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  3. 依空さんのレビュー一覧

依空さんのレビュー一覧

投稿者:依空

14 件中 1 件~ 14 件を表示

紙の本

紙の本街の灯

2010/05/19 03:06

ミステリーとしてだけではなく、昭和初期の時代の雰囲気も楽しめる作品です。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は『ベッキーさんシリーズ』の第1作目にあたり、このシリーズの第3作目の『鷺と雪』は第141回直木賞を受賞された作品です。
北村さんの作品はどこか品のある文章と、優しく柔らかい眼差しが魅力だと思っています。本書の昭和7年という時代と、女子学習院に通うお嬢様という設定が、北村さんの魅力とマッチしていて、とても好みの世界観でした。
本書は『ベッキーさんシリーズ』と言われていますが、本書の主人公は女子学習院に通う花村英子。花村家は士族出身で、英子の父は日本でも5本の指に折られる財閥の系列の商事会社の社長であり、英子はその令嬢です。そして英子の専属運転手として現れたのがベッキーさんこと、別宮みつ子でした。

本書を読む前は、『ベッキーさんシリーズ』と言われていることもあり、ベッキーさんがホームズ役として謎を解いていく役だと想像していました。ところがページをめくってみれば、実は謎を解明するのは英子で、ベッキーさんはさり気なくヒントを出して英子を導く役となっていました。ただ、ベッキーさんはただ謎を解くきっかけを作るだけではありません。英子は上流階級の箱入りの令嬢らしく、無垢な少女です。英子が様々な謎を通して感じ取ったことや、身分差で生じる生活の違いに対し思ったこと。それらの上流階級の令嬢らしい、時に傲慢な視点に対し、ベッキーさんは静かに英子を諭すのです。英子は様々な謎やベッキーさんとの交流を通して、世の中を知り多くのことを考えるようになりますが、本書はそんな彼女の成長物語でもあるのでしょう。
そしてベッキーさん。彼女は眉目秀麗な上、博識で、さらに武道にも長けているというスーパーウーマンです。なんでも出来てしまうということは時に嫌味にもなりかねませんが、彼女の使用人として常に一歩引いて控える態度と、時に必要とあらば主人を諭していくあたりには好感が持てる女性です。彼女の謎めいたところも魅力の1つですね。英子の成長と共に、ベッキーさんの正体が気になるシリーズです。

3編の短編が収録された本書では、北村さんらしい日常の謎が1編、人が亡くなる事件が2編の構成になっています。ただミステリーとは言っても、ストーリーの半分ほどは時代の描写と上流階級の暮らしぶりが中心となっていて、園遊会や軽井沢の別荘、銀座の夜店や服部時計店、資生堂パーラーなど、昭和初期の雰囲気をたっぷりと味わえるようになっています。緻密で丁寧な時代の描写に、ミステリー小説を読む以上の楽しみがある作品です。

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紙の本

紙の本神様のカルテ 1

2010/05/11 03:18

人と人との間にある温かい気持ちを感じさせてくれる作品です。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

帯に「この病院では奇跡が起きる」とあったので、ゴットハンドを持つ人でも現れるのか?と思っていたのですが、そういったものは一切ない普通の人のお話でした(笑)
夏目漱石を敬愛し、愛読書は『草枕』という主人公の一止は、信州の病院で働く医師。古風な話し方と独特な思考回路を持つが故に院内で変人と呼ばれています。本書は一止の勤務先である病院と、暮らしている御嶽荘が舞台となり、患者や職員、御嶽荘の人々との交流を描いた作品となっています。

どんなお話と言われれば、全体的には淡々とした何でもないお話だと思います。でも、ひとつひとつのお話には溢れんばかりの優しい眼差しが注がれていて、最後のページまで読むと心がほんのりと温かくなります。時々しんみりとする場面もありますが、コミカルな一止のおかげでくすっと笑える部分もあったし、細君である榛名、彼と腐れ縁であり同僚の砂山次郎、同じ御嶽荘に住む男爵や学士とのやりとりもユーモアがありと、バランスが取れていたかなと思います。
一止とその周囲の人々の様子を語る一方で、終末医療や医師不足で悩む地域医療の問題点も所々で語られています。ただし医療問題と言ってもそこまで踏み込んだ内容ではないので難しくはなく、さらりと読むことができます。医療問題を提起してはいますが、やはりこのお話は人と人の繋がりがメインなのだなと感じますね。

