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レジーム・シフトとは広辞苑にも載っている理論なのであった。これを理解すると海洋生態系や漁業資源に対する見方が一変する
2009/12/05 15:48
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投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
イワシは、かつて大衆魚の代表だった。いくらでも獲れて、安くお店に並んでいたからだ。漢字では「鰯」。「弱」という字を当てられているのも、イワシの立場を表している。
ところが、イワシの漁獲高が近年、大きく低下している。ほかにも、水揚げが減少している魚は多い。そして、その要因を「乱獲」に求める声が、これまでは大きかった。
しかし、著者は、海洋生態系の複雑さをもっと丁寧に解き明かしていく。乱獲だけでは説明がつかないというのだ。
長期間、データをとり続けていると、歴史的にイワシの漁獲量は大きな上下動を繰り返していることが分かる。そして、イワシの食べる海中のプランクトン量を調べてみると、これも上下動を繰り返している。
つまり、イワシを養える「海のキャパシティ」の変化にイワシの漁獲が左右されていることになる。これを「レジーム・シフト」というのだそうだ。
80年代前半には、当初、水産資源学者や海洋学者のあいだでも、レジーム・シフト理論は否定的な受け止め方をされていた。その後、ワークショップを重ねて、80年代の終わりには、専門家のあいだでほぼ支持されるに至ったという。90年代以降は、レジーム・シフト理論に基づく、魚類の個体数変動が盛んに研究されるようになっている。
「レジーム・シフト」は2008年に発行された『広辞苑(第六版)』にも収録されている語彙だというのだから、理論としては定着したと言える。しかし、この考えは、あまり一般の人々のあいだで広まっていないように思える。著者が本書を刊行したのも、その現状打破にある。
大気-海洋-海洋生態系という地球環境システムの変動を説明するレジーム・シフト理論はもっと広く理解されてよい。「大気」、「海洋」、「海洋生態系」の3つを関連づけて語らないと、やみくもに稚魚を放流したり、漁獲規制を行ったりということになりかねない。
ちなみに、海のキャパシティが成魚の量を決めるので、稚魚をいくら大量に放流しても、結果としては変わりがないことになる。実際、このことは北太平洋のシロザケのデータによって確かめられている。
もっとも、大気-海洋-海洋生態系のつながりを正確に理解しようとするのはかなりの努力を必要とする。著者は、各種データをあげながら懇切丁寧に説明し、読者を助けようとするのであるが。
海には海流があり、それに乗って魚類が移動していることくらいは、だれでも知っていることだが、海洋環境のダイナミズムはとても複雑だ。大気との熱交換システム、気圧と海水温の関係、それにともなう海洋生態系の変化についての説明は、読者の知力を試しているようでもある。
海洋は、一般に思われているよりも、もっと変化に富み、それ自体が生き物のごとく振る舞っている。大海原には、どっしりとした安定感があり、揺らぐことがないようなイメージを抱いていた。それが、読後に一変してしまった。
また、本書の終盤に取り上げられる国連海洋法条約や排他的経済水域の考え方は、「レジーム・シフト理論」からすると、持続可能な漁業にとっては妥当性を欠いているという指摘も鋭い。
自然の変動によって、漁業資源はもともと上昇と崩壊のサイクルを繰り返すが、回復期に獲りすぎると、資源がもとに戻らない。世界はレジーム・シフト理論を基本に、海洋計画を見直す転換点にあるというのが本書の締めくくりだ。
科学を基礎に置いた政治的判断。これが今求められている。科学が先行しないと正しい海洋政策も立てられない。そういう著者の主張はなかなか説得力に富むと見た。
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レジームシフトによる魚種交替
2015/09/26 06:10
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投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
レジームシフト理論の提唱者による著者の一般向けであり、貴重な一冊。
この書評は2015年9月記載であり、再読したものである。出版当時はイワシが消え、それは地球レベルでの気候変動による魚群規模変動で公海回遊の青色系魚種交代の展開を識らしめるものだった。
現在はさんまの値段が高騰している、ただし今回は中国等の乱獲がその原因と報じられているだけでレジームシフトによって魚群きぼの大きいさんまに漁獲が見込まれる無秩序に獲られてしまっているだけというのである。
現状はレジームシフトで獲り過ぎが次なる規模拡大の原資を奪うレベルかどうか、未定である。
日本はやはり水産学での貢献は大きく、そのなかから学際レベルの理論提唱が行われ、かなり広範な得ているはずなのだが、理を超えて経済活動にまい進する周辺国には聞く耳を持たない状況である。
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筆者はレジームシフト理論の提唱者。
「資源が低水準の時は禁漁して回復を待つ」のがよい資源管理という。
IQ・ITQにはコモンズとしての漁業資源の包括的管理に向かないとして反対の立場の模様。
でもITQ導入国の方が、日本よりも資源管理に成功しているような印象はあるのですがその点どうなのでしょうか。
ITQについてはあとがきでしか触れられてないんだけど、気になります。
ところでアイスランドのITQ金融的利用は、昨年の金融危機でなにか変ったりしたんでしょうかね。
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『イワシと気候変動――漁業の未来を考える』(川崎健、2009年、岩波新書)
日本近海でイワシが獲れなくなったといわれる。それは乱獲によるものなのだろうか?
