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いい夢しか見られなくなったら余程不幸せだといえるだろう。物語では、串刺しにされ焼かれた乳児の姿や街の荒廃ぶりが徹底して写実的に描かれている。われわれ読者は普段本の世界から感じる"におい"や"色"や"温度"といったものをほとんど奪われ、灰色の只中を凍えたままあてどもなく歩かされる。
父子は「火を運ぶ」という使命のためだけに南進を続ける。火は、人類の英知や文明の象徴とも、破滅的世界を導いてしまった災厄の元凶とも読み取ることができるし、単に子どもの動機づけのために(親が決めた)冒険ごっこ的な設定としても構わない。読み方は読者に委ねられている。
しかし人々が他人どころか我が子をも食いつくす状況を自らの世代が築き上げてきた後期資本主義社会ととらえ、まだ幼い我が子を老いてこの先守ってやれないという今日的な暗喩で終わるのはあまりにも陳腐な鼻の利き方だと思う。
歩みを止めぬ二人が語り合い、ときに口を閉ざし、夢を見、幾度かの回想を試みる。
その繰り返しの絶望のなかで浮彫りにされてくるのは、
父は一人の人間である以前に我が子の前ではどんなに弱かろうともみすぼらしかろうとも父でなければならない、とする自負であり、同時に子の存在だけが親に対して与えうるプライドである。極限状態の中で彼を彼たらしめるものは彼の息子の存在だけであり、生きていく意味や絶望的な未来など無為に等しい。
老いさらばえた末のロマンチズムと人が笑おうとも、73の老父マッカーシーが7つの愛息に捧げた純潔な愛だと私は思うのだ。
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珍しく語る。人に勧めるのを止める類の本、設定より雰囲気重視的価値観がにおう作品、既視感たっぷりの世界観とだから何っていう話は別に目新しくない。故に、この文体と空気が自分のツボじゃなければとっとと売ってこれるのにと思うと残念至極でならない。ヴィゴで映画化とかハマりすぎていっそ嫌みだ、嫌いだ。だから云う訳じゃないがこの作品は映画化しない方がいい類な気は、する。リアルなふりをしたおとぎ話を映像という明確なリアルに落とし込む作業を成功させる事は難しい。
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荒廃し尽くした大地を、南へと向かう父と子。目にするのは正しく地獄であり、人は心を失った鬼に近い。ただ息子を守るという点にのみ、己の人間性が残されていると信じる父は、他の「善い者」の存在を息子に肯定するが、善なるものは全て滅びた、とも思っている。だからこそ何度も、一つの問いを自問する。けれど、少年が目にしたのが父一人ならば、その善良さも無垢さも、父から受け継いだものではなかったか。それこそが、光であり希望であり「火」ではなかったか。父親の選択、そして結末を、涙しながら読み終えて浮かんだのは、そんな考えだった。
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【所持有無】×
【読了日】090425
【キーワード】終末 父と息子 CarryTheFire
【所感】すごい、最後の文章で本当に意図せず涙が出た。ハッピーエンド好きの自分としては、もう少しこう…希望の持てる、例えば緑が小さく芽吹いていた、とかそんな甘い箇所があってもいいかと思う(笑)。映画見たいな…でも、残虐な部分もあるから、どうなるかな。
【備考】
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きれいです。
単文で詩のような静かな文章が冒頭にきると
ぼくはああいいなと思う。
文章がきれいで登場する父親と子供もきれいだけれど
世界は汚染されているれど、きれいに思える。
きれいかな
きれいだと思う
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大戦後の荒廃したアメリカで南を目指す父と子
なんか子連れオオカミっぽくない?(ショッピングカードのところとか)
映画化されてたはずなんだけど、無事公開したのか?
日本の公開はいつだろ?
あれ、知らん間に終わってたとか?
