紙の本
恐怖の淵へと連れ去る終盤の展開は、さすが、この作家ならではのもの。ぞくぞくする妙味を堪能させられました。
2009/12/23 16:16
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公ヘンリー(ハリー)・ディーンが、叔父の遺産を相続。大きな衝撃を受け、外に飛び出して、氷に足をとられて転倒して以来、奇妙で不可解な出来事が、彼の身の周りで起きるようになる。他人と自分の記憶が食い違っていたり、自分の身辺を徘徊者がうろついているといった出来事が。そんな中で、彼が快く思っていなかった人物が銃で撃たれて死ぬ事件が起きる・・・・・・。
という序盤から中盤にかけての話は、まずまずスリリングではあるけれど、それほど、そそられる話ではありませんでした。それが俄然面白くなって、本作品が輝き出したのを感じたのが終盤の198頁、第11章以降の展開でしたね。それまで主人公が抱いていた不穏な気配、微妙な齟齬をきたしていた出来事の真相が明らかになってから以降の展開に、読み手を恐怖の領域に誘い、ぞっとさせる作者ヘレン・マクロイの真骨頂を見た気がしました。主人公の“わたし”ことハリーが味わう恐怖に、ほんと、ぞくぞくさせられましたね。
このサスペンスの中核を担う、というか、そこから一気に恐怖の深淵へと読み手を引っ張っていくその始まりとなる第11章を読んでいて、ひとつの絵がぱっと浮かんで、脳内スクリーンに映し出されました。だまし絵で有名な画家エッシャーが描いた、「描く手」というタイトルの絵。あの絵を具現化したみたいな文章であり、展開であるなあと、ぱっと思ったんだけれど。
1957年の作品でありながら、メイン・トリックのネタはその当時より二、三十年先を行っていると思えるものであり、何より、ことの真相を明かしてから以降の話の展開に、非常な妙味を覚えました。さすが、『暗い鏡の中に』、『幽霊の2/3』といったサスペンス色豊かなミステリを書いた作家だけあって、上手いもんです。
訳文に関しては、新訳というにも関わらず、所々、現代的とは思えない会話文や、日本語としてこなれていない言い回しがあって、ちょっと気になりました。でも、作品の価値を損ねるようなものではなく、マクロイの、ぞくぞくさせられるサスペンスの醍醐味を堪能させてもらいました。復刊に感謝です!
紙の本
知らないという恐怖、知ってしまったという恐怖
2017/05/16 22:03
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投稿者:J・P・フリーマン - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公が事件の真相を理解してからはページをめくる手に力が入りました。犯人は予想がつく人物ですが、主人公の独白から驚愕、焦燥、決意がずんっと伝わってきました。そして、物語の締め方がいいです。最後の一文を読んだ後、呆然とする余韻が残ります。
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遺産を相続したハリー。しかし直後に転倒、記憶を一部無くしてしまう。
遺産を元に故郷にひきこもったハリーの違和感。彼の周囲に現れる徘徊者。かつての恋人シーリアの夫誤射殺事件の真相。
2010年1月26日購入
2010年1月31日読了
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(2010/03/20購入)(2010/03/22読了)
無性にサスペンスが読みたくなったので購入。
追い詰められた主人公の最後の決断が鳥肌もの。
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相変わらず巧い。どことなく不安定な主人公、波乱含みの帰郷、見え隠れする悪意、そしてこれらの不穏な空気が呼び起こす殺人まで、序盤から中盤にかけての展開は文句なし。
ちらちらと透けて見えるオチは、予想に反して変化球で攻めてきた。この落としドコロのタイミングは絶妙で、タイトルの持つもうひとつの意味にも気付きしばし唖然とする。
ここからが評価の分かれるところなんだろうが、私はそれまでのスピードを保ってラストまでいってほしかった。オチに対する解釈は無用である。一気に停滞してしまったし、雰囲気の異なる展開で興醒めしてしまったのが残念。本格も巧いが、こういうホラーっぽいストーリーもハイレベルなんだよなあ。
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この素晴らしいタイトルの付け方!
