カトリシズムと正教会の間で。
2009/09/24 21:12
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は大体テオドシウス帝が行ったキリスト教の国教化前後からビザンチン帝国の滅亡とルネサンス直前までのヨーロッパのキリスト教文化の成果としての「中世美術」を扱っている。普通、よく扱われる「中世美術」はカトリックの西欧社会のものだが、正教会の社会(といってもビザンチン帝国の支配下にあった地域のものだけで、スラヴ系の文化は扱っていないが)も等しく扱っている。勿論、その底にある「異教美術」の影響も触れているが。
242頁にある「ニコデモの福音書」は外典福音書だが、こういった新約外典が中世美術に及ぼした影響も触れたら、もっと面白いだろうが。本文批判としての価値は「トマスによる福音書」や「ディアテッサロン」といった教会から「異端」の書として破棄されたものより劣るとしても、中世社会においての影響は大きいだろうから。
ところで254頁にあるヴァティカン図書館蔵として紹介されている10世紀に描かれた巻物状の「ヨシュア記」は、どういうものか、写真を見てみたいものだ。70人訳かウルガタか、は書かれていないが。
中世ヨーロッパ美術
2023/10/07 10:44
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
中世ヨーロッパの美術についてキリスト教の影響で画一的になってるという偏見が世間にはあるがそう単純なものではなく豊かな世界が広がっていることがわかり面白かった。
あくまで中世美術に近づく糸口になる書としてなら
2009/09/26 23:54
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投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年の夏にスペインに旅した際、バルセロナのカタルーニャ美術館でロマネスク芸術の一大コレクションを目にし、さらに聖地サンチャゴ・デ・コンポステラで大聖堂と巡礼文化にほんの一時触れる機会がありました。そのことを契機に、ヨーロッパの中世芸術についてもっと知りたいという欲求が私の中に生まれました。折よく今年7月に本書が出版されていたことを知り、手に取った次第です。
320頁近い、中公新書としては比較的厚手の書です。著者は愛知教育大学の教授。
聖遺物、イコン、写本、巡礼、建築、修道院、壁画、といったジャンルにより分けて章立てをしながら、古代とルネサンスの間に位置するヨーロッパ美術の特徴について、です・ます体で丁寧かつ平易に綴っていく試みがされています。
読了後の率直な感想を述べれば、各章に記されていることはどちらかというとエピソード的な事柄の積み重ねが多いような印象を持ちました。様々な歴史的事件や聖書に登場する物語が次々と取り上げられているのですが、並列的に綴られているために、章の中の各項・各ページを読み継いでいけば知識や情報が深化する、という思いは味わえませんでした。
あとがきで著者自身がこう記していました。
「この本ではほんのいくつかのことを紹介したにすぎず、中世美術に少し近づくきっかけであると思っていただければありがたい。」
その言葉通りの目的を本書は一応果たしているかもしれません。
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『ヨーロッパの中世美術―大聖堂から写本まで』(浅野和生、2009年、中公新書)
「大聖堂から写本まで」となっていますが、大聖堂や写本の前提となるキリスト教の成立の歴史も簡単に述べられており、中世のヨーロッパのキリスト教文化にもとづく美術が理解できるのではと思います。
大聖堂や絵画などの写真も多いのですが、ただ白黒印刷なのが最大の欠点ですね。口絵にはカラーの写真もあるのですが、圧倒的な少なさとなっています。
(2010年2月20日)
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本書は、西洋美術史を専門とし、
現在は愛知教育大学教授である著者が
西洋の中世美術について概説する著作です。
ローマ・ギリシアとの連続性や
キリスト教徒の関係など、中世美術の全体像を概説した上で、
信仰、聖遺物、都市、写本、そして巡礼など、
テーマごとに個別の作品を紹介します。
美術史の著作というと専門用語が並び
近寄り難い印象がありますが、
本書は話し言葉で書かれ、専門用語も必要最小限なので
気軽に読み始め、読み通すことができました。
観光のような巡礼、中世美術とルネッサンス美術の関係など
興味深く、もっと深く知りたいと思うことは多くありましたが、
とりわけ印象深かったのは、
カンタベリーの修道院について論じた12章。
私の場合、作者の顔がなかなか見えてこないことが
中世美術を敬遠する一因でしたが
ここでは修道院の復興工事を指揮した仏人建築家ギヨーム・ド・サンスについて
作業の工程や、建築の特徴をつぶさに紹介しているので
遠い過去の建築家でも身近に感じることができ、
彼が建てた修道院も、ぜひ実際に訪れたいと思いました。
ルネッサンス以降の美術と比べて、
縁遠く、興味を持ちにくい中世美術について、
平易かつコンパクトに解説した本書。
美術史に興味がある方はもちろん
ヨーロッパ旅行のご予定などがある方には、
強くおススメしたい1冊です☆
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世界史を選択していなくて一番困ったことは、美術館や展覧会で西洋絵画のおもしろみが今一分からなかったことです。
この本ではそんな悩みに応えるべく、キリスト教になじみのない私にもわかるように、ヨーロッパ史とキリスト教の発展と、それがどのように絵画や美術品の主題となったのかを解説してくれています。挿図もたくさんあり、パラパラめくるだけで楽しめますよ。教養はないよりもあった方が人生楽しめるかも…と思う一冊です。
