紙の本
伊坂ワールド再び
2010/01/14 09:22
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『陽気なギャングが~』以来エンタメ小説で高評価を受けた著者だったが、このところ社会風刺を思わせがちな作風が続き、軽く楽しめる「活気」が失われていたように思う。
前作『あるキング』では一層マイナーに走り、ファン離れを心配していたのだが、それでも著者自信が発信したいモノをその作風の中に貫こうとしている、それは見事に達成されているのならそれも良いかと思っていた。
が、本作はそうした素人心配を十分払拭してくれるだろう。
伊坂作品の醍醐味は何といってもその見事な伏線の配置とパズルのような構成とニヤリと笑わせてくれる対話を吐くキャラクター達だ。
一見無関係に思われる複数の人物や彼らのそれぞれの身に起こる事件が、ともすれば読み流してしまう一言二言がキーワードのようにして互いの運命を急接近させる。もちろん本作もその魅力は十分発揮されていて、まず物語りは2つ+西遊記で構成される。
「私の話」の主人公・遠藤二郎は人の痛みや苦しみ、つまり助けて!というSOSの叫びを敏感で手助けせずにはいられない性質だ。イタリアでの悪魔祓(エクソシスト)見習いの経験を生かしカウンセラーまがいの副業をしている。かつての憧れのお姉さんの息子(眞人)の引きこもりを助ける羽目になるのだが、実は彼自身、日々SOSを目の当たりにしても何も出来ない自信の不甲斐なさ非力さに辟易しており気が進まない。
一方もう一つの「猿の話」は孫悟空を名乗る横柄な語り手が、誰かに向けて五十嵐真をネタに因果応報の話を披露していく。
彼の仕事はトラブルの因果関係を追及する商品管理であり、滑稽なほどトコトン原因を追究するクールで論理的で、かなり変わった思考の持ち主だ。株の誤発注で300億の大損害を出した関係会社の原因調査をするべく責任者や関係社員と問答していくのだが、そこにあるのは責任のなすりあいばかり。やがてミス入力した社員の隣の家まで押しかけることになり、とんでもないモノを発見する。
引きこもり青年と唯一交友のあったコンビニ前で歌を歌っている人々と「西遊記」を橋渡しに、このまったく関係の無い二人と二つの物語急接近していくのだが、その手法は伊坂ワールドならではのもの。猿の話のどんでん返しも十分に楽しめるだろう。
さて、それでは今回の伊坂ワールド。彼らを結びつける共通項キーワードはなんだろう?
何度となく形を変えて言葉を変えて訴えてくるのは
「人は失敗すること、間違えること、そしてそれを認めることに恐怖する」ということ。
そしてその恐怖から逃れるため、誰かに100%の責任を負わせようと白黒つけて「イチ抜けた~!」をしようとするということ。 だ。
「善悪は、正邪は、明確なものではない」「人間は善悪が共に存在している」 そうした言葉があちらこちらに現れるが残念なことに 彼らの周りには、100%の邪悪を押し付けられてSOSを出している人間がたくさんいる。そしてそれは私の周りにも溢れているかもしれないSOS信号だ。
二つの話は交錯し、彼らはある運命に立ち向かう!
西遊記と引きこもりと株の誤発注という突拍子もない関係と、信じられない未来とを信じ、これまたとんでもない方法で彼らは立ち向かうのだ。その詳細と結末は読んでからのお楽しみ・・・ということで。
今までの作品の多くは、権力や政治や才能など「何かとてつもなく大きな力」、そして抵抗できないほどの何かが伊坂作品主人公の「敵」になっていた。 けれど、今回は違う。
これはもっと近くて身近で自分の中にある心の問題。他に押し付けるのでも逃げるのでもなく、失敗だらけの自分を認めてみようではないか。
そうすることで、世の中のSOS、きっと少なくなるに違いない。
紙の本
おかえり☆
2010/03/15 16:39
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Mr.33 - この投稿者のレビュー一覧を見る
伊坂さんの本は、大好きで数多く読んできました。
しかし、最近の作品では正直満足ができていませんでした‥
最後に一つ一つの場面が繋がっていくあのワクワク感があまり感じられなかったからだと思います。
でも今回の作品は違う!
