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タイトルの通りタンパク質の生成から廃棄までをわかりやすく説明している。特に分子シャペロンと呼ばれる、タンパク質の折り畳みなど正常なタンパク質を生成するのに不可欠な物質に重点を置いた説明が多かった。説明の省略が多いような気もしたが、おそらくこれ以上の説明をしようとすると専門的になりすぎて一般向けの範疇を越えてしまうのだろうと思う。それぐらいにギリギリのラインで理解できる説明となっていた。最後にタンパク質の以上で発生する病気について触れていたが、プリオン病(BSE)がなぜ恐ろしいのか、つまり異常プリオンを取り込むだけで連鎖的に正常なプリオンに異常が起きてしまう、ということがわかりやすく説明されていた。
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ヒトの身体はその60〜70%が水分であるが、固形成分の約20%はタンパク質である。そして、そのタンパク質の約3%は、毎日古いものから新しいものへと入れ替わり続けている。およそ3ヶ月で体内のタンパク質はすべて入れ替わることになる。ヒトを構成するタンパク質は5〜7万種類。これはDNAの情報に従って20種類のアミノ酸を配列合成したものである。しかし、合成されたタンパク質のうち、正しく機能する(フォールディングする)ものは30%ほどしかないものも少なくない。(中には2%ほどものもある!)では、いかにしてヒトの身体はヒトとして維持されているのか。タンパク質の絶え間ない合成と分解のメカニズム。
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今まで読んだ新書の中でいちばん面白かったです!
テーマとなるタンパク質が馴染み深いものであるだけに、聞いた事のある用語も頻出し、簡単に入りこめます。とくに、コナンを読んだことがあるなら始め数ページで興味を持つ事がっちり請け合いです。
タンパク質と人間の生涯の違いは、恋をしないことくらいかもしれません。彼らは淡々と、生まれて育ち、ときに病気になったり間違いを冒したりもしながら、せっせと働きやがて死んでいきます。中には途中で自殺を選ぶものもいます。
タンパク質の生涯はすべて、世界である私たちを保つためのものなのです。感動して涙すら出てしまいます。
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岩波新書の「近代秀歌」のあとがきによれば,著者の永田和宏さんは岩波新書で理系と文系の両方の著書があるただ一人の著者だそうだ.
というので興味をもって読み始めたのだが,実は最後まで読み切れなかった.いろいろなものの名前が次から次に出てきてどうにも憶えられない.まいったなぁ.今とは隔世の高校時代にたった一年間だけしか生物を勉強したことのない私には歯が立たなかった.
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【荒井善昭先生】
生物が生きているとはどういうことなんだろうと一度は考えたことがあるのではないでしょうか。タンパク質は確かに生体を構成し、比率も大き い重要な有機物であることは皆さんも認めることだと思います。しかし"一生"とあたかもタンパク質が生き物自体であるような題名がついていることにちょっと惹かれてしまいます。読んでみるとなるほど不思議な生体の仕組みに引き込まれてしまいます。狂牛病という病気が注目を集めた時期がありました。この狂牛病の原因は、生き物ではなくプリオンというタンパク質なのですが、恐ろしい変なタンパク質もあるものだと思っていました。しかしこのようなタンパク質の働きは決して特殊なものではないことが判りました。生体物質といったらまず上げるのはDNAでしたが、この本を読んで私はまずタンパク質かもしれないと思うようになりました。生きているということの考えが大きく変えてくれる本かもしれません。ぜひ皆さんも読んでみてください。
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ミトコンドリア!
元々何億年も前に、人間の細胞に進入して、そのまま共生するようになったバクテリア。つまり元を辿れば人間と別の生物だった。
分子シャペロン!
