紙の本
食べやすいけど、濃厚な味わい
2010/03/20 14:10
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
井上荒野さんを初めて知った一冊であり、大好きな一冊。
ハードカバーで購入後、一篇が追加された文庫版も購入。
今回また改めて読み返してみて、いいなぁと思った。
食べ物にまつわる10の短編は、空気のようなふんわりとした
軽さを含んでいて読みやすいのに、噛めば噛むほど味が出るスルメ的な
味わいがある。
時間が経ってからまた読むと
ああ、こういう気持ちも書いてあったのか、と
気づかされるような・・・・・・。
語り手の多様さに驚かされる。
井上荒野さんは、どうしてこんなに色んな人たちを
書き分けられるのだろう。
働き盛りの30代の男性の視点、10代の少女の視点、
初老の女性の視点、妻の視点、愛人の視点、少年の視点。
一話ごとにバラエティに富んでいるのはもちろん、
一話ずつのその中でもきちんとその世代の気持ちが
書き込まれているのだ。
特によかったと思うものを挙げる。
「クリスマスのミートパイ」
出社拒否症の男性が語り手。妻のあっけらかんとしたキャラクターが
秀逸。癒しとか救いというのはこういうところに存在するのかも。
「大人のカツサンド」
少女の目から見た、大人たちの複雑な事情。家では両親の離婚話が進められており、10歳の真夕は叔父さんに一日預けられるのだが。叔父さんのもどかしい優しさと、もう色々わかってしまっている真夕の心が巧みに綴られていく。
「煮こごり」
評価を高くつける人が多い作品。
31年間、愛人関係を結んだ男がある日虎に食い殺された。
という冒頭だけでもかなりぶっ飛んでいるが、
このタイトルと内容のリンクに唸らされる。
そして表題作の「ベーコン」もまたタイトルの秀逸さが光る。
亡き母の愛人である沖さんに、会いに行き続ける「私」の揺れる気持ち。
結婚を前にした娘の、母への複雑な感情が描かれる。
沖さんのつくるベーコンを、私が一緒に食べるシーン。
熟成された濃厚な肉の香りとかりかりした香ばしさが
文章の奥から広がってくるようだった。
空気のような軽さと先に書いたが、このふんわり感は、
自分のことなのにどこか他人ごとのようにさらっと描くところに
あるのかもしれない。
ハッピーエンドとはまた違う感じだけど、登場人物たちは微かな光を
当てられて明日へ向かっていく。
まずは、美味しいものを食べて考えようよ、と。
食事は血肉をつくるけれど、一緒に食事した人からは
精神的な栄養をもらっているのかもしれないな。
電子書籍
全部包み込んで飲み込んで
2017/08/02 22:48
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
荒野さんはとってもかくかくした文章を書く。何というか女性特有のまろみをもった文章ではない。それなのに、ふとした言葉や一文に優しさやかわいらしさが潜んでいる。だから読んでいてとても心地いい。食べ物と大人と子供と愛のカタチといろんな要素が合わさって、まざりあってこの本はできあがっている。その食べ物を作った者、食べた物、気持ちも一緒に飲み込んでいる。消化(昇華)させるために。水餃子やトナカイサラミやベーコンは、どうやって昇華していったのかな。血と肉になるだけじゃなく、人生を続けさせ包み込み許すのが食事なのかも。
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[2009.08.19]
“さっきからおかしな言葉遣いになっているのは、もしかして照れているのか、と芳幸は気づく。”
読んでると、恋人に電話がかけたくなるような、好き、って言わないと足元から崩れそうな、そんなかんじ。
あんまり好きじゃない。不安になるから。
でも、上手い、とおもう。
最後まで読まないとどうなるかわからない、不安定な感じがリアル。
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アイリッシュ・シチューと、トナカイサラミが…好きかな。
お奨めできる一冊何だけれど…まだ言葉にしにくいというか、
この人の作品の良さがことばにしにくいのかもしれない。
でも、いい。
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井上荒野サンすきです。
食べ物をめぐる、色んな形の話。
しかも、ストーリーによって登場方法が少しずつ違うのがいい。
私だったら、どんな食べ物のエピソードができるかなあ。
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ナツイチ。未読。
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8月17日に読んだ。
読んでて思ったのは…浮気多いな!ということ。
出てくるご飯は(水餃子を除き)おいしそうだったから、期待していたもの、ではあったんだけど。
この作家は初めてで、最初の"ほうとう"を読んでうわーんってなった。
