紙の本
面白い物語と出会い、没頭する楽しさはまた格別!と、改めて感じましたね。生き生きとして、とても親しみやすいブックガイドです。
2009/04/30 00:42
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』などの人気シリーズで知られる作家、田中芳樹(たなか よしき)が、子どもが読んで楽しめる本ということで、ざっくばらんに語っていく第1部「本ってこんなにおもしろい!の巻」。紹介されている面白本は、次の三つの条件に当てはまる物語から選んでいます。
1.外国が舞台であること。
2.現在と別の時代設定であること。
3.子どもが登場しないこと。
なので、『宝島』や『奇巌城(きがんじょう)』は3番の条件により入っていないけれど、『海底二万里』や『地底旅行』『ゼンダ城の虜(とりこ)』といった作品は堂々の入選。インタビュー形式で、「この物語は、こういうところが面白いんだなあ」「この作品の楽しみ、うまさは、これこれこういうところにあるんじゃないかな」と、田中芳樹が自由に語っていくんですね。
とりわけ、「H・G・ウェルズの『透明人間』のサスペンスフルな展開は本当にうまい! 舌を巻きます。もう、感動するしかない」と絶賛していたのが印象に残ります。「そんなに面白かったか」と、久しぶりにまた読んでみたくなって、偕成社文庫本を注文しちゃいました。
この第1部以上に楽しめたのが、本好きの作家仲間と対談した第2部でした。柳 広司(やなぎ こうじ)との、「ぼくらはこんな物語を読んできた」(2008年5月 理論社会議室にて)。久美沙織(くみ さおり)との、「目からウロコが落ちまくり」(2008年8月 軽井沢にて)。漫画家・藤田和日郎(ふじた かずひろ)との、「ヒーローはフィクションの中に」(2005年6月 田中氏事務所にて)。
なかでも、久美沙織と田中芳樹、藤田和日郎と田中芳樹、それぞれの対談が読みごたえありましたね。あちこちに素敵な言葉、頷かされる言葉があって、「うんうん、そうなんですよねぇ」と共感しておりました。
本書の題名になっている「とっぴんぱらりのぷぅ」というのは、「はい、これでおしまい」と「さあ、もうおやすみ」を合わせたような意味を持つ秋田県の方言なんだそうな。第1部の12回にわたるインタビュー、それぞれの回を締めくくる言葉として、この「とっぴんぱらりのぷぅ」が使われています。
てなところで、このレビューも、とっぴんぱらりのぷぅ。
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筆者が子どもの頃に読んだ海外文学を中心としたブックガイド。インタビューと対談で構成されています。名作と呼ばれる作品の面白さ、また子ども向けに翻訳することの難しさや面白さや大切さが語られています。
いやはや田中芳樹が本をお勧めする時は、実際にその本を読むよりも面白く感じてしまうんですな。自分が読んでここがこう面白かったですよと、面白さをきちんと説明してくれるから、こちらもそんなに面白いのなら是非とも読んでみたい! てな気にさせられるんですな。でもね気を付けないといけないのは、興が乗るとネタばらしをしちゃうことがあるんですな。「これは知っていても作品の面白さには変わりがないから」てな勢いでスルンと語られちゃうから要注意。以前これと別の本で、ええ〜!? てな目に遭いましたから。トホホ。この本はまあ、うん、ギリギリ大丈夫かな。ネタばらしもあるけど、まあきっと大丈夫かな。あ、でも『銀河英雄伝説』をこれから読もうとして、全く先の話を知らない方は要注意です。今や誰もが知っている展開となっているのかも知れないけど、あのことは知らずに読み進めた方がいいと思うんで。
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稀代のストーリーテラーによる読書案内。著者ならではのユニークな読み解き方が満載で、「古典」でぐんと身近に感じられる。物語への情熱を共有できる作家仲間との対談も必読。
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副題の通り「田中芳樹のブックガイド」です。
本好きには堪らない。読んでいてもっと本が好きになれる一冊です。
田中さんのエッセイは面白くて絶対にハズレがないと思いつつ、
ハードジャケットの新刊だしつい図書館で借りましたが・・・欲しい(笑)
文庫化が待てない気分。本好き仲間との対談部分まで素敵に楽しいです。