タンパク質に関して言えば、およそ3か月でほぼ入れ替わる。
細胞のレベルにおいても、一年経つと身体を構築する全細胞の90%が入れ替わる。
体重の2割弱がタンパク質。
プリオン病(BSE狂牛病)伝播型プリオン
ただタンパク質が細胞に入り込むだけでDNAは全く関わりなく増殖する。簡単にいえば、BSEに感染した牛肉を食べるだけで感染する。プリオンは熱に強く100度で煮沸しても一部が残存する。正常型プリオンは普通に体内に存在していて、それを巻き込んで伝播型プリオンが増殖していく。
怖い病気だ。
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2008年刊。著者は京都大学再生医科学研究所教授。
タンパク質。それは人体の固形部分(30~40%)の約20%を構成する。のみならず人体の恒常性維持や各種機能を発現させる物質でもある。
本書はそのタンパク質に関し、①それが作用する世界(細胞)、②誕生、③成長(分子シャペロンの働きを中心に)、④人体内での輸送・移動、➄タンパク質の死と再生(輪廻転生)、そして⑥機能性の維持・確保のメカニズム(品質管理)を解説する。
一言でいうならば難しい書だ。しかし最先端研究は元より、その一般利用にも思考を巡らせ得る書という意味で美味しい書である。
クロイツフェルト・ヤコブ病に関係するプリオン、あるいはアルツハイマー病に関係するアミロイドβなど、個人的関心に関わる事項にも言及されており、難しかったが、意味ある書だったと感じた。要再読か。
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人間はおよそ60兆個の細胞で構成されているとのことですが、細胞という舞台では様々なタンパク質という名の役者が様々な役割を果たして極めて精緻なシステムを稼働させています。本書は、その様子をわかりやすく説明してくれています。細胞のなかで起きているタンパク質の製造工程や品質管理の巧みな仕組みは驚かずにはいられません。とても好奇心をそそられました。
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細胞の仕組みをそこで働くタンパク質を取り上げてその一生を追いかける。タンパク質の誕生、その成長、その輸送、輪廻転生、そして品質管理。DNAに保存された情報をmRNAに転写し、リボソームはmRNAを端から3塩基ごとに翻訳してアミノ酸を作り出す。そのアミノ酸はペプチド結合で一本のひものようにつながっていく。そしてこのポリペプチドを構造をもった形に整形して機能を持たせる。それでようやくタンパク質となる。どこにでもあるタンパク質であるが、その仕組みを知れば知るほど自然の作り出す精緻な仕組みに驚く。進化と一言でいうが、遺伝子の突然変異などによる試行錯誤と自然選択だけでこれほどの精緻な仕組みが出来上がるのだろうか?多数の試行ととんでもなく長い時間のおかげか。
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小さなタンパク質の精巧な生成過程に感動した。 進化論だけではとても説明できないような気がした。 進化の歴史が自分の想像をはるかに超えるほど長いということだろうか。
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DNAからmRNAに遺伝情報が転写されてアミノ酸が合成されるプロセスは学校で習った気もするしよく知られている。本書は、そこから先のタンパク質の振る舞いについても解説した本。誕生−成長−輸送−輪廻転生+品質管理と章立てされている。まさに分子生物学の最前線なのだろう。
・DNAはめちゃコンパクトに折り畳まれているが一本のヒモである。枝分かれなのない一本のヒモなので、そこから作られるアミノ酸の列も一本のヒモになる。情報の保存のためにはこれ大事。
・分子シャペロン。アミノ酸の列=ポリペプチドがきちんと折り畳まれて(フォールディング)タンパク質になるのを手助けするタンパク質。まず、らせん状のαへリックスや平たいβシートを形作ってから、立体的な3次構造を作る。さらにサブユニットが会合して4次構造となる。ポリペプチドはきちんとフォールディングされるとは限らず、結構失敗して分解されたりしている。
・アミノ酸には親水性のものと疎水性のものとがある。基本水分の細胞内部にタンパク質
がうまくなじむには外側を親水性にして、疎水性のアミノ酸は内側に配置しないといけない。また疎水性のアミノ酸同士は凝集しやすいのでそれもまずい。
