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みんなのレビュー1,257件

みんなの評価4.1

評価内訳

高い評価の役に立ったレビュー

62人中、59人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2008/10/22 03:33

へこたれていたあの時にこそ

投稿者:田川ミメイ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 2006年に出版されたとき、大きな話題を呼んだこの本。そのほとんどが賛辞だったけれど、書評やネットで物語の概要を知るにつれ、あたしはなんだかすっかり怖じ気づいてしまった。ちょうど心身共にへこたれていた頃で、こういう重い内容の本はもっと元気な時に読むべきだろう、と、勝手に決めつけ、それでもこの著者には何かしら惹かれるものがあったので、先に「女たちの遠い夏」を読んでみたりした(この作品もとてもよかった)。が、この夏「わたしを離さないで」が文庫化されたと知り、それを機にようやくこの本を読んだのだった。

 物語は、キャシーという31歳の「介護人」の回想から始まっていく。子ども時代を過ごした「へールシャム」での思い出。そう、この小説のほとんどは、イギリスのヘールシャムの私立学校時代のことに費やされており、キャシー、ルース、トミーという、二人の少女と一人の少年の共に過ごした日々がゆっくりと丁寧に描かれている。

 ごく親しい友人でありながら(だからこそ)、つまらない言い争いをしてみたり、それを修復しようとして相手の機嫌をとったり、自分だけはあなたの味方だということを誇示してみたり。他の人には言えない悩みをひそかに打ち明けたり、胸の中にしまっていた不安をぶちまけてみたり。三人の関係も交わされる感情も、誰にも覚えがあるようなもので、特別驚くようなものではない。小さなエピソードを積み重ねるようにして語られるその部分だけとってみれば、青春小説にも思えるし、宿舎付きの学校という閉鎖的な世界の中で繰り広げられる学園小説のようでもある。

 が、もちろん、それが全てではない。
 冒頭の語りの中に出てくる、「介護人」や「提供者」という言葉。それを読んだときに感じた違和感や疑問に対する答えを、語り手であるキャシーはなかなか明かそうとしない。そのせいで読んでいる間中、隠されている何かの存在を強く感じる。キャシー達の子どもらしい姿に懐かしい痛みを感じ、共感すればするほど、そこに忍びよる大きな影を気にせずにはいられない。

 その影が正体を露わにするのは、物語も終盤になってからだ。とは言え、その遙か前からおおよその察しはついてしまう。彼女たちが生まれながらに背負っているその影は、現実的に考えれば「そんなことがあって良いのか」と憤りを覚えるようなもので、普通なら自暴自棄になってもおかしくない。それなのに当の子どもたちは、意外にもすんなりとその運命を受け入れてしまっている。不思議なのは、読み手であるこちらも、たしかにそういうものかもしれない、と思ってしまうことだ。

 人は親や環境を選んで生まれてくるわけではない。極端なことをいえば、森の中に放りだされた少女が狼を親として育つこともあるように、子どもというのは、生まれたときに置かれた環境を受け入れて育っていく。そこが閉ざされた世界の中であるならよけいに、そこでの常識に従うしかない。自分の身を守るためにも。

「へールシャム」の「先生」達は、ここが特別な「閉ざされた世界」であること、「外の世界」はこことは少し違うということを、少しずつ、それとなく子ども達に伝えていく。さりげなく行なわれるその「教育」のおかげで、生徒達はいつのまにか自分が特異な存在であることを自覚するようになる。まるで知らない単語をひとつ覚えるのと同じように、自然に受け入れていく。小説には、その部分が緻密に根気よく描かれている。そのせいで、当然感じるはずの憤りがうやむやになってく。子ども達と共に馴され、憤るよりもその先に待つものばかりが気になって、やがては、彼女達の人生を「見届けたい」とさえ思うようになる。

 もしかしたら、これは実話を元に書かれた小説なのだろうか。読みながら何度かそう思った。そんな訳はないし、そんなことがあってはならないと思うのだが、でもここに描かれているのは、今の時代、そしてこれから先、きっと人類が直面するであろう問題でもある。が、著者はそんな警告ばかりを訴えているわけではない。この本は、ある定めの元に生まれた子どもたちの人生を、キャシーという女性の目を通して描いた静かな小説である。何を思い、何を感じとるかは、ひとえに読み手に委ねられている。