ボアゴヘの『鉄仮面』は江戸川乱歩が有名にしたってのは聞いたことありましたが、
ボアゴヘと乱歩の間に黒岩涙香という江戸の翻訳者がいて、
さらに涙香実はボアゴヘの原作をうまーくアレンジしてたってのは驚き。
横溝正史が『ドラキュラ』を日本で初めて紹介したってのもびっくり。
田中さんらしくいろいろちりばめているので、
ブックガイドといっても読書感想文みたいな雰囲気でなく、
こんなに面白いんだよ!と会話しているような内容で読みやすかったです。
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激しく読書欲をそそられる本だな…
最近とみに思うけど、やっぱり古典とかスタンダードは押さえとくべきね。
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田中芳樹氏のブックガイドということで、彼が今までどんな本を読んで育ち、どんな本を紹介してくれるのか気になって読んでみました。
「アウトプットするためには、それ以上のインプットがないとダメ」と言っている通り、その読書量は、子供の頃から膨大だったようで、文学作品に対する広範囲な知識に驚くばかりです。
冒険物語や中国文学、西洋文学、ミステリーなど、いろいろなジャンルの物語を吸収してきたのが、今の彼の作風につながっていることがわかります。
さまざまな作品に対する愛情あふれるコメントを読んでいると、どの本も読みたくなってきます。
目からウロコの話もいろいろとありました。
例えば、『宇宙戦艦ヤマト』は、なんと『西遊記』の構造をベースに作られているそうです。
ヤマトがきんと雲で、イスカンダルが天竺、デスラーが牛魔王など。RPG物語だと説明されました。
沙悟浄は、原作では正体不明のお化けという設定を、日本で河童にしたところ、ビジュアルイメージがつかみやすくなったとのことです。
また、ジュール・ヴェルヌの『海底2万里』の、ミステリアスなネモ艦長の正体は、「セポイの反乱」の頃にイギリス人に家族を殺され、文明社会に復讐を誓ったインド人なんだそうです。
なんと、インド人とは、想像だにしていませんでした。
12回に渡るインタビューと、3名の作家との対談が掲載されており、それぞれに知的好奇心を刺激される話がたくさん載っています。
メモを取りながら本を読んでいきましたが、巻末に、登場したブックデータリストが乗っており、役立ちました。
全く未読の田中芳樹の作品を『アルスーラン伝説』辺りから、そしてここで紹介された彼のお勧め本を、少しずつ読んでいきたいと思います。
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田中芳樹氏の書く小説には、物語の面白さが存分に含まれている。
それは、田中氏自身が、小さい頃からとにかくたくさんの物語を読んでいた少年であったことから影響を受けたものであるらしい。その思い出を振り返りながら、どんな物語に影響を受けてきたかを語るという、ちょっと変わったブックガイド。
紹介されている本としては、古今東西の名作と言われている作品ばかりなのだけれど、それを田中氏が説明すると、より一層、面白いものであるような気がしてきて、まだ読んでない本は是非とも読んでみたい気分になる。
視点がやはり、「面白い物語とはいったい何なのか?」ということを常に考えてきた人からの言葉なので、分析がとても的確で細かいし、とにかく名作と言われる作品についての知識が豊富なことに驚かされる。
選書があまりマニアックではなくて、広い層にその良さが理解出来るような作品ばかりを取り上げているというところもいい。
考えてみれば、「銀河英雄伝説」も「アルスラーン戦記」も、その原型は過去の名作の基本を踏襲した作りになっていて、そのプロットは、定番作品の緻密な分析に基づいたものだったのだということがよくわかる。
「水滸伝」のヒーローたちは、そのほとんどが奥さんや恋人に裏切られて、世を捨てているんですよ。健全な夫婦関係が断たれて「普通の家庭」から切り離されたとき、そもそも社会にはいられなくなる、という状況があるわけです。実際、梁山泊はユートピアではなく、むしろ魔界なんです。世間に居場所のない人たちがそこに集まっていく。(p.97)
漫画は視覚的な表現の効果という点では明らかに小説を上回るわけですが、たとえば聴覚に関わるような面では、やっぱり小説のほうが表現の幅があると言えるでしょうね。(p.126)