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吉田修一さんはついに、「悪人」以来、こうカチリと何かのスイッチが
入ったかのように、
ますます磨きのかかった文章を書かれるようになったと思う。
この作品は、ちょっとだけ読むつもりが、
思わずひきこまれて2時間ほどで一気読みしてしまった。
それぐらい、離れられなかった。
「・・・あの事件を起こさなかった人生と、
かなこさんと出会った人生と、
どちらかを選べるなら、
あなたはどっちを選びますか?」
主人公の渡辺は最後に、その答えがわかった、と書いたが、
どうなのだろう、
もしも、この時点でわかったならば(それが私の推測通りの答えならば)
この問いは無粋な気がするし、
もしも、この答えが私の推測とは違う方であれば、
それはそれで、また尾崎の行動は奥が深いものに見えてくる。
装丁もすごく良いね。
カバーがモザイクになっているところが、にくい、と思った。
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『悪人』引き続き、作者の立ち居置が絶妙。場の雰囲気というか空気というか、割と低いんだけれど深過ぎるわけではない
登場人物と作者の距離感がとても心地良い。
短いけれど密度のある深い作品だった。 むしろ、『悪人』よりも良かったかもしれない。
終りのかなこの台詞を読んだときに題名の『さよなら渓谷』が結びつき、なんとも救われん感情を抱いた。
やっぱり人は独りでは生きられない。
(2008.06.26)
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秋田県の畠山鈴香が子供を殺した事件を思わせる物語を展開軸に、男と女の愛憎に切り込んでいる。主役は事件宅の隣家の住人。不思議な男と女が暮らしている。
実は学生時代にレイプした犯人と被害者が流れ流れてたどり着いた仮の住処だった。男と女ってこんなもののような気になった。
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最後は、なぜか寒気を感じる。さすがと思わせる。
現代の日本版、「罪と罰」か。
罪と罰、そして被害者。
逃れることのできない業を背負って生きることのただならぬ重みを見事に書き上げていると思う。
誰が不幸であり続けることを強いるのか。世間か。
結局、幸か不幸か、幸せになりたいのか、不幸になりたいのか、それは自分が決めるしかない。
そのことの意味を考えずにはいられない。
不幸になるための人生、そんな生き方もあるのかもしれない。それを望むか否かは別問題だが。
相手に不幸を強いることから得られる満足。
相手に不幸を強いることからくる苦痛。
結局、お互いに無関心では生きられない。
愛の反対は、嫌悪ではなく、無関心なんだ。ふとそんな言葉を思い出した。
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「パーク・ライフ」を読んだときは「やっぱ芥川賞とは相性が悪いなぁ」としか思わなかった吉田修一ですが、「悪人」と言い本作と言い、何か一皮むけたようだと評するのはおこがましいでしょうか。不幸な人間を描かせたら東西随一かもしれません。主要な登場人物は皆不幸なのに不思議とキャラ立ちしていて、いちいち感情移入させられます。「文句なし」と言いたいのはやまやまなんですが、結末があまりにも哀しすぎるので★一つ減点。
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耳目を集める事件の容疑者の隣家に住む男女の愛の行方。
息子がレイプ事件の加害者になったらと聞かれて「息子の一生がさ、台無しになると思うとがっかりする」と答え、娘が被害者になったらと聞かれると即座に「相手の男をぶっ殺す」と言い切る先輩記者松井の矛盾した感情が象徴的だ。
「姿を消せば、許したことになる。一緒にいれば、幸せになってしまう」……渓流に飲み込まれたピンクのサンダルの浮き沈みが映像化されて頭に浮かんだ。
その他にもさまざまなことを考えさせられた問題提起作。
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あ〜なんでこんな本が好きなのだろう 馬鹿じゃないのこの結末!って思うのに何で好きなんだろう 紙一重すぎる しかし好きだ 典型的にやられる作品だと思う
作品自体は「悪人」に比べたら落ちると思うけど、惹き方は堂にいったモノ過ぎて悔しいくらいだ いや〜なんなんだ吉田修一
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きっかけは隣家で起こった幼児殺人事件だった。その偶然が、どこにでもいそうな若夫婦が抱えるとてつもない秘密を暴き出す。取材に訪れた記者が探り当てた、15年前の「ある事件」。長い歳月を経て、「被害者」と「加害者」を結びつけた残酷すぎる真実。
「悪人」を凌ぐ作品・・ということで期待満々で読みました。が。やっぱり少し迫力に欠けました。あまりリアル感がなく、こんなことないよ〜という感じが少し。でもやはりさすが、ぐいぐい引き寄せられる展開に最後まで一気に読まされます。ことの発端となった「幼児殺人事件」の行く末を知りたいです。