http://www.youtube.com/watch?v=hbLgszfXTAY
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核戦争後(?)のおぞましい終末世界で、カートを押しながらひたすら南へと進む父と息子。
食べ物はつき、人間の心を失った敵がはびこり、略奪やカニバリズムが横行する。
そこはまさに地獄。父は必死で息子を守る。
もはやこんな地獄のような世界で息子を守るという使命が、彼に残された唯一の仕事であり人間性を保つ手段だというように。
父と息子のなんでもない会話が美しくて、なんだか泣けました。世界の終りに、こんな風に、隣を歩いてくれる人がいる。それって、これ以上ないくらい幸せなことだと思えました。
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未曾有の惨劇によって世界が滅びたあと、地球上空は冷たい灰に覆われた。その暗い空の下を、父と息子が南をめざして歩いてゆく。衣食に事欠き、出会う人間がみな敵であってもおかしくない状況で、父を支えるのは息子を守るという使命のみ……。息づまる道行きを描く、ピューリッツァー賞受賞作。
※インタビューによると、マッカーシーは本作の背景となる彗星衝突について、所属するサンタフェ研究所の物理学者からアドバイスをもらったとのこと。
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著者はコーマック・マッカーシー。この作品で、2007年度のピューリッツァー賞を受賞した。
映画『ノー・カントリー』の原作者でもある。
この作品は、すでに世界は破滅状態で、無政府状態のため、人が人を食べるような荒れに荒れた状態の中、父子を主人公に徒歩で南へ向かいながら、生き抜いていく話。
主に父子二人の会話やいかにして夜の暗闇を過ごし、寒さを凌ぎ、そして日々を食いつないでいくかを内容としたもの。
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'carrying the fire'
生命の灯火を、不毛の世界で燃やし続ける親子の物語。
動物と成り下がった人間たちが、互いの存在を悪としてしか見なさなくなった未来で、灰に埋もれた景色しかしらぬ子供が、どうしてこんなに純真無垢でいられよう。
延々繰り返される略奪からの逃避、代わり映えのしない食事、カートの灰を撒き進むかわいた音。
読んでいるうち「この物語の終わりはどこへいくのか」心配になるほど、暗く望みがない。
クライマックスの救いは、本当に清廉で、これがなかったら私今夜眠れませんでした。
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荒涼、沈黙、神なき世界。父と息子は冬にそなえて南へと向かう。空には雲がたれこめ、寒さが募る。荒れた庭で死んだライラックの枝がもつれあい、去っていった息子の母は夢に現れるのみ。家のポーチには何年も前に死んだ男が座り、人食の〈野蛮人〉が襲いくる。生き残ったわずかな人々は限りある資源をめぐって殺しあう。
なにかカタストロフィが起きた後の終末世界の物語である。具体的な経緯はいっさい説明されない。大惨事後に生まれた少年は、野生のキノコをごちそうとして食べ、不満も漏らさないが、世界の深い絶望をおそらく本能的に分かっているのだ。そんな息子を守るために、父は一刻一刻を生き延びようとする。「火を運ぶ者」として。
本当に淡々とした文章で最初はなかなか馴染めなかったが、とにかく暗く寒い雰囲気が伝わり、この親子が向かう南の果てが知りたくてよみ薦めました。
途中のシェルターの場面はではかなりホッとして何度も読みかえました。最後10pは不覚にもウルウルしてしまった。
結末が安直なのがねぇ~
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マッカーシーは確か随分年老いてから、最初の息子を得たはずだ。孫、と言ってもおかしくない歳の離れた息子に対して、父であるということはどういうことであるのか、それを寓話を通して伝えようとしているように思える。
この作品で描かれる世界は、文字通り絶望に満ちている。何らかの大きな災厄に見舞われ、我々が知っている(と思い込んでいる)倫理的で文化的な世界は滅亡している。人が人を欺き、大人が幼児を焼き殺して喰らい尽くす。そんな世界だ。だが、本質的にその悲惨さは、今の世界と何が違うのか。隠されているだけで、日々幼児は殺され、金を持った人間はブクブクとその死体の上で肥え太る。
勿論、この作品は現代の文明批判の小説、などではない。決してない。作品は寓意に満ちているが、寓意を無理矢理に現代の比喩として捉えるのは、(それがいかに悲惨な世界を描いているとしても)作品の豊穣さを根こそぎにする。だから問題は、世界と相対した時、父は子に一体何を語り、何を残してやれるか、ということなのだ。破滅後の世界にせよ、今の世界にせよ、父は子に対して残してやれるものは、常に同じはずだ。それは希望であり、肯定であり、祈りであるはずだ。そして、自らの命をかけて、火を決して絶やさないということであるはずだ。
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終末物のロード・ノヴェル。
淡々と描かれる父親と息子の漂流の物語。
神・道徳・正義・生命・親子・恐怖。
様々な事を考えさせられる。
心に残る名作だ。
2007 年 ピューリッツアー賞受賞作品。
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植物は枯れ果て、僅かに生き残った人間は飢え争う破滅した世界を、カートを押して旅をする父と幼い息子。死に満ちた終末世界を、二人はひたすら南を目指して歩く。
2007年度ピュリッツァー賞、受賞作品。
原因は語られてはいないが核戦争でも起きた後だろうか、破滅した世界をただひたすら南を目指して歩く父子。略奪や殺人が横行している中で身を隠しながら進んでいるので、語られるのはほぼ二人のことのみ。行く先に楽園があるわけでもなく、寒さから逃れる為だけの暗たんとした旅で、読みながら何が面白いのか分からないままに、それでも妙に引きつけられていた。
常に息子を守りながら歩く父親だが、自身は病魔に襲われており先は長くないことを知っている。この世界に息子を一人残すわけにはいかないと殺す事も考えているが、はたして実行できるかと自問自答を繰り返す。また逆に彼が残されるのも耐えられない。このようの世界でもなお他人を助けようとする純真な少年は、彼の唯一の希望なのだろう。確かにこれは葛藤してしまう状況だろう。
いよいよ男に死が迫ってきた時の会話が、父親と子が逆のようになっている。守る者と守られる者の立場が逆転したことを象徴しているのか、あるいは別な意味があるのかととても気になった。
始まりも終りも唐突感があって、頭で理解すると言うよりは心に訴えてくる作品だった。
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衝撃的だった。
思い描いた父と子のロードムービー・・・
をはるかに超えた。
淡々とすすむ。
ページをめくる手がとまらない。
絶望的なのに、どうしてこんなに
光を感じるのだろう。