一止たちと学士さんとのエピソードである「門出の桜」の時にも人と人の繋がりとその温かさを感じさせてくれましたが、それをより感じさせてくれたのは、やはり入院患者である安曇さんとのエピソードでしょう。ガンと宣告され、大学病院からは手遅れだと見放された安曇さん。安曇さんのセリフのひとつに、「病むということは、とても孤独なことです」という言葉があります。夫に先立たれ余命を宣告された上に、病院からは見放され……、そんな孤独と恐怖の中で死を迎えるしかなかった安曇さんの心を救ったのは、一止の医師としての姿勢から生まれた確かな信頼関係です。終末医療のあり方というものを考えさせられるエピソードでもありましたが、やはりそれよりも人の心を救うのは人の心だということを感じさせてくれる、忘れられないお話でした。

読み応えとしては軽めの作品でしたが、人と人の間にある温かさを感じられる素敵な作品だったと思います。

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紙の本

紙の本花宵道中

2009/11/26 02:33

遊女たちの美しくも哀しい恋

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

吉原の小見世山田屋を舞台に5人の遊女を書いた作品です。
表題作の主人公である朝霧、その妹分の八津、三津、朝霧の面倒をみてくれた霧里、初見世がすんでいない茜の物語であり、そして朝霧と恋に落ちた半次郎(東雲)の物語が語られています。
連作短編集となっており、様々なエピソードを別の視点からも語ることで意外な真実が見えてくるのですが、その繋がり方に時々いい意味でゾクリとさせられました。
特に「花宵道中」と「青花牡丹」のリンクの仕方はとても読ませる内容だったと思います。

朝霧の視点である「花宵道中」ではその恋の切なさと絶望に心を打たれ、「青花牡丹」では片方の視点が半次郎だと分かった時、「花宵道中」では語られなかった真実に驚愕し、そして朝霧に対しての深い愛情に涙が出そうでした。
八津と髪結いの三弥吉の恋を書いた「十六夜時雨」もとても良かったです。髪を結うだけで、肌に触れるわけでもない。けれど、八津と三弥吉の間に濃密な空気が漂っているのが伝わってきて、雰囲気に酔いそうでした。自分は恋をしないと決意している八津の激しい恋心と最後の決断は、女の弱さと強さを一気に見せられた気分にさせられました。

どのお話も非常に読ませてくれましたが、新人とは思えない筆力を感じます。 文章も美しいですが、雰囲気を読ませる情感あふれる文章とでもいうのでしょうか。 花街・吉原の情景。気だるげな遊女たち。そして遊女たちの心の奥に灯る青白い炎にも思える愛と情。女たちの弱さ、哀しさ、そして強さと美しさのどれもが目に浮かぶようでした。
心理描写も丁寧なので、自分ではどうにもならない状況の中で恋をし、自分の生きた証を残そうとし、そして懸命に生きようとしている遊女たちに惹き付けられてしまいます。

官能的なシーンもありますが、下品さは一切感じられません。
哀しくも美しい遊女たちを愛おしく思える作品でした。
手元に置いておきたい1冊です。

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紙の本

紙の本ななつのこ

2010/09/30 01:21

ノスタルジーたっぷりの、優しい物語

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『ななつのこ』はノスタルジーたっぷりの、本当に素敵な物語でした。ジャンルとしてはミステリーに入りますが、日常の謎を書いた作品らしい、ほのぼのとした優しくて温かい雰囲気を持っています。
加納さんの作品は何年か前に一度だけ読んだことがあるのですが、それがあまり合わなかったのか、それ以来手に取ることはありませんでした。本書を読んだきっかけは、絶対に好きな作風だとおすすめされたからなのですが、一章を読んだ時点で、なんでこの本を一番初めに手に取らなかったのか、もったいないことをしてきたものだと後悔してしまいました。

