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紙の本
団鬼六こそ「最後の文士」
2010/08/21 08:46
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
少し前には「文士」という呼び方があった。
文筆を生業(なりわい)にしている人を指してそう呼んだものだが、この言葉には単に職業をいうなにごととは少しばかり違った雰囲気があったものだ。
それを正確にいうのは難しいが、どこか職業を斜(はす)にみている気分といえばいいだろうか。それとも、正しい営みではない覚悟のようなものというべきか。履歴書の職業欄に書くべき何ものをももたない作家たちが「文士」たちだったように思う。
現代の作家たちはそんな「文士」からほど遠い。職業感として、会計士や○○商事の部長と同じところに、「作家」がある。きっと彼らは何のためらいもなく、履歴書に「作家」と書くにちがいない。
どちらかいいとか悪いという問題ではない。
ただ「文士」には人間をじっと凝視する何かがあったような気がする。
団鬼六はいわずと知れた官能小説の大家である。
本作は団の父親の物語として、戦争末期に体験した(と思われる)不思議な人間模様を描いた作品である。
団が得意とする官能場面は少しはあるが、それよりも普通では想像できない人間の姿が、団の加虐被虐のめくるめく世界と同位であることに、団鬼六という作家の世界観があることに納得させられる。
物語の舞台は特攻隊基地である鹿屋航空基地。特攻攻撃間近の滝川大尉は愛人八重子を基地そばの「すみれ館」という洋館に住まわせている。滝川は八重子に、自分が死んだら部下である中村中尉にお前を譲るという信じがたい提案をする。
そして、滝川は特攻隊として出撃。滝川の命令どおり八重子を愛人とした中村中尉だが、彼もまた特攻隊として出撃する前に後輩の横沢少尉に八重子を譲り渡す。
女の人格などあったものではない。現代の女性からみたら、三人の男たちだけでなく、八重子の存在もありえないだろう。
しかし、最後の男滝沢を追って前線まで彷徨い、最後には空襲の紅蓮の炎のなかで命を終える八重子のなんともいえない官能性は、なんとも艶かしい。
それを肯定するか否定するかはともかく、団鬼六という作家はそういう女性をこよなく愛しているといえるのではないだろうか。
団鬼六の、人間とは時に破滅を好み、滅びさることをよしとするものであるという、そういう姿勢はもっと評価されていい。そこには覚めた人間凝視がある。
団鬼六こそ、「最後の文士」といっていい。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
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