 生まれたときから、最終地点を決められている人生。だからといってキャシーは、全てを諦めて放りだしたりはしない。どんな人生であっても、そこには友がいて愛があり歓びもある。自分なりの自分らしい人生を生きていける。読み終えたとき、胸の中に浮かんでいたのは、背筋をまっすぐに伸ばして歩いていくキャシーの後ろ姿だった。この小説を、元気な時じゃないと読めそうにない、と、脇にどけてしまったことを残念に思う。へこたれていたあの時にこそ、静かで強いキャシーに出会うべきだったのかもしれない。



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低い評価の役に立ったレビュー

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2017/06/19 16:54

3流のSFにも及ばず, 2016/7/13

投稿者:Amazon カスタマー - この投稿者のレビュー一覧を見る

注意深い読者ならば、最初の2ページ読んだあたりでこの本の背景を楽に予想できると思います。なので、その予想が如何に裏切られるか?という期待を持って読み通しましたが、何とその(特に目新しくもない)ネタをそのまま最終のオチに持ってきてて、ある意味「ビックリ」です。キャラクターは、ただその背景に流されているだけの主体性のない役割ロボットそのもので、全く感情移入できません。これが純文学仕様というのでしょうか?一見重要そうに掲げているメインテーマについても、正面から語ることは避けていますし、娯楽性から言っても今時のライトノベルや、半世紀も前のSFに劣ってます。こんなものが最高到達点だとすれば、そちらの世界はたいしたことないですね。

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1,257 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

へこたれていたあの時にこそ

2008/10/22 03:33

62人中、59人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:田川ミメイ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 2006年に出版されたとき、大きな話題を呼んだこの本。そのほとんどが賛辞だったけれど、書評やネットで物語の概要を知るにつれ、あたしはなんだかすっかり怖じ気づいてしまった。ちょうど心身共にへこたれていた頃で、こういう重い内容の本はもっと元気な時に読むべきだろう、と、勝手に決めつけ、それでもこの著者には何かしら惹かれるものがあったので、先に「女たちの遠い夏」を読んでみたりした(この作品もとてもよかった)。が、この夏「わたしを離さないで」が文庫化されたと知り、それを機にようやくこの本を読んだのだった。

 物語は、キャシーという31歳の「介護人」の回想から始まっていく。子ども時代を過ごした「へールシャム」での思い出。そう、この小説のほとんどは、イギリスのヘールシャムの私立学校時代のことに費やされており、キャシー、ルース、トミーという、二人の少女と一人の少年の共に過ごした日々がゆっくりと丁寧に描かれている。

 ごく親しい友人でありながら(だからこそ)、つまらない言い争いをしてみたり、それを修復しようとして相手の機嫌をとったり、自分だけはあなたの味方だということを誇示してみたり。他の人には言えない悩みをひそかに打ち明けたり、胸の中にしまっていた不安をぶちまけてみたり。三人の関係も交わされる感情も、誰にも覚えがあるようなもので、特別驚くようなものではない。小さなエピソードを積み重ねるようにして語られるその部分だけとってみれば、青春小説にも思えるし、宿舎付きの学校という閉鎖的な世界の中で繰り広げられる学園小説のようでもある。

 が、もちろん、それが全てではない。
 冒頭の語りの中に出てくる、「介護人」や「提供者」という言葉。それを読んだときに感じた違和感や疑問に対する答えを、語り手であるキャシーはなかなか明かそうとしない。そのせいで読んでいる間中、隠されている何かの存在を強く感じる。キャシー達の子どもらしい姿に懐かしい痛みを感じ、共感すればするほど、そこに忍びよる大きな影を気にせずにはいられない。

 その影が正体を露わにするのは、物語も終盤になってからだ。とは言え、その遙か前からおおよその察しはついてしまう。彼女たちが生まれながらに背負っているその影は、現実的に考えれば「そんなことがあって良いのか」と憤りを覚えるようなもので、普通なら自暴自棄になってもおかしくない。それなのに当の子どもたちは、意外にもすんなりとその運命を受け入れてしまっている。不思議なのは、読み手であるこちらも、たしかにそういうものかもしれない、と思ってしまうことだ。