本書は、偶然手に取った本に惚れ込んだ駒子が、作者である佐伯綾乃さんにファンレターを送るところから始まります。自分の身近で起きた不思議な出来事も一緒に綴って送ったファンレター。返事が来るはずもないと思っていたところ、思いがけずご本人からの返信が届きます。その中には、駒子が書いた不思議な出来事に対する、佐伯さんからの謎解きが入っていました。それから2人の間では駒子が日常の謎を送り、その真相を佐伯さんが推理するという不思議な文通が始まります。
作中作『ななつのこ』も、はやて少年が遭遇した謎をあやめさんという不思議な女性が解き明かすという物語です。駒子の日常の物語と『ななつのこ』の物語が微妙にリンクし、読者は2つの謎を同時に楽しめるようになっています。さらにラストには全編に通じていた謎までが明らかになるようになっていて、最後まで読むとその構成にへぇ~と感心してしまいました。

1番印象に残ったお話は、「白いタンポポ」ですね。「白いタンポポ」には小学校1年生の女の子が登場するのですが、その子はタンポポの絵を描いたときに白く塗りつぶしたことによって、家庭内の問題のこともあり情緒が欠落していると疑われていました。最後の佐伯綾乃さんからの手紙で何故女の子が白いタンポポを書いたのかが分かるのですが、それは固定観念に縛られてカチコチになってしまった大人の寂しさと残酷さを感じました。小さい子にとって、自分の目で見たものを否定されることはどれほどの打撃なのでしょうか。思わず、自分が幼い頃に経験した同じような出来事を思い出し、少し切ない気分になってしまいました。その分、駒子と女の子の交流には、心がじんと温かくなりました。

北村薫さんの『円紫さんと私シリーズ』と似たような雰囲気を持っていますが、北村さんとはまた違った魅力を持った素敵な作品です。

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紙の本

紙の本パリのおばあさんの物語

2010/10/13 02:46

優しさと強さに満ちた、大人に読んで欲しい絵本

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

フランスで20年以上も読みつがれている絵本だそうです。

おじいさんが亡くなってから、アパートに1人でひっそりと暮らすおばあさん。
朝市に行っても重い荷物が持てないし、中々財布から小銭を取り出せない。アパートの鍵を開けようとしても、錠前に鍵が差し込めず一苦労。目が見えにくくなり物忘れも多くなってきて、やりたいことが出来なくなってきたけれど、それでも「やりたいこと全部ができないのなら、できることだけでもやっていくことだわ」と日常を過ごしています。
ユダヤ人であるおばあさんたち一家。戦争の時には、おじいさんは捕虜収容所へ送られ、子どもたちは遠くの修道院に預け、おばあさんも逃げまどいます。この辛い過去は、例え世界中のおいしいお菓子を全部もらっても決してやわらぐことはないと知り、家族が一緒に暮らせる幸せが、いちばんなのだとおばあさんは語るのです。
おばあさんへの最後の問いは、「もう一度、若くなってみたくありませんか?」というもの。
おばあさんの返事は「いいえ」。「私にも、若い時はあったのよ。私の分の若さは、もうもらったの。今は、年をとるのが、私の番」と語ります。

装丁と手のひらサイズのソフトカバーの作りからして、温もりが感じられる本です。
老いや孤独や戦争を書いてはいますが、不思議と暗い気持ちにはならず、それどころか優しさを感じました。
悲しい出来事もあったし老いて出来ないことも増えたけれど、今までの暮らしに感謝をし、老いていくことを自然に受けとめているおばあさん。
この老いを自然に受けとめるということはきっと中々出来ることではないですよね。
おばあさんは鏡に映った自分の顔のしわを見て、「なんて美しいの」なんて言うのですが、私もそんな風に言えるようになれるのかなぁなんて思います。
そうなるためには、全てを前向きに受け止めれる心と、強さが必要だと思うのです。
その強さを持つおばあさんの生き方は、こんな風に老いてみたいと思わせてくれました。
自然体でいることって、難しいですけど、憧れますね。
しっとりした、大人のための絵本でした。

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紙の本

紙の本狐罠

2010/05/26 04:19

魑魅魍魎が飛び交う骨董の世界を描いた、骨太のミステリー

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

冬狐堂シリーズの第一作目。魑魅魍魎飛び交う骨董の世界が舞台です。長い時間を経たものにはやはりそれなりの魅力と風格が備わっており、西洋東洋問わず、骨董品には強く惹かれるものがあります。しかし、骨董品を見るには、ものの良し悪しだけでなく、真作か贋作かを見極めるための確かな鑑定眼が必要とされます。

