紙の本
原題をそのまま日本語に訳しただけなんですけど、『水時計』っていうタイトルで損してるんじゃないか、って思います。それと主人公に魅力がない。浮気をするから、っていうだけじゃあなくて、可愛くないんです。そういう意味では本当は☆一つ減らしたいところなんですが、ミステリ部分は悪くありません。ちょっと甘めの★4つ。
2010/03/08 23:34
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説を選ぶ時、惹きつけられることばというのがあります。私の場合、CWA受賞作、MWA受賞作、ローカス・ヒューゴー賞受賞作、星雲賞、谷崎賞、山本周五郎賞とまあ内外を問わず、○○受賞っていうのが多い。中でも英国推理作家協会賞(CWA)については、シルバーダガー、ゴールドダガーなんてみただけで飛びつくわけです。で、幸いなことに期待を裏切られたことが殆どありません。特にCWAは。
でこの本、カバーに
*
11月、イギリス東部の町で氷結した川から車が引き揚げ
られた。トランクには銃で撃たれた上、首を折られた死
体が入っていた。犯人はなぜこれほど念入りな殺し方を
したのか? さらに大聖堂の屋根の上で白骨死体が見つ
かり、敏腕記者のドライデンは調査をはじめるが――。
堅牢きわまりない論理、緻密に張られた伏線。CWA賞
受賞作家が描きあげた、現代英国本格ミステリの傑作。
*
とまあ、殺し文句があるわけです。おまけに「現代英国本格ミステリの傑作」ですからね、もう向こうから美脚を見せて誘っているような状態です。ただし、タイトルの『水時計』っていうのが、なんていうか野暮ったい。原題が THE WATER CLOCK なんで文句言えた義理じゃないんですが、カーの『死時計』とかランドンの『日時計』とかあるわけです。
いや、時計をタイトルにしたミステリって、たくさんある。ただし、どれも現代感覚は皆無、昔懐かしいガチガチの本格というのが多い。私としては何となくミネット・ウォルターズのことが頭を過ぎるんですが、でもねえこんなに詰まらないタイトルはつけていない。正直、躊躇しました。私は現代的な警察小説は好きだけど、本格はねえ、黄金時代の作品で間に合ってる、っていうか・・・
とりあえず David Toase/Stockbyte/ゲッティイメージズ とコメントが就いたカバー写真と、本山木犀の装幀も及第点ではあるものの、これまたタイトルを引き摺ってモダンというよりは古色蒼然。イマイチ、ピンとこないし。そういう意味で不安があるわけです、私としては。ついでに扉の言葉も書いてしまえば
*
痺れるような寒さの11月、イギリス東
部の町イーリーで凍った川から車が引き
揚げられた。トランクには、銃で撃たれ、
死後に首を折られた死体が入っていた。
犯人はなぜこれほど念入りな殺し方をし
たのか? さらに翌日、大聖堂の屋根の
上で白骨死体が見つかる。ふたつの事件
が前後して起きたのは偶然か? 疑問を
抱いた敏腕記者のドライデンは、調査を
はじめるが――。ねばり強い取材の果て
に、彼がたどり着いた驚愕の真相とは。
堅牢きわまりない論理、緻密に張られた
伏線。CWA賞受賞作家が硬質の筆致で
描きあげた現代英国本格ミステリの傑作。
*
となっています。微妙に異なる文章は比較して楽しむのにピッタリです。で、これだけしっかりした内容紹介があるので、私としては人物中心に書いていくことにしますが、まずは読後の印象です。幾つもの事件が絡みますが、それがどう結びつくか期待しながら読むお話です。ただ、それだけではないところがあって再読をしても十分楽しめます。
とはいえ、主人公フィリップ・ドライデンの性格の悪さはどうしようもなくて、無論、それゆえに独自性があるけれど、読んでいて不快感ばかり抱いてしまいます。フィリップは週刊新聞『クロウ』の上級記者で、職業ゆえか取材のためなら平気で嘘をつくし、困っている人間を騙すことも気にしません。
現代の多くの英国の警察小説の主人公たちの多くは反骨精神の持ち主で、気に食わない上司に刃向いますが、弱い者いじめはしませんし、浮気をしても後ろめたさを感じて、ある意味、理解出来る存在です。ところがフィリップは正義感がないせいか反省の色はありませんし、権力には迎合する、長身でハンサムなのをいいことに、寝たきりの妻がいるのに、平気で浮気もします。
