紙の本
甘粕正彦といえば、「ラストエンペラー」しか思い浮かべられない私でしたが
2019/10/22 22:06
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
甘粕正彦という人に関しての予備知識といえば、関東大震災のどさくさに紛れて大杉栄と伊藤野絵を虐殺して井戸に突き落とした残忍な人ということと、ベルナルド・ベルトルッチの映画「ラストエンペラー」で皇帝・溥儀に影のようにつきまとっていた坂本龍一のイメージしかないない(その後、テレビドラマで竹中直人が演じたらしいが彼を知っている人からは顰蹙を買う酷さだったらしい)、この甘粕について作者は「軍の罪を一人でかぶった男」として描く。今での世間の印象はよくない、作者は同じ満州で全職員に退職金を渡したうえ、満州を脱出させて自らは服毒自殺した彼と、部下を戦場に残し、自分は勲一等旭日大綬章の栄誉を受けた陸軍中将・澄田のどちらが本当に立派な日本人だったのかと問いかける
紙の本
甘粕正彦って誰なんだ
2008/10/27 09:15
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k-kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後生まれにとって「アマカス」と聞いても何のイメージも喚起されない。映画「ラストエンペラー」で、坂本龍一が演じた甘粕正彦の印象が独特ではなかったか。いかにも暗黒世界の住人。社会主義者を虐殺した冷酷非情な元憲兵という設定であった。
この本を手にした理由は、もっぱら著者・佐野眞一への信頼からである。綿密な取材をバックにした重量感のある数々のノンフィクションのファンであった。著者はこの評伝を教養小説として構想したという。大正、昭和という時代に翻弄されたひとりの人間の魂の成長の物語として執筆したと。充実した読後感に期待を裏切られることはなかった。
世に「甘粕事件」と言われるのは、関東大震災直後の瓦礫のなかの大正12年9月16日、憲兵大尉の甘粕正彦が社会主義者・大杉栄を殺害したとされる事件のこと。これが、甘粕の人生の暗転劇のはじまりだった。残忍なイメージを付着された甘粕は、これ以降「主義者殺し」の汚名を生涯にわたってひきずる悲劇の人生を歩むことになった。
この事件の主犯として甘粕は軍法会議で懲役10年の実刑判決を受ける。しかし、甘粕が軍のスケープゴートになったという見方は、いまやほぼ定説となっている。彼は上官を守り、部下を庇って、自ら捕縛される道を選んだのではないか。
甘粕が再び歴史のなかに姿を現すのは、突然勃発した満州事変の直後だった。昭和6年9月18日の柳条湖に始まった満州事変は、軍人たちが仕掛けた大掛かりな謀略劇だった。甘粕は溥儀を連行し満州建国に導く。関東軍にはさしさわりがありすぎて出来ない特殊任務を、甘粕は率先して遂行する。満州事変を拡大させ、その後15年にわたる泥沼の日中戦争に引きずり込む一つの端緒をつくった影の主役であった。
「満州の昼は関東軍が支配し、満州の夜は甘粕が支配する」とまで言われた。満州に現れる以前の甘粕と、満州の甘粕はまったくの別人だった。甘粕にとって謀略の大地の満州は、初めて生を燃焼できる乱心の曠野だったのだろうか。
理事長に就いた満映は、甘粕にとって、自分の理想を実現する小さな王国だったのだろう。抜群の事務処理能力を発揮する。機構改革を行い、合理主義とスピードで事を運こび、赤字だった経営を黒字に転化する。彼には不思議な魅力があったという――どんな人物でも惹きつけてしまう。人との信義は絶対に裏切らないパーソナリティーでもあった。
昭和20年8月9日、ソ連軍が国境線を越えて満州への侵入を開始。甘粕は翌々日の8月20日、青酸カリをあおり54歳の生涯を自ら絶つ。甘粕は自分の運命を決めた大杉事件の秘密を曠野に埋め墓場まで持っていってしまったのだろうか。
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大杉事件の首謀者とされ後半生は満州の夜の支配者といわれた甘粕正彦についてのルポ。
とても丁寧な取材だけで積み重ねていく佐野さんの仕事の進め方の凄みを感じる作品。
大杉事件の首謀者としての入獄。釈放。そしてフランスから満州へ。
そこでの謀略活動。
明後日の計画は素晴らしいが明日の計画が抜け落ちている(甘粕の石原評)332
白い猫でも黒い猫でも左翼でも右翼でも仕事ができる人間は使うというのが甘粕の人間観(335)
甘粕ほど年代によって風貌がかわった人はいない。周囲から注がれる容赦ない好奇な目を跳ね返す為に甘粕が自分の内面を絶えず深耕することによってもたらされたものだった(339)
