紙の本
哲学の四つの門
2008/01/27 20:07
9人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はまえがきで、本書は現代文の受験参考書と哲学の入門書を橋渡しするものだと書いている。その橋を渡ること自体がすでにして哲学の門をくぐることであるような一冊であると。
この「哲学の門」という語彙に着目すると、本書の四つの章に描かれた哲学の構図のようなものが見えてくる。
まず、哲学的思考がそこから立ち上がる「基底的情報源」としての端的な生の経験がある。見えている物は実在しているか。過去はいま記憶しているとおりのものか。そういった問いがそこから浮上する。
これらの問いに答えられないと、日常生活は破綻する。猛スピードで迫ってくる車の実在を疑う前に、身をかわさなければ命を落とす。過去は写真や証言や契約書によって裏書きされる。
ところが哲学では、問いは解けない。解けないどころか、考えれば考えるほど謎は深まっていく。そのような問いを立ち上げること(日常的経験の外に立つこと)が、哲学的思考の出発点となる。これが第一の門。
この解けない問いをめぐって、哲学的探求は果てしなく続く。そこで思考されているのは、たとえば生き方の問題ではなくて、むしろ「生の形式」の問題である。いかに生きるかではなく、いかに生きているか(生きていかざるを得ないか)である。
それは、知覚や想起の脳内因果法則を明らかにする科学的探求とも違う。たとえ将来、科学者が解答を与えたとしても、それでもなお解けない問いを哲学者は問い続ける。問いを問うことの意味を含めて、問いの答えようのなさ(形式)そのものを不断に語りつづけていく。
そうした探求の彼方にある「不可能性」(本書の例では、たとえば「解釈学的な過去」に対する「考古学的な過去」)へ、つまり言葉や思考の「外」へ向かって、明晰な言葉でもって思考し続けること。
この探求の終局するところに、第二の門が控えている。しかし、哲学的思考は無限の運動なのだから、それが終局することは原理的にあり得ない。だから、その本来あり得ない哲学の第二の門をくぐることは、(哲学への入門に対して)哲学からの出門と言うべきだろう。
ただし、それは中断された哲学的思考の所産である「形而上学的妄想」に汚染されて日常生活に帰還することでしかない。たとえば、知覚の及ばない物自体という妄想、想起できない過去自体という妄想、等々。
この紛い物の第二の門が哲学の第三の門で、実は、それこそが日常の経験そのものを可能にしている。
哲学的思考の中断によって創られたものが、実はあらかじめ在ったものであるという転倒。日常生活の経験が既にして形而上学的妄想に汚染されていたという転倒。それは言葉というもののうちに、したがって言葉を使ってなされる思考のうちに始めから仕込まれていた転倒である。
こうして、言語批判・哲学批判としての(もう一つの)哲学的思考が立ち上がる。この思考の果てに控えているのが第四の門である。それをくぐることは、(形而上学的妄想に汚染された)人生を降りることであり、(形而上学的妄想に汚染されていない)端的な生の経験へと帰還することである。
だが、ここで再び問いが浮上する。いま述べた「端的な生の経験」は、それもまた(もう一つの)形而上学的妄想なのではないか。こうして、哲学的思考は尋常ならざる深みへとはまっていく。
紙の本
精読(できていない自分)を知るために一度読むとよい
2021/02/19 10:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:休暇旅行 - この投稿者のレビュー一覧を見る
哲学者の文章を題材にした大学受験国語問題4つに挑む新書。期待どおり面白い、そして期待よりはるかに軽快に読める本でした。
惹句に反して誤読のパターン抽出のような試みにはほとんど力を割いておらず、基本的に課題文を精読しているだけです。表層的な応用に走らないその愚直さが、かえって本書を普遍的な価値あるものたらしめているように思います。
一方で、精読がしばしば陥りがちな遅滞の印象もなく、強調・整理の巧みさと勢いのある文章にのって、軽快に読み進めることができます。勢い余った著者の書き方に疑問を覚える部分もないではありませんが、むしろそれがために思考が刺激され一層面白くなりました。
偉そうなことを言いましたが、まずは単純に、自分がいかに文章を読めていないか知らされる一冊です。著者の指摘する、予備校回答者、問題作成者、そして文章執筆者の「誤読」のことごとくに見事はまっている自分に笑ってしまいました。
上記のとおり読みやすいので、それこそ高校生などは一度読むと楽しいのではないかと思います。
投稿元:
レビューを見る
発売当日に速攻で買っちゃった(笑)だって入試現代文と哲学の両方に興味がある僕が買わなくて、誰が買うんだよ!
