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濃い。
暗黒時代といわれた中世。文化的には古代より退行したというのが一般的だが、学問的ではない、風俗としての文化はどの時代よりも熟していたように感じる。
まだ、生まれた地で一生を終えるのが当たり前だった時代。しかしかえって村、都市の数だけ文化が生まれ、風俗として広まる。
近世以降の欧州の多様性の地にあるのは中世でのこの”土臭い”文化だろう。それは先進的に、ときに保守的に絡み合っていく。
また、この本は日本人には遠い存在であるジプシーについても言及しており、欧州に旅行に行く際には一度目を通してもいいかもしれない。
(2008/12/28読了)
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この本では、中世の庶民、特に市民から差別を受けていた人々を、取り上げています。阿部謹也氏自身の『中世の星の下で』と内容が重なっているところがありますが、視点や掘り下げ方が違うので、たいへん興味深く読みました。
道や橋といった、一見生活と密接な関係を持つところから、肉屋や風呂屋などの職業をきっかけに、中世ヨーロッパの社会を構成していたさまざまな光景を見ることができます。
貴族や騎士・修道院の修道僧・都市の名誉ある市民といった、文書で記録が多く残っている人々については、この本ではほとんど取り上げられていません。多く取り上げられているのは、ほとんど名前も残らないような、差別されていた人々です。
私にとっては、特に、あまりほかの書籍では取り上げられていないジプシー(ロマ)について書かれている部分が、とても新鮮でした。ナチス党が、ユダヤ人だけでなくロマの人々も迫害していたのは、このような歴史の延長線上だと考えれば、とても自然なことだと思いました。
それにしても、キリスト教はもともと、ユダヤ教徒の中で差別されていた人々の側に立ち、彼らから支持されていました(当時はユダヤ教の一派という立場でしたが)。でも、為政者から正当と認められると、今度は差別される人々を作り出すというのは、とても皮肉なものだと感じました。
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1 道・川・橋
2 旅と定住の間に
3 定住者の世界
4 遍歴と定住の交わり
5 ジプシーと放浪者の世界
6 遍歴の世界
著者:阿部謹也(1935-2006、千代田区、西洋史)
解説:平野啓一郎(1978-、蒲郡市、小説家)
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(2012/10/20購入)
『中世賤民の宇宙』を読み直していたら、こちらも読みたくなったので購入。
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西洋中世史の大家、阿部謹也氏の小編を集めた作品です。
歴史学の醍醐味の一つとして、過去の文書や日記といった史料をもとに当時の政治情勢や経済の状況を解き明かすことにあると思います。宮廷や外交の中で繰り広げられる権謀術数や国力を尽くしてのパワーゲームは迫力があるし、そこで活躍する人々の野望や生き様はロマンにあふれ魅力的です。まさに大河ドラマといったところです。
しかしそれだけが世界の全てではありません。たとえば大河ドラマではエキストラにすぎない町の人々やすれ違うだけの旅人にも様々な人生があったはずです。一人ひとりがその後の歴史に及ぼした影響は微々たるものであるかもしれません。現代の民主主義社会と異なり、民衆の主張が表立って取り上げられることは少ない世界でした。しかし彼らの生活は政治や経済を支える社会の通底に確かに存在しており、歴史の大舞台と確かに共鳴しているはずです。
この本で阿部先生が描いた世界は、そういった歴史物語の舞台には乗らない民衆の日常生活です。道や川といった境界世界や居酒屋、粉挽きといった職業の人々の生活やロマ、遍歴職人、乞食といった非定住生活を送っている人々の生きざまといった中世の社会秩序の周縁にいる人々についての点描を積み重ねることで中世庶民の生活、そしてその中での楽しみや苦悩を鮮やかに描き出しています。
この作品で描かれる中世ヨーロッパの人々の生活は決して明るいものではありません。農民たちは徐々に貨幣経済が農村にまで浸透し領主の抑圧が増してくる中で、フェーデや略奪の恐怖を感じながら耕作を行なっている。都市は成長限界を迎え社会階層の固定化が進む中で遍歴職人として移動を余儀なくされる人々が現れる。社会秩序からあぶれた人々はプロの乞食に身をやつす。近代をむかえる前のヨーロッパの鬱屈が全体に漂います。しかしその中でも浴場や居酒屋で楽しいひと時を過ごし、時に領主からのねぎらいを与えられる。一方で信仰に基づいて貧民には慈悲を与える。(慈悲を与える対象として乞食の存在が一定程度認められていたということは、本書を読んでの驚きの一つでした。)
苦悩の多い中世という時代の中で時に垣間見えるそうした明るさや優しさまでも見逃さずに叙述することで、ただ「暗黒の中世」の叙述というだけではない中世社会に潜り込んだような視線を得ることができ、一人ひとりの人間がそこで暮らしていたという事実を描き出すことができているのだと思います。
本書では農民や都市民といった「一般的な」民衆の周縁で特殊な職能を持ち、日常生活を支えていた様々な職業の人々の生活についても語られています。これらの人々は都市と農村に二分された世界を結びつけること役割も担っていましたが、彼らは生活習慣の違いや領主や共同体から与えられた様々な特権のためにしばしば蔑視にさらされることとなりました。職業に対する差別がしばしば本質的な劣性から起こるのではなく、相互不理解によろ恐怖や妬みといった感情から発生するというのは現代でも変わらない構図です。その中で職業民達はツンフトを作り同職のもので団結をすることで自らの��厳を守る活動をし、諸権利を取り戻していきます。
また、この本の中で最も様々な境遇の人々の中でも異彩を放っていたのがロマでした。
