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紙の本
似たようなお話は結構あります。でも、そういった中で森のこの小説は、際立っているといえます。暗いムードも上手く出ていて、シリーズものにみられる馴れ合いがないのも新鮮です
2008/04/23 23:11
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
森作品らしくないカバーです。写真の扱いもですが、色合いがやけに健康的で、爽やか。故辰巳四郎のカシットとしたデザインに慣れた私には、ちょっと物足りない。タイトル文字の縁が焼け焦げ風になっているのも「もえない」から分りはするんですが、違うかな。それに被写体の花、これはストレートに蘭でいいんじゃないでしょうか。そんな写真 KAIDO YUKO/A.collection/amanaimages、装丁は鈴木成一デザイン室。
全体はタイトルなしの33章構成。初出は「野生時代」2006年1月~2007年7月号に隔月連載だそうです。
角川書店のwebには
森ミステリィの異領域――冷たさと静けさの少年小説。
夢をよく見る。
自分のクロックが世界と一致していないという夢を。
親しくもなかった彼の、退屈な葬儀のあとで――
クラスメートの杉山が死に、僕の名前を掘り込んだプレートを遺していった。古い手紙には「友人の姫野に、山岸小夜子という女と関わらないよう伝えてほしい」という伝言が。しかし、その山岸もまた死んでしまったらしい。不可解な事件に否応なく巻き込まれてゆく僕は、ある時期から自分の記憶に曖昧な部分があることに気づき始める。そして今度は、僕の目前で事件が――。
となっています。これ以上、内容について書くわけにはいかないのがこのお話。そこで登場人物を紹介することで、それに替えましょう。
まず、主人公は僕、淵田。ものごとに無関心な高校二年生ですが、なぜか物象部の部員です。クラスメイトの葬儀に参列はしたものの、特に杉山のことを思うということはありません。いつも心ここにあらず、という雰囲気で。異性に対する興味もゼロ。なんだか去勢された生き物めいています。
次は主人公の自殺した同級生・杉山友也。淵田とまったく波長が合わないにも係わらず、聴きもしないCDを押し付けてくる、ある意味鬱陶しい、簡単に無視できる存在です。その死の動機は不明です。
個人的には私の趣味では決してないのが、いつも派手な格好をして、頭の中は女のことしかないという軽薄の代名詞・姫野です。特に同級とは書いていませんが、そうなんでしょう。当然、高校二年生で、これまた何故か物象部の部員です。ついでに触れておけば、いつも無意味にニタニタしている物象部の部長・関根もクラスメート。
で、学校に主人公を尋ねてきて、息子の棺を火葬場で焼いたら、こんなものが出て来た、といって金属プレートを見せたのが杉山の父親です。そして、姫野に言われて読んだ杉山からの手紙で「姫野君にその女性とは関わらないように」と名指されたのが姫野の元ガールフレンドで、自殺したらしいピアノを習っていたという美少女・山岸小夜子です。彼女は杉山と同じ先生にピアノを習っていました。
ついでに書けば、姫野の現在のガールフレンドは小夜子と同じK女学園の飛山さなえです。そのK女学園の中学には、佳奈子という小夜子の妹が通っています。あとは、杉山、山岸の二人が教わっていた、蘭栽培を趣味とするピアノ教室の教師である梅原と、その妻で美女のドロシア、物象部の先輩のデジタルさんとその友人のピアニストが印象的です。
似かよった展開をする話はたくさんあります。殆ど流行と言ってもいいと思いますが、そのなかでも森の作る物語は、上手さが際立ち、おお、と思ってしまいます。カバーも含め、森らしからぬ佳品といっていいでしょう。
紙の本
シリーズ外作品が良い森ミステリィ
2008/03/23 13:57
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:(k・д・w) - この投稿者のレビュー一覧を見る
『野性時代』に連載していた森博嗣の作品。タイトルからして、過去に同誌に連載していた『どきどきフェノメノン』と似た軽い感じかな、と思っていたけれど、まったく違った。これまでの作品の中では、個人的に評価が高い『少し変わった子あります』と似ており、洗練度数が高く、非常に良かった。シリーズモノではS&Mシリーズの『幻惑の死と使途』と近いテーマ(墓、名前、火)で、名古屋人としては作中の地理的な近似もわかり心地良かった。
最近の森博嗣は、Gシリーズ、Xシリーズともに、過去の作品群のようなキレ味が減っているのでは、といった懸念が囁かれがちだけれど、それは新しい読者のためにわざと軽くしている(レベルを落としている、とまでは言わないが)だけで、実力は決して落ちていないと思う。むしろ、洗練度数、素敵さ、ムードの良さは増幅している。それはここ最近のシリーズ外作品、『少し~』、『ゾラ・一撃・さようなら』、そして今作『もえない』を見れば明らかだ。
鈴木成一デザイン室の割には装丁が悪すぎるものの、内容は最高級である。全力で薦める。装丁は、明るく軽すぎるんだよ…。暗く重い雰囲気にしてほしかった。
下記引用は、わかるわかるその状態、と激しく共感した。主人公の高校生の語り。高校生ならではの感覚か。
【自分の気持ちが、自分には見えないずっと奥の方で、隠れているのに叫び声だけを発している。それが聞こえてくる。叫び声というよりは、呻き声だろうか。どうして叫んでいるのか、何を呻いているのか、それはわからない。怒っているのか、泣いているのか、それとも喜んでいるのか、それさえわからない。ただ、普通ではない。興奮している声なのだ。それだから、落ち着かない。急かされているようで、こちらまで苛立ってしまう。なんとかしなければならない、早く手を打たなければ、という気持ちが当然沸き起こるのだけれど、しかし、何をどうすれば良いのだろう。まったく、それが見えてこない。それでますます焦ってしまうのだ】。
怒りたいのか泣きたいのか喜びたいのか、それがわからないけれど、なんとかしなければ、とだけ思うことが、たまにあった。
英題、Incombustiblesは「燃えない」。でも個人的には、飛山さなえに萌えた、ということで…[笑]。