 人は親や環境を選んで生まれてくるわけではない。極端なことをいえば、森の中に放りだされた少女が狼を親として育つこともあるように、子どもというのは、生まれたときに置かれた環境を受け入れて育っていく。そこが閉ざされた世界の中であるならよけいに、そこでの常識に従うしかない。自分の身を守るためにも。

「へールシャム」の「先生」達は、ここが特別な「閉ざされた世界」であること、「外の世界」はこことは少し違うということを、少しずつ、それとなく子ども達に伝えていく。さりげなく行なわれるその「教育」のおかげで、生徒達はいつのまにか自分が特異な存在であることを自覚するようになる。まるで知らない単語をひとつ覚えるのと同じように、自然に受け入れていく。小説には、その部分が緻密に根気よく描かれている。そのせいで、当然感じるはずの憤りがうやむやになってく。子ども達と共に馴され、憤るよりもその先に待つものばかりが気になって、やがては、彼女達の人生を「見届けたい」とさえ思うようになる。

 もしかしたら、これは実話を元に書かれた小説なのだろうか。読みながら何度かそう思った。そんな訳はないし、そんなことがあってはならないと思うのだが、でもここに描かれているのは、今の時代、そしてこれから先、きっと人類が直面するであろう問題でもある。が、著者はそんな警告ばかりを訴えているわけではない。この本は、ある定めの元に生まれた子どもたちの人生を、キャシーという女性の目を通して描いた静かな小説である。何を思い、何を感じとるかは、ひとえに読み手に委ねられている。

 生まれたときから、最終地点を決められている人生。だからといってキャシーは、全てを諦めて放りだしたりはしない。どんな人生であっても、そこには友がいて愛があり歓びもある。自分なりの自分らしい人生を生きていける。読み終えたとき、胸の中に浮かんでいたのは、背筋をまっすぐに伸ばして歩いていくキャシーの後ろ姿だった。この小説を、元気な時じゃないと読めそうにない、と、脇にどけてしまったことを残念に思う。へこたれていたあの時にこそ、静かで強いキャシーに出会うべきだったのかもしれない。



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紙の本

もう一つの「アルジャーノンに花束を」

2010/09/12 12:40

20人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:稲葉 芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 「朝日新聞」8月12日読書面“ゼロ年代の50冊 2000-2009”で取り上げられているので、書評を書いてみます。

 1990年代末のイギリス。31歳の女性キャシーが、ヘールシャムという施設で学んでいた頃のことを回想して語り始める・・・。この小説の粗筋で紹介出来るのはここまででしょう。この本を存分に堪能するためには、これ以上予備知識は持たない方がいい――ということで、物語に触れられない分、他の観点からこの書を紹介してみます。
 主人公を取り巻く<謎>に関しては、回想が進んでいくうちにおいおい明らかになっていきますが、別にミステリではないので、<謎>がこの小説の核になっているわけではありません。ではこの小説世界を成立させている根幹は何かというと、それは、生きること、とりわけ青春期の輝きと美しさと儚さと哀しさだと思います。話の内容は全く違いますが、『アルジャーノンに花束を』の感触に近いところがあって、読み進めていくうちに、キャシーやトミー、ルースの人生がたまらなく切なく感じられてきます。
 また、『日の名残り』で見せたあの小説技術の上手さは、一層磨き上げられています。回想も、時折時間を前後させていて、読み手をぐんぐん物語世界に引っ張っていく筆力は大したものです。私は後に原書でも読んでみましたが、息の長い、非常に精緻に組み立てられた文体は、それ自体が読者を捉えて離さない力と魅力を有しています。
 小説好きな人と存分に読後感を語り合いたくなる、そんな秀作。

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あとを引く読後感

2015/02/01 16:46

16人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ぶろっこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

