紙の本
これを書くことで、残していきたい
2015/08/27 00:05
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夜メガネ - この投稿者のレビュー一覧を見る
どんな田舎にも、人が集まる処には売春目的の花街があった。
もし知らないとしたら、川沿いに多い事を覚えておくと跡地が当てやすい。
川は、物流の要所だから。
たいてい花街だった事は、地元の人々によって隠蔽されている。
外部からの調査とおしゃべりなお婆ちゃんの証言で文献化されていたら幸い、というレベルだ。
光子さんは、群馬の片田舎に住む読書少女だ。文学に興味がある。
大正時代、女性の職は昼夜構わず馬車馬のように働かされ使い捨てられる女工か、
吉原のような遊郭と呼ばれる娼館に借金を肩代わりしてもらい客を取らされる女郎。
なんという二択。 人道に反した職しかない。
だから、本人と保護者の合意のもと、吉原へ行った。
「きみは楽しくお客さんと遊んで、お酌でもしていればいいからね」
そうすれば借金なんてすぐに返しきれると騙され。
※(身売り=返済という表現が広まっているが、ここでは違う。
彼女たちは借金を返す方法を得るために、監禁型の出稼ぎに吉原へ入る。
つまり、到着した時点では全く返済できていない。)
光子さんの言葉は、昭和の文学よりもずっとずっとわかりやすい。
ほとんど、今の私たちと変わらない文体であることも明記しておきたい。
本来の自分である「光子」を守るために、本名と無関係の「春駒」を選ぶ。
それほど、吉原の女性たちは自我が崩壊しているように見えたことが、
店に到着してたった1日間の描写の中に見て取れた。
客を取らされる日は、時代物よりはるかに早い。今で言う「即戦力」状態。
花魁が華やかだったのは昔のこと、ここでは女郎の事をそう呼ぶ。
かつての最盛期をとっくに過ぎた、ただ公娼のために成り立っている大正の吉原。
この派手な打掛だって古着、どれも古着。
なのに店は法外な値段で売りつけた証拠を、それぞれの名前と共にきっちり帳簿につけている。
最初の借金をローン返済化する代わりに、衣食住・その他諸々、
何もかもが(営業用にかけさせられる電話代・手紙にかかる費用さえ)
個人の新たな借金となる。利子+上乗せ借金させる、最悪の状態が出来上がる。
その返済は、女郎としての稼ぎからなのだが、これについて彼女は
早々に「絶対に返済しきれない、抜けられないようにしてある」システムだと逆算して見抜く。
また、学校を出てここに来た彼女からすれば、
「今度は、うんと頑張って稼がなきゃ!」と店主にハッパをかけられ鵜呑みにしている
読み書きや計算ができない娘と共同生活していることへの虚無感も痛いほど感じられた。
(ここはなんとなく、ブラック企業の悪システムとして、現代も生きているように思えてならない)
そして、ひどい体験の果てに自殺を考えた彼女が思い留まった事で「春駒日記」は始まる。
書くことこそが復讐であり、ここで生きる為の心のよすがとして。
電子書籍
春駒日記
2023/01/08 23:07
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
光子がかわいそう……でも、これは、まだ百年ほどしか経っていない時代の話なんですよね。日本の女性って、本当に、モノ扱いされた時代があったんだなあと……。これは、大正15年に柳原白蓮の序文で刊行されたそうです。
投稿元:
レビューを見る
まず、ゆまに書房の学術書にも収められるような文献が手軽な文庫で読めるのはものすごいことだと思う。
作者が書き綴ったこの日記、文章がしっかりしているところから、ある程度学がある人だと分かる。でも、そういう彼女ですら遊女になる当時の現実。過酷な生業の傍ら、書き続ける気力もすごい。
その合間にも垣間見える、今も変わらない終盤のガールズトーク。周りから少し疎んじられるような彼女なのに自分でもちょっとつかえるところがあるのに、何故かちょっと面倒を見てしまう、つるんでしまう、と言うところが、本当今の女子中生にもあるんだから(笑)