ワクワクしましたよ!!
内容は書けませんが、点と点が繋がるあの感じが久しぶりに十分に感じることができた作品でした。
個人的には本当におすすめの作品です。
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夕刊に連載されててずっと読みたかった作品。悪魔祓いに株の誤発注、西遊記に引きこもり。一見何の関係もなさそうなそれぞれが絡み合った因果のお話。不惑じゃないんだから(笑)
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ひきこもりの青年は孫悟空??
エアコン販売員の遠藤二郎は誰かが困ってるのを見逃せない性格で知り合いのひきこもりの息子に会うことになる。
ひきこもりの青年は何故ひきこもりになったのか?
あるとき彼は自分は孫悟空の分身の一部だと語りだし…。
伊坂さんお得意の2重に話しが進みます。
さて真実はどっちだ!!
ひきこもりの青年はなんだか重力ピエロの春を最後のほうに感じさせてくれます。
や〜でも伊坂作品の主人公はなんだか型が決まってますよね。
一番、どこにでもいそうというか…。
SOSの猿、軽快だけれど個人的には読みごたえが足りずな感じです。
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新聞で連載していた時も乗り切れずにいたが、本になって読んでも伊坂ワールドに入りきれずに読了してしまった。
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様々な視点が入り乱れる話。最終的にどんでん返し(と言って良いのかは実際よく分からない)あるのですが、何やかやとそれぞれの話が頭の中でごっちゃになってしまって、ちょっと整理に苦労しました。密林のレビューでもありましたが、後半からは確かにかつての(ラッシュライフとか)の伊坂作品を思い出す感じもします。あるキングに続き、部分的に凄く抽象的な要素があるような気がします。その辺りを、上手く言葉で表現できないのですが。
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まさかまさかの伊坂作品ですよ!
伊坂作品だからこそ怒り倍増なのかもしれません。
ネタバレにならない程度に、解説していきますが、一部ちとネタバレになるかもしれません。
いやな人は、ここで画面を閉じてください。
いつもの伊坂作品同様、2つのパートで話は進んでいきます。
パート【私の話】
「西遊記」のお話が一部混じりますが、説明くさくならない程度には説明されているので、まぁ問題ないでしょう。
「悪魔祓い」についてもでてきますが、まぁこれもヨシとしましょう。
両方とも、物語にうまく組み込まれているので、なんら違和感はありません。
ミステリー小説な感じでお話は進んでいきます。
パート【猿の話】
微妙なのがこのパート。
なんの前触れもなくいきなり「牛魔王部長」やら「孫悟空」やらが出てきます。
いっさいの説明なし。
証券会社の牛魔王部長っていきなり出てきたとき何事かと思ったよ。
でも、まぁ例えかな…と思えなくもないのでいいですが、例えだとすると説明がなさすぎて「西遊記」を知らない人にはどんな人か全くわからないという始末。
ミステリー小説な感じで進んでたかと思うと、ファンタジー色が途中から濃くなってきます。
この2つのパートが交互に進んでいきます。
結局、【猿の話】は、猿が語った物語(物語ではないがここでは物語としておく)として、【私の話】と結びつきます。
なので、今の段階での矛盾は、まぁ許すとしよう。
ここまでは、我慢しよう。
とはいっても、【猿の話】のパートに入ると、読むペースが落ちるくらいウザイんですが…。
そして、2つのパートがあわさって始まるその後の物語【五十嵐真の話】が始まるのです。
が、このパートが大問題。
ここで話をうまくまとめてくれれば問題がなかった。
最初のうちは、【私の話】や【猿の話】ででてきた疑問が解消されてきたりして、「おっ?」と思ったのですが、最後の最後の大事なところ。
「犯人はオマエだ!」的なところで、ファンタジーへ逆戻り。
「じっちゃんの名にかけて!」じゃなく、「オマエが犯人だと死んだじっちゃんの声が聞こえたのさ!」と言われた気分です。
分かります?謎解きパートで、最終的な謎が解きに向かって進んでいくんだと思った瞬間に、ファンタジーに入り込み、そうに違いない的な意見しか出てこず気づけばそのまま話が終わる…。
全く意味が分かりません。
アタシの読解力がなく、理解できなかっただけなのかもしれませんが、たとえそうだとしても、それだけ難解な謎や伏線をいれたのであれば、せめて『気になる!もう一回読み直してみよう!』と思えるような書き方、終わり方をしないと、読者は『もう一度、確認してみよう!』とは思いませんよ。