この『わたしを離さないで』という本は、キャシーという名の女性がヘールシャムという寄宿制の学校で暮らした子供時代を振り返るところから始まる。
一見どこにでもあるようなありふれた子供時代。癇癪持ちの友人、楽しみだった図画工作、隠れて好きな歌を聴いたあのとき。思春期のぎこちない恋。そして、思い出の品を探す旅。セピア色で彩られた彼女の思い出は、限りなく読者をノスタルジアの世界へと誘う。
しかし、これはただ淡々とキャシーの子供時代を綴っていく物語ではない。次第に明らかになる彼女らの運命。読み始めたときには想像だにしなかったその結末に、読者は驚くことになるだろう。何を隠そう、私自身もこの本を読み終わってからしばらく何も考えることができなくなってしまった一人だ。
私が今まで読んだ本のなかで最も心揺さぶられた一冊。

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紙の本

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」についてはあまり話せない。

2011/12/21 14:36

13人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る

 解説で柴田元幸氏がこの小説は「細部まで抑制が利いていて、入念に
構成されていて、かつ我々を仰天させてくれる、きわめて希有な小説」
と書いている。カズオ・イシグロの最高傑作と言われるこの長編は本当
にすごい小説だ。ただ、その抑制の利いた文章に最初はいらだつ人がい
るかもしれない。しかし、この文章があってこそ主人公たちの哀切な青
春が見事に浮かび上がってくることも確かなのだ。

 そして、その内容。これもちょっと言うことができない。そんなに終
盤ではなく、主人公たちが何者なのかはわかるのだけど、やっぱりこれ
はまっさらな、何も情報がないままで読んだ方が絶対にいい。そういう
物語だ。たとえばここに登場するのは「提供者」と呼ばれる人々、彼ら
を助ける「介護人」、「保護官」と呼ばれる教師たち。主人公は「提供
者」たちがいる施設ヘールシャムの生徒であるキャシー・H(彼女は後
に優秀な介護人になる)、その親友のルースとトミー。青春のただ中を
生きる彼らを待つ残酷過ぎる運命とは…。ルースが探す「ポシブル」と
は…。この物語はSF的な要素を含みながらもその完成度はまさに「世
界名作文学全集」に入っている作品のようだ。淡々としながらも深くせ
つないラストがたまらない。

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新鮮な読書体験

2009/02/25 11:40

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る

「一冊の本がいったいどこまで遠くへ連れて行ってくれるのか
どこまで深い思いを抱かせてくれるのか、数が少なくても
くらっと来るくらいの強烈な読書体験をしていきたい。
できる限りそんな本に出会いたい」
と思っていたわたしの心を掴んだのが本書でした。

解説にもあるように、一切のネタバレが許されない綿密な構造のストーリーです。
ちょっとこれは読んだことないなぁって感じの本でした。
主人公キャシーの語り口は淡々としているのですが、
心理描写がとても細やかで濃密な世界です。
まるでそれは何年も寝かせたウィスキーのような
上等さを思わせます。

このキャシーというのはいったい誰なのか、
彼女が友人たちと過ごした若き日々にどんな意味があるのか。
謎めいた不穏な空気が物語の中に絶えず流れていて
読んでいくうちにだんだんパズルのピースがはまっていくのですが
とても意外な展開でおどろかされます。

キャシーが、なにげない人の行動からたくさんのことを感じていく
その繊細な緻密さはこわいくらいで、「空気を読みすぎ」です。
読み終えたときに深く残る余韻・・・・・・。

文章のうえでの謎はクリアに明かされますが
「これはどうなの?」って考えざるを得ないというか・・・・・・。
作者の意図はそこにはない(単純に面白いお話を作ろうとしているのだと思います)のに
扱う素材がシリアスなだけに確実になにかを投げかけてしまう。
不思議な味わいです。




