紙の本
妊娠、出産、母親になるということを考えさせられる作品
2010/04/28 04:02
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:依空 - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の曽根崎理恵は帝華大で講師として働く傍ら、産婦人科病院「マリアクリニック」に非常勤の医師としてサポートに入っています。この病院の息子は極北市の病院に勤務していましたが半年前に術中死問題で不当な逮捕を受け、院長はガンで余命いくばくもなく、医院は閉院が決定しています。この病院の最後の患者は5人の妊婦。この中の1人が日本では認められていない代理母出産らしいという話が理恵の先輩である清川准教授の耳に入り、清川は理恵とクリニックを探っていきます。
本書は現代の婦人科医療や産婦人科医の不足、不妊治療、代理母問題のことを取り上げていています。現代の産婦人科が抱える多数の問題を提起し、メッセージ性が強い作品でしたが、妊娠という分野は非常に興味深く楽しく読むことが出来ました。
こういった医療小説を読んでいると自分の知識のなさと興味の薄さを実感します。生きている以上医療には必ずお世話になるものですし、産婦人科となるといつかは自分も関わるところです。本書はフィクションとは言え、自分が今まで知らなかった産婦人科医療の抱える問題を目の当たりにし、もっと真剣に考えていかなくてはいけないなと思いました。
正直なところ、私は五体満足の子供が生まれてくることを半ば当たり前と言う感覚でいました。けれど、本書を読むことでそれは本当は奇跡に近いことなのだなと思い知らされるようでした。自分が未経験のことだからこそ、妊娠・出産の怖さと神秘を感じます。
「母親になる」ということに関しても興味深かったです。作中で始めは中絶するつもりだったのに、最後にはどんな困難も受け入れる力強く愛情ある母親になっていく少女がいます。母親になったことがない私からすると、彼女の変わりようはいささか極端ではと思うところもありましたが、その反面母親になるというということはそういうことなのかと感じる部分もありました。私が彼女の立場になった時、果たして彼女と同じ決断ができたかどうかわかりません。理恵が中絶の意味を詳しく語っているシーンでも頭を殴られたようなショックを受けましたが、このシーンも色々と考えさせてくれました。
クール・ウィッチとあだ名される理恵のことを、産婦人科医療と真摯に向き合いそのためには権力に屈することもしない立派な医師と、そう途中までは思っていました。ところが最後に明かされた真実に背筋がゾッとしました。理恵に好感を抱いていただけに、後味の悪さがぬぐえません。お話は最後までぐいぐい読ませてくれるものだったのですが、この最後は衝撃的で、改めて医療のすごさと怖さを感じました。
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今回の作品は、大学病院と個人クリニックを舞台に、
周産期医療体制、不妊治療や代理母出産など
現代の産婦人科領域における様々な問題を提示。
妊娠、出産。
親になるということ。
五体満足にこの世に生れ落ちる奇跡。
既婚・未婚、女性・男性問わず多くの人に
読んでもらいたいと思います。
しかし、あの結末。
それはまさに「種明かし」でありますが、
個人的に受け入れがたいため星4で。
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舞台は東京。
今回珍しく桜宮が舞台じゃないんです。
でも帝華大なので、関連性アリ。「医学のたまご」とも繋がりがあるので、そっちを読んでいる人は二倍楽しめるかもしれませんね。
今回は産婦人科が舞台。先生は女性です。
この先生が……素敵なんだよ!!
何につけても一枚上手というか……やるな、と感心してしまうくらい。
清川准教授も素敵な人。態度とか結構好き。
でも主役を見てしまうと、まだまだだな〜とか思ってしまう性格かしら。
と、まぁ、いつものことながらキャラ語りしかできませんが……うん。良かったです。
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この人の作品はこれまでの本の中身が微妙に
関連しているのがすき。
今回も前作との関連が楽しめます。
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物語としては面白かったけど…。著者は前から作品のなかで厚生労働行政批判をやってきたし、それが悪いことだとは思わないけれど、ここまで露骨にやられるとなんだかね。誰を向いて執筆活動を行っているのかもう一度考えてもらいたい。いや、言いたいことはわかるよ。地域の医療の現状は本当に大変なものがあって、その原因は霞ヶ関の役人に問題があるでしょう。それを関係者のみならず一般の人にも知ってもらうためにも、こういうカタチで注意喚起することに意義は唱えない。だけど、あまりにも行政批判>物語になっちゃまずいんじゃないかな。そこは作家の力量で、うまく主張を入れつつ、エンタテインメント作品に仕上ないとね。理恵がやったことは、気持ちはわかるが、やはり肯定はできない。だからこのラストには不満が残る。自分(著者)の主張を通すために、こういう締め方になってしまった感がある。薫の出生の秘密など相変わらず多作とのリンクが仕込んであるところは楽しめるだけに、残念。
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この人の作品ってシリーズ外の物でも微妙につながってたりするんですけど、本作も例外ではなく「医学のたまご」と関係があります。「医学のたまご」を読んだ人は思わずニヤリとさせられること請け合いなので、できれば本作の前にお読み下さい。本作では不妊治療や代理母問題に焦点を当てて厚労省官僚の無能を論うという、庶民にはとても気持ちのいい内容になってます。主役である「クール・ウィッチ」のキャラもよく立って、もしかすると海堂の最高傑作かもしれません。すべてのバカ役人共、これを読んで猛省せよ。
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久しぶりに読書をしました。以前から読んでいたのですけど、1週間ほどの旅の期間に持参しなかったので少し間が空いてしまいました。
海堂尊さんの新作は今度は魔女です。桜宮市の東城大学を卒業し帝華大学に入局した32歳の美貌の産婦人科医・曾根崎理恵は人呼んで「クールウィッチ」(冷徹な魔女)。
と言うことで産婦人科となれば、社会的な問題が多い分野でもあります。そのために、医療ミステリーと言うよりは(そう言えば謎はなかったか?)、社会派的に大きく傾いていて、その分、たぶん作者の言いたいことを曾根崎理恵を借りて語っているという感じです。これに対して厚生省出身の作家でも出てくればまたお面白いかもって、外野的な気分でしたが、次第に男女や親子のあり方が変わってくる時代であることを痛感したりします。
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女性の産婦人科系のお話。
繋がっているのは『医学のたまご』かな?
