紙の本
私は、小林のSFがホラーより好きです。本格ミステリの構築性もいいですが、SFのもつなんともいえない叙情性、ユーモアも好ましい。もしかして、前作よりいい?
2008/09/08 19:52
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私にとって2002年発表の短篇集『海を見る人』を読むまでの小林泰三っていうのは、『玩具修理者』『人獣細工』『肉食屋敷』といった作品集で語られるかなりハードなホラー作家だったわけです。でも、『海を見る人』で、こんなのも書くんだって驚きました。絶賛はしませんけれど、感心した。
で、今回は同じ「ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション」で新しいSF短編集。ついこの間出た『モザイク事件帳』ではミステリ作家としての腕前を見せ付けてくれましたが、SFではどこまで他者に追いつき、あるいは圧倒するのでしょうか。早速、収録8編について初出と内容を案内しましょう。
◆天体の回転について(「SFマガジン」平成17年2月号):科学文明と無縁に育った俺は、皆が避ける「妖怪の森」に出かけては、空の月を眺めたりしていた。俺は天空にのびる“天橋立”が、月と地を結ぶものと考え、月に行くことを決心する。そこで出会った女の子は、とびきり可愛い宇宙旅行の案内係だった・・・
◆灰色の車輪(「SFマガジン」平成13年11月号):高度に隔離された先端研究開発施設クルーイーニャという星を訪れた上月麗奈の目の前で天牙博士が二台のロボット、M七号とF五号に命じたのは・・・
◆あの日(『教室 異形コレクション』光文社文庫 平成15年9月刊行):小説教室の先生と添削を受ける生徒との会話から、知らない世界を舞台にした小説を書くことの難しさを教えることを中心に据えた皮肉なお話だとばかり思っていたら意外にも・・・
◆性交体験者(「SF Japan」 平成15年秋季号Vol.8):性交体験者とは何なのか、女性と交わった男性はどうなるのか、殺人事件を捜査するボス・サトと暴走しがちなリサのコンビが聞き込みを重ねるうちに、新たな被害者が。徐々に明かされる世界の謎・・・
◆銀の舟(「YOU&I SANYO」平成9年1月号~11月号):探査基地から一人さ迷い出たサキ、その原因となったのが人面岩についての彼女と探査隊本部の意見の違いだった。宇宙に潜む「場違いな人工物」、そしてサキの生きる原動力である岩は・・・
◆三〇〇万(「SFマガジン」平成20年2月号):正々堂々と闘って相手を征服するイジュギダの戦士たち。戦いを前にゼンダリガスとの会話を思い出したアルカリオス、勝利を収めた彼らの前に立ちはだかるのは・・・
◆盗まれた昨日(「SFマガジン」平成19年2月号):人類を襲った前向性健忘症。ものを忘れるようになってしまった人々が頼るのはメモリー。外部記憶でなんとか日常を送る人が、もしそのメモリーを落したら・・・
◆時空争奪(書き下ろし):川はどこから始まるか、それは水源からではなく河口からと主張する教授とそれに納得する学生たち。どうしても納得できない由良に弓利が告げたのは「鳥獣戯画」に起きた異変。その広がりはナント・・・
あとがき
記憶力が衰えているせいかもしれませんが、『海を見る人』よりはこちらのほうが趣味かな。なかでも表題作は、凄くはないけれど、いい。「盗まれた昨日」もそうです。アイデアはある意味、ありふれています。「時空争奪」にしたって、どこかで読んだような。でも、微妙に違う。
ホラーの独自性には及びませんが、「性交体験者」なんてユーモアもあるし、「盗まれた昨日」だって、思わず肯いてしまいます。総じて本格ミステリ同様、水準作以上であることは間違いありません。これで、サプライズがあれば文句なし。ちなみに、これを「ハードSF短篇集」とは言わないんじゃないでしょうか。
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表題作、もう少しわかりやすくするか、キッチリと落としてほしかった。妖怪=(宇宙時代に適応しなかった)人間、主人公=(知性が発達した)ネズミ系の小動物、リーナ(ミッキーマウス的なマスコット)とかだと思っていたんだが、どうもいろいろ判然としない……。表紙もそこをミスリードさせる複線だと思ったんだけど。そうじゃないんだとしたらあまりにも表紙がクソ過ぎる……。
あと「時空争奪」、せっかくのクトゥルフものなんでもっと前面に押し出してほしかった……。
300万がオチや展開も含めて一番面白かった。素手で強い宇宙人は熱い。まぁでも銃火器には勝てないよ。漫画みたいにソコを曲げないでくれてよかった。
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「おすすめSF」ということで図書館で予約をしたら、来たのがこの表紙。「むむ・・・? ライトノベル・・・」と思いましたが、中身は“本格SF”です。
設定の妙で楽しむ8編。
さまざまに理論的設定が展開されて、頭がついていかなくなりますが、科学的な論理が次々と語られることもおもしろさの一因になってると思います。
それぞれに個性的な物語です。
「あの日」でSFをメタ的に取り上げているのがおもしろかった。
無重力が当然の世界で生活してる人が、重力のある地球での犯罪トリックを考えたら・・・
おもしろい考察です。
インパクトがあったのが「性交体験者」。
快楽殺人事件を追う女性刑事を主人公にして、SF的設定で語った物語。
人間の世界だから「命は大切に」とか言うけど、そんなことのない世界ってたくさんあるもんなぁ・・・
おのお話までの3編で、SF的設定に目を白黒させているので、こんな設定でも意外とあっさりと受け入れられるものです。
それとも、自分が女性だから?
