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死者の軍隊の将軍 みんなのレビュー

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みんなのレビュー6件

みんなの評価4.7

評価内訳

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6 件中 1 件~ 6 件を表示

紙の本

骨まで愛して

2010/09/26 01:07

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る

これは傑作だった。カダレは以前いくつか読んで、アルカイックな壮麗さはあるがまあ朴訥とした真面目な作家、というイメージがあったのだが、この長篇は、たしかに素朴な味わいはあるにしても、まったく違った「軽さのエレガンス」の感じられる作風で、非常に楽しんで読めた。
物語はいたってシンプル。戦争が済んで20年ほど絶った後に、自国の兵士の遺骨を収集しにきた「将軍」が、「司祭」やアルバニア人の「技師」、また「将軍」とは異なる国から同じ目的でやってきた「中将」などと連れ立ったり交錯しながら旅するお話。ほとんど全編にわたって「将軍」と「司祭」による暗く陰鬱な掛け合い漫才が続けられ、嘘かホントかわからないような戦時中のエピソードやらいかがわしい「アルバニア人(の民族、文化)論」やらが語られ、地元の人間からはひたすらうさんくさく疎まれつつ死体をほっくりかえす珍道中といった趣で、この皮肉な黒い笑いはきわめて苦いのだが、スタイルとしてはドン・キホーテとサンチョ・パンサ、あるいはジャックとその主人を思わせるもので、しかもそのディスコミュニケーションはどんどんインフレし後半に至って「後戻り不能」な地点にまで達し、浮薄な成功を夢見る「将軍」の思惑(結婚式に参加し地元民と酒を酌み交わしてダンスを踊る)をズタズタに引き裂き、冒頭から繰り返し現れる「身長1メートル89」の「大佐」の運命/本性を暴露する老婆に「袋」を投げつけられる場面ではほとんど幻の哄笑につつまれるような不思議な痛快ささえあって、しかも、その後のトラックでのやりとりで決定的に「将軍」は「司祭」に見放されてしまう顛末のあたりでの呼吸は、実に現代的できわめて見事である。その後の長い下痢のような「中将」との掛け合いの場面と、スッと切るようなラストとともに、いかにも20世紀の傑作にふさわしいものだ。この浮薄な苦いアイロニーはなんとなくイーヴリン・ウォーを想起した(悲劇への志向と、その不可能性に対する敏感な知性と、あとはちょっぴりの感傷)。また、もちろん日本人である私にとっては、大岡昇平の一連の作品や、川内康範の活動などが知られる旧日本軍の戦没者遺骨引き上げ運動なども想起せずにはいられないものがある。そして「将軍」がカラオケで「骨まで愛して」を歌うシーンが眼に浮かぶのだ。

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紙の本

出征から戦死に至るまでを「遺骨回収」の過程になぞらえて書く。アルバニアを他国人の目線を借りて書く。作中話の枠で、戦争が戦地の庶民生活にもたらしたものを書く。工夫をこらした、アルバニア出身の世界文学巨匠の出世作。

2010/01/15 23:28

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 エジプト由来「ミイラ取りがミイラになる」ということわざのように、「死者の軍隊の将軍」を探しに出かけていったはずの男が「死者の軍隊の将軍」になりかけてしまう話である。
 記憶にはもう遠くなったが、『誰がドルンチナを連れ戻したか』『砕かれた四月』といった仏語訳からの重訳で出版当時けっこう話題になったカダレ作品には、怪談めいた風味があって怖いようなところがあった。本作にも、「ミイラ取りが……」という意味で少し怖いようなところがあるにはあるのだが、そもそもその設定自体がユーモラスだとも取れる。また、将軍はどこか愛嬌のあるキャラクターであり、お伴する司祭がアルバニア人をあれこれあげつらうような調子で話すのにもユーモアが感じられる。
 イスマイル・カダレは戦後アルバニアを代表する作家なのだが、あげつらいながらも惜しみない愛を祖国に注ぐ。

「こんなちっぽけな、貧しい国が封鎖状態とは……驚きだよ!」
「これに立ち向かうのは全く容易なことではありません」
「何という民族だ!」将軍は言った。「だが、ひょっとするとこんな民族というのは、傷の痛みよりも美しいものにずっと弱いのではないかな」(P49)

(蛇足ではあるが、2009年に30周年を迎えたバックパッカーのバイブル『地球の歩き方・ヨーロッパ編』が出された当時、アルバニアは鎖国状態を経たあとで情報はほとんどなく、私はアルバニアという国家を北朝鮮と同列で切り捨てるような調子で考えていた)