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記憶にも新しい某幼児殺害事件をモチーフにした物語かと思いきや、ストーリーは少しずつ脇役と思っていた登場人物の過去へと進んでいく。あれ、そっちが本筋なの?(あらすじとか全く知らずに読んだため)
「一緒に不幸になる」というところで切なくなりましたが、『悪人』のラストの切なさには及ばなかったかなーというところ。
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実際にあった実の子を川に突き落として殺害した事件と大学の運動部であった集団レイプ事件。
その二つの事件を下敷きに物語は進む。
男ってどんな生き物なんだろう。
女ってどんな生き物なんだろう。
そればかり考えながら読んだ。
結局分からなかった。
屈折した愛情だったのか、憎しみだったのか。
両方が入り混じった複雑で説明のつかないものなのか。
分からないけど、それが人間の持っている心なのかな、と思う。
きっといつまでたっても説明できない、説明のつかないもの。
それをあぶりだしていた小説だったと思う。
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テレビで紹介されていたので読んだ。
あまり評価できない。
被害者と加害者が夫婦になる(夫婦だっけ?)という思いつきを引っ張った話であり、過去やそのいきさつ、事件はその思いつきの為に「付けられたもの」という印象を受けた。
結婚する相手に傷があると、自己の嫌悪感より劣等感や恥のように外界の視線への意識の方が強いという指摘は鋭いと思う。
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最近、路線が変わったと噂される吉田修一の最新作。
・あらすじ
隣家で起こった親による幼児殺人事件。その取材に訪れた記者が、どこにでもいそうな若夫婦の15年前の過去暴き出す。
本当に方向性が変わってます、吉田修一さん。前回に続き、単純に善と悪に分けることのできない登場人物。彼らの苦悩が伝わってきて苦しささえ覚えました。過去に戻れるとして、どちらの人生を望むのか。意外とサラっと読めましたが、心に何かを残す作品でした。読んで損はないと思います。
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2008.10.15. 怖いよ。これはあれだよね、畠山容疑者の事件がモデルになってるよね、出だしの女。リアリティがあって怖い。普通に暮らしてるはずの人は、過去を持ってるのは当たり前だと思うけど、レイプとか、そういうことも、ありうるのか。どんな風に始まったとしても、人間関係って成り立つのか。破綻してるか。なんか、無性に怖くなった。
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きっかけは東京郊外で起こった幼児殺人事件。シングルマザーの母親が、幼い息子を殺害し、近所の渓谷に遺体を捨てた容疑で逮捕された。
警察の捜査、新聞記者が調査を進めるなかで、容疑者の母親が、隣家に住む若夫婦の夫・俊介との関係を自供し始める。
警察、記者共に俊介の素性を調べると、彼は15年前所属していた大学の野球部の部室で、当時女子高生だった少女を集団レイプし逮捕されていたことがわかった。
過去の事件に興味を持った週刊誌記者は加害者の男性3人と、被害者の女性の事件後の過去を調べていく。
加害者の男性たちは過ちを忘れられないながらも、なんとか社会に復帰していった。
しかし被害者の女性は学校、会社でのイジメ、結婚した後に夫からDVを受けるなど、決して幸せな人生を送っているとは言えず、現在は失踪していることが判明する。
記者は直接俊介に接触したり、彼の妻・かなこに話を聞くなどして、事件の詳細を調べるうちに、彼の妻かなこが実は俊介が15年前に傷つけた女子高生の夏美である事実を知る。
長い年月を経て、すれ違い、拒絶し続けていた夏美だが、二人が一緒にいることで俊介に苦しみを与え、彼を許さないという誓いを立てて同居をしていたのだ。
結局、俊介と幼児殺害の母親との間には何もなかったことが判明し、俊介は釈放され、週刊誌の記事に書かれることもなくなった。
釈放された俊介と\\\"かなこ\\\"である夏美は、二人で渓谷に出かける。
共に生活する中で、いつしか二人は幸せになりかけていた。
そのことに気づいたかなこは、家を出て行く。
残された俊介は、この先、何としてでも、かなこを探し出そうと心に決めた―。
非難されるべき加害者が受け入れられ、庇護されるべき被害者が辛い目に遭う。
幸せになることを許されない二人は何処へ行くのだろうか。
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「二人で幸せになってもいいじゃありませんか!そう叫びたいのに、どうしてもそれが言えない。」
某誌で好評だったため、見つけた時には「きゃあ!」と嬉しくなってしまって、しかもあっという間に読み終えたけれど、でもでも面白くなかったの。
読み終わって、「それで?」と聞きたくなるぐらいよく分かりませんでした。過去のレイプ事件の話が出た時点で途中で話の流れも見えたし・・・。
お話なんだから、もっとぐちゃぐちゃしたものを求めていた期待はずれ感たっぷりなのでした。残念っ!