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覚えていない幸せ

2015/02/08 21:03

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:豆絞り - この投稿者のレビュー一覧を見る

どうしてこんなに細かく覚えているのだろう。
キャシーの語りを読みながら思った。匂いも感触も、その時の息遣いさえ覚えているかのような細やかな描写。きっと、幸せで楽しかった思い出なのだろうと思った。
でも、途中でその印象は一変する。私が幼いころをキャシーのように覚えていないのは幸せだったからだと気が付く。この幸せがずっと続くものだと信じで疑わなかったからこそ、その一瞬一瞬を覚えておく必要がなかったのだと。
キャシー、トミー、ルースが過ごした時間の中で、変化していく関係も見事に描かれていた。環境が変われば人との関係も変化する。離れたかと思えば、何かの拍子でまた近づいたり、平行線のままの場合もある。それは一つひとつの行動の言葉の態度の積み重ねなのだと教えてくれる。

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最高

2015/10/15 20:12

7人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ジョン - この投稿者のレビュー一覧を見る

とにかく最高です!

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切ない新境地

2012/02/04 12:23

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 近未来SFともみなしうる内容なので、イシグロの新境地といっていいかもしれない。もっともこの作家は常に新しいものにチャレンジしているようなところがあって、その点はいつも感心するのだが、しかしこの作品はまた、ここまで来たか、と思わせるものがある。
 いわゆるネタばれにならずにこの小説について語るのは難しい。近未来の、いささか混乱し傷つき希望を持つことが難しくなっている世界の中で、先端科学がからむ話としておこうか。トーンは暗い。
 だがホラー小説にもなりうる設定でありながら、むしろここにあるのはひたすら哀しみである。この小説はすでに映画化されているが、その公開に際して、毎日新聞夕刊にイシグロのインタビュー記事が載っていた。それによると、イシグロが考えたかったのは、前面にあるように見える生命科学の倫理よりも、限りある人生という普遍的な問題だったという。
 イシグロといえば、いわゆる「信頼できない語り手」の問題が定番である。つまり、語り手の嘘=不確かさ=生き方の希薄さが、別に浮かび上がる事実によって明らかになる、というパタン。だがここでは、それは使われていないのではないか。とすればそれは何を意味するのか。
 上述の夕刊には「記憶を武器に死と戦う」という見出しがあったが、興味深い点である。今までの作品では、語りの元となる記憶は不確かで、しばしば欺瞞につながるものだった。だがこの物語ではそれが転倒している。現実と思えたことがほとんどすべて失われてゆく中で、語り手の語る記憶だけが、確かな真実、生きる拠り所としてあるのである。それがとても切なく辛い。しかしそれゆえに深い感動を呼ぶ。
 今更のようにイシグロの重要テーマの一つとして、人間の絆の分断というものがあることに気付かされた。

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切なさをこえてこそ

2015/09/04 16:35

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:しろくま - この投稿者のレビュー一覧を見る

作者はこの小説で何を言いたいのか。ひとことで言い表すことは難しいですが、読書中も読後はさらに頭を抱えてしまいました。丁寧な心理描写や極めて慎重に物語を展開している点など、なぜこういう書き方をしたのか。
 なるほど作者自身はあらゆる可能性に触手を伸ばし、物語を紡いだのでしょう。あるいは読者に考えるきっかけを与えたかったのかもしれません(その意味でわたしもしっかり作者のフックにひっかかってしまっていますが…)。しかし、そうであれば、ああいう小説の書き方をすることに戸惑いを感じてしまいます。切ないという気持ちより、何か居心地の悪さ、気持ち悪さを抱えてしまいました。爽やかにすぎる。作品の読み方も含めて、読者に多くの宿題を与えてくれる作品、労作であることに違いはありません。

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紙の本

繋がっていく命に“希望”が灯る!?クローン人間の抵抗が意味したもの

2018/05/11 15:06

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る

キャシー・Hの語りの表面に、虚偽意識は決して出てこない。あるいは無自覚なものとして、語り手は嘘をついているのである。自分が夢を見たり、希望を持ったりしたこと自体を語り手であるキャシー・Hは認めない。希望を抱いたという記憶は、絶望をより深いものにするからだ。ゆえに語りは平板なものになり、感情の起伏は抑えられ、時には笑いで覆われることになる。そうした形で平静を装わなければ、心を保てないことが人にはある。『わたしを離さないで』はそうした心理の複雑さを踏まえて書かれた小説である。23章は、過去を振り返るのを止めてなすべきことをし、行くべきところへ行こうとするキャシー・Hの態度が描かれて終わる。そうすることでヘールシャムはわたしの頭の中に安全にとどまり、誰にも奪われることはなくなるのだ。そうした「わたし」の物語として完結したからこそ、原作は状況の如何によらず読むことができる、普遍性を獲得したともいえる。