満映時代は全社員の5%を馘首するようなすさまじい人事の刷新を行い経営を立て直す。そういった実務家としての仕事の処理力が抜群だった。
合理主義であり天皇制の崇拝、右翼と左翼を同時につかう懐、憲兵でありつつ経営再建の敏腕経営者、教養。矛盾するさまざまな要素をひとつにした人格のあった人だったらしい。
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佐野は『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』で、「世界史的にも類を見ない日本の高度経済成長とは、失われた満州を国内に取り戻す壮大な実験ではなかったか」と書き、その見方に基づいて発表した満州を舞台とした作品のひとつが『阿片王 満州の夜と霧』、もうひとつがこの『甘粕正彦乱心の曠野』だという。
『阿片王』は何年も前に同居人が買ってきてからずっと積んでいて、ウチにある(積んでる間に、去年は文庫化されて出ていた)。なので、『甘粕正彦』を借りてきた。これも『沖縄・・・』同様、4センチ本。出版社が違うせいか(紙質の違いだろう)、ページ数はこっちのほうが少ない(500ページ足らず)のに重い。
私は甘粕には興味があって、前に角田房子(『閔妃暗殺』を書いた人)が甘粕について書いた本が増補になって文庫に入ったときは、買ってきて読んだ(『甘粕大尉』)。いつだったかの『We』でこの本を紹介したときには、甘粕が大杉栄殺しの犯人かどうかははっきりしない、というのが角田の結論だと書いたように思う。
私の興味をさかのぼると、小学校6年生のときに、たしか社会の授業でつくった新聞にいきつく。グループでつくったのか、一人ずつそれぞれつくったのか、こまかいことはもう忘れてしまったが、私は「大杉栄、殺される」とかいう見出しをたてて、大杉栄の似顔絵をかいて、大杉事件の記事をかいたのだった。まわりにどんな記事を入れたかも、さっぱりおぼえていないが、おそらく関東大震災のことを書いたのだろうと思う。
小6の社会の教科書はほとんど記憶にないが(とくに6年のときには、担任の先生が「人間の歴史」というタイトルでずーっと刷っていたプリントで勉強していたから…このプリントを綴じたファイルはどこかにあると思うのだがすぐには出てこない)、当時はたぶん大杉栄殺しの下手人=憲兵の甘粕、と理解していたと思う。
佐野の本の序章ではこう書かれている。
▼甘粕はこの事件の主犯として軍法会議で懲役十年の実刑判決を受けた。だが、当時からこの事件の背後関係を疑う見方は絶えなかった。詳しくは後述するが、それをうかがわせる新たな証拠も戦後になって発見された。少なくとも甘粕は軍のスケープゴートになったという見方は、いまやほぼ通説となっている。(p.11)
私が6年生の頃に、すでにその証拠は出ていたのだろうか、と考えながら、大杉栄といえば甘粕、あるいは伊藤野枝といえば甘粕、甘粕といえば主義者殺しという通説を、私はいつの間にか知っていたなあと思った。
佐野は、角田の『甘粕大尉』のことにも言及している。満映時代のことを書いた『幻のキネマ満映』とともに、このふたつの著に対してこう言っている。
▼…両著に最も欠けているのは、満州における甘粕の豊富な資金源と、地下茎のようにからみあった複雑な人脈である。
甘粕はいつしか、満州の夜は関東軍が支配し、満州の夜は甘粕が支配すると囁かれるまでになった。「満州の夜の帝王」という異名をほしいままにしたその力の源泉こそ、甘粕最大の謎であり、私が甘粕に惹かれた最大の理由だった。(p.16)
佐野は、甘粕の陸軍士官学校時代のノートや手紙類を発見したこと、また甘粕の長男・忠男氏の全面的な協力を得たことによって、「甘粕と接した夥しい人びとの証言を丹念に掘り起こし、そこから、甘粕の謎をひとつひとつ検証し、知られざる甘粕の素顔を解明する」(p.17)ことをねらってこの本を書いた。
『沖縄・・・』と同じく、この本もぐいぐいと読めた。読みながら、次は佐野の『阿片王』を読もうか、角田の『甘粕大尉』ももう一度読みたいし、満映のことといえば、赤川次郎の父が甘粕の近くにいたと、たしか赤川の本で読んだような気がするなあ、あれは何やったっけなあ…と考えていた。
この本を読み終えて、誰しも人は人のつながりの中で生きているけれど、それにしても甘粕正彦という人は、軍人から主義者まで、右から左の人物と会い、仕事をし、ラストエンペラー溥儀と因縁浅からぬ関係があり、ヒトラー、ムッソリーニ、フランコというファシスト三人組にも面会したことがあるらしいし、満映時代には李香蘭や内田吐夢、森繁久弥ともかかわっていて、とにかく実に多彩な人びとと接しているなあとつくづく思った。