 視覚的で読みやすい文章から将軍の様子を思い浮かべると、確かにイタリアで映画化され、マルチェロ・マストロヤンニが演っていたという将軍は、さぞやしっくりしていることだろう。共演がミシェル・ピコリにアヌーク・エーメならば相当な出来の作品だと推察できる。IL GENERALE DELL' ARMATA MORTAの題名で、ネット上にDVDのジャケット写真が見つかった。しかし、戦死者の遺骨回収の話だから、その内容の地味さに、日本での配給にはどこも名乗りを上げなかったに違いない。

 将軍は政府の命を受け、先の大戦時に落命し、土に埋められた兵士たちの遺骨を探しにアルバニアの地にやってくる。大戦からすでに20年の歳月が経っているため、遺骨は石灰化し、微生物がわいている可能性もあるので消毒が必要だ。
 埋葬地が分かっている場合はいいが埋め直されている場合もあり、敗走の途中で力尽きて埋められた場合もある。どこまで追跡ができるかという問題もある。さらに、元の敵国での作業であるから、現地の人々の反感も買う。
 まるで出征時のように、大勢の遺族から大いに励まされ期待されて国を出てきたものの、行方不明者名簿にリストアップされた兵士の数は多く、一人ひとりの兵士が身につけていたはずの小さな認識票を探しての作業は難航を極める。

 一番大きな目的は、軍の高官で唯一まだ遺体の引き渡しがされていない大佐を見つけ出すことである。ところが、大佐の遺体埋葬の消息をなかなかつかめない。将軍は、次第に勝ち目のない負け戦を重ねているような徒労感に襲われる。遺骨収納用に目印の入った特注ナイロン袋があり、いくつも遺骨が詰められていくのを見て、軍服を着た兵が集まってきた錯覚を抱くようになる。
 何とも皮肉のきいた展開だ。人間思ってもいなかった状況に追い込まれると、そんなこともあろうかと、作者の提示する「黒いユーモア」と「脅し」の間でゆらゆら揺れながら、使命や義務とその遂行について思い描いた。使命と義務を、遺骨回収から戦闘へ、任務へ、一般の仕事へと拡げて考えさせられてしまう。

 戦死者の遺骨収集、その責任者たる将軍の身に起こったことが物語の主軸ではあるが、占領軍が設けた娼館がアルバニアの人々に煙たがられ、悲劇をもたらしたという挿話があったり、ある兵士の消息を知るアルバニア人が遺品の日記を届けてきて、その内容が紹介されたり……。作中話として戦争の裏話が書かれ、国土が戦地になるとはどういうことなのかが控えめに表現されている。

 出征や戦闘、戦死という流れを遺骨回収の過程になぞらえて書く。アルバニアという国とアルバニア人の国民性を、他国からやってきた人びとの目線を借りて書く。作中話という枠に入れ、戦争が非戦闘員である戦地の人びとの生活にもたらしたものを書く。
 そのように物語好きに大いに訴える工夫をこらした仕掛けを取りつつ、具体的な名前や出身地を与えない登場人物たちに、魂を吹き込んで魅力を与え、共感の持てる言葉を語らせる。
 何と今回は、アルバニア語から直接翻訳する研究者が出てきたということである。いつノーベル文学賞が来てもおかしくはないイスマイル・カダレ
は、旧訳の新訳・未訳の初訳が進み、村上春樹氏のせめて30分の1ぐらいは読まれてほしい作家なのである。

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紙の本

外国人の目を通して見た自国

2010/01/04 23:15

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る

戦後二十年ほど経ったある国の将軍が、戦死した兵士の遺骨回収を命じられて、アルバニアの地を踏むところから話は始まる。将軍、それとアルバニア語を解する司祭の二人を中心人物として物語は進む。将軍は戦時中にアルバニアを占領していたイタリアの軍人であろうことは歴史的経緯からも確実なのだけれど、作中では一度も明示されない。作中では一貫して、将軍、司祭、技師、中将、兵隊さんといった呼ばれ方をしている。固有名で呼ばれるのはアルバニア人あるいは一部の女性ばかりだ。

この作品が書かれたのは1963年。作中での時間とほぼ差はないだろう。二十年前という時間は、戦ったことを忘れるには短すぎ、死んだ兵士を掘り起こす作業は、アルバニア人の微妙な敵意を呼び起こす。ひどく暗い、徒労感にあふれた作品で、物語には断絶が刻み込まれている。