ちなみに、妻のローラが寝たきりとなり二年経った今も意識が戻っていない事故を起こしたのがフィリップです。それで浮気かよ、なんて思います。しかもです、事故の記録はなぜか公表されていないし、事故の相手も見つかっていない。その状態を放置している新聞記者? ありえないでしょ、それって。
それとハンフリー・H・ホルトというドライデンのお抱え運転手というのがわかりません。お抱え、といってもタクシーの運転手というのですから原著にはなくても補足の必要があるんじゃないでしょうか。ハンフリーは無口でめったにしゃべらないものの、語学テープを使ってヨーロッパの4ヶ国語を会話レベルまで習得している、なんてリアルというよりはファンタジーでしょ。
ほかにもドライデンの同僚の記者や、あまり有能ではない警察官、同性愛者である牧師、厩舎を焼かれてしまい動物も焼き殺されてしまったサーカスの管理人、酒飲みの市長や美しい市長夫人、目立ちたがり屋の義員や大聖堂の修理をしている建設業者、チンピラや賭け事に嵌っている中華料理店主など多彩な人物が登場しますが、どうも他のCWA受賞作家たちに比べ見劣りがするのは何故でしょう。
纏め方はそれなりに工夫があって、悪くはないのですが、人物設定と描写にこれといったところが見受けられないため、せっかっくの工夫が生きていない。英国作家としては珍しいほうではないでしょうか。私としては思い切って別の登場人物で新しいシリーズを開始したほうがいいのではないか、そのときは全ての人物をもっと書き込んだらいい、なんて思います。
結局は、登場人物の魅力なんです、小説の良し悪しは。
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読了してみると本格だったことがよくわかる。過去の事件や伏線の張り方など、シンプルなプロットはよく練られており、安定している。
主人公の担当は本事件だけではないので、細かな雑誌ネタが同時進行しているのだが、この辺りの展開が多少ごちゃごちゃしていた。全体的に見れば必要なエピソードだが、のろのろと乱雑な展開が続くので、中盤でのペースダウンは避けられなかった。
静かで地味なストーリーなのに、語り口はユーモラス。センテンスの最後の一言が、どう考えても余計なのだが、可笑しくもあり、時にはブラックすぎて笑えなかったりと結構いい雰囲気を出していた。
ごちゃごちゃな展開も、後半には必要なものだけが残り、すっきりと整頓されてくる。地味に拡がった風呂敷は、同じく地味に収束する。すべての謎に決着がついたとは思えないが、作者の努力は伝わってくる。良質の本格ミステリだと思う。続編を読むかどうかは思案中。
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銃で頭を撃たれ、首を折られた男の遺体の乗せられた車の発見。大聖堂の改修工事で発見された白骨死体。30年前に起きた強盗事件の犯人と思われる男か?新聞記者ドライデンの捜査。
船橋図書館
2010年4月3日読了
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とにかく読みにくい。英国流の言い回しや題材など、背景がわかりにくい。というだけなら☆2つになってしまうが、プロットそのものは重厚でよく出来ている。しかも、これがデビュー作だというのに驚く。映画になりそうな作品。後半にかけて川の増水につれてクライマックスに進んで行く盛り上げ方もすばらしい。
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表決した川から引き上げられた車のトランクから発見された死体。
時を同じくして大聖堂の屋根の上で見つかった白骨死体。
二つの事件を敏腕事件記者が追う。
敏腕事件記者と言っても水にトラウマがあり、さらに臆病な一面を協調されて描かれているので決してかっこいい訳ではない。ただ事件に対するしつこさは飛びぬけている。
事故で眠ったままになったいる妻を抱え、己の無力さや罪悪感と戦ったりもしている。とても人間臭い主人公なのだ。
主人公と行動を共にするお抱えタクシー運転手も味があっていい。この先二人がどういう事件に関わっていくのか楽しみ。