・システインに含まれる硫黄同士が結合するジスルフィド結合。タンパク質のフォールディングのクリップ的役割。
・分子シャペロンは熱ショックタンパク質(HSP)・ストレスタンパク質としても働く。熱などのストレスがかかった時に誘導されて、タンパク質の変性を防いだりする。また変性したタンパク質を元に戻すシャペロンすらある。
・合成されたタンパク質の輸送には、宛先指定に葉書式と小包式がある。微小管などの繊維が細胞内を走っており、小胞がそれの上を目的地まで走る。複雑。
・アミノ酸はリサイクルされている。数分の寿命しかないタンパク質から、数ヶ月の寿命を持つものまである。時間遺伝子もタンパク質の分解を利用している。ピンで分解するユビキチン・プロテアソーム系と、バルクで分解するオートファジー系とがある。
・品質管理のステップ。生産ラインのストップ→シャペロンによる修理→廃棄処分→細胞アポトーシスすなわち工場ごと閉鎖。うまくいかないとフォールディング異常病に。白内障、アルツハイマー、パーキンソン、プリオン病・・・
まさにミクロコスモス。これが自分の体で起こっていると真剣にイメージすると眩暈がしそうだ。
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「liber studiorum」アンチ福岡伸一BLOG というのを見つけた。
かなり辛辣にかいてある。
その1/27日追記には、
・・いい機会なので、大プッシュしておく。『生物と無生物のあいだ』なんか読まずに、こっちを読みましょう。 タンパク質の一生 生命活動の舞台裏 (岩波新書) 著者:永田 和宏
『生物と無生物のあいだ』なんかを読むのは、金と時間の無駄遣いです。・・・」
http://a-gemini.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-8a55.html
をみて、アマゾン・クリック。
この本は、大学の生化学レベルであろう。やはり、一般読者が楽しく読むにはデフォルメされて、抜群の文章力の福岡伸一の方に軍配があがる。
専門にこだわるなら原文をよめば良いと思うのがアンチ派への感想。
個人的には、大学時代に「コーンスタンプの生化学」を読破した時の感じ。
第2章の「誕生」までは、復習でわかるのだが、第3章の成長の「分子シャペロン」から難しくなってきて、第4章の輸送でピークにたっする。
【ポイント】
10/元々は「雌」になるべく発生してきた胎児が、ある特定のたんぱく質を作り出したときにだけ「雄」になる。「女は「存在」であるが、男は「現象」に過ぎない」(寂しいが真実)
71/分子シャペロン、熱ショックタンパク質からストレスタンパク質へ。
96/好熱菌のストレスタンパク質
173/タンパク質の一生は「死」で終わりでなく、むしろ「輪廻転生」のサイクルができていること
190/品質管理の4つの戦略?翻訳停止、?分子シャペロンによるタンパク質の再生、?ERADによる分解、?細胞の自殺
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細胞生物学をシロウト向けにわかりやすく解説した本。ニュースでたまにIPS細胞にことがでたりするが、この本のように素人の基礎になる本を読んでおくと俄然として興味が沸いてくる。自分の仕事にはまったく関係ないのだが、前提知識なしで楽しめた。
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とにかく名著である。なにをもって名著とするか。自分にとっては、読後まで延々と続く鎮めようのない興奮がその証である。身体が打ち震えるかと思うほどの知的興奮だ。
宇宙の誕生が140億年前、太陽系と地球の誕生が46億年前、そのあと6億年が過ぎてようやく生命が誕生し40億年の月日が流れた。淡々とした日々の暮らしの中では、この悠久の時間の流れに思いを馳せることはまずない。40億年の重みを体感するような出来事にそうそう出会わないからだろう。しかし本書を読み痛切にその重み、いや凄みを感じ世界観が一変してしまった。まさに衝撃であった。地味なタイトルで、古本屋でろくに内容をチェックもせずにさくっと買ったものなのに。自分にとっては湯本貴和著の『熱帯雨林』以来の名著との出会いとなった。
著者の永田和宏氏は細胞生物学者で歌人でもある。理系と文系の両刀使いの珍しさゆえか、マス・メディア界での知名度は高い人物だ。現在はJT生命誌研究館の館長。
