紙の本
シートン氏とホームズ氏、ふたりの人物を愛する著者の気持ちが全編に流れている一冊。彼らの活躍にわくわくさせられた私には、本書はとても心地よいパスティーシュ・ミステリでした。
2009/04/26 10:24
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初の短篇「カランポーの悪魔」の冒頭、八十歳の老人とはとても見えないシートン氏が、新聞記者のわたし相手に、彼の鋭い観察力と推理力の片鱗を見せるシーンがあります。わたしにはただのインクのしみとしか見えなかったものが、シートン氏の話によって、ある動物の足跡がくっきりと浮かび上がってくる場面。「おお! まるで、ワトスンを前に名推理を披露する探偵シャーロック・ホームズのようではないか」と、その辺からでしたね、『シートン動物記』の作者は実は名探偵でもあったという、このパスティーシュ・ミステリの面白さに惹かれたのは。
<自然とともに生きる野生動物の立場で世界を眺めるナチュラリスト>であったアーネスト・トンプソン・シートン氏と、鋭い観察と推理力を生かして不可解な事件に挑戦し、その謎を解く名探偵シャーロック・ホームズ氏。本連作短篇ミステリの端々から、ふたりの人物に対する著者の愛情がひしひしと伝わってくる。それがまず、素敵でした。著者と同じく、『シートン動物記』と「シャーロック・ホームズ」ものに夢中になった記憶を持つ私には、そのことが何より嬉しく、また心地よかったのです。
本書の各短篇の下絵になっている『シートン動物記』の諸篇、そこで活躍する動物たちはじめ、話の味わいや雰囲気が巧みに生かされているところも楽しめましたね。収録された七篇、「カランポーの悪魔」「銀の星(シルバー・スポット)」「森の旗」「ウシ小屋密室とナマズのジョー」「ロイヤル・アナロスタン失踪事件」「三人の秘書官」「熊王ジャック」のなかでは、「森の旗」と「ロイヤル・アナロスタン失踪事件」が面白かったなあ。「森の旗」での、事件の真相の意外性とミステリの妙味。「ロイヤル・アナロスタン失踪事件」での、下地となった「裏町の野良ネコ」の話が彷彿と浮かび上がってくる楽しさ。格別、気に入った二篇です。
余談ですが、素晴らしきナチュラリスト、シートンの人物像が魅力的に描かれた谷口ジロー作画の漫画もおすすめ。「シートン 旅するナチュラリスト」のシリーズとして、現在、『狼王ロボ』『少年とオオヤマネコ』『サンドヒル・スタッグ』『タラク山の熊王(モナーク)』の四冊が刊行されています。
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投稿者:hid - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本で言うところのシートン動物記を元ネタにしたフィクションだよね。
なのに、いたって自然に読めてしまう。
狼王ロボは昔読んだ記憶があるなあ。
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2009/3/19 ジュンク堂三宮駅前店にて購入。
2020/10/28〜11/1
柳さん得意の偉人パスティーシュ。本作は動物記で有名なシートンを探偵役にした連作短編集。「カランボーの悪魔」、「銀の星」、「森の旗」、「ウシ小屋密室とナマズのジョー」、「ロイヤル・アナロスタン失踪事件」、「三人の秘書官」、「熊王ジャック」の七編。シートン動物記は小学生の頃、読んだ記憶がほとんど覚えていない。覚えていればもっと深く楽しめたのかな。
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シートン動物記で有名なあのシートンが探偵役。
新聞記者である私に語るエピソードという形式。
じつは動物たちが事件を解決した?!といった趣向になっているのがとても楽しい。
「カランポーの悪魔」は狼王ロボが殺人の濡れ衣を着せられそうになった話、「銀の星」はキラキラする物を集めるカラスが関わった盗難事件、「森の旗」は貧しい家に飼われていたリスが関わった…ねたばれになるので書けません。読みやすく、ポイントを押さえてあって、いい感じです。
2006年5月発行。
シートン動物記は子どもの頃に熱心に読みましたが、じつは内容をほとんど覚えていません。
哀しい部分が多いので、記憶から抹殺してしまったようなんですね。
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シートン動物記のパロディ。
新聞記者のインタビューに応え、シートンが過去の事件の裏話を紹介するスタイルで話が進んでいく。
おなじみの狼王ロボやニセ高級猫ロイヤル・アナスタシア、賢いカラスのシルバーブレッドなどの登場に、幼い頃夢中になってシートン動物記を読んだ人なら皆、懐かしさにニヤリとしてしまうところ。
原作の間に事件を差し込み、それの犯人が実は動物たちだったというミステリィ仕立てになっている。
原作の雰囲気を壊さず、新たに動物たちの魅力を伝えている手腕は見事。
シートン動物記を読んだことがない人でも楽しめるようにできている。
短編集なので旅のお供に最適だな、と思いつつ読むバスの中。
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シートン動物記を下敷きにした探偵物。シートン氏の推理はシャーロック・ホームズのようです。
野生動物の話がほとんどですが、ネコの話もあります。
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柳広司お得意の実在の人物と架空のミステリを混ぜちゃう作風。
面白いんだけどやっぱりこの人は1900年代中ごろの話を書かせた方がいいと思う。トーキョープリズンと新世界、読みなおそう。
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子供のころから動物好きだったのに、しかも読書好きでもあったのに、なぜだか読んでいなかった「シートン動物記」。
たぶん、人間が狼を捕まえるとかなんかそんな感じが嫌で読んでいなかった模様。(昔は、大変心やさしい動物好きだったみたい。いや、今もだけど)
どうも、「まっとうな自然の結果として残酷な結末」が耐えがたかったみたいだわ。
我ながら、なんていい子だったんでしょう!