失敗だったなぁ…と思う作品はもちろんありますが、ここまでがっかりして怒りがわいてきたのは、山田悠介作品以来です。
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11/20購入
11/24読了
面白くないわけじゃないのだけど、あまりはまりこむこともなく、淡々と読んでしまいました。手法や表現は変わっていないと思うのだけど、実験的な雰囲気。これからまた変化するのかな
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ひきこもり青年の「悪魔祓い」を頼まれた男と、一瞬にして三〇〇億円の損失を出した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・孫悟空。救いの物語をつくるのは、彼ら……。著者最新長篇。
《2009年11月24日 読了》
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間を空けながら読んだせいか、
イマイチ乗り切れなかった・・・
人の不幸・災いに遭遇した時、
なんとかしてあげたい、でもなんにもできない、
と思ってしまう、主人公。
これって、私も全く同じことを思って生活しているので、
よくわかる。
なんとかできたかもしれないのに、
知らんぷりしてしまったのかも・・・
いやいや、でもだからってなにができるんだ?
「正義」「偽善」
伊坂作品のテーマかも。
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夫「『あるキング』がイマイチだったからすごい期待をして読んだかな」
妻「『キング』よりは徐々に伊坂節が復活している感じはするね」
夫「中盤からさまざまな伏線がつながっていく。そこからはどんどん引き込まれていったよ。登場人物のキャラクターの描き方は少し残念だったかな」
妻「五十嵐さんの途中までの語りが、青年の想像物語の独白だったとは・・・この手法は『アヒルと鴨』の「隣の、隣」を彷彿させるよね。伊坂ならではだね〜ファンタジスタ伊坂!!」
夫「『魔王』のように作家の考え方がしっかり書かれているのは好感が持てた。伊坂の作風で、おれの好きなところ」
妻「ラストがいつも明るいのもいいよね。読み終わると、じーんとしつつも晴れやかな気持ちになれる。今回も「僕はエアコンを売る。それが誰かを救う」—そうだ!って思ったもん」
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途中で二つの話がリンクする箇所がおおっ!!て感じでした。
中盤より少し前の「なぜ言い訳するのか?」みたいな議論のくだりがすごく
面白くてくすくす笑ってしまいました(しょっちゅう謝る人だからなぁ…自分)。
これからは謝る回数を減らすようにしよう(+_+)
あとオチに近いところで、主人公?達のとったある行動が全く○○○○のがちょー面白かったです。
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「あるキング」に次いでの長編新作。
特有の事件のリンクと連鎖を手法とした作品...
を更に進化させたようなかなり不思議かつ、
ちょっと実験的なような内容という印象を受けました。
明らかに昨年までの伊坂作品とは今年の2作は違いますよね。
今までの名作が続々と映像化され、
かなり著名になったはずなのに、その位置をキープする事なく、
さらに加速して引き離すかのような...
読者を篩にかけるかのような...そんなスピード感を感じます。
当然内容は面白い。後半は腰を据えて集中しないと
置いて行かれそうになるけど、ミステリー的でもあり、
SF的でもあり、ファンタジーでもある。一番最後...
如何にも伊坂作品らしい台詞と描写は...やはりとても大好き。
何より今作はアートワークが素晴らしい! 超カッコいい!!
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<内容>ひきこもりの青年の「悪魔祓い」を依頼された男と、一瞬にして300億円を損失した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・孫悟空ーー。物語は、彼らがつくる。伊坂幸太郎最新長編小説。
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本屋に寄ったら、新刊が出ていたので迷わず、買った。
著者の前回の単行本、「あるキング」がファンタジー過ぎて理解に苦しみ、本作にもそのような感じがあったのだが、今回はとてもうまくまとまっていて、とてもスッキリした読了感を得られた。
面白い。