本書は6章の構成。著者は3章以降を書きたかったと、その執筆動機を明かす。1章と2章はタンパク質が合成される舞台となる細胞やDNAの諸々の説明である。このあたりは生物学の標準的教科書の域を出ない。予備知識がない読者を想定しての前説部分といえよう。続く3章でタンパク質の成熟、4章でその細胞内外への輸送、5章でその終末、6章でその不良品の品質管理を詳説する。まさに「タンパク質の一生」を描き切るわけだ。といっても、全ての謎が解かれたわけではない。「まだよくわからない」と著者は律儀に注釈をつけていく。では逆に、どんなことが解明されているのか。それを辿る前に、そもそもタンパク質がヒトにとってどれだけ重要なものか、またタンパク質が正しく機能するために何が重要かを述べておこう。
ヒトの体内のタンパク質は、遺伝子との対応という観点では2~3万種類、多くて見積もっても5万種類と言われる。その全ての設計図はDNAに書きこまれている。子供が両親から受け継ぐものは、受精卵という細胞と設計図のみである。1個の受精卵が胎児の身体へと成長するにあたり、それ以外のツールは全くないのだ。設計図がタンパク質で出来ていないだけで、細胞においてはタンパク質がタンパク質自身やその他の高分子を合成し、その化学反応を促進するのも酵素と呼ばれるタンパク質、出来上がった化合物を適切な場所に届ける運び屋もタンパク質、さらにその輸送路もタンパク質で出来ており、それを細胞外に押し出すのもタンパク質なのだ。免疫で活躍する抗体も、インシュリンというホルモンもタンパク質である。ヒトの体を構成するモノ、それを円滑に動かすモノ、それらを作るモノさえもほとんどがタンパク質なのだ。
つまりヒトはタンパク質によって生かされている。いや実は生物全てがそうなのである。ヒトはタンパク質という王様の奴隷といっても良い。もしそれがちょっと機嫌を損ねたら、ヒトは簡単に死に至る。とにかく頭に叩きこまねばならないのは、ヒトの身体はタンパク質ワールドであること、そしてタンパク質にこれだけ多様な機能が要求されつつも、それが満足させられる理由は、その立体的な��かたち”によるということだ。
タンパク質が三次元空間に占める”かたち”。それこそが、その機能を決める。自然界と人工界、すなわち世界全体において、一体なにが重要か。抽象的にいえば、それは形と動きなのだ。三次元の空間に”形”がまず在って、その時間経過に沿った”形の変化”が、すなわち”動き”となる。動きが生じるのは自然界に備わる力学の法則や人間の意思による。細胞の世界には意思などない。すべてのイベントは物理的・化学的な法則に従わねばならない。重力が邪魔だからといって、それに逆らった動きを、意思の力で実行することはできない。そのような厳しい制約のもとで、細胞とタンパク質は、いかに豊穣な世界を築いてきたことか。細胞内部は様々な物質がごちゃごちゃにひしめき合って存在し、多様な化学反応が猛烈なスピードで行われる”最新鋭の工場”だ。工場とはあまりに人間的な比喩かもしれない。しかし、そこで行われているイベントを知れば知るほど、どちらが比喩なのか分からなくなる。歴史を振り返れば細胞の活動が先であり、工場がその後なのだから。
で、話を戻そう。タンパク質の一生を、本書に沿って具体的にみていこう。
3章は、タンパク質の立体構造は放って置けば自ずと構築されるのではなく、「分子シャペロン」と呼ばれる一群のタンパク質に介助されながら進むという話である。DNAからの転写と翻訳によって核の外でアミノ酸が連結されポリペプチドが作られる。それを一次構造というが、それが次にらせんになったり、シートになったりと形を作る(ユニットの形成)。この2次構造までは、そんなに手間がかからない。しかし、そのような複数のユニットが立体的に組み立てられるとき、それを三次構造と呼ぶが、様々な制約によって、あるべき形を作れない場合がある。この立体化をフォールディングというが、ミス・フォールディングする不良品がほとんどで、膜のタンパク質などは成功率が2%なのだ。もちろん不良品は、形が崩れているのだから期待される機能が果たせないのは当然である。なので、その成功のために介助役が必要となり、それが分子シャペロンの役割なのだ。例えば、ある分子シャペロンはゆりかごのような形態で、出来立ての一次構造のタンパク質をその中できちんと形をなすまで包んだり、もつれてぐちゃぐちゃになったときは、ドーナツ型の分子シャペロンがその穴にタンパク質を通して一列に揃えたり、また疎水部分が集まったときは、マスクのような形をした分子シャペロンがその部分を保護して水に触れないようにしたりと、まるで至れり尽くせりの世話焼き婆さんのような働きをするのである。もうこれだけの情報量で私はされてしまった。そんな話、今まで聞いたことない!!