時代的に難解な文字使いがあったりするけど、読む価値あり。
あ、ジャケ買いしてもこうのさんの絵はカバーの一点だけです(笑)
投稿元:
レビューを見る
1/12-1/21
吉原の遊郭に売られて、けなげに生きて
脱出できたことに、
この主人公の人間としてのひたむ思いが維持されていた
ことが大きい。
その後幸せに生きていけたのだろうか、、。
投稿元:
レビューを見る
当時の花魁の事情や、物価などとてもリアルでした。
田舎から吉原に売られた光子がだんだんと花魁になっていく様や、
そんな荒んだ中で光を見失わない光子に好感が持てました。
とっくの昔に花魁なんていなくなったと思っていたのですが、
大正時代の日記と聞いてびっくりしました。
投稿元:
レビューを見る
大正13年に吉原に売られた少女が綴った日記。
江戸吉原の資料は数あれど、大正期のものはなかなかお目にかかれない。
読み物としても資料としても良い。
投稿元:
レビューを見る
日記を書き綴ることができた著者。知性があるからよけい苦しい思いもしたのではないかと…
尻切れトンボみたいなかんじもしますが、実際にあったことなので、これもありか。
投稿元:
レビューを見る
19歳で吉原に売られた女性の日記。なんだか一見かわいい雰囲気の表紙ですが、中身はかなり壮絶。こんな風に周旋屋に騙されて売られて、廓でも搾取されて、借金が減らないどころか、借金しなければ生活も回らない状況だというのが、綴られていく。最初の、自らの境遇を嘆き続けるあたりは痛々しくて、同じことが繰り返されていることもあり、読むのが苦しくもあるのですが、読みし占めるうちに彼女自身も花魁としての生活に徐々に馴染んでしまうのがわかって、それもまた痛々しい。
投稿元:
レビューを見る
小説みたい。読んでいてはらはらしました。
本当に、女性が無理やり処女を奪われることとか、月のものなのにこういう商売に行かなくてはならないときのこととか、読んでいて(わかるはずはないけれど、それを承知で)痛いくらいに伝わってきました。
これを読んだら、安易な吉原美化とかに対して吐き気を覚えます。
投稿元:
レビューを見る
80年前のまだ「自由」や「人権」などということが日常のなかで意識されない時代に虐げられた女性でありながら(虐げられた女性であったからかも)、自分の人生を自分の力で切り開こうとした森光子さんになんともいえない敬意のようなものを抱きます。日記ですが、その文章そのものがとても80年前の女性が書いたものであるという感じがしませんでした。
光子さんは楼主の花魁たちから搾取するやり方も冷静に見ていて、そうした女性を商品として扱うやり方にきちんとした憤りをもっているんですよね。楼主のあり方からきちんと社会のあり方を見つめています。でも、その置かれた状況はほんとうに厳しく切ないものでした。同じ女性として女性があんなふうに扱われてきた歴史を知るたびに胸の悪くなる思いです。
あとがきのあたりに光子さん脱出後、仲良しだった千代駒さんたちがストライキのようなものを組織して、楼主と闘ったという記載がありましたが、ひとりひとりの力は弱くてもやはり「団結」は力になるのだと改めて思いました。女性の「連帯」をこの時代にも引き継ぎたいと思います。
こんな時代に生まれなくてよかったという女性も多いのでしょうが(私だってそう思わないわけではありませんが)、いつの時代も自分たちの「自由」や「権利」は自分たちの手で守らなければならないものだとも思うのです。
私などが簡単に一言で「大変な思い」とか「厳しい状況」などということで済ますことができない光子さんが経験された状況を書くことで自分の魂を清め、強く生き抜いた光子さんに強く心を打たれ、励まされました。
最近読んだもののなかで、とびきりにおもしろかった(当然ですが、おかしいということではなく、興味深いという意味)です。
投稿元:
レビューを見る