本編はきちんと伏線が張られていて、それを論理で回収している。目新しいところや突飛なところはないけれど、安心して読める。
主人公の最初のエピソードが最後に繋がって行くなど話の持っていきかたもありがちだけどそこそこ巧いと思う。
ミステリ部分でこの水準を保ちつつ、人間関係の描写が深くなればもっと楽しめるシリーズになるんじゃないかと期待。
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舞台が沼沢地(フェン)ということで、じんめりとした感覚が作品から伝わってきます。『ウォーターランド』を読んだ時と同じだなあと思い読んでいたら作中に出てきたので驚きました。水にまつわる主人公の過去と、一見繋がらない2つの殺人事件が時に絡まるように語られていきます。が、なぜかミステリより寒々しい雰囲気のほうが印象的に残ってしまう作品でした。
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イギリスの田舎町で見つかった二つの遺体と過去の強盗事件との関連と犯人を新聞記者が追い詰める。その町はなんと「トムは真夜中の庭で」にも登場していた!?
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氷漬けの死者、大聖堂の白骨
水に彩られた怪死事件の真相とは?
敏腕記者が凍てつく街を駆ける
いやあ読みにくかった。
自分の読解力がないのも確かだが、読みにくい。
11月、イギリス東部の町で氷結した川から車が引き揚げられた。
トランクには銃で撃たれた上、首を折られた死体が入っていた。
犯人はなぜこれほど念入りな殺し方をしたのか?
さらに大聖堂の屋根の上で白骨死体が見つかり、調査する主人公記者・ドライデンに警告が―。
イマイチでした。緩急がないので読むのに時間がかかりました。
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うまいな。
巧みなプロットと主人公の心理描写、背景描写、
水にからむいくつもの話。
正統派フーダニットとして一気読みした。
相棒とのからみもイイね。
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借。全体的に灰色のイメージが付きまとう小説でした。晴れることのない空、それと同時に登場人物も主人公もみんな影を引きずっているよう…。あまり感情というものが爆発しない大人ばかりで、私にはちょっと早かったかも。
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新聞記者を主人公にした本格ミステリ。
ミステリ的な部分もさることながら、自然の描写が素晴らしいところが英国ミステリらしい。ややストーリーの進み方がのんびりしているきらいがあるものの、構成に破綻などは見られず安定しているのが持ち味かな?
本文中でも言及されているが、新潮クレスト・ブックスから出ている『ウォーターランド』の描写に似ている部分がある。こちらも矢張り沼沢地を舞台にしている。
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情景描写が細かくて、初めはなかなか集中して読めなかった。じめじめした沼地の雰囲気は伝わってきた。
細かい伏線が後々まで活きてくるのが面白かった。
続編があるそうなので、妻の容態も気になるし、翻訳されていたら、また読もう。
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積読崩し㊥ 10年積んでたw
ハンフリーが良いキャラですね。
なんだかね、彼が出てくるとほっとしますね。
癒しキャラですね。
ドライデンがクソ真面目なというかちょい重い系だけにね。まぁ、彼は色々背負ってるから余計なんでしょうけれど。
いや、ハンフリーだって、色々あるのよ。
氷の下から見つかった車の中から、殺害された遺体が見つかった。
その数日後、1966年の強盗事件の犯人が大聖堂で見つかった。事故なのか自殺なのか?
捜査の結果、車の中から見つかった遺体も、1966年の事件の犯人の一人レグ・カムだという事が判明する。
関連性はあるのか?