第一章読み終えました。感想は‥‥最高!!むちゃくちゃ知的興奮を感じた!哲学って深い!すごい!面白い!
投稿元:
レビューを見る
入試問題の国語を哲学的に読み解いて行く本です。出題者側の誤読、回答者側の誤読を指摘し、著者の読みが提示されます。ページ数のわりに問題は4題しかなく、解説が非常に長く哲学的。解説が難しいと思う人もいるかも。
投稿元:
レビューを見る
大学の入試問題で哲学を哲学する本。哲学って色々な事象になんだかんだと理屈をつける学問だと思ってるんですが(笑)難しくって言ってることの8割は分かりませんでした…。未来とは現在の連続であって未来にたどり着いた途端に未来は現在になるのであり…。でも未来とは現在の連続ではなく…。結局何が言いたいの???頭が良くなりたいね。てかこんな入試問題解けるわけねえ…。
投稿元:
レビューを見る
入試問題の哲学文書を使って哲学したもの。ユニークな企画だけど頭にはいらなった。
年をとって入試問題とかを考えるのが億劫になったのか
投稿元:
レビューを見る
あとがきに「初校の段階で通して読んだときに、妙な執念みたいなもの・過剰なこだわりみたいなものがあちこちに漂っているのを感じて、その「しつこさ」に自分でもちょっと辟易した。「何でこいつは、こんなことを一生懸命にやっているのだろう?」とも思った。」とありましたが、私はむしろ好感しました。奥深く読み込む姿勢、誤読に対する厳しいツッコミ…いえ切込みがカッコよく感じました。丁寧に何度も書かれていて、図にするなどわかり易く、入試問題に対して寄り添って考えてくれています。
投稿元:
レビューを見る
[ 内容 ]
哲学の文章は「誤読」の可能性に満ちている。
すべてを人生や道徳の問題であるかのように曲解する「人生論的誤読」、思想的な知識によってわかった気になる「知識による予断」、「答え」を性急に求めすぎて「謎」を見失ってしまう「誤読」、そして新たな哲学の問いをひらく生産的な「誤読」…。
本書は、大学入試(国語)に出題された野矢茂樹・永井均・中島義道・大森荘蔵の文章を精読する試みである。
出題者・解説者・入不二自身・執筆者それぞれの「誤読」に焦点をあてながら、哲学の文章の読み方を明快に示す、ユニークな入門書。
[ 目次 ]
第1章 「謎」が立ち上がる―野矢茂樹「他者という謎」(「答え」ではなく「問い」;「問い」というよりも「謎」 ほか)
第2章 “外”へ!―永井均「解釈学・系譜学・考古学」(解釈学;系譜学 ほか)
第3章 未来なんて“ない”―中島義道「幻想としての未来」(テーマ;概観 ほか)
第4章 「過去をいま引き起こす」ことはできるか?―大森荘蔵「『後の祭り』を祈る」(私の読み方の強調点;「酋長の踊り」という話の紹介 ほか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
投稿元:
レビューを見る
本書は、大学入試問題で引用された、野矢茂樹・永井均・中島義道・大森荘蔵の文章に関する問題を解きながら、どうして作者や出題者、解説者、回答者それぞれが読みや意図がずれて〈誤読〉してしまうのかを語るもの(とにかく哲学に関する文には誤読がつきまとう)。哲学の本のジャンルでも、現代文についてのジャンルでも、本書は極めて奇異なものである。
だが実際には、彼らの文章の内容を読み解き、その中から哲学的な問題(引用文からは過去・現在・未来[特に過去の〈過去性〉に関する問題])について著者が解説しながら、入試問題を解いていく。
哲学の入門書のように、哲学者や哲学用語なるものは殆ど出てこないが、丁寧に問題文や文章を読み進めていかないと、内容は易しいものではない。
それでも、歴史哲学や時間論、歴史の物語り論などに興味がある人には、本格的に始めるための初級本として向いている。