ちょろっと目を通した解説にもあったけど、これらの話は登場人物の関係性が不確定で終わっていて、その後どうなったって不思議でない、不自然でない。もちろん物語が終始平坦だとか、そんなことはないんだけど、ちゃんと事件はあるんだけど、それでも、それが物語世界にどう作用するのか、ていうか、作用するのか。文体がクリアなだけに不確定性が印象に残った感じ。
ほうとう
クリスマスのミートパイ
アイリッシュ・シチュー
大人のカツサンド
煮こごり
ゆで卵のキーマカレー
トナカイサラミ
父の水餃子
目玉焼き、トーストにのっけて
ベーコン
クリスマスのミートパイの奥さんの「あれをご覧」のところと、
大人のカツサンドの真夕が好きかな。
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おいしそうな食べ物たちに惹かれて買ってみたら、あたりだった。
ただ、おいしそうなだけでなく、「愛と官能」の話。
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純文学なのだろうと思う。初井上荒野だけど、文章は上手いけど、心の奥底の官能という言葉にそそられたけど、うーんよくわからない。長湯用に読むにはちょうどいいかも。真剣に読み込むのは・・・。この人は短編向きじゃないと思う。
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7月。単行本も読んだのにまた文庫を買っちゃうほど。トナカイサラミは文庫書き下ろしだし。というような妥協の無さに感じいった。間違いなく繰り返し読みたくなる作品だ。
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「忘れられない食べ物」と「男女」に関しての短編集。
強がりであったり、一歩間違えばすぐに崩れてしまう関係性によって
本当は伝えてしまいたいことを上手く言葉にできない、あるいは敢えてしない人たちが
それを食事に託している、という風に思えた。
都合の悪いことに「気付かないふり」をしていたほうが
きっと自分は幸せでいられる、と思っている人達の話が多かった。
どんな人にも、真っ直ぐな部分と強かな部分があると思うのですが
「強かさ」のほうに焦点をあてた話だと思います。
その強かさに対する迷いみたいなものも書いてあります。
文体にはあまり癖がなかったような気がするので、読みやすいのではないかと。
しかし淡々としているので、退屈な人には退屈かもしれない。
『煮こごり』と『ベーコン』が好きでした。
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淡々と美しい文章で綴られる日常に静かに訪れる人生の転機。予期していたかの様に静かにやってくるそれは、悲しすぎると涙がでない時に少し似ていると思いました。
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またもや「食と恋愛」が対になったテーマの本を選んでしまった。
どの短編に出てくる食べ物も美味しそう、それでいて、
なんだか切ない味のような感じ。
この作者が描くのは、どれも独特の不透明な恋愛模様だが、
そのハッキリしない様子が私には小気味良かった。
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こんな悲しい話が読みたかったんじゃないの。ないの。
1つ目の短編でぱたん。
どうしてだか私は、フィクションはしあわせに帰結するに違いないと思っているようで、
どうして悲しさを敢えて創出できるのか、不思議に思うのでした。
でもきっと好きな本だ。
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ベーコンをはじめ、食べ物をモチーフにした短編集。さまざまな男女による
それそれの愛と食のあり方を描いている。エロティックで魅力的な人物が登場し、それぞれ味わい深い。
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ベーコン、アイリッシュシチュー、ほうとう、煮こごりなど、食べ物をモチーフにした9編。
1ページ目から「不倫かよ」と1mくらい引いてしまった点も補い、
よく出来て読みやすく、ピリリと諧謔も効いた女性好みの本でした。
江国香織作品に通じるところもあるが、雰囲気だけでなく生活感があり、共感もしやすかった。
初老の恋人の頓死から浮かぶ謎が、ある意味ミステリー仕立ての「煮こごり」、
ローティーンの悪意と暴走が恐ろしくも痛ましい「目玉焼き~」など、
シンプルに物語としてレベル高く面白いと思う。
で、個人的に印象が強かったのが、まず「アイリッシュシチュー」。
料理好きの専業主婦、その世界と視野の狭さ。些細な不安。
通り魔のような一瞬の裏切り(誰に対して?)。とても共感。感覚が近いのかも知れない。
外から見ると、ほんと矮小でしょうもないが、これはちょっと、わかっちゃうのがイタイ。
そして一番強く残ったのが「キーマカレー」ですな。
離婚が成立していない同棲中の恋人のところに、10代の娘たちが訪ねてきて、
身を隠す間、行き場を失って路頭に迷う(?)若い女。
境遇は全然近くないんだが、彼女の寄る辺ない不安、疎外感、
世界中から見放されたかのような一人ぼっち感があまりにもかわいそうで、
何故か一番感情移入してしまい、ラストの救済で泣けてしまいました、不覚にも。