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紙の本
ビッグなノンフィクション
2009/02/11 09:40
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一冊の本の魅力とは、そこに書かれている「情報」の質と量にかかっている。そのことにあらためて気づかせられた、滝田誠一郎のビッグな一冊である。
ここで「情報」というのは広義な意味で使いたい。つまり、それは「感情」であったり「知識」であったり、広く私たちの心にはいってくるもの全般である。だから、本書のような「ノンフィクション」だけでなく、いわゆる小説や詩といった「フィクション」であっても同じことがいえるだろうし、学術書やビジネス本であってもそれは変わらない。
やはり、人は未知なるものに対して深く心を動かされる。読むことの楽しみはまさにそこにあるように思う。
『ビッグコミック』は、創刊から四〇年(1969年2月29日創刊)にわたり、第一級の人気を誇る青年コミック誌である。
本書はその誕生秘話をその時の編集長小西湧之助を中心にして描いたノンフィクションである。
小西という、挫折もし成功もおさめた一人の編集者の人物伝としても読めるし、漫画史としても楽しめるが、やはり主役は『ビッグコミック』という、一冊の漫画誌だろう。
その一冊の漫画誌から、どうしてこのように奥深く幅の広いノンフィクションが書けたかについては理由がある。
滝田は「あとがき」の中でこんなことを書いている。「私にとっては小説も漫画もまったく同じ読み物であり、ときに芸術であり哲学であり娯楽であり、多くのことを教えてくれる教科書でもあった。そういう目線、視点から、いつか漫画を題材にした本を書いてみたい」(307頁)。
そういう強い思いがあったからこそ、これほどまでに完成度の高い作品に仕上がったと推測される。
そして、本作品を臨場感あふれたものにしたもうひとつの要素が、「インタビュー」の力である。
本書巻末に掲載されている「参考資料」はわずか十三冊にすぎない。
つまり、本書の魅力は小西を初めとした当時の『ビッグコミック』編集部の面々、漫画家、競合他誌の編集者の発言等によるものだ。
それをひきだし、構成した滝田の視点の確かさをほめたい。
副題の「ナマズの意地」とは、「編集部を水の澱んだ沼にたとえ、自分たちは泥沼にひっそりと生息する夜行性のナマズになぞられ、"でも、いつかは世の中を揺り動かすような大ナマズになってやる!”」(72頁)という、『ビッグコミック』のトレードマークであるナマズに込めた小西の思いであるが、おそらくそれは著者滝田の意地でもあったにちがいない。
読み応え充分な、ビッグなノンフィクションである。
◆この書評のこぼれ話はblog「ほん☆たす」で。
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