それとともに、甘粕が手を下したとされた大杉事件は、今から見れば実に凄惨な、ひどい暴力だけれど、当時は、"主義者"殺しは国策であって、今ほどに非難されることはなかったようだ、という佐野が聞き取ってきた古老の話に、ああそうなのかもしれない、そういう時代であったのだなあと思った。
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発売当初に積読をそっちのけで読んでしまったもの。
率直な感想としては、長かった(通勤中に電車で読むには厚い本)。
甘粕の長男である甘粕忠男氏をはじめ、たどれる関係者には片っ端からインタビューしていく、精力的な取材ぶりにはすさまじさを感じるが、それをすべて盛り込もうとすればするほど、話が散漫になっていくような。前著『枢密院議長の日記』もそう感じたが、ラーメンだったらのびてしまう。
それは多分、読み手の持続性のなさに起因しているので、佐野氏に非があるわけではない。
それと、大杉事件の真相についても、「死因鑑定書」や証言・史料を編み込むことによって、佐野氏は大杉事件は「軍と警察の共同謀議」による「組織犯罪」であり、甘粕は白羽の矢を立てられたのだという結論を導こうとしている。
それは確かにそうなのであろうが、結論を断言しようとして、躍起になっていた感は否めない。とはいえ、研究書ではないので、そんな勇み足もよしとしよう。
ちなみに、甘粕の濡れ衣については、角田房子の『甘粕大尉』(増補改訂、ちくま文庫)でもそれを匂わせてはいる。
そして、著者が『阿片王』の続編として筆を揮おうとしていた甘粕の後半生、「乱心の曠野・満洲編」、ここがどうも。いろいろなエピソードは紹介されているが、そこから浮び上がる甘粕の像というのが、読んでも読んでも、いまいち私の中で像を結ばない。大杉事件に振り回されて、後半がどうも薄くなっているような印象が拭えない。その上、裏世界の話なんて、頼るべき資料も覚束ないわけで。
甘粕の後半生については、山口猛の『幻のキネマ満映 甘粕正彦と活動屋群像』(平凡社ライブラリー)の方が、テーマを絞っているので分かりやすいような気がする。
結局のところ、甘粕の生涯というのは資料的な制約があり、書こうとすると、以前に他の人が書いたものと余り大きな違いが生まれないのだが、それでも書いてみたくなる、そういう魅力(磁力?)があるのだろう。気持ちはよーく分かる。
以上、クドクドと書いたが、興味深いことには変わりないので、是非御一読を。
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内容(「BOOK」データベースより)
関東大震災後の戒厳令下、社会主義者・大杉栄一家を虐殺したとして獄に堕ちた元エリート憲兵。その異能と遺恨は新天地・満州で乱れ咲いた―。策謀渦巻く大陸の夜を支配した男の、比類なき生涯。湯水のごとく溢れる資金源の謎、地下茎のように複雑に絡み合った人脈、そして凄絶な自死とともに葬られたはずの大杉事件の「真相」を新資料、新証言で描破する。
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2008.10
佐野さんの執念ともいうべき取材と洞察に脱帽
あの甘粕雅彦の足跡をきちんと歩いて、彼が見たであろう、聞いたであろう、触れたであろう、味わったであろう、人物・事物が立ち現れてくる。
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甘粕正彦と言えば、万人が 憲兵、殺人、冷酷などなどダーティーなイメージを持っているかもしれない。
この本を読み私は今までの見方を変えなければならないと思った。
昔、大人になりかけの頃、生半可な知識や情報、父から聞いたうろ覚えの甘粕像だった、
その実信念の人、情の人のようだ、甘粕家の子孫もおられるから
これで「汚名」が雪がれたとお思いかもしれない。
傀儡満州国の話など裏話めいたものもあり面白かった。
年月をかけて丹念に調べていて著者の情熱が伝わった。
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01/18:勝浩1958
自分のすべてを捧げられる対象に逃げたのだろうか。無私になるとはある意味そういうことだろう。そこに逃げ込まないと自己が崩壊する。甘粕は最後は逃げきれなかったのだろう。
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たとえ直接の大杉栄殺しの実行犯ではなかったとしても、いったい、甘粕正彦という人物に特別の感慨を持っているのは私だけなのでしょうか?