この作品には浴場主・粉挽き・乞食など様々な蔑視の対象となった人々が描かれています。その中でも最も苛烈な蔑視を受けていたのがロマです。土地を持たず常に街道を移動し、時にかっぱらいなどを行いながら生活をしているロマは、定住と定職の世界からは迫害を受けていました。都市や農村での侵入を拒まれ、法の庇護下から外され、強制労働や肉体に対する危害を加える事さえされていたのです。それでも彼らは旅をアイデンティティとし、音楽や踊りを携えて村や街を渡り歩いていくのです。彼らの伝承からロマたちが迫害を受けながらも人間に対する根本的な信頼を失わない姿が見えてきます。ロマの持つ強さは定住民として暮らしている私達に持ち得ないものかもしれないが、持つようにしたいと憧れてやまないものである。
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遍歴の職人、例えば石工は足の位置、ステップによって身分証明を行っていたなど、活き活きとした中世ヨーロッパの庶民の動きが、言葉が、現れてきそうな、そんな本です。
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10世紀〜16世紀のドイツに転生させられたとして、一人で生きてくのは難しい。
戦争、疫病、飢饉の危険を運良く避けられたとしても、
生きていくうえでのルールを知らないことには、日々の生活すらままならないだろう。
嚢虫病にかかった家畜の肉を売る肉屋台には、小さな布とナイフがかけられている。
農家から最初に出てゆく犂には卵とパン一斤をつけ、最初に出会った乞食に与える。
道の真中は死の天使が歩むので、旅人はつねに道の端を歩かねばらない。
渡し場に来て三時間呼んでも渡し守が現れない時は、近くの居酒屋で渡し守のつけでワインを飲むことができる。
雑草が騎士の拍車までとどくようになれば、農民はその土地の権利を失う。
農民、浴場主、居酒屋の主人、粉挽き、牧人、羊飼い、渡し守、肉屋、遍歴職人、乞食、放浪者、ジプシー、刑吏、皮剥ぎ、道路掃除人、煙突掃除夫。
語られる多くの職業は歴史学の本流には登場しない賤民達だが、
過度な悲壮感も難解な専門用語もなく、ただ生活の仔細がありのままに語られる。
教科書で語られる地域と国と世界の歴史は、このような文化と社会と生活の歴史なしでは全く無味乾燥なものとなってしまう。
人々の中世のイメージの多くは物語で補完されるのみだが、そのような下地があればなお、
現実と創作の違いを本書で楽しめることができるだろう。
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為政者が書かせる史書には記述されないが、確かにあったはずの民衆の生活史にスポットを当てた本である。サントリー学芸賞を受賞しただけあって面白かった。
政治体制、社会制度、経済制度、法律、思想宗教は無数の庶民の生活の上に成り立っている。庶民の生活を知らずして、抽象的な概念を理解することは難しい。本書を貫いているのはそのような視座である。
中世のヨーロッパにおける川や橋を含む道、定住者と放浪者、農民と職人の在り方を詳細に解説してくれる。アジールの機能から職人の身分確認の方法まで、取り上げる話題は幅広い。
職人が遠方に職を求める場合、紹介状や身分証が必要になるが、文盲の多い中世にあっては服装や舞踏のようなステップが今でいう身分証や紹介状のような役割を担っていたという。当時の人々の息遣いが感じられるような、また、現代と地続きであることを自覚させられるような例が多く出てくる。
同じくサントリー学芸賞を受賞した『ゴシックとは何か 大聖堂の精神史』のよい補助線になった。『ゴシック~』では農民の信仰や開墾運動、都市への移住について語られる。社会精神史といったていで、無名の人々の文化風習に迫るものではない。本書を読んで、点々でしかなかった点描の全体像が非常にうっすらとではあるが浮かび上がった感じがする。
中世ヨーロッパを下敷きにしたと思われるゲームやアニメなどが日本には多くあるが、そのほとんどが『指輪物語』とそれに影響を受けた「ドラクエ」を出発点とし、現実の中世とは違う独特の世界を作り上げている気がする。ファンタジーなのだから、それが悪いとは言わないが、魔法もなく、書物もなく、糞尿にまみれ、飢饉や疫病、差別と隣合わせだった世界に生きた人の物語ももっとあっていいのではと思った。
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中世を生きる名もなき人々の生活が知れる本。
中世の庶民の生活について、予備知識がなく具体的なイメージが何もわかない、でも知りたい、という人におすすめ。
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NDC 230.4 西洋中世における遍歴職人の「旅」とは、糧を得るための苦行であり、親方の呪縛から解放される喜びでもあった。彼らを迎える旅篭は常連客に優先してテーブルを割り当て、旅人を区分するしきたりを持っていた。遍歴職人・親方・旅篭主人達の必死なせめぎ合いに、当時の名もなき民衆の悲哀が漂う。本書は歴史の表舞台に登場しない彼ら庶民にスポットを当てた社会史。丹念な考察により、当時の人びとの息吹が蘇る。中世史研究の第一人者の初期代表作。’80年サントリー学芸賞受賞。
目次
1 道・川・橋
2 旅と定住の間に
3 定住者の世界
4 遍歴と定住の交わり
5 ジプシーと放浪者の世界
6 遍歴の世界
著者等紹介
阿部謹也[アベキンヤ]
1935年、東京に生まれる。1963年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。小樽商科大学教授、一橋大学教授、一橋大学学長、共立女子大学学長などを歴任。一橋大学名誉教授。2006年9月死去。『中世を旅する人びと』で’80年サントリー学芸賞を受賞した
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旅行をテーマにした本かと思ったが、内容は中世ヨーロッパ民俗学。バーゼルやリューベックなどドイツ周辺の庶民の生活が描かれている。
土地の境界確認に子どものトラウマを利用する話が面白い。ティル・オイレンシュピーゲルはちょっとしつこい。