「目利き」が全ての骨董の世界。冒頭からも、頼りになるのは自分の“鑑定眼”だけだという、骨董業界の厳しさが伝わってきます。骨董業界を取り扱った作品を読んだのは初めてで、今まで知らなかった業界を覗けるだけでも興味深い作品だったのですが、鑑定だけでなくさらに贋作の世界にまで踏み込んでいったことでより展開が読めなくなり、ドキドキしながら読みました。確かに莫大なお金が動くせり場での駆け引きも緊張感があって面白かったですが、騙し騙されるという骨董の闇の部分は、まるで身を削られるような緊張感があり、一層引き込まれていきます。特に、贋作を作ることへの、異常ともいえるほどのこだわりとエネルギーには圧倒されてしまいます。その様子は、贋作であっても1つの美術品としての価値があるのではないかと思わせてくれるほどのものでした。

本書の主人公である宇佐見陶子は、この業界内で「旗師」という、店舗を持たず、一般客だけでなく業界間の品物の流通を手がけるバイヤーとして、業界内で凄腕と噂をされるほどの実績を上げています。本書は、その陶子が同業の『橘薫堂』から目利き殺しをかけられて贋作をつかまされ、彼女もまた己のプライドをかけて『橘薫堂』へ目利き殺しを仕掛けようとするところから始まります。さらに殺人事件や30年前の事件まで絡んできて、事態はより複雑になっていきます。様々な要素がかなり入り組んだお話でしたが、骨董の小説としても、ミステリー小説としても楽しめるようになっていて、読み応えがある作品でした。

骨董業界を取り上げたことで興味深く読めた作品でしたが、少し残念だったのは、ある登場人物の正体について最初の方で想像していたことがぴたりと当たってしまったことです。30年前の事件や他にも様々なお話が詰め込まれた凝った構成が面白かっただけに、残念な思いでした。そして陶子に関しては、罠を仕掛けるためとはいえ、贋作作りに手を出すことに中々共感しづらいものがありました。ですが、自分の“目”に自信を持ち、女性でありながら魑魅魍魎が巣食う骨董業界で強かに生きようとする姿は、同じ働く女性としてどこか眩しくも見えます。

骨董の世界で生きる陶子が、今後この世界でどのように生きていくのか、先が気になる作品です。

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紙の本

紙の本ジーン・ワルツ

2010/04/28 04:02

妊娠、出産、母親になるということを考えさせられる作品

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

主人公の曽根崎理恵は帝華大で講師として働く傍ら、産婦人科病院「マリアクリニック」に非常勤の医師としてサポートに入っています。この病院の息子は極北市の病院に勤務していましたが半年前に術中死問題で不当な逮捕を受け、院長はガンで余命いくばくもなく、医院は閉院が決定しています。この病院の最後の患者は5人の妊婦。この中の1人が日本では認められていない代理母出産らしいという話が理恵の先輩である清川准教授の耳に入り、清川は理恵とクリニックを探っていきます。

本書は現代の婦人科医療や産婦人科医の不足、不妊治療、代理母問題のことを取り上げていています。現代の産婦人科が抱える多数の問題を提起し、メッセージ性が強い作品でしたが、妊娠という分野は非常に興味深く楽しく読むことが出来ました。
こういった医療小説を読んでいると自分の知識のなさと興味の薄さを実感します。生きている以上医療には必ずお世話になるものですし、産婦人科となるといつかは自分も関わるところです。本書はフィクションとは言え、自分が今まで知らなかった産婦人科医療の抱える問題を目の当たりにし、もっと真剣に考えていかなくてはいけないなと思いました。