こんな表紙ですが、とてもおすすめの1冊です。
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なかなか面白かった。他の作品も是非とも読みたい。かなり力ある作家さんだな。堀晃さんと同じく基礎工学部らしいのが面白い。
変な少女型ホログラムが気に入らないものの、かなりわかりやすく軌道エレベーターの世界が描かれる「天体の回転について」。そもそもこの本の表紙が少女趣味だから、ちょっと引いてしまうな。
次の「灰色の車輪」はアシモフとの真っ向勝負。筋も展開も素晴らしく、表題作に負けず劣らず良い作品。この二作でこの本読む価値あるかな。
続きは、なかなかいいんだがなぜか心に残らない「あの日」、イマイチの「性交体験者」、オチが読めるし、展開も平凡な「銀の舟」、高度な知性を持つ異星人がなぜ裸なのかって、SF小説や映画への反抗とみると、とても楽しい「三〇〇万」、記憶とメモリーを題材に、設定も展開も面白いのだが、なぜかすっきりしない「盗まれた昨日」、既読だが今読むとタイムパラドクスをうまく書いていると感心する「時空争奪」。
とにかく、なかなか気に入ったから、他の作品も漁ることにしよう!
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なんかSFモノが読みたーーーいってなったのだけど、すっかりご無沙汰してたので何を読んでいいかわからず図書館内を彷徨って出会った本。小林さんの本は好きなのです。こんなのが出ていたとは知らなかった。
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タイトルで思わず「おっ」と思った。例の有名なコペルニクスの書と同名とは。しかし小林泰三がこんな表紙の本出すとは思わなかったな。表題作の主人公に「それホログラフだから。存在しないから」って言ってあげたい
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"リーナには実体がないらしい。きっと本当の彼女はどこか遠くにいるのだろう。たぶん、月世界かどこかに。
「知らなかったのなら、ショックかもしれないけど、わたしは人間ではなく、案内用にプログラムされているホログラムなの。元になったのは、何人もの女の子の喋り方や、仕草や姿なので、もともとは人間だったと言えなくもないけどね♥」
君はいったいどこにいるんだ?君のいる場所に俺を連れていっておくれ。"[p.24_天体の回転について]
「天体の回転について」
「灰色の車輪」
「あの日」
「性交大賢者」
「銀の舟」
「三〇〇万」
「盗まれた昨日」
「時空争奪」
"しかし、サキを最も驚かしたのは不思議な証明技術ではなく、部屋のほぼ中央に立ち、不思議な色をした衣装を身に纏い、優しくほほ笑んでいる背の高い男だった。髪の色は銀色で、肌は白く、黒い瞳が印象的な彫りの深い端整な顔立ちだった。ほっそりとした指で、竪琴に似た楽器を爪弾いている。
何?これって、ファーストコンタクトなの!?地球人と火星人のファーストコンタクト?ねえ、そうなの?"[p.193_銀の舟]
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102:ホラー作家としても有名な方のSF短編集、ということで、表紙の軽さもあって気軽に手にとってみたのですが……中身はかなりハードな(←いろいろな意味で!)作品でした。「あの日」がすごく面白かったけど、短編だからか、ちょっと消化不良なところもあって、いまひとつ楽しめませんでした。一口にSFといっても、各短編のモチーフやアイデアがそれぞれに異なるのがすごいなあと思いつつ、さらりと読み終えてしまいました……。