これまで、甘粕正彦の実像に迫るべく映像的にさまざまな俳優が演じて来ましたが、なかでも最大の失敗者かもしれないのは、1987年公開のベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『ラストエンペラー』における坂本龍一かもしれません。印象の薄いなんだか間の抜けた愚鈍な言動・立ち居振る舞いは、神聖なる悪の化身=甘粕正彦に失礼千万、冒涜するもの以外の何ものでもないような気もします。世評は深読み・思い込みすぎているのかもしれません。
もともとこの役は、映画監督の大島渚にオファーがあったそうですが、もし実現していれば、彼の根源的なルサンチマンと類まれなるパトスによって、おそらく歴史的な、甘粕正彦本人も驚くほどそっくりの甘粕正彦が、いや、ひょっとしてもっと純化された甘粕正彦が出来あがって末代まで語り草になったかもしれませんが、残念ながらというか、当然ながらというか、作風=スタイルにこだわる大島渚ですから、そんなとんでもないべらぼうな犯罪者の役は引き受けられないということで断った結果、かの御仁に御鉢が回ってきてあの始末というわけです。
その点、2008年にテレビ朝日で放映された『男装の麗人・川島芳子の生涯』のなかで当時43歳の仲村トオルが演じた甘粕正彦には、その知的さ残忍さがよく出ていて、身震いしたのを覚えています。
そしてもうひとり、2003年のやはりテレ朝の『流転の王妃・最後の皇弟』での竹中直人はこのとき47歳、彼の持ち味が最大限に活かされたすばらしい凄まじいばかりの狂気が現出して出色でした。
あっ、あともうひとり忘れていました。2007年のテレビ東京『李香蘭』(李香蘭役は上戸彩)での35歳の中村獅童には、悪事のかぎりをつくした孤高の男の誰も理解できない孤独が滲み出ていて、歴史の表舞台で暗躍した悪党である彼は、実はいずれ歴史に裏切られ、犯罪的な歴史的人物として評価されることもおそらく承知していたような透徹した頭脳・精神の持ち主で、ただ、崇高なる軍国主義とか清く正しい軍国主義などというものは金輪際なく、軍国主義を生きる人間として徹底的に筋を通したら、人より数倍抜きんでてきわめて極悪人だったという感じが、まるで憑依しているかのように恐いほど出ていました。
レビュー登録日:2008年5月28日
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この二日間ほど、頭の中は、大杉事件と満州でいっぱい。
甘粕のイメージを新たに浮き彫りにした一冊は
軍靴の足音の響く大日本帝国の歩みと一致し
空恐ろしいよう。
これはノンフィクション作家の業なのだろうが、
話はあちこちに飛ぶ(作家はそこが面白いのだろうけれど)
そこが自分の興味と合致すると、たまらない醍醐味。
ただし、全く興味がないと、これまたたまらない。
おりしも、東電OL殺人事件の裁判が問い直されている時期、
当時、世を騒がせたあの事件を丹念に追ったのもこの作家だった。
偶然の一致にぞわりとした。
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戦前の、いや、関東大震災が帝都を含む関東を襲い、様々な事件が起こった最中にアナーキストの大物、大杉栄、伊藤野枝及び児童一名を含む三名が憲兵隊に捕縛され直後に殺されるという、俗に云われる、甘粕事件(大杉事件)が起きる。この物語の主人公たる甘粕正彦元憲兵大尉の事は、以前から読み漁って調べて来た、旧満州国の事から、切っても切り離す事の出来ない人物名だった。僕が見知っていた、甘粕像といえばその主義者殺しと満州の夜の(闇の)帝王という二つの通り名を持つ男という程度のものだった。私事ながら、僕の祖父の家族(当然、父も含む)も、満州に渡って、戦後命からがら引き揚げて来た事から、その話を聞き興味を持ち、現在に至っている。今回、この佐野氏の前々作の「阿片王」を読み、その中にもこの甘粕の名は細部に渡り出て来ていた。結果、読み始め以前に自分の中で思い描いていた、甘粕正彦という歴史上の人物像を誤解していた、というか覆す事となった。確かに巻末で佐野氏は自分の意を含んだ物語ではなく、此はノンフィクション、事実の話で或ると云っている。(主義者殺しの)事実は、既に闇の中だが、本作品を読む以上、甘粕は事件に関わりこそすれ、本人自白の主義者殺しに自らの手を下してはいないのではないか、という感が強い。反論は確かに或るだろう。読み終えて、甘粕という人物に僕は震撼した、反感を買っても構わない。心酔とまでは云わないが、引き憑けられたのである。唯、この手の本を読むと、片仮名混じりの文章を読むのが、本当に疲れる。読めてしまう自分にも驚くが。
