紙の本
「勝ったのは、百姓たちだ」の法則がなぜ繰り返されるのかを知るために
2008/09/23 05:47
27人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近、判で押したように2世議員、3世議員の跋扈が、まるで悪いことのように語られることが流行しているが、この言論状況に私は正直絶望している。どうして2世議員が悪いのだろう。3世議員が悪いのだろう。どうせテレビの解説者や古館の口パクだろう。私は、2世議員、3世議員は「必ずしも」悪いことだとは思ってはいない。彼ら彼女らは幼少期から「政治」を空気のごとく吸って育ってきた「支配階級」であり、日本人を収める政治の要諦を幼少期から家庭で教え込まれた「帝王教育」を受けたプリンス・プリンセスらである。彼ら彼女らは幼少期から「選挙とは何か」「選挙区とはどんなものか」「支持者とはどういうひとたちか」「政治家の妻の苦労はどういうものか」「日本とは、日本人とはどういうものか」を知りぬいた人たちである。大学に入ってはじめて「よのなか」を知る、そん所そこらの有象無象とはわけが違うのである。
著者の北岡教授は本書で、日本でなぜ2世、3世が量産されるのか、その構造を精密に描き出している。北岡教授によれば、要するに「百姓」が悪いのだ。田舎に住む日本人が悪いのだ。田舎には田中角栄が作り上げた利権の分配構造が精密に出来上がっている。公共事業を通じて税金を食い物にする土建屋の利益分配のピラミッド、あるいは農業補助金を通じて税金を食い物にする農協の利権分配ピラミッド。商店街のピラミッド。土地持ち成金のピラミッド。彼ら「田舎もん」が作り上げた利権分配のピラミッド構造は、過去の血で血を洗う権力闘争の結果であり、その頂点に「自民党の政治家先生」がおわす。この自民党の政治家先生が倒れたら、シチリア島のマフィアではないが、また利権をめぐる凄惨な「百姓の農民戦争」は一からやり直しである。こりゃたまらないの田舎もんはみんな知り抜いている。だから「殿様」が倒れると、後継ぎは「若様」に限るのである。「若様」に期待される役割は、田舎に出来上がっている精緻な「既得権ピラミッド」の相続であり、その維持温存なのである。こうして茨城では2世が流行るのである。新潟でも2世が出るんである。同じことは島根でも鳥取でも起きている。2世が当選しにくいのは「無党派層は寝ていてほしい」といわれる「横浜市青葉区」や「東京都区部」である。「小泉チルドレン」が大量当選した選挙区である。日本のマスコミは、こうした構造にはなぜか光を当てない。あたかも悪いのは政治家であって、その政治家を選んだ有権者は悪くないかのような報道ばかりしている。どうして20代後半の「何も知らないように見えるただのボンクラ」がやすやすと初当選する理由を本書を読んで諸君も少しは理解できるようになってほしいものである。
天才政治家小泉純一郎は「自民党をぶっ壊す」といった。この天才の言葉の意味を正確に理解していた意味を、当時どれだけいたのだろうか。本書を読んだ私には当初からわかっていた。要するに小泉は「どうせ税金は天から降ってくる」「東京からどれだけ金をふんだくるかがわしらの仕事だ」と決め込んでいる田舎の利権構造、東京におんぶに抱っこの田舎者の甘ったれた根性を一度断ち切ろうとしたのだ。日本全国で、田舎者の利権構造と無縁の素人同然の若者が大量当選したのは何も悪いことではないのである。ただ既得権を守りたかった田舎もんにとって都合が悪かったということだけなんである。
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国際政治学者の北岡伸一氏による自民党政治のダイナミズムを鮮やかに描き出した一冊です!
