紙の本
800字の小宇宙
2008/06/19 07:01
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:仙人掌きのこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年もビーケーワン主催の「ビーケーワン怪談大賞」が開催されている。800字以内の怪談を創作・実話を問わず募集し、全投稿作をブログ形式で発表するというユニークな試みは、すっかり夏の風物詩として定着したようだ。私も駄文を書き連ねたり、磨き上げられた玉のような作品を拝読したりと楽しませて頂いている。この催しに参加して痛感した事は、800字、わずか原稿用紙二枚分の文章が、実に豊潤な可能性を秘めているという事である。
さて、前置きが長くなったが、この杉浦日向子「隠居の日向ぼっこ」も800字以内で書かれたエッセイだ。江戸から昭和にかけて活躍した道具をテーマに、博識とユーモアを織り込み驚くべき小宇宙をつくりあげている。さながら、庶民生活の歴史のミニアチュールを覗いているようで、とても原稿用紙二枚分とは思えない内容の濃さである。その懐の深さは、さまざまな楽しみ方を提供してくれる。
なぜ「踏み台」は市販されていなかったのか、なぜ不正乗車の事を「きせる」と呼ぶのか、そんなトリビアを拾い集めてもいいし、「はいちょう」や「おひつ」などの絶滅危惧種の話を読んで昔話にふけるのもいい。いまでも現役の「すごろく」や「櫛」の、江戸時代と現代の違いに驚くのも楽しい。また、「鏡」における『わたしたちは鏡の国に住んでいる』『虚像と現実がごちゃまぜで、他人はもとより、自分とも向き合っていない』という鋭い指摘は、たいへん考えさせられるものであった。
魅力をあげだすとキリがないが、ただひとつ寂しいのは、作者がすでに夭逝されている事だ。もともと漫画家として優れた作品を発表されていたが、突然「隠居宣言」をしてコメンテーター・文筆家に転身した。そのとき既に闘病生活をはじめられていたという。そんな事を微塵も感じさせなかった明るさと、前向きなユーモアはこの本でも健在だが、随所に「一度きりの人生を真剣に生きよう」という覚悟が語られていて、胸にせまる。
文中で「若い人に“蚊帳の海で泳ぐ”という表現が通じなかった」というエピソードが、苦笑まじりに紹介されている。「蚊帳」だけではない。「頭巾」「ひごのかみ」「ねんねこ」……忘れ去られようとしている物たちへの愛情は深い。それは後ろ向きの感傷ではなく、先人の知恵を未来へ伝えていきたいという想いが込められているのだ。この本に紹介された「道具」だけではなく、この本を書いた「杉浦日向子」という優れた表現者がいた事も、同時に語り継いでいきたい。
なお、蛇足ではあるが、杉浦日向子には百物語という怪談漫画の傑作がある。いまは文庫本一冊で、読むことができる。怪談に興味のある方には、ぜひ一読をお勧めする。
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一樽買えないから、貧乏と言うものの、そこに卑屈な響きはない。
必要なものを必要なだけ、上手にてに入れることの出来るシステム完備こそが、快適な日々の暮らしなのではないだろうか。
余分に買って捨てることほど愚かで恥ずかしい文化はない。
捨てるだけの容れ物なんて、もう、はじめから要らない。
今回は江戸の解説本ではなく、炬燵とかはたき、赤チン等江戸に関係なく、今なくなってしまったものを懐かしくこう言うのもあったんだよ、と話しかけてくれるそんな本でした。
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のどかな、ほんのりとした気持ちになれる。彼女が語る江戸の時代。古き良かった頃の日本。道具を通して、そこに暮す人々も暖かさを感じさせる。それはイラストや文章から彼女自身の人柄から出てきているのだろうと思う。
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今は亡きモノたちにまつわる雑学的知識や著者の思い出。もちろん文化のお勉強にも。
ひとつひとつのモノがもっと掘り下げられていると良かったなぁ。
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良いですねー。
季節に合わせて伸びたり縮んだりする江戸の時間軸って良いなー。
杉浦さんは他の著作で「時を知らせるものが好きで、時計もたくさん持っている」と言ってますが、時間との付き合い方が上手なんだろうな。
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【本の内容】
はこぜん、きせる、ふさようじ、ひごのかみ、はいちょう、へちま、ねんねこ、おひつ、ゆたんぽ、はたき…。
江戸から昭和の暮らしを彩った道具たち。
いまも伝わる暮らしの小物や、懐かしい想い出のまつわる、いまはなき品々。
四季折々の風物でもある「もの」たちを、愛情こめて綴る。
人肌のぬくもりを感じさせる味わい深い文章を、漫画作品から選んで添えた挿画とともに楽しめるエッセイ。