大正に吉原に売られてきた、実在の花魁の日記である。
序盤、本を読むくだりからして、学のある女性だと感じていたが、周囲が我が身の不幸を嘆き、恨み、ねたむ中、日記を書くことで思考を整え、我が身を正している姿に胸を打たれる。
花魁は華やかで美しいというイメージがあったけれど、やはりそこは娼妓なのだな……と。相当にハードである。
そして借金のカタに売られている上に、抜けにくいシステムになっているので、身を壊すほど働けど楽にはならない。
誰かを恨むのではなく「無知な自分が悪い」と認める潔さ、見せの主人に言われても客に媚びぬ姿。
読者の予想通り彼女に着く客は次第に増えていく。
この本の特色は「自分のための日記である」こと。
登場人物たちは突然出てきて、説明もなしにとうとうと語り始める。小説と違うので、読み逃しては分からないままだ。
でも、その表現であるが故に分かろうとして読み手が作者に近づいていくことが出来るのだし、それでこそ面白い本である。
分からない単語がいくら出てきても、それでも読めるし面白い……というか凄い。
現実ゆえのリアリティだ。そして現実なのに(著者が自分に対して誠実であろうとする故にか)、記述に逃げがなくて面白い。
表紙の絵がこうの史代であることに、少しだけ噴いた。似合いすぎ。数エピソードだけでもマンガ化してほしいなぁ。
投稿元:
レビューを見る
大正末期、遊郭吉原に売られ自力で脱出した光子の花魁としての日々の日記とそこを脱出するときの回想録。詳しい季節や日付はない。伏字や文章がところどころにある。生々しい遊郭の様子が素人の文章で書かれて、それがある種の緊張感を生んでいるよう。光子は遊郭で花魁として生きる身の上を悲しんだが、身を持ち崩すことを恐れ、日記を書くことによって自分の心を保つ。決して人生をあきらめないで希望を持つこと。それは生きる意欲につながった。
この本は大戦前の日本の風俗を知る貴重な書。
一体わたしは、どうなって行くのだ。どうすればいいのだ。わたしは涙を抑えるとことが出来なかった。そう考えまいとしても、考えずにはいられなかった。
硝子戸が寂しくふるえている。
庭の樫の木の影が、その上で揺れている。 ~抜粋
決して差別的偏見でみているつもりはないけど日記文章表現がきれい。
投稿元:
レビューを見る
現代、「花魁=華やかで当時のファッションリーダー」的なイメージが、かなり強いように思えるが、果たして「華やか」な面だけだろうか?
花魁として生きた作者の日記。
大戦前の風俗、女性史を知るには、良い資料でもあると思います。
投稿元:
レビューを見る
大正時代に借金のかたに吉原に売られた女性の日記。
ノンフィクションなので、エンターテイメントというよりは歴史的な価値の方が高そう。
出版を予定したものでないなら、ここまで物語として完成しているのはすごいなぁ。文章は口語に直したと書かれていたけど、それにしても読みやすい。
日記って、基本的に根暗になりがちだと思うのに、人に優しいままの光子さんがすごい。ちょっとバカでお人好しなのかな。だから商売ッ気がないのにそこそこ売れちゃったんだろうな。
昔の人の気質なのか、光子さんの個性なのか。
消息がしれないらしいけど、お幸せになってるとよいと思う。
投稿元:
レビューを見る
2010年1月、週刊文春の私の読書日記、鹿島茂の回で知り、書店へ走ったのでした。
そして一気に読了。
そして?そして?時代も生活も違うのに、友達の話を聞いているかのようでした。
それまで安野モヨコ「さくらん」などのきらびやかな印象で、花魁に対して、わたしの中では違ったものになっていたようです。
「さくらん」は「さくらん」で好きです!
こうの史代のカバー装画が、これまたグッときます。
原本のまま収録されており(十四行伏字)と、途中突然伏せられていて、驚きました。
また、あまりに花魁には罰金が多く、それにも驚かされました。
妾と書いて、"わたし"と読むことも初めて知りました。現代の"私"と同じように使われていたようです。