薫君のママ君の話。
だけど、何処までが医療行為でどっからが代理母出産?
この小説は『今の現状』を打破しないといずれ少子化だけの問題ではなくなってしまうこと。
現状打破のための幾重にも仕掛けられたトラップ。
クール・ウイッチ=曽根崎理恵氏のおかげでどうなることか…
もう一つの『薫君』が『忍ちゃん』とどう会うことになるのか興味あり…
これって、ある意味 問題提議している と思うが、どうでしょう。
自分はこの小説、一気に読めて面白かった。
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職業柄ぐいぐい読めた。今の医療、行政の問題点を小説に託してるかのようだ。
現実にはこんな魔女はいないんだろうなあ。
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「バチスタ」シリーズとは直接は関連していないが、「医学のたまご」と登場人物が密接に関連している。
正直言って、読後感は決して良いものではない。少なくとも個人的には共感はできなかった。生殖医療に可能性があるということは今では当然とも言えようが、その背後で何が行われているのかという猜疑心を生むことも確かな現実である。
それだけでなく、主人公曾根崎理恵による発言の中で、地域医療の崩壊や少子化対策(だけではないが)についての厚生労働省にたいする批判も相当されている。批判がされていること自体は問題はないのだが、判断材料が一方からしか与えられておらず、反対の立場のものがきちんと示されていない点で一概に「そうだ、その通り」とは言い兼ねる。まあ、このあたりの内容については、あくまでも小説なので、作者の意図をフィルターに通して、ある程度バイアスがかかっているものと考えているが・・・。
とはいえ、最後の出産のシーンは、迫力があり読ませるなぁと感動。
この人の作品は全般的に医療制度がどんどんダメになっていっているという方向で描かれている(特に「医学のたまご」の時代は2020年だが、この時点では一旦医療崩壊を起こしているという設定になっている)。現実は綺麗なものでもなければ、甘いものでも、ハッピーなものでもない、ということが多い。現実における問題提起を小説の形式で行っているということなのだろうが、苦い・・・。
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最近の産婦人科医療や、厚生省に対する批判が色濃い作品である。
理恵の行動には共感できる点も多いが、行動が飛躍しすぎている印象も受ける。
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大学の講義を受けているような印象を受ける。現場と大学、医学と医療、などなど。そして妊娠、出産ということの当たり前じゃなさ。こんな講義があるならばいつでも受けてやるさ!出産のシーンが一番感動だったかな。ほんとに、涙もろい人なら感動の涙を流す箇所です。人が死ぬことで涙を流させることは難しくはない。だが、感動で涙を流させることは容易いことではない。感動の涙です。
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チームバチスタシリーズ以外の本を初めて読んだ。
やー、それにしてもすごい勢いで出版されますな。
医師である作者の熱い思いが、相変わらずバンバン伝わってくる。
今回は産婦人科を舞台にして、医療崩壊や代理母などの問題を提起。
だけど、自分としてはどんな意見を持つべきかが難しい。
2008.5.6. 読了
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東城大学医学部を卒業、帝華大学に入学した産婦人科医曽根崎理恵。彼女は、不妊治療を専門とし顕微鏡下人工受精のエキスパートであった。院長の息子の医師がお産中の予期せぬ事故で逮捕され拘留されてしまい閉院を間もなく迎えるマリアクリニックで彼女は、5人の妊婦のお産の担当医でもあった。19歳で父親も知れず中絶希望のユミ、そして34歳の第2子妊娠中の女性、共働きで命を授かり産むかどうかを悩んでいる女性、不妊治療5年目にして授かった39歳の女性、そして同じく不妊治療で授かった55歳の女性。新たなる生命誕生までのお話と代理出産等今話題の不妊治療の現状とは!?
舞台は「ブラックペアン」にも出てきた帝華大学。今度は女性医師が主人公です。産婦人科医の減少や少子化問題、代理母出産の問題など、リアルでタイムリーな話題が満載でした。子どもを産むってことは、当たり前のようでいて、実はすごい奇跡なんだなぁと改めて感じました。産婦人科医がこれから増えて、子どもを安心して産む子とができるようになるといいと思います。
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人工授精や代理母、先天性障害を持つ胎児について等、興味深い内容でした。バチスタシリーズより、1冊として読みやすい印象がありました。こちらの続編を読んでみたいな…と思ったら、『医者のたまご』とリンクしているとか? 読まねば!(2008.04.17読了)