ところで無事に立体化したタンパク質は、それだけでは何の役にも立たない。それが本来働くべき場所に行く必要がある。生産場所の近くで働けば良いケースもあるが、核内で仕事したり、細胞自身の骨格になったり、細胞外でホルモンとして機能したり、働く場所は様々である。ところが意思もない、地図もない、自分がどこにいるかも分からないという無い無い尽くしのタンパク質は、目的地にどのようにして辿り着くのだろうか。
4章では、その輸送の仕��みが説明される。これまた、驚嘆すべき精緻なからくりがなのだ。まず核の近くの中心体から微小管という輸送路が放射状に延びている。これもタンパク質で出来ている。そして路線の上を、上昇・下降する貨車のようなモータータンパク質(キネシンとダイニン)が存在し、それがタンパク質やその他の器官を積んで配送するのだ。また輸送の方式には2種類あって、タンパク質自身に行先の情報が書き込まれているハガキ型と、行先が同じ複数の物質をひとつに梱包してバルクで届ける梱包型がある。ハガキ型の場合、行き先の膜に、その住所が記してあり、ハガキの行き先の情報とそれが合致すると、タンパク質がその中に引き込まれる仕組みになっている。ミトコンドリアなどがその実例である。またその他の輸送の実例として、インシュリンやコラーゲンのケースが紹介されるが、そのような個別のケースでもそれぞれに特殊なからくりが備わっており、あまりの精妙なやり口に絶句させられる。いずれにせよタンパク質自身の目印と相手側の膜による受容によって輸送が完結するのであり、いかにかたちが重要かがわかる。
5章では、無事に活躍したタンパク質も、やがてその消滅を迎える様子が描かれる。私はここまで読み進めて、健気に頑張っているタンパク質を愛しく感じ、その死に言及されて少し胸を痛めた。しかし相手はモノである。感情移入してる場合か。それどころかヤツらは強靭かつ柔軟であり、私の悲しみなんて屁とも思わないだろう。というのもタンパク質が死ぬことは、アミノ酸に分解されることを意味するし、それは次のタンパク質の部品になるべく再利用(=リサイクル)されるだけなのだ。死が消滅を意味するのではなくそれは再生なのである。
ヒトは日々200g程度のタンパク質を合成するが、食物からの摂取は70g程度であり、不足する130gのアミノ酸は体内のタンパク質を分解して手に入れるのだ。では、その死(=分解)は、何をきっかけにして起こるのだろうか。2つのケースがある。まず変性したタンパク質が周りに悪影響を及ぼすときであり、次に分解によって別の機能を実現するためである。前者はまあ仕方ないことだし、後者は必須のことである。前者の具体的な例は次の6章で紹介されるので後回しにするとして、後者の例としては体内時計の調節が挙げられる。ここで私はのけぞった。それは以前読んだ本に、睡眠のプロセスには体内時計の働きが必須であると説明されていたものの、「体内時計って何やねん。そんな便利なもの、カラダのどこにあるねん」と、てっきり似非科学のホラ話かと思っていたからだ。しかし今でもWEB上では睡眠について、以下のような記載がある。
「体内時計に働きかけることで、覚醒と睡眠を切り替えて、自然な眠りを誘う作用があり、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。朝、光を浴びると、脳にある体内時計の針が進み、体内時計がリセットされて活動状態に導かれます。また、体内時計からの信号で、メラトニンの分泌が止まります。メラトニン(トリプトファンという必須アミノ酸を元に合成されるホルモン)は目覚めてから14〜16時間ぐらい経過すると体内時計からの指令が出て再び分泌されます。 徐々にメラトニンの分泌が高まり、その作用で深部体温が低下して、休息に適した状���に導かれ眠気を感じるようになります。」
「脳にある体内時計の針が進み、体内時計がリセットされて」かあ。「針が進み」ってさあ、どうなん?相変わらずインチキ臭い表現ではあるが、虚構の存在ではないらしい。というか、「リセット?そんな便利な機能もついとるんかい!」と眉唾度合いがさらに上がる。しかし実はとうの昔に、体内時計という現象を実際に司る時計遺伝子がいくつも発見されているのだ。2017年にはその遺伝子および作動メカニズムの発見に対し、ノーベル生理学・医学賞が与えられているのだ。別にインチキでも、嘘っぱちでもなかったのである。
ちなみに、ヒトの体内時計に基づく1日の周期(=概日リズム)は25時間と言われていたが、その後、より精緻な実験が行われ、今では24時間10分となっている。この10分の意味は、このズレがもし修正(=リセット)されずにいると、30日で300分(=10分×30日)、すなわち5時間ほど周期が後ろにずれることになる。すると仮に22時に眠気に襲われていた人は、30日後には夜中の3時に眠たくなるわけだ。私が常々、疑問に感じていたのは、このリセットのやり方である。
