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紙の本
20世紀少年→21世紀中年
2009/07/02 10:12
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「いまではまったく信じがたい話だが、私たちはついこのあいだまで花は花屋で、肉は肉屋で、服は仕立屋で買う世界に住んでいた」
という書き出しを読んでいたら、30数年前住んでいた練馬の小さな商店街が浮かんできた。コンビニエンスストアはまだなく、旧盆や正月3が日には一斉に店を閉め、さながらゴーストタウンだった。ぽつんと点いている灯りは、一杯呑み屋かお茶漬け店だった。
前半は、仕立屋の家に生まれた主人公の子ども時代の思い出が記されている。豊かな自然、友だち、親のことなど。表紙にもなっている機関車、蒸気機関車が象徴的に出てくる。しかし、ノスタルジックな文学的な甘美さよりも、硬質な文明論的なものを読み取れてしまう。
で、大人になった主人公は、「石油掘削設備の技術者」になり、「ナイジェリア」に派遣されるという、いきなり話は急展開していく。あえて強引とも思える話のつなぎが、リアリティや深みを生み出している。荒涼とした風景、異郷の地でありながら、子ども時代を過ごした土地とまったく似ていないのだが、オーバーラップしてくる。
10数年ナイジェリア暮らしを経て主人公は帰国する。そこで老親と再会する。仕立屋を細々と営んでいる。結婚している彼は、親とは次第に疎遠となるが、母の病気をきっかけに会うようになる。子どもにとって親は最初の社会(もしくは社会の入口)だ。良きにつけ悪しきにつけ、コンラート・ローレンツ言うところのすりこみをされてしまう。しかし、就職などで親元から独立する、そこから先は、自分次第。ふと気がつくと、自分が子どもだった頃の親の年齢よりも齢を重ねてしまったいまの自分。親という揺り篭を出されたような、なにか居心地が悪く、胃が痛くなりそうな。
それにしてもこの書き出しは、どうよ。と思いつつ最後まで読んでいくと、腑に落ちる。文章は手書きではなくパソコンで打つようになった。缶ビールは酒屋でなくコンビニエンスストアで買うようになった。一見新しいように見えても、実際のところ、奥の奥の部分は、変わらない、旧態然としている。そういうものではないだろうか。文化が集積して文明となるならば、人々、家族の軌跡が堆積して歴史となるのだろうか。
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