2020/10/04 10:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『後藤新平―外交とヴィジョン』、『日本政治史―外交と権力』、『国際化時代の政治指導』、『日米関係のリアリズム』、『政党政治の再生―戦後政治の形成と崩壊』などの著作で知られる国際政治学者であり、歴史学者の北岡伸一氏の作品です。同書は、鳩山内閣から宮沢内閣まで、戦後政治は自民党とともにあったということで、その自民党について詳細に解説された一冊です。38年の長期にわたって政権を独占した政党の軌跡を、権力基盤としての派閥構造の変遷を軸に辿っていきます。同時に、歴代総理であり、総裁のパーソナリティや、経済運営や外交姿勢など政策面の特色から、自民党政治のダイナミズムを鮮やかに描き出しています。同書は吉野作造賞を受賞された傑作でもあります。
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二世、三世、タレント議員
2008/09/22 20:04
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GTO - この投稿者のレビュー一覧を見る
今日(2008年9月22日)総裁選が行われた。開票前から麻生太郎氏の圧勝が予想され、その通りとなった。無党派感覚からするとなぜなのか分からない。麻生氏が当選することがおかしいというのではない。なぜ圧勝なのかが分からない。自民党員の投票結果も麻生氏圧勝だったから、自民党員には分かっているのかもしれない。でも、私には分からない。党員が集まっているわけでもない渋谷やアキバで、なぜ総裁選の街頭演説が行われるのかも分からない。いや、そのねらいが分かるだけに、その空々しさにむなしさばかりが募る。
このところの総裁選挙に立候補した顔ぶれを見ると、二世、三世かタレントばかりのように思える。二世、三世、タレントだった人は駄目だとは言わない。しかし、二世、三世が『76年には32パーセントと、3分の1に達し、以後さらに微増して現在に至っている。』(p.156)というのは正常と言えるのだろうか。(この本で述べられている「現在」とは1990年代で2008年現在では4割を越えているといわれる。)
この本は、1997年の橋本総裁誕生で終わっているので、それ以後の総裁選(投票が行われたもののみ)のメンバーを挙げて調べて見ると
1998年 小渕恵三 梶山静六 小泉純一郎
1999年 小渕恵三 加藤紘一 山崎 拓
2001年 小泉純一郎 橋本龍太郎 麻生太郎
2003年 小泉純一郎 亀井静香 藤井孝男 高村正彦
2006年 安倍晋三 麻生太郎 谷垣禎一
2007年 福田康夫 麻生太郎
2008年 麻生太郎 与謝野馨 小池百合子 石原伸晃 石破 茂
で、多くが二世、三世議員であり、当選者に限ればそのすべてが世襲議員である。選挙制度のどこかに問題があるとしか思えない。
さて、そろそろ本書の話題に移ると、力作である。著者は本書の執筆時期までには政府や政治家と深く関わる所がなかったのが幸いし、誰かに偏る事なく大所高所から政治の大局を淡々と論じていて気持ち良い。この手の本のなかには、政局の裏話を得意げに語ることを中心にするものも多いが、この本はしっかりとした政治史となっている。
と同時に、自由民主党が日本社会の変遷とどう関わってきたかの分析は、日本社会史にもなっている。自民党がどうなっていくかとともに、日本社会がどうなっていくのかもこの本を読んで考えさせられるところだ。
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自民党政治の分析としてはこの本を置いてない。政治過程論・日本戦後政党論の最高峰。
ただ、この本の中での「保守本流」が親米であるという点から清和会系まで含んでいるあたり、この本が書かれた時期が日本の政治的立場やイデオロギーが喪失し、どういうスタンスを日本が取るのかが見えていなかった時代だったことを思わせる。
2009年現在、民主党や自民党左派(保守本流)と清和会系との断絶はより大きくなっている。国内政治と台頭する中国への対応という点こそが2009年現在の政治的断絶の深部であり、その意味ではこの本も55年体制の総決算として以上にとらえられるべきではないのだろう。政治学の業績は、うちたてられた傍から風化する。しかし、それがよいのだ。過剰に「聖典」となる社会科学の本に、いい本などない。
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自民党ももうすぐ政権交代かな、と思っておさらいの意味をこめて手に取った一冊。