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せつない

2015/10/13 23:24

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:はみぃ - この投稿者のレビュー一覧を見る

文体の美しさが物語の歪さを引き立てる素晴らしい文章でした。
胸の奥に小さなしこりをまるでつぼみのように残してくれ、自分がいかに全力で生きるのか、深く考える機会を与えてくれる良い本との出会いだったと思います。
大人向けの本に思えますが苦悩を抱える若い世代にこそ読んでほしい。
自分の境遇、自分の成り立ち、自分の役割を再認識するきっかけになるとおもいます。

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とてもせつないです

2015/09/29 23:43

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:タヌキネコ - この投稿者のレビュー一覧を見る

この物語は「自分の運命は自ら切り開く。何としても!」ということを語りたいのではないのだとわかっていても、感情移入のうえに身をよじってしまいます。悔しくもなります。設定はいささか非現実的と思いますが、「あるシステムとそのくびき」ということでは、実際の日常の中にもひっそりと相似形のものがあるのか?。だからこの物語に感情をゆすぶられるのかとも思います。またそういったこととは関係なく、子供時代の回想がとても生き生きとしていて魅力的です。

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さすが世界のイシグロ

2011/08/19 07:12

6人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:renogoo - この投稿者のレビュー一覧を見る

映画化されたと聞いたので、原作もよんでみた。
良くも悪くもイシグロカズオだった。
もりあがりにかけるといえば、かけるんだけど、これがイシグロ文学といわれれば、はあぁそうですかってかんじ。
淡々とした語りが、さすがブッカー賞作家と言われれば、まあそうですねって納得するしかない。
臓器ファームがテーマとなっているんだから、いくらでも泣きを取れるだろうに、淡々としすぎて、あっけなく終わってしまった。
凡人の私は、泣き所がほしかった。
さすが世界のイシグロ。
ということでこれは映画でみてください。

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これこそ「文学作品」と思わされる

2021/01/21 17:28

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:アルファ - この投稿者のレビュー一覧を見る

皆様ご存知、H29年ノーベル文学賞受賞作家であるカズオ・イシグロ氏の著書、「クローン」を題材としたお話です。
ミステリー色もあり、性や生命についての「これぞ文学作品」という良く練られた描写もあり、そんな一冊でした。

私自身、小説を読むことが少ないせいもあるでしょうが、それらの本と比較しても読みごたえが凄まじく、いい意味での「通好み」な一冊という印象がありますね。

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紙の本

何度でも読みたい作品

2019/03/15 23:07

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:十楽水 - この投稿者のレビュー一覧を見る

有名な作品なので、この小説の「残酷な真実」をすでに知ってしまった方もいるかもしれませんが、仮に知ったうえでも深い、あるいは重い読後感が得られるのではないでしょうか。
 誘惑するテクノロジーの前に脆弱な倫理、不可視の少数者と利益を享受する多数派の構造、犠牲を使命だと刷り込む教育と権力、少数の側に立つ運動の偽善性と限界―。相似形の問題は現代社会に見出せます。
 歪みを含む社会から視点を個人に移します。もし当事者になれば何を感じ、何を望むでしょうか。わからなくなります。わからなくても役割を全うする以外行動できないようにも思えます。
 「奪われること」が生きることに等しいような人生において、それでも奪われないもとを求める、「離さないで」と願うことは、きっと普遍的なことではないでしょうか。そしてそれが記憶であるならば、人間味あふれる登場人物たちを育んだヘールシャムという世界を、欺瞞の一言で片づけられなくなります。キャシーがあれほど抑制的でいられるのはヘールシャムの教育の賜物であり、しかし少数者の自己抑制が、残念ながら多数派だけではなく少数者の利益になっていることが理不尽の理不尽たるゆえんに思えます。
 二度読みましたが感想は異なりました。なので三度、四度と読みたいです。

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