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紙の本
梅原ファンはどうぞ。でも、上手く年を取りたいなと思わせる梅原さんでもある
2011/01/14 20:11
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは梅原氏が79歳の時に芸術新潮に寄稿したものを、大幅に加筆修正し81歳の時に刊行したものである。この年齢だけでも、梅原氏がどういう存在であるかを物語る。老いてなおかくしゃくとし、熱意がほとばしる人だ。
400ページにもなる本書は、あらかじめ全体の構成を考えてから書かれたものではないだろう。なぜなら、序盤は過去の円空研究の検証に鋭く切り込きながら、中盤からは一転して円空ファンとなり、その仏像や和歌、絵画を愛でることに傾いていくからである。
円空を指して、自由人で遊び心もある芸術家というが、それは梅原氏そのもののことではないだろうか。
過去の研究者の誤りを指摘する序盤の激しさには、「こんなに言ってしまって大丈夫なのだろうか」という心配を覚える。ところが、円空ファンとして、円空のすばらしさを述べるくだりは、ファンが手放しで賛美してしまう姿そのものである。
梅原氏はもともとそういう人なのかもしれないが、老境にある人が、こういう姿勢を露わにしているのは、むしろほほえましくもある。読者は円空についての理解が進む反面、終盤にかけては、置いてけぼりをくって呆然と見送ることになる。
梅原氏自身の生い立ちが語られ、そのことと、円空の生き方が無縁でないことにも繰り返し言及される。
こうも人生が重ね合わせられると、読者はついていけなくなる部分がある。でも、それが梅原氏の円空研究なのである。
時代に応じて、円空仏の作風が変化していく様を論じるあたりは、なかなかに説得力があるし、鑑賞の参考になる。この点では大いに資料的価値がある。ただし、ひたすら学術的に円空を追いかけている人は、最後にはあきれてしまうに違いない。
でも、ここで飽きてしまっては梅原日本学のよき弟子にはなることができないだろう。童心には童心をもって返すような人でなくてはついていけない。その意味では、良きにつけ悪しきにつけ、梅原氏の特色が包み隠さず出ている書であると言えそうだ。
「年は上手く取りたいな」と思わずつぶやいてしまった。
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