投稿元:
レビューを見る
これは面白い。大学入試問題を深く掘り下げ解説してゆくので、大学生なら十分に読める内容だ。
というより、高校でここまでのレベルの解説をやったらどうだろう。
「哲学」という分野へのアプローチは高校の頃にもうやるべきだと常々思っていて、こういう手法なら楽しくやれるんではないかと思った。
095頁9行目8文字目、誤植。
良い本は読み終わるのが惜しい。問題を解き、設問の回答で答え合わせをし、解説を読む、というやり方で読んだので時間はかかったが、時間をかけた分、自分が浅い読みをしたところ、逆に筆者と同じ読みをしたところがとても明確にわかる。
実在論や時間についての哲学的解釈が特に多く書かれていて、とても興味深かった。
続編をぜひ出してもらいたいなあーヽ(´ー`)ノ
投稿元:
レビューを見る
現国の大学入試問題を、哲学的考察のもとに解答した本です。
野矢茂樹「他者という謎」(北海道大学2000年入学試験国語第3問)
永井均「解釈学・系譜学・考古学」(東京大学2002年入学試験国語第4問)
中島義道「幻想としての未来」(早稲田大学第一文学部2005年入学試験国語第2問)
大森荘蔵「『後の祭り』を祈る」(名古屋大学1997年入学試験国語第1問)
日本を代表する上記哲学者の著書を入試問題に、 その解答を『入試問題からみた解答』ではなく、『あくまでも哲学的解答』を目指し、その対比を見事に解説しています。
著者のあとがきにもありますが、『高々4問なのに300ページ費やした』!!甲斐あって、これ以上は無い程に噛み砕いて解説しているため、門外漢でも十分楽しめます。
大満足の読み応え、そしてこんな難しい問題を入試で出すハイレベルさに驚愕しました(笑)
・野矢茂樹「他者という謎」⇒問題が一番分かりやすくて面白い。哲学的考察では他者の痛み等の
感覚は「分からない」と両断しています。
彼の著書を持っていますが、彼の本は日常の素朴な疑問から出発して書かれているので
頭にスーっとはいってきます。オススメです!
・永井均「解釈学・系譜学・考古学」⇒一番難しかった(奇しくも東大の問題)!
時間論(特に過去)を考察し、大変刺激が多く、興味深い内容でした。
・中島義道「幻想としての未来」⇒時間論(特に未来)について、
未来完了の文法を徹底的に洗い出し、絶対に届かない未来について述べています。
・大森荘蔵「『後の祭り』を祈る」⇒飛行機事故を知り、それでもなお
「当の飛行機に乗っていた友人に惨禍が降りかかっていませんように」と祈る。
終わった事故に対してなお祈る、相手の範疇にない自分の行動が相手に影響するような
時間的倒錯のパラドックスの常識を検証しています。
全体を通して思ったことは、「それまで常識だと思われていたことが、実は違うのではないか?と疑いの眼差しを持たせてくれる」絶品の本です。とにかく極度の頭脳労働です(笑)。
僕は、直感で秀逸の本と思ったものは「続きを読みたくても読みたくない」ような矛盾した感覚にとらわれます。
未知の世界(まだ読んでいない部分)を、読み進めていくことで、その探求が終わってしまう虚無感?に襲われてしまいます。。
まぁ、この本も例外ではありませんでしたが、如何せん極度の頭脳労働ですから、それに立ち向かうためのモチベーションや集中力が高まるまで待って、本の世界に入り込んで読みたいからでしょうが←集中力の少なさを露呈(笑)
極度の頭脳労働を強調しましたが、しかしながら決して「わけわかんない!」状態には陥らないので、ぜひ手にとって読んでみてください☆
僕の評価はSにします!
投稿元:
レビューを見る
ためになる本なのだろうけれど、いかんせん難しい。誤読するところまでいかず、理解しようと必死になっている状態。