正直なところ、私は五体満足の子供が生まれてくることを半ば当たり前と言う感覚でいました。けれど、本書を読むことでそれは本当は奇跡に近いことなのだなと思い知らされるようでした。自分が未経験のことだからこそ、妊娠・出産の怖さと神秘を感じます。
「母親になる」ということに関しても興味深かったです。作中で始めは中絶するつもりだったのに、最後にはどんな困難も受け入れる力強く愛情ある母親になっていく少女がいます。母親になったことがない私からすると、彼女の変わりようはいささか極端ではと思うところもありましたが、その反面母親になるというということはそういうことなのかと感じる部分もありました。私が彼女の立場になった時、果たして彼女と同じ決断ができたかどうかわかりません。理恵が中絶の意味を詳しく語っているシーンでも頭を殴られたようなショックを受けましたが、このシーンも色々と考えさせてくれました。

クール・ウィッチとあだ名される理恵のことを、産婦人科医療と真摯に向き合いそのためには権力に屈することもしない立派な医師と、そう途中までは思っていました。ところが最後に明かされた真実に背筋がゾッとしました。理恵に好感を抱いていただけに、後味の悪さがぬぐえません。お話は最後までぐいぐい読ませてくれるものだったのですが、この最後は衝撃的で、改めて医療のすごさと怖さを感じました。

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紙の本

主人公の成長が感じられる2作目です。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

RDGシリーズの2巻目。泉水子は東京の高校に入学し、新しい生活が始まります。
泉水子は、活発なキャラクターがぐいぐい作品を引っ張っていく荻原さんの作品には珍しい、内気で引っ込み思案の主人公ですが、今回はそんな彼女とは対極をなすような、宗田真響、宗田真夏姉弟が登場し、一気に賑やかになります。
真響は泉水子と同室の生徒で才色兼備、弟の真夏はひょうきんで憎めない明るいキャラクターで、内向的な泉水子を引っ張っていって話を動かしてくれました。
今までの荻原さんの主人公と言えば、『白鳥異伝』の遠子や『西の善き魔女』のフィリエルなど、快活でエネルギーに溢れ、周囲の人物もお話も全て引っ掴んで引っ張り回しながらお話をぐんぐん進めていくタイプが多かったですが、泉水子はその逆。周囲の速度に自分がついていこうとします。
そうやって少しずつついていこうとする泉水子を見ていると、彼女が殻を破って成長していくのが分かります。
「他の人間の思惑に振りまわされてばかりではなく、それらとは別に、結局はひとりだということをふまえて、自分は何がしたいのかを考えていいのだと、泉水子は静かにかみしめた。」
というシーンもそのひとつですが、自分の弱い部分を自覚し、真っ直ぐに見つめることで、彼女は状況を乗り超えていきます。その確かな成長ぶりに、思わず彼女を応援したくなり、好感度が増えました。自分を真っ直ぐに見つめることなんて、中々出来るものではない気がします。この物語が終わる時、泉水子はとてもいい女性に成長を遂げているのではないでしょうか。

タイトルの『RDG』というのは絶滅危惧種のことを指しますが、1巻よりも益々タイトルと内容が結びついてきて、なるほど!と思いました。まだまだ物語りは始まったばかりで、山伏、修験者、陰陽師などなどのキーや、キャラクターが登場するだけですが、深まる謎に期待が膨らみます。
生徒会や最後に登場する彼など荻原さんらしいものがたくさん登場しますが、現代が舞台の和風ファンタジーでそれをどう動かしてくれるのか楽しみです。

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紙の本

紙の本武士道シックスティーン

2010/05/04 23:45

剣道を通じて成長していく2人の少女の物語

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

警察の父親を持つ影響で幼い頃から剣道をやっており、全中2位の実力を持つ磯山香織。武蔵の『五輪書』を愛読する彼女は、勝敗がすべての剣道をしています。そして日舞から転身し中学から剣道を始めた西荻早苗。勝敗ではなく楽しさと心身の上達を目指した剣道をしています。そんな正反対の性格をした2人の少女が、反発し合いながら次第に互いを認めていき、成長していくお話です。