と思ったら小沢さん秘書の影響で分からなくなってきたですね。
自民党が政権を獲得してから、鳩山一郎から宮沢喜一に至るまでの歴史を、首相個人のパーソナリティーと派閥のダイナミズムを中心として描いている。首相交代や派閥争いがぶつぎりにされて描写されるのでなく、歴史性や必然性を伴った説明はとてもしっくりときて分かりやすかった。
派閥の仕組み、個人後援会の重要性、派閥の性格の変容、自民党が自らの支持基盤にメスを入れなければ支持をつなぎとめることができないというジレンマにおかされていることなど、なるほどなぁと思うこと多数。現役で活躍する政治家のルーツを確認するにも役立った。
ただ、宮沢内閣以後の自民党政権に関しては、色々な性格が変わってきているらしく、この本から自民党の未来を予想するのは難しいなぁと思った。というか予想できない自分のせいかもしれんけど。それにこの本でなく様々なところで、北岡先生が最近の政権について書いているらしいので、それを見よということですね。
教科書的な良い一冊でした。
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北岡伸一渾身の作ではなかろうか。読み応えアリ。
55年体制が崩壊するまでの戦後政治史を、平易に、かつ明瞭に著した本。特に派閥力学の分析を行っている点や、世論との関連などの著述は興味深い。
渡邊編『戦後日本の宰相たち』と合わせて読めば、昭和戦後政治史の基本的な部分は十分カバーできる。
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現・東京大学法学部教授(日本政治史)の北岡伸一が、1995年に読売新聞社から出した「20世紀の日本」シリーズの第1巻として出したものの文庫化である。解説は飯尾潤(政策研究大学院大学教授)が担当している。ちなみに同シリーズについては、出版社は異なるものの既に五百旗頭真『占領期』が講談社学術文庫で文庫化されている。今後も同シリーズの文庫化が進むことを期待したい。
【構成】
序章 自民党政治の歴史的背景
1 戦前の政党政治
2 占領下の政党政治
3 保守合同への道
第1章 自民党政治の確立
1 鳩山内閣と石橋内閣
2 岸信介と安保改定
第2章 自民党の黄金時代
1 池田勇人と所得倍増政策
2 佐藤栄作と沖縄返還
第3章 自民党政治の動揺
1 田中角栄と列島改造
2 三木武夫と保守政治の修正
3 福田赳夫と全方位外交
4 大平正芳と新しい保守のビジョン
第4章 自民党政治の再生
1 鈴木善幸と和の政治
2 中曽根康弘と日米同盟の強化
第5章 自民党政権の崩壊
1 竹下登と税制改革
2 海部俊樹と湾岸危機
3 宮沢喜一と自民党政権の崩壊
おわりに 五五年体制以後の自民党
序章で、自民党結成前史が触れられた後に、55年体制が事実上定着した岸内閣までの草創期、池田・佐藤長期政権の黄金期、田中内閣以後の変容と凋落と各時代ごと戦後内閣史が転回されている。その叙述の中心は、派閥間のバランスに留意する各内閣の成立過程にある。
自民党という戦後日本史に現れた極めて特異な政党について、その長期政権たりえた要因を探るにはその歴史的経緯をつぶさに検討することが必要なのは当然であろう。確かに著者が巻末において指摘するように、1960年の安保闘争に見られたような激しい与野党対立は、1960年代以降自民党内の派閥間対立に向けられ、そして1980年代にいたっては派閥内対立によって総裁=首相選定がなされるようなるに至った。政策決定過程の矮小化が、政治不信=自民党不信を決定的にし、1993年の政権交代が行われることになった。
本書は、そういう自民党史の概説としては非常にわかりやすくスタンダードなものだと思う。しかし、逆に言えば幾分ありきたりで面白味に欠ける部分があるのも否めない。田中角栄のロッキード事件を頂点にする自民党の汚職事件は枚挙に暇無く、自民党の得票率は右肩下がりであったにもかかわらず、なぜ自民党が38年もの間政権党であり続けたのかという問いについては、自民党内部の分析だけでなく、選挙時の動員、野党の動向、国際関係等々自民党以外の外的要因が必須になるのではないだろうか?(本書では後援会システムについての言及はあるが、そこに割かれている紙数は少ない)そういう包括的な意味での自民党史を深化させた研究は今のところ見あたらない。もちろん一朝一夕にそのような著作ができあがるわけではないだろうが、これは戦後日本政治史研究が明らかにすべき重要な課題だと思う。
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2010/4/10
北岡伸一さんの授業でたらけっこう面白かったので、買ってみた。