[ 目次 ]
[ POP ]
46歳という若さで亡くなった杉浦日向子さんが、朝日新聞の地域版に連載した随筆です。
日向子さんのイラスト付きなので、読んで楽しく、見て楽しい本です(笑)
知ってる道具、知らない道具、日々の暮らしに登場したさまざまな「もの」をさらりとした愛情で春夏秋冬別に並べてくれています。
江戸の風物の話かと思えばそれだけではなくて、子供のころの話が結構多くて、江戸の風物が昭和まで続いていたり、逆に江戸時代からあったと思われるものが、意外と最近のものだったり関心させられることも多い内容になっています。
しっかりとした時代考証を踏まえ、江戸時代から昭和の暮らしにかかわる道具について、蘊蓄を傾けているので、よかったら読んでみてください(笑)
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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江戸から続く道具、モノがテーマのエッセイ。
杉浦さんのエッセイを読むといかに現代にゆとりがないかを思い知らされます。
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昭和の道具たちにまつわるお話。
すごく魅力的な語り口調で、
視点もかわいく暖かく、
この一冊で彼女の大ファンになりました!
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江戸から昭和の道具等を題材にしたエッセイ。
杉浦さんの温かいまなざしが想像できます。本当に亡くなられたのが残念です。
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春、夏、秋、冬、ご本人の漫画入り江戸隠居の歳時記。早々と「隠居宣言」をなさった著者。日向子さんの日向ぼっこって、できすぎてる。だけど、だからといって逝ってしまうにはあまりにも早すぎる。最後の一文。「不謹慎と言われそうだが、大往生を遂げた暁には、御線香の替わりに、参列者に一杯ずつ願い、極楽へのはなむけに、皆で餅を味わう、めでたい葬儀もいいと思う。」………絶句。解説/吉田篤弘
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文庫のページ数でいうと、イラスト1ページ入れて、わずか1テーマ3ページほどの、エッセイ集。 とはいえ、新旧テーマの選び方が面白い。 「新旧」とは言ったものの、恐らく、知らない人の方が多いテーマばかりかもしれない。 以前「うつくしく、やさしく、おろかなり―私の惚れた『江戸』」の感想でも書いたように、著者は、必ずしも「江戸(時代)が大好き大好き。」という人ではなく(その辺、短兵急に著者のことを、そのようなレッテルを貼っている人は多い)、しかし、愛憎相半ばしつつも、やはり、江戸(時代)をいとしく思っていたのだなぁ、と感じる。 わたしゃ、隠居もいいけれども、小言幸兵衛になりたいものよのぉ。(追記) これ、単行本で読んでたわ。 小言幸兵衛どころか、うっかり八兵衛だわな。
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江戸から昭和の暮らしの道具を紹介。杉浦さんの説明がとても良くて、懐かしかったり、へーと思うこともあって、何度読んでも楽しい。
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杉浦日向子の隠居の日向ぼっこを読みました。
日向子(ひなこ)だから、日向ぼっこなんですね。
江戸時代から昭和にかけて使われていた道具たちを四季折々の江戸の風物を背景に描いたエッセイ集でした。
今は使われなくなった道具が多く登場しますが、私が子供の頃はまだ使われていた道具もあり、懐かしく感じました。
はさみこまれている挿絵も風情があっていい感じでした。
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たたみいわしが好物で、さっとあぶったのをかじりながら、
ありふれた本醸造の熱燗を、大ぶりのぐい呑みでやってると、
ちうくらいのほどよいしあわせを感じる。
そんな作者の心が表れているような気取りのない文章。欲しいものがたくさん載っているけど、なかでもわたしは「箱膳」と「屏風」がほしい。
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昭和の時代までは身の回りで当たり前に使っていたような道具たち。
はいちょう、とかねんねこ、はたき・・など等。姿を消した物たちのことを覚えている世代はどんどん少なくなるが、江戸時代から生きてきたような日向子さんには時間は関係ないのかもしれません。
古道具などにまつわるお話と、彼女の書いた挿絵や漫画の一部分が見開きになっているので、好きなところからぱらぱら捲って読むことができます。四季折々の風景画も味があっていいなあと思いました。