スポーツ小説はあまり読んだことがなかったですけど、これはとても面白く読めました。
スポーツ小説としてはベタな展開なのかもしれませんが、剣道に馴染みのない人でも試合の雰囲気を味わえ楽しめると思います。相反するキャラクターをメインに持ってきたのも良かったですね。2人のキャラクターから剣道とは何か?という問いかけを発信し、読んでいくことで自分なりに考えていくことが出来たかなと思います。
けれど、正直なところは、初めは香織が好きになれませんでした。兵法と言っているのが時代錯誤に感じられたし、自分しか見えていなくて他人のことはどうでもいいという考えには共感しづらいところがあったためです。でも後半での彼女は壁にぶつかることで様々なことに悩み成長し、最後は早苗と共に魅力的なキャラクターに成長したと思います。
私は小学校の時に剣道をやっていましたが、弱かったため、勝敗よりも楽しんでやることを考えながら練習をしていました。そのため、私はどちらかというと早苗の方に共感がしやすかったです。彼女の考え方は、剣道に限らずすべてのスポーツに通じるものだと思います。

香織は途中で、何故自分が剣道をしているのか、その意味が分からなくなるところがあるのですが、ここが1番印象に残りました。
好きで始めたことなのに、いつの間にかどうして好きだったのか見失ってしまうことは、誰にでも起こりうることだと思います。そういう時にこそ自分を見つめ直し、原点に帰ることが必要なんでしょうね。自分がそれを好きだという実感を得て、初心に帰ることで、好きだということ、大切だということを再認識できるのだなと思わせてくれました。
生き生きとしたキャラクターで楽しませるだけでなく、いつの間にか忘れてしまう心を思い出させてくれる小説です。

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紙の本

紙の本球形の季節

2010/08/17 02:49

彼らの選ぶ道は何なのか

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これまで読んだ恩田さんの作品同様、独特の雰囲気を持っている1冊です。
谷津の町の設定や情景描写がしっかりと書かれているので世界観が安定していて、この谷津の町で起こった出来事に自分も引き込まれそうです。

読んでいてどこか淡々としたものを感じましたが、「噂」「金平糖を使ったおまじない」「不思議な力・世界」といったキーワードが作品をぐいぐい読ませる魅力になっていて、いつの間にか最後のページになっていました。
ただ、何とも言えない世界観と雰囲気に呑まれて、正直良いとも悪いとも言えない読後感です。

視点がころころ変わることはあっという間に最後まで読めた理由だと思いますが、あまりにもその視点が多すぎてまとまりに欠けていた気もします。この視点は誰だ?とちょっと混乱して前のページに戻ることもありました。
視点を「地歴研」のメンバーだけに絞っていれば、もっと彼らに感情移入できたのになと思います。

不思議な噂から始まり、谷津と隣り合わせの「世界」の存在の知覚、その「世界」へ跳ぼうとする少年少女たち。
この作品では、多感な時期である高校生の心理描写がしっかり書き込まれていて、自分が高校生の時のことを少し思い出しました。
誰もが人とは違う「特別」の存在になりたいと思っていたあの頃。
でも、自分がその「特別」の1人にはなれないと気付いて焦っていたあの頃。
それをしなやかに受け止めて大人になっていく人もいれば、あがいて作品の最後みたいに「跳ぶ」ことを決意する人もいる。
どちらも共感できる感覚です。
この時期の少年少女の描写が丁寧に書かれている辺りも恩田さんらしく、作品の魅力のひとつであると思いました。

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紙の本

紙の本龍神の雨

2010/04/11 03:28

雨の先に見える景色は一体何だったのか。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

母を交通事故で亡くし、再婚相手である継父・睦夫と暮らしている添田木蓮と楓。母を海の事故で、父を病気で亡くし、継母である理江と暮らしている溝田辰也と圭介。親との関係に問題を抱えながら生活していたこの2組の兄弟が、台風の夜に起きた事件をきっかけに運命を交錯させていきます。

2組の兄弟が抱えている思いは暗く重く、冒頭から緊迫した雰囲気が漂っていて、肌に絡み付いて身動きが取れなくなりそうでした。
降り始めた雨、そして降り続ける雨、激しくなる台風。話が動くたびに効果的に雨が使われ、激しくなるほど追い詰められていく過程にゾクゾクしました。この重さは決して嫌いではなく、むしろ読書としては楽しく読めたのですが、やはり追い詰められていく兄弟たちが辛くて読むのが大変でした。もう1つのキーである龍に関しては効果的であったかどうかには少し疑問が残りますが、彼らの置かれた状況の異様さを考えるとすとんと納得できるキーであるかなと思います。