(熊本大学学生)
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[ 内容 ]
古代ギリシア美術といえば「ミロのヴィーナス」、ルネサンス美術といえば「モナ・リザ」。
さて、典型的な中世美術といえば、何だろうか。
キリスト教美術というイメージもあって日本人にはとっつきにくい印象があるが、先入観を取り払って見てみれば、奥深く多様な魅力に溢れている。
エフェソス、ラヴェンナ、ブリュージュなどの遺跡や町をめぐり、大聖堂のステンドグラスを見上げながら、未知の世界に触れよう。
[ 目次 ]
中世美術とキリスト教
古代から中世へ
王国の夢―ラヴェンナ
市民たちの信仰
聖堂の壁画
聖遺物
イコンと祭壇画
中世の町
巡礼
修道院
写本
中世の建築家―カンタべりー
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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私は美術についてまったくと言っていいほど知識はないし、物凄く興味があるというわけでもない。
しかし、こうして歴史的な観点から美術を見てみると、素人目線で見ても、とてもおもしろい。
当時から画風の流行があったと知り、現代のマンガの画風の変遷なんかと比較してしまうと、少し楽しくもなってきた。
うーん、中世美術は不思議な世界だ。
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中世においてキリスト教がいかに人々の生活、美術、価値観に影響を与えていたかがよくわかる。
著者の、ルネサンスが作る華やかなイメージはヨーロッパ人によって作為的に作られたものであるというのはそれなりに妥当性もあり面白い見解だと思った。
ヨーロッパに旅行に行く前に読んでおくと、ロマネスク建築やゴシック建築、そこに描かれた壁画を見る時に、より面白く感じられるんじゃないかと思う。
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カテゴリはイギリスですが、イギリスの内容は少なめです。ほとんどはイタリアとか、トルコとかギリシャです。
口絵を見て、カンタベリー大聖堂があったので(1章を割いている)、図書館で借りてみました。
久々に読んだ気がする新書。
先日行ったイギリスの記憶が鮮明なうちに、勉強しておこうと思い、手に取りました。
確かに、美術館で見る名画の数々の多くは、ルネサンス以降のものなんですよね。
イギリスに限って言えば、中世の芸術が見たければ、本国に行けば見られるというのはあります。この本が多くのページを割いている大聖堂は、のちの時代に改修している可能性が高いですが、基礎はかなり古い時代のものですし、ステンドグラスや彫刻などは中世のものが多いようです。日本の美術館でヨーロッパの中世美術を見ることは大変でも、本国に行けば簡単にみられるんですね。
そして中世美術と言えば、やはりキリスト教に関わるものが殆どです。日本でなかなかお目にかかれないのも、中世美術がヨーロッパの人々の宗教観を強く反映していて、日本人に理解するのが、ルネサンス以降の美術と比べやや難しいというのはあると思います。でも、それを日本の芸術にたとえてみると、私は鎌倉時代の芸術を外国の人に見てもらい、質実剛健な文化を知ってもらいたいなと思います。日光や京都は外国の方に人気のある場所だから、やっぱり中世の芸術はヨーロッパも日本も、その国に行って、見てもらうのがいいのかも。
おもしろいと思ったのは、3世紀にヴェネツィアで作られたらしい「四皇帝像」についての記述。面白いというか、ここは著者の意見に違和感を覚えたので印象に残っています。前1年に作られたらしい有名なアウグストゥス像と比べて、お地蔵さんのようなこの四皇帝像は理念を表していて、人間の作りも簡略化されているからこういう像になったんだ、という説明。加えて、時代の美術の趣味の変容、という説明もされています。
アウグストゥス像は確かに美しいと思う。とても前1世紀のものだとは信じられないくらい美しいギリシャ風の彫像です。でもキラキラしすぎていて、何だかメッセージが薄くなるというか、つまり件の四皇帝像のほうが心に訴えかけてくるものがあると思うのです。著者はそれで「理念」重視と言ったのだろうけど。その理念を理解せよという感じで、芸術としての評価は低いように書かれていますが、信仰の対象になりやすいと思うし、こういうのも何ですが、かわいいと思います。アウグストゥス像は美男子だけど、拝む気持ちにはなれない。日本人的には、等身大の美しい男の人の像よりも、お地蔵様の方に畏敬の気持ちを持ちやすい気がします。
キリスト教の教会建築の名前はいろいろあって「カテドラル」と「チャーチ」は違うのだろうなと思いつつもどこが違うのかはっきりわかっていなかったので、その説明があったことは嬉しかったです。
建物の大きさがどうとかではなく、司教様がつかさどるところがカテドラルなんですね。
(じゃあ、なんでヨークはミンスターなんだろう?)
それから、ヨーロッパでは遺体を保存するが日本では火葬、というところに焦点を当てて、遺体保存についての説明をしていたところも興味深かったです。
著者によれば、ヨーロッパでは最後の審判を受けるときのために、遺体を保存しておくのだそうです。極悪人が火あぶりにされるのは、残酷な刑死を与えるためでなく、最後の審判を受けさせないためなのだとか。私なんかは、神さまは公平にさばくのだから、本当に極悪人なら天国に行くこともないだろうに、生まれてきたからには誰もが審判を受ける権利があると思ってもよさそうなものなのに、それこそ残酷な、と思いますが。
この本には、いろいろ刺激を与えてもらいました。図書館の天使がいましたね。読んでみてよかった!