大聖堂でみつかった遺体はトマス・シェパード。
彼のことを調べていたら、なんだか核心に近づいちゃったみたいで、狙われるドライデン。
彼は警察じゃなくて記者なのに、警察より捜査が進んでる・・・
その内容と引き換えに、過去の自分の事故にまつわる開示されていない情報をもらえるように働きかける。
なかなかに、渋られる。
1966年の強盗事件の捜査を率いていたのは、ブライアン・スタッブス。
今、捜査を率いているのはその息子、アンディ。
大聖堂で見つかった遺体トマス・シェパードを犯人だと、指紋が見つかったとしたのは、ブライアンだが、それはねつ造だと言う事がわかってくる。
そして、彼はそのころから、すでにアルコール中毒だったということも。
トマスはその日、市長の妻のリズと出かけてたのに。
強盗しなくても、競馬で一山当ててたのに。
あの時、ブライアン副署長が、指紋を捏造しなければ、
ブライアンは今も生きてたかもしれないって事だよね・・・
犯人にしたてあげられて、それを分かった上で、本当の犯人たちと取引していなければ・・・。
本当の犯人の一人は、トマスの兄。
兄がいたから、トマスも取引に応じたんだろか。
兄は、ちゃんとトマスが逃げられることを信じていたし、生きてるとずーっと思ってた。アメリカで新しい人生を手に入れて、その為には過去を捨てなければいけないから、だから自分とも連絡を取っていないんだ、と。
結局は、今回、レグ・カムを殺した人物が、強盗で奪ったお金を独り占めしていて、そして、カムから事件のことがバレる可能性が出てきたことで、彼を始末した。
ピーターと、当時呼ばれていた男は誰なのか?
犯人は、そうでしたか。
全くわかってなかったwww
布石は置かれてるっていうけど、私、そっちより、ドライデンの事故の方に気が行ってたかしら?
そっちは、なんとなく予想してた通りでした。
ほら、タイトルが「水時計」だしさ、絶対、絡んでると思うじゃない?
犯人と対決は、危険すぎるよ、本当に。
主人公というのは、無謀な人物のことであるなぁ。
トマスのお兄さんビリーに感謝だぞ。
自分も大けがしてんのに、助けてくれたんだもん。
まぁ、感謝は示されていたけれども。
アンディ部長刑事は、今回なんとか色々頑張ったけど、
それ以前の事件のことで、結局降格な���ですね。
お父さんの悪行もあり、ちょっと不憫な気がせんでもない。
ローラは、シリーズ通して、回復していったりするんかなぁ・・・それは、読んでのお楽しみか。
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日が暮れようとしている氷点下の11月。沼沢地帯支流の黒い川面から引き上げられたのは、ねじ曲げられトランクに押し込まれた無残な遺体だった。さらに翌日、白骨化した死体が大聖堂の屋根で発見される。イングランド東部の素朴な片田舎に似つかわぬ不吉な出来事……週間雑誌『クロウ』の記者ドライデンは日々地方紙ならではの小さいエピソードを取材していくうちに、ふたつの事件の繋がりに気付く。秘めた思惑から更なる調査をはじめて━━━
ドライデンシリーズ第1作目。入念に練られたプロットがどっしりと基盤をなし、劇しい描写はないものの、読後登場人物達の過去を呑み込む鬱々とした沼沢地帯が胸に重く残る。物語は終わり、キャラクターは存在を持ち歩き始めた。次回作に期待。
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ケリー2003年発表の処女作。地味ながらも繊細な文章で、舞台となる地方都市イーリーの冷たくも美しい情景を描き出している。凍結した川から引き揚げられた車に身元不明の他殺体が発見される冒頭から、嵐の中で殺人者と対峙する終幕まで、物語の底流には淀んだ水がうねり、渦巻く。主人公ドライデン自身が水に呪われた存在で、不慮の事故によって運転していた車が水没、同乗の妻のみが長期にわたる昏睡状態へと陥っている。新聞記者でありながら、取材には旧友のタクシーを利用。そのトラウマが追い掛ける殺人事件と絡み合うことで物語に厚みが増し、単なる謎解きから脱している。だが、事件の鍵となる多くの事実は知己の刑事からもたらされているため、記者としての力量が感じ取れず不満が残る。ただ、過去と現在を繋ぎ真相を探っていくプロットは緊張感に満ちており、陰影のある世界観にも好感が持てた。