私にとって、ラストは辛かったです。台風が過ぎた後の晴れた空には未来を信じたくなるけれど、それでも経緯を考えると希望が持てないのです。溝田兄弟はともかく、蓮と楓の兄妹の行く末はどう思ってよいのか判断がつきません。読んだ方の中には未来を感じる方もいらっしゃったみたいですが、私は雰囲気に取り込まれすぎてしまったのかなぁ。
彼らが語り合うことを避けてきたツケは計り知れないほど大きく、取り返しの付かないことが起きる前に何が出来ることがあったのではないかと思わずにはいられません。思い込みの怖さをじわじわと思い知らされました。何でこんなことになってしまったんだろうと悔やむことは多いですが、この内容があってこそ、ラストの「家族のことだけは信じなければならない」というくだりが重さを伴って胸を打ってくるのだと思います。

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紙の本

紙の本仔羊たちの聖夜

2009/12/05 00:17

親と子の、愛情と束縛

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タック&タカチシリーズの第4作目です。今回はタック、タカチ、ボアン先輩が初めて顔を合わせたクリスマスイブから始まり、彼らが遭遇した女性の転落死についてお話が進んでいきます。事件から1年後にあるきっかけからタックとタカチは女性の身元を辿ることになるのですが、そこで事件のあった場所では5年前にも高校生の飛び降り自殺が起きていることを知り、今回の事件との関連を考え始めるのです。
今までは主に重要な点をタックが推理するというスタイルが取られていましたが、今回はタカチが謎を解いていきます。
それだけでもこれまでのシリーズ作品との違いを感じるのですが、それ以外にも前作の『麦酒の家の冒険』までが比較的明るい雰囲気で書かれていたのに対し、本作『仔羊たちの聖夜』ではトーンは低目と、少し暗く静かな雰囲気を醸し出しています。
それは、今までは書かれてこなかった登場人物の過去、特にタカチの心の傷に触れているからであり、作品のテーマが今後にも繋がっていく「親と子」「愛情と束縛」といったものであるからだと感じられます。

いつもはクールなタカチが必要以上に事件に入れ込み、タックよりも先に事件を解決しようと焦っている、という点からこれまでのシリーズとは雰囲気が違っていました。
事件の推理に乗り出しながら、実はすでにタカチにはある程度事件の真相が見えています。ミステリー小説に分類されるであろうこの作品においては、まずその立ち位置からして普通のミステリー小説の展開から外れており、読み手は一緒に事件の謎を追いながらタカチの抱える問題の方にも意識が向きます。
タカチの抱える問題については少し触れる程度しか語られていませんが、それが本作から続くテーマである「親と子」「愛情と束縛」に繋がっていきます。
親が子どものためにと思う気持ちと、子どもが必要とする気持ちにはズレがあり、ズレたまま子どもの為にと言って物事を押し付けすぎるとやがては取り返しのつかないことになる。これを極端にしたお話とはいえ、現実の欠片であることには変わりありません。
私は親になったことがないので親の気持ちは分からないし、どうしても子どもの視点でこの作品を読んでしまいます。けれど、もしも自分が親になったらと想像した時、果たして自分はどう子どもに関わっていくのかと考えさせられました。

今回はタック、タカチ、ボアン先輩の3人が初めて出会った時を書かれていて、あまりにも彼ららしい出会いにくすっと笑いながら読んでいました。最初のほんの少しの部分だけれど、これがあったから作品全体も重く感じすぎずに読めたのかなぁと思います。

そして最後のシーンでは、タックとタカチの関係に変化が見られます。今回は色んな意味でシリーズの転換期。そして「親と子」「愛情と束縛」というテーマ作品の序章でもありました。

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紙の本

紙の本群青

2011/06/10 01:33

青く、激しい激情。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

宮木さんの本を読むときはいつも、体中のエネルギーを搾り取られるような、使い果たしてしまったような、そんな感覚になります。読むととても疲れるのだけれど、でもそれは心地の良い疲れです。それほど物語に引き込まれてしまい、登場人物たちに感情移入して読んでしまうのでしょう。感情をむき出しにする登場人物たちは誰もが張り裂けそうな思いを抱えて生きています。その激情とも言える心の揺れがこちらの心まで揺さぶり、大量のエネルギーを奪い取っていくのです。私は宮木さんの書かれる、その激情がとても好きだと思います。