さて、今回読んだこの作品は、普通に楽しんで読むことができました。
柳さんのお話、初めて読んでいたんだけど、実は途中まで翻訳された外国の本かと思っていました。
なんだか、言い回しとか、雰囲気とが異国の感じがして。
それぞれの動物が活躍し、結局は人間が犯人という結末にも満足。
「シートン動物記」も読んでみたい思う作品でした。
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シートン動物記を探偵話に仕立て直した連作。
解説者は、シートン+ホームズと言っているが、シートン老人と記者たる「わたし」のやりとりは、半七捕物帳や三浦老人昔話の雰囲気にすごく似ている(特に後のほうの話)。
シートン話をネタとして利用しているだけでなく、著者のリスペクトが伝わってくるのも好感。
解説は、短編(しかもミステリ)なのにあらすじなんか書かんでほしい…。それより、元ネタがどのくらい生かされていてどのくらいフィクションなのかとかを解説してほしいよ。
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「ジョーカー・ゲーム」が話題の柳広司氏を初めて読みました。パスティーシュ(文体模倣)・ミステリーという分野も初めてでしたが、楽しめました。決して奇をてらったようなドキドキはないですが、シートン氏と動物を絶妙に絡めた話の数々はある部分で癒されたり驚きがあったり。本書「カランポーの悪魔」の元作「狼王ロボ」は昔読んだような気がするのですが、はっきり思い出せません。今読んだら改めて感動しそうなので、図書館で探してみようと思います。
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動物記の二次創作のノリで読める短編連作。探偵役はシートン先生。動物の生態に関する知識と優れた観察眼で、人間界の事件も解決に導いていく。
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(収録作品)カランポーの悪魔/銀の星/森の旗/ウシ小屋密室とナマズのジョー/ロイヤル・アナロスタン失踪事件/三人の秘書官/熊王ジャック
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小学生の頃に夢中になって読んていだ『シートン動物記』を動物中心の物語ではなくてシートンの方に視点を変えて人間が絡んでくるちょっとしたミステリー風味な感じがとても個人的に好きでした。原作の内容にしっかり沿って居るものの、著者の感じたこと、考えたことが自然と織り込まれて居て、『シートン動物記』の新しい見方が出来ました。『シートン動物記』を読んだことのない人には、原作はどんな物だろうと云う興味を抱かせ、原作を既に読んでいる読者にはまた読み返したいと云う気持ちを思い起こさせる。特に『カランポーの悪魔』の話は大好きで『狼王ロボ』のロボの素晴らしさを思いだし、そして冒頭の「あなたはひきょうものです」という言葉は私が読んでいた時に思っていたことだったので同じように感じた人が居た、という強い共感も感じました。子供時代に何度読んでもワクワクした『シートン動物記』が長年愛されていることを強く感じることが出来る素敵な作品だと思います。
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シートン動物記というのが、本当にシートンだとは思いませんでした。
面白くてあっという間でした。
違う角度のシートンを垣間見れました。
一冊だと物足りない感じで、もっと読みたくなります。
内容的に、続きは出ないでしょうけど。
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自然と動物を限りなく愛するシートンの元に取材にやってきた新聞記者。彼は、ずっと昔、シートンの書いた動物記を読んで非常に腹を立てた、数少ない子供だった。そして、そんな子供を、シートン氏は心から嬉しく思っていた・・。
この小説の中でたびたび出てくる事柄に、表と裏があります。ひとつの出来事が、体験した人の見方、考え方によって、まったく異なる事を教えてくれます。一番驚いたのは老婦人を黙ったまま泥水に何度も突き飛ばした言う若者の話し。これは、本編とは関係エピソードでしたが、私の中では強烈に印象に残りました。
もちろん、本編のどのエピソードも魅力的で斬新で、あっという間に読み終わってしまいました。新聞記者の読者が、「早く続編を!!」という気持ちがよく分かります^^