本書ではショウジョウバエの例で、このリセットを説明する。その概略はこうだ。時計遺伝子にa遺伝子とb遺伝子があり、それぞれがAタンパク質とBタンパク質を核外で合成する。それが細胞内で増えてくるとAとBが合体し、核内に戻り、DNAに作用して両タンパク質の合成を止める。そして朝になり眼球に太陽光が入ってくると、その効果で、今まで作られたタンパク質が一斉に”消滅”し、また遺伝子が活性化することで、AとBのタンパク質を作り始めるのだ。この一斉消滅(=タンパク質の分解)こそ、体内時計のリセットを分子レベルで説明することになるのだ。これを知ったときの私の爽快感といったら!「なんだよ、体内時計ってマジもんだったんかあーー」と叫びたくなった。
さてタンパク質の分解の手法には2種類あってオートファジー型とユビキチン・プロテアソーム型がある。前者は不要な物質を一括して膜内にとりこみ、そこにリソソームというタンパク質の分解酵素を大量に含んだ器官が合体し、不要なタンパク質を一網打尽に分解するものだ。ただし分解されたアミノ酸で有用なものは、当然ながらリサイクルする。後者は特定の不良タンパク質に目印をつけそれを分解しにかかる。タンパク質も毒や熱など様々なストレッサーにさらされて変性してしまう。変性とは立体構造が崩壊することだ。するとそれに気づいて元に戻す機構があれば良い。それが不良品の品質管理である。
6章は、細胞がそういった品質管理のために、多段階の修正システムを持っているという凄まじい話である。「あんた、その現場を見たの?」と問い質したくなるほどだ。タンパク質の多くは小胞体という細胞内小器官の内部で作られるが、もし不良品が生じると、その内部に留め置き、それを外部に流出させない仕組みをもつ。ただしその機構はまだ明らかではないらしい。それ以外に4つの対応が考えられる。まずは同種のタンパク質の生産停止、次に不良品の修理、それでもダメなら不良品の解体と部品のリサイクル、最後は製造中止である。細胞の働きでいうと、mRNAからポリペプチドへの翻訳の停止、分子シャ���ロンによる修正、小胞体関連分解、細胞のアポトーシス(自死)である。この対応も同時に行われるのではなく、この順序で行われるのだから、もう驚くしかない。きちんとそれによって生じるコストとのバランスを考えて、対応策を実行しているのだ。
この品質管理という研究分野は、ヒトにとってとりわけ重要なものになった。不良品の品質管理がうまく働かず、結果としてタンパク質の変性・凝集を引き起こし、それが原因で生じる病気がいくつも発見されたからだ。有名なものでは、白内障やアルツハイマー病、パーキンソン病などがある。特に神経細胞では、内部のタンパク質がなんらかの原因で変性し凝集して細胞が壊死してしまうと、その再生が利かないため病状がどんどん悪化する。人間の細胞の再生能力は個々の器官によって差がある。フルに再生できる肝臓などと違って、心臓と神経はいったんその細胞が死ぬと補充が利かないのが難点であり、細胞の死が致命的となるのである。品質管理の研究が重要なのは、不良タンパク質の修復システムの欠点を明らかにすることが、再生能力のない細胞の危機を救うことに繋がっていくからである。
生命が誕生してからの40億年。悠久の歴史は進化の試行錯誤を通じて驚くべき精緻なシステムを創造した。タンパク質は、それをまざまざと実感させるのに、この上ない素材である。私はその重みに痺れまくって、合理性の極致を感じてしまった。それは私だけだろうか。本書にも登場する吉田賢右氏が、科学の謎について「なぜ、そうなのか。」と執拗に問い続ける人に対し、こう答えている。
「一番簡単な答えは、無計画無作為な物理法則の下でこんな巧妙な調和のとれたものができるはずがない、高度な知性を持った超越者が世界を設計し作成したのだ、というものです。昆虫学者のファーブルなどの科学者もそう考えていましたし、今でもインテリジェント・デザインという超越者の存在を主張する有力な運動が米国にあります。」と。
科学者はもちろん一番簡単な答えに逃げはしない。謎に執拗に挑戦して、これからもどんどん知的興奮を与えてくれることを心から望むばかりだ。
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本当かよ!?というようなことが私たちの細胞内で起きていることを改めて興味深く知ることができた。かつ、まだわかっていないことの追求の楽しさ、喜びを垣間見た。わたしも生涯探究心を失わずにいきたい。