本書は長澤まさみさん主演の映画「群青」の脚本を元に書き下ろされた小説だそうです。脚本が元になっているからか、いつもの宮木さんとは少し違った印象を受けましたが、それでも悲痛なまでの激情を見事に描いた作品でした。
龍二と由起子の物語である「紺碧」、その2人の子どもである涼子と、幼なじみである一也と大介の子ども時代を書いた「三原色」、そして大人となった涼子たちを書いた「群青」と、物語は3部構成となっています。1番好みのお話だったのは、涼子の両親である龍二と由起子の「紺碧」でした。一目見たときから由起子のことが気になり、ピアノを弾く彼女に近付いていく龍二。彼女に喜んでもらいたくてピアノを贈る龍二と、贈られたピアノを弾く由起子の姿からは、2人が徐々に心を通わせる様子がストレートに伝わってきてこちらまで幸せな気分になります。でも由起子の抱えている事情が明らかになってくると、2人が幸せであればあるだけ、とても切なくなりました。優しさと切なさのバランスがとても好みのお話でした。

そして、2人の娘である涼子の物語である「三原色」と「群青」。
「群青」では人を愛する喜び、最愛の人を失う辛さ、失意の底から再生していく姿を、宮木さんらしい、心に迫る文章で書かれています。正直読む前はメロドラマのような展開に重さを感じて読むのを躊躇っていたのですが、読み始めればページをめくる手が止まりませんでした。「群青」は辛い展開が続きますが、光が差し込むラストは感動的です。

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紙の本

紙の本ルピナス探偵団の憂愁

2009/12/17 03:28

私たちは永遠の友情を誓う

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『ルピナス探偵団』シリーズの第2作目です。ルピナスの学園生活の中で、「探偵団」として絆を深めた彩子、キリエ、摩耶、祀島の4人。その内の1人であった摩耶の死という衝撃的な展開から始まる本作は、前作に比べると少し重く、切なく、けれど緩やかな優しさを感じられる作品でした。
ストーリーは25歳の時の摩耶の死から始まり、大学時代、高校時代へと時を遡ります。この逆回しの構成が非常に効果的で、痛いほど読み手の胸を締め付けてきます。
進学、就職、結婚とそれぞれの環境が変わりながらも親交を続けてきた4人。環境が変わっても関係は変わらない彼らが微笑ましく、第1話で摩耶の死を知っていることで第2話以降の彼らが一緒に過ごした日々が非常に輝いて見えます。

第1話「百合の木陰」は、摩耶のお葬式という衝撃的な場面から幕が開きます。淡々とした静かな文章に、寂しさが押し寄せてくるようでした。摩耶が残した小路の謎は彼女の抱えていた秘密に深く関わっているのですが、前作で抱いていた彼女のイメージが変わりました。正直、私の中で摩耶の存在は1番薄かったのですが、この第1話を読み、そして第3話、第4話と話が進むにつれ、彼女の無邪気な明るさの中に隠れていた深い感情に触れることができ、彼女という人物の深さを知れました。
そして、彼女が秘めていた想いを正確に辿っていく3人に、彼らの一言では言えない絆を感じました。

第3話の「初めての密室」は、彩子が初めて解いた事件の隠れていた真実のお話です。前作で彩子の推理力について疑問を持っていましたが、なるほどと納得する内容でした。しかし事件そのものよりも、やはりこれも最後は摩耶に締められた作品であると感じました。
秘密を抱える摩耶の言葉には非常に重みがありましたね。

そしてルピナスの卒業式を控えた彩子たちを書いた、第4話「慈悲の花園」。ルピナス学園の雰囲気を上手く使った作品でした。
最後の彩子、キリエ、摩耶の永遠の友情の誓いに泣けます。ちょっと古さを感じたことはさておき、彼女たち(+祀島くん)の絆に胸を打たれますね。最後まで読んで、第1話の「百合の木陰」を読み返すと余計に泣けてきます。
静かな筆致で語られたルピナス探偵団の物語は、最初から最後まで優しさに満ちた作品でした。

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