この点、筆者は、日本付近の黒潮地域に分布する極東マイワシ、カリフォルニア海流地域に分布するカリフォルニア・マイワシ、フンボルト海流(南米ペルー沖)地域に分布するチリ・マイワシの3種のマイワシが漁獲量が奇妙にも一致していることを見出だした。これは「グローバルな気候変動が遠く離れた水域のマイワシ」に「同時に共通の変動を引き起こし」たのであり、「漁獲によって」変動するものではないと指摘する。
では、乱獲ではないとすれば何故イワシがとれなくなったのか。それは「レジーム・シフト」というグローバルな数十年スケールの海洋生物の変動現象による。海洋は何十年という単位(熱塩循環で見れば1000年から2000年!)で対流・変動しており、大気・海流がレジーム・シフトを引き起こすとされる。
その他、国際海洋法の制定の経緯、日本の漁業についてなどの記述がある。
たいへん勉強になったが、少し難しく感じた。
(2009年7月1日)
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難しかった。
はじめにと最後の章をじっくり読んで
あとは流し読み。
でも、お魚好きだからこそ
きちんと考えたい。
だからもう少し噛み砕いて書いて欲しかった。
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海洋生物資源の変動を長期的な気候変動によるレジームシフトか乱獲かという議論を軸に国際海洋政策の枠組について考える。
鯨問題にも共通するけど、この手の「国益」が絡むと途端に何が科学的か、が揺らいでく感じがよく分かる。
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[ 内容 ]
大漁・不漁を左右する海の魚の数は、地球の大気や海と連動して数十年スケールで変動していた―この「レジーム・シフト」を著書は一九八三年、世界で初めて見いだした。
九〇年代以降、世界的に大きく進展した研究成果を踏まえ、これからの海と海洋生物資源の持続的利用のあり方に明確な方向性を示す。
新しい地球環境観への誘い。
[ 目次 ]
序章 海と漁業で何が起こっているのか
第1章 イワシが消えた
第2章 プランクトンからマグロまで―海洋生態系の大変動
第3章 海は気候を記憶する
第4章 地球はひとつのシステム
第5章 分断された海で―国連海洋法条約と漁業
第6章 日本の漁業はいま
終章 海から、持続可能性を考える―温暖化とレジーム・シフト
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2012 1/16パワー・ブラウジング。筑波大学図書館情報学図書館で借りた。
なんか新書、それも自分の専門と遠い新書が読みたくなって手にとった本。
大気-海洋-海洋生態系という地球環境システムの変動を統一的に説明する「レジーム・シフト」理論を、イワシを入り口に紹介する本。海洋動態解析の話。
その理論自体が筆者のイワシの漁獲量変動の原因の研究からはじまっている。
普通に話自体が面白いのはもちろん、ふだんあまり馴染みのない分野の研究の話としても興味深かった。
・魚は大量の卵を生む、世話はしない
⇒・0コンマ数%の生き残り率の変化で個体数が激変する
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漁業の関係者ではないので、鰯と気候変動の関係はよくわかっていない。
昔、いわしは安価で、栄養源だった。
日本の経済を支えてきたのは、鰯かもしれない。
鰯を大量にとり続けられるようにするにはどうしたらいいかを考えさせられた。
漁業の未来だけでなく、日本の未来を憂える。
ps.
鰯の天麩羅も得意ではなかった。
鰯が貴重になってきて、鰯の天麩羅が好きになってしまった。
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イワシなどの漁業資源は、人間による乱獲により減少したという説を否定し、数十年間のスケールで変動する気候変動の下でその数が変動するという説を提唱。
これがなかなか面白い。数十年間のスケールで、寒冷期と温暖期が繰り返れるが、寒冷期にはイワシなどの小型魚が、温暖期にはカツオやマグロなどの大型魚の数が大きくなるらしい。
今後、温暖期が進行すると漁業資源はどうなっていくんだろう?
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著者は、魚のバイオマス変動と気候変動との関係、すなわち地球と海の生態系の大きな変動を解明した第一人者。レジームシフトを明らかにし、平衡理論に基づくMSY(最大持続生産量)の概念を覆した功績は大きい。動物プランクトンを食べる小型の浮魚のバイオマスの振幅幅は10〜20倍程度、マイワシやアンチョベータでは数百倍になる。
気候と海のダイナミクスについても丁寧に説明されている。冬季混合層(亜熱帯モード水など)の水量と性質は、北西太平洋の冬の季節風の強さによって決まり、翌年まで保存される。エルニーニョ・ラニーニャ現象は、気圧の東西の変化である南方振動(SO)が対応している(ENSO)。
北大西洋振動(NAO)は、冬季のアイスランド低気圧(IL)とアゾレス高気圧による偏西風の強さの変動。寒冷な冬ほどラブラドル海で沈み込む水が多量につくられるため、深層水の熱塩循環の強さはNAOによって変化する。そして、NAOはインド洋と太平洋の熱帯水域の海面水温の変動によって駆動されている。
FAOの海洋生物資源評価や、ネイチャーに掲載された漁獲物の平均の栄養段階の変化に関する論文、マグロ群集のバイオマスが15年間で80%減少したと主張する論文に対して、レジームシフトを考慮した分析で反論している最終章は注目に値する。
海の支配権をめぐる歴史や、日本の漁業の歴史についても触れており、索引や参考文献のリストが付いているのも親切。
多くの要因が複雑に関係しているので、なかなか完全には理解できない。しかし、地球環境と生態系をダイナミックにとらえなければならないということがよくわかった。
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自らの研究の成果を述べた本。たいへんよく調べられている。数々のデータを駆使し説得力ある論述がなされている。細部まで理解できたわけではないが、単なる乱獲が漁獲高減少をもたらしているわけではなく、キーワードとなっているレジームシフトによる、地球全体の変化のローテーションを理解しないと問題解決に至らないと警鐘を鳴らしている。それにしても欧米の横暴には腹が立つ。