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歴史に名前が残った人というのは家族だけでなく周りのいろいろな人に影響するんだなあ と勝手な感想だけど奥さん気の毒になぁ と
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470Pだが、一気に読める面白さ。
大杉栄暗殺と、満映くらいのイメージしか無かった甘粕の生涯を、詳細な取材で解き明かしてゆく。
そして、かの暗殺事件の深層が...
すごいのは、最後自殺する甘粕の死ぬ一瞬前の行動。
彼は、最後に鉛筆で殴り書きのメッセージを残す。
それは、青酸カリを服用後、毒が全身に回り、朦朧と泡を吹きながら書いた
「みなん しつかりやつてくれ 左様なら」
※「みんな」が「みなん」に誤字になっている!
その絶筆の写真も掲載されている。
衝撃
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本書は、大正12年(1923年)の関東大震災時にアナーキストの大杉栄と伊藤野枝と6歳の子どもを虐殺したとされる「甘粕正彦」の生涯を追いかけた475ページもの大著である。
膨大な取材を行う中で「知られざる甘粕正彦」に迫ることを目指したのだろう。その詳細な調査と考察は、大正デモクラシーの「明るい大正前期」とは違う「暗い昭和戦前期」という時代の空気と風景がよくわかる内容であるが、「甘粕正彦」というキャラクターがよくわかるノンフィクションとしてはちょっと物足りない。
「甘粕憲兵大尉時代」の「虐殺事件」や「軍法会議」、「死因鑑定書」等の考察や「獄中の臣民」「仮出獄後の浴衣の会見」等の調査は、当時の時代を知る上で興味深いし、「虐殺事件」の真相究明の考察等もまたそれなりに興味深い。
どうやら、甘粕正彦は、無実は言えないだろうが、組織を守るための犠牲者だった可能性も高いようだ。罪をかぶることにより、その後の陸軍よりの庇護を獲得したのだろうか。
また、甘粕正彦は、「主義者虐殺」と共に戦前・戦中期の「満州における夜の支配者」としても有名であるが、本書におけるその実態も興味深く読めた。これも時代の空気が伺えるものではあるが、「人間甘粕正彦」については、よく見えてこない。
これは本書で「甘粕正彦のキャラが立っていない」ということなのではないか。歴史書ではないのだから、やはり、人間が見えてこなければノンフィクションとしては物足りない。
「甘粕正彦」は、戦前の満州において「魔王」のように君臨したイメージが強いが、本書で「虐殺事件」や「満映理事長」としての詳細な活動経歴を知ると、むしろ「生真面目な軍人」という単純な性格の男が、激動期の時代のなかに巻き込まれて不本意にも異様な人生となってしまったかのように思えた。
本書で読む彼の生き方は、「乱心の荒野」であったとは思えないが、本人にとっては不本意な「人生の荒野」であったことは間違いがないとも思えた。
それにしても、本書で明らかになっている戦前期の日本の「陸軍」や「憲兵隊」等の「社会システム」やこの時代の「指導者の行為」、全てが現在から見て明らかに「異様」である。
本書を読んで「虐殺事件」や「軍法会議」、「満州における陸軍の策動」等が、どうして成立したのかとの疑問を持った。
このような不法行為は普通ありえない。
こういう時代だったとまとめてしまえば、それで終わりではあるが、本書は、読後にそのような疑問を持つほど、時代をよく調べた本ではあると思う。