戦後の日本政治の流れを大雑把に掴むことができる良書。
それにしても、当たり前だけど、知らないことばっかだなぁ。笑
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歴史を俯瞰的に見ることは重要なことだが、これは「自民党」という政党のみに焦点を当てて、その内部で起こったことを網羅的に知ることができる良い本。この本を足がかりに自分の興味のあるところを深堀していけばいいんじゃないかなと。
個人的には大平正芳について改めて興味を持った。
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大平正芳の主張がしっくりく来た。実務的かつ、現実主義だから。その一方で、飛躍も必要というのも分かる。佐藤とかは、その部類だろう。ただ、飛躍出来るのは限られた人間だけのような気もする。
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自民党のおおまかな歴史は分かった気がする。ただ、今まであまり自民党内の具体的な政治家について勉強したことがなく、知らない人がいっぱい出てきて細かい部分に関してはあまり頭に入らなかった。これから勉強していく上での基礎となってくれたらいいなあと思った。
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保守合同から55年体制が崩壊するまでの自民党の歴史を綴っています。自民党の功罪を知る上で有用の読み物だと思います。
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【読書その18】先日東京大学で最終講義をされた北岡伸一氏の著書。最近は政治関係の本を読むことが多いが、これまで読んだ政治関係の本でも非常に面白かった本の一つ。
本著では、自民党の55年体制構築から細川内閣成立による自民党下野までを分析。
自民党の歴史は戦後政治の歴史。様々な法律の成立の背景にある政治状況等を学ぶ上で非常に有益。
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戦後政治を保守本流の点から考える上で良い一冊である。岸信介が確立した経済重視+日米協調いうスタンスがどのように続いていったか、どのように変化していったか。
派閥政治においては、政策・人物本位の組閣は難しかったものの、派閥均衡という枠組みの中で政治課題にアタックしたのもまた事実である。そして「政治」に長けた有為なリーダーを輩出できたのもまた事実であり、最近の「言葉」「雰囲気」に長けたリーダーとはまた違うものではあるだろう。
この本を読んでいて心配になるのはポスト安倍である。派閥の衰退と官邸強化に伴う閣僚人事によって、次のリーダーが全く見えない。良くも悪くも政策・人物本位であり、政策対立がわからない。
日本政治の来し方を考えさせられる一冊である。
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戦後70年を振り返る夏の自由研究、政治編。自民党政治=戦後政治史を概観した秀作。
自民党の成立には、冷戦・中選挙区・派閥が三位一体で関わっている。(社会党に対抗するための保守合同、かといって圧倒的多数はとれない中選挙区制で多数をとり続けるための派閥制度)。
もともと派閥は、カリスマ性と明確なビジョンや政策をもったリーダーによって率いられていた。この派閥を拡大する能力が権力への近道となり、その行き過ぎが金権政治となって国民の信頼を損ない、また派閥の組織維持自体が目的化してきた。国際情勢の複雑さが増し様々な責任を求められる時代に、自民党は硬直化し、大胆なリーダーシップを発揮できなくなった。
本書の取扱い範囲は宮澤内閣までだが、その後、安倍、福田、麻生(ついでに鳩山)内閣が1年交代したあたりなど、本書に登場する彼らの父・祖父と比べた見劣り感には絶望感を覚える。(政治家の経験、人脈、金脈を継承するための二世議員の増加は必然であり、60年代から既に始まっていた)。
さて本書では、「小選挙区における投票は、実は主として党首に対する投票なのである」と指摘されている。このリーダーで、この政策で政治をやるという明確な方針の提示が求められている。そうして選ばれた現・安倍内閣の源流をたどれば、当然祖父岸信介となるのだろう。本書では、第3代総裁の岸を事実上最初の総裁ととらえている。また保守本流の定義を「日米協調路線の維持強化」とし、その確立を吉田路線と岸路線(安保改定)の融合に置いている。なるほど、さすれば安倍内閣の安保改定路線は、まさしく保守本流中の本流、と言えるようだ。