最後まで読むと俄然意味深長になる。
1人の男が不慮の事故で頭を打ったことから始まるこのサスペンス。
(以下ネタばれあり)
外見のことなどから本人が認識している年代と実際の年代にずれが生じていることはすぐに分かるのだけど、まさかそこに多重人格なんてからくりがあるとは!
しかもそれがオチではなく、物語の単なるファクターに過ぎないあたり、よく練られているなあと思う。
副人格の目を通して物語を描き、主人格がほとんど現れないのが逆に怖いと言うか、サスペンスとしての効果を高めているんだよね。
それほど長い話ではないし、今ならもっと入り組んだ人間関係を盛り込んだプロットもあるだろうけど、ヘレン・マクロイの世界を十分に堪能できた。
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ある人物の回想録という形式を採った本作の冒頭で作者は「信頼できない語り手」である可能性を示唆してくれている。それは全ての真相が明らかになった瞬間でさえも変わらない。
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ミステリーとしてはとても雰囲気のある作品で、あいまいな記憶というテーマが読者に先を読ませるための味わいになっていると思う。
だが、1957年の作品という意味では、非常に斬新なアイディアだったのだろうと思うのだが、今ではこの手の内容はかなり書きつくされた感もあり、途中でオチが見えてしまった。雰囲気がよいだけにとても残念だと思う。
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伏線もあるし、「犯人」の正体は半ばでわかるのだけれども、で、いろいろ似たような話はあってしかも結末も想定範囲だが、今から60年近く前にこういうのが書かれた、という部分は敬意を表したい。
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序盤の方で、会話の違和感などからあるネタが思い浮かんでしまい、読み進めるごとに確信に変わっていきました。今となっては珍しくない仕掛けですが、フェアに徹しようとするその姿勢には、好感が持てます。
しかし、もう1つのネタ(これも現在では使い降るされた仕掛け)には素直に驚きました。確かにアレ1つでは説明のつかない事象がすっきりと解消されます。なぜ気付けなかったのでしょうか…
若干ネタバレ気味になってしまいましたが、これほど昔にアレ系のネタのハイブリッドを高い次元で成し遂げた佳作だと思います。
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ラストで「殺す者」と「殺される者」の存在が判明。誰でも内なる別の自分、を持っていると思うが、記憶が抜け落ちるというのは大いなる不安なはず。そこをミステリィにからめて一気に読ませた感じ。
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序盤から行き着く先に不安を覚えさせる「わたし」視点の回想録。
早い段階で「その」可能性には思い至るのだが、「それ」を結果として用いるのではなく通過点として描ききった作者の技量は見事。「その」手の話で主人公のポジションはあまり読んだことがなく、また「時間」においては気がついていなかっただけに素直に驚いた。伏線はいくつも散りばめられていたのに…。
客観的事実を都合の良いように解釈する主人公や本心が分からないシーリアにもどかしさを感じつつも、一気読みできたのはマクロイの上手さだろう。もどかしさも含めて心情の描写が秀逸だった。
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貧困とねじれた精神は、危険な組み合わせだ。そこにバーボンの水割りでもちょっと加えてみるがいい、恐ろしいものができあがるから。(抜粋)
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小谷野敦氏推薦のミステリーですが、以下はネタバレアリです。
まず、多重人格者ものを本格推理小説に分類するのは異議ありです。
別人格の行動が主人公の知らないところで行われている前提では、小説をいくら読みこんでもわかりようがありません。
もちろん、主人公自身にも違和感や記憶のずれを感じてはいるという描写はあるのですが、それは頭を打った際の記憶障害であるかのようなミスリードもしています。
まあ、それでも楽しめる人向けのものですが・・
また翻訳にも数か所読みづらいところがありました。
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最後まで読んでようやくタイトルに納得。気持ちいい!謎解きとかトリックの面白みはなかったけどハッとさせられました。多重人格が判明してからの話が少し長かったです。