戦後の二十年という時間が遺骨の発掘を難しくし、敵国同士の遺恨は消えず、生者の将軍が率いるのは青いナイロン袋に入った死者の軍隊で、言葉の壁もあり、さらには同行する司祭との仲も離れていく。この圧倒的な溝の深さには唸るほかない。死者を掘り起こし、死者の記録、村人たちの記憶に触れ、同行する男の死に見舞われ、延々と死に近づいていき、将軍はさらに自分の身長が遺骨を持ち帰らねばならぬ大佐と同じ一メートル八十九センチであることに気がつく下りは怖気を震う。かといって彼は死者ではなく、孤独のなかに突き放される。

面白いのはこの断絶を書くに当たって、カダレはイタリア人将軍の目からアルバニアを描いた、というところだ。アルバニア人が異国に赴くというのでもなく、アルバニア人であるカダレが、イタリア人の目からアルバニアを描く、と言うひねりを加えた方法がとられている。そして描かれるアルバニアがまたなんともいえず野蛮さや後進性を強調したものになっている。

司祭は言う。

「アルバニア人というのは、粗暴で後進的な民族ですよ。彼らは生まれたばかりの頃から、揺りかごに銃を置いてもらっていて、だからこそ銃は彼らの生活に欠くことのできない部分になっているのです。
―中略―
アルバニア人はいつだって、殺し、殺されたいと望んでいるんですよ。彼らは殺し合いますが、戦う相手が誰であるかはどうでもいいのです。彼らの血の復讐について、お聞きになったことは?」36頁

司祭はこうしたアルバニア人を蔑んだような持論を繰り返し展開する人物で、かなり執拗だ。かと思えば、アルバニア人技師が「復讐でアルバニア人の心理が説明できると思う外国人は時々いますがね、失礼ながらそんなものは、ただのたわごとですよ」と釘を刺す。

司祭に対して将軍はもうすこしアルバニアに親しもうとしている。ただそれもやはり断絶に押し返されることになる。

自虐的なようでいて強烈な皮肉のようであり、アルバニアの前近代性を批判しているように見えて、逆のようでもある。かなりアンビヴァレントなものが見え隠れする書き方で、国外留学組の知識人が自国を批判するというような単純な構図ではないだろう。ここら辺は後の「砕かれた四月」「誰がドルンチナを連れ戻したか?」あたりにも感じる。これらの作品では「アルバニア」とは何か、という問いがつねに大きな背景として存在している。自国を肯定的に見る目と批判的に見る目とがねじれて繋がっているような印象だ。もう一冊の訳書、「草原の神々の黄昏」も、国外留学の時の話に関わる自伝的作品らしく、「アルバニア」というのが各作品を貫く大きなテーマとしてあるように思う。

トーンは常に暗いのだけれど、そのなかでも印象に残るエピソードが二つ。街に娼館ができ、そこに軍人が出入りするようになって、というものと、脱走兵が脱走先の農家に雇われて、そこの娘に恋をする話。どちらもやはり暗い結末なのだけれど、巻末の解説を読むと、娼館の話の舞台になっているジロカスタルという街はカダレの故郷だった。これはたぶんカダレが見聞きした実際の話なのだろう、と訳者が書いている。

印象としては「砕かれた四月」に近い。死が大きなモチーフとして迫ってくるところもそうだけれど、鬱屈というか、断絶というか、そうしたことがらの重さが圧倒的なところが特に。山岳地帯、とか復讐とかのモチーフが作中にさらっと出てくるところは後の「砕かれた四月」を予示しているようで興味深い。

なお、塩川伸明「民族とネイション」で、クロアチア、セルビアの民族間対立に触れ、第二次大戦期のファシスト・イタリア保護下のアルバニアに併合されたコソヴォについて「アルバニア人の多くはドイツ・イタリアと協力してセルビア人虐殺に加わった。このような大規模な民族間の相互殺戮は、戦後長らく「忘れられるべき汚点」とされ、語ること自体が抑圧されてきたが、それが数十年後に噴出することになる」と述べている。想起すること、記憶を掘り起こすことを主軸に据えた「将軍」は、この「忘れられるべき汚点」を同時に掘り起こすものとして書かれ、読まれたのだろうかと考えた。これが世界的に出世作となった理由とも関係するのだろうか。

訳者のサイトでは多数の未刊行の翻訳が掲載されているので必見。
http://hb6.seikyou.ne.jp/home/iura/perkthim.htm

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2010/05/04 00:18

投稿元:ブクログ

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2014/10/10 23:10

投稿元:ブクログ

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2015/01/11 21:47

投稿元:ブクログ

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