
《旧来の政治家にとっては、票読みのできない混沌とした時代になったといえるかもしれない。
一方、しがらみのない有権者から見れば、自分が一票を投じることで政治の流れを変えやすくなったのだ。ようやく日本でも、民主主義を一般の有権者の手中にしっかりと収めることができるようになったともいえる。》
浮動票だけで選挙に勝つという現象すら起きている。著者もほとんど浮動票だけで市長の座を射止めた(こういうのが、レアケースではなくなりつつあるということだろう)。選挙の一ヶ月前まで鎌倉市議をやっていて、投票要件を満たしていないために自分自身の名前を書くことができなかったのだそうだ。
頼みが浮動票であるだけに、しがらみのない首長が誕生することになる。外部から落下傘のように降ってきたので「よそ者」扱いされてしまうところがある(こういうのは偏狭だなあと思うが)。しかし、しがらみのない「よそ者」であるからこそ、能力と意欲さえあれば改革にはうってつけの人材になりえるのである。
そう、本書は、3期8年に渡って逗子市長を務めた長嶋一由氏の市政改革・運営奮戦記だ。「よそ者」で議会がオール野党なだけに、就任早々から嫌がらせやいじめが激しく苦労は絶えなかったようだ。これはタフじゃないと務まらないなあと思う。
本人は「あきらめたら終わり」という信念をもって、たんねんに改善点を見いだして、ハードルを乗り越えていく。その過程が読みどころの一つだ。
また、人事をマネジメントする立場の人にとっても参考になる点がある。
なかなかのアイディア市長であったようで、情報公開における「時限公開制度」を導入したり、市長交際費を全廃したり、市民参加と専門化依頼をうまく使い分けたりと、さまざまな成果を上げている。
ただ、政治家の「手柄話」はまるごと鵜呑みにするものではないと思っている。どうも政治家は自己PRとして「功績」を強調しすぎるきらいがあるからだ。政治家に「敵」はつきものだから当然でてくることではあるが、長嶋氏の「功績」に対する批判もある。
それを顧慮するとしても、著者は「失敗例」もいくつか書きこんでいて、全体的には誠実さを感じさせる書になっている。
浮動票の時代とはどのようなもので、有権者はどう行動すればよいのか。それを示唆した結語が心に残る。
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