投稿元:
レビューを見る
主人公 西村賢太は最低な人間だ。
途中、遠山金四郎か桃太郎侍が現れて成敗してくれやしないかと割と真剣に思う。
コンプレックスが人の皮を着ているような主人公が、手前勝手な論で世の中の全てを手前より下賤な存在として語り、それが手前の女ならば遠慮なく暴力を振るう。
その理由も喧嘩で女が助けてくれなかったからである。
私小説であり、その生々しい憎々しさからも数頁で読むのを止めるかと思ったが、最後まで読みきったのは頁数が少ないからではない。
面白いと思える程に表現力があるからだ。
今日において、小説に分類される多くはシナリオ的であると頓に思う。
要するに敢えて文章で表現する意味が見いだせないのだが、本作は違う。
私に於いてはその文章を読みたいが為に頁を捲り、終話した。
とは言え、読後感悪く、やはり全くもって人に勧める事はできない異質な作と感じた。
投稿元:
レビューを見る
文藝春秋に掲載されていた『苦役列車』に続いて2冊目の西村賢太作品体験。野間文芸新人賞受賞作の『暗渠の宿』に、事実上の出世作である『けがれなき酒のへど』を同時収録した、お得感が漂う一冊。
どちらが良かったかと言うと、勿論これはどちらも及第点を挙げられるクオリティーを内包していてホッとしたのだが、僕は表題作より、『けがれなき~』の方に軍配を上げたいと思う。表題作も、巧みに繰り返し使われるレトリックであるとか、短い中にうまく張り巡らされた伏線であるとか、評価点は多い。が、読後の爽やかさ(そういうものが氏の作品にあるとして)の少なさや、前半の家探しのくだりの冗長さ(長ったらしいという訳ではないが、作品が短いがゆえに、この部分の長さが厭に目立つ)を鑑みると、僕としては出世作の方を贔屓にしたくなるのだ。
ただ、おそらく今後もこの作家のもっともメジャーな作品となるであろう『苦役列車』と比べると、文章の読み易さ、内容へのとっつき易さという点ではこの本収録の二作はやや劣るかもしれない。
『けがれなき~』は、ストーリーとしては、小説はおろか現実社会上でもありきたりと思われる話だが、そこではすでに氏の小説家としての力量が発揮されているというのだろうか、読者に続きを知りたいと思わせる魅力がある。最後の藤澤清造の下りは蛇足に思えるかもしれないが、この部分はしてやられた『私』を浄化させる重要な役割を担っており、また、『私』こと西村氏がいかに藤澤清造に魅了されているかを示す重要なエピソードの一つといえる。
『暗渠の宿』は後半のガラスケースのくだりが面白い。これまた氏がどれほど藤澤清造に依拠しているかを示しているのだが、ことこの作品での序列が『藤澤清造>私>女』というふうになっているのだということに気付くと、ふと思いがけぬおかしみを感じてしまう。
また、この作品では回収されていない伏線も存在している。これは普通の小説ではあってはならぬことだろう。一つの小説はその世界内で完結しなければならないからだ。しかしこの作品においてはそれが許さているのは、やはり私小説の強みによるところだろう。
これは『苦役列車』にも言えたことだが、氏の文章は一文一文がどちらかと言えばかなり長いため、読み易いかと言えばそうではない。しかし、そこには一部の読者を魅了する何かが必ず存在している。
投稿元:
レビューを見る
常に貧窮し、口汚く、暴力的で、しかしそのじつ小心者。身勝手で、女には裏切られてばかりいる。破滅的な悲喜劇。しかもこれが私小説ってんだから、まあすげえや。
投稿元:
レビューを見る
いや、いいねこの人。
女性からみればサイテーの男なんだろうけど、
男からみると憎めないやつです。
いまどき珍しい、無頼派自滅型作家です。
生まれる時代を間違ってしまったかもしれない。
でも、文学に対してはピュアな人だと思います。
内容も私小説ですが、面白いし、文章も読みやすいです。
投稿元:
レビューを見る
他に「けがれなき酒のへど」を集録。
私小説を読んでいると人の長文のブログを読んでいる気分になるがどんどんひきこまれて行く文体。
相変わらず絶望的な内容だが、文体は美しくシンプルで、すっかり西村賢太のファンになった。
投稿元:
レビューを見る
特に男性が共感&高評価する作品なのだろうなあという感想。文体がいまの時代と絡み合わなくて読みづらかった。こんなに薄い本なのに読み終わるまで時間かかった。でも不思議と、読後に笑えた私小説だった。
投稿元:
レビューを見る
ソープ嬢に入れあげ店に通いつめたあげく、まんまと、というか案の定、有り金ぜんぶを巻き上げられて逃げられる。そんなみっともなくなさけなく、でもありふれた喪失。なんとか店外デートにこぎつけようと、ありあまる性欲は抑えてサービスを受けずにただ女の子と時間を共有する「わたし」だが、下心ゆえのやせ我慢が裏目に出て彼女はどんどん図々しくなり接客もおざなりになる。それでもその女を得たい「わたし」は、請われるまま菓子や弁当を貢ぎ続け、人畜無害なお人好しを装う。そしてそろそろくるかというところでやはり繰り出されるソープ嬢のベタな借金話し。こんな風俗あるあるみたいな、どうでもいいどうしようもないくだらないけちくさいエピソードが、これほどおもしろおかしなエンターテインメントになるなんて、この本に収録された著者のデビュー作「けがれなき酒のへど」を読むまで夢にも思わなかった。表題作「暗渠の宿」も、一言でいえば「DV男の逆ギレ」であり、デビュー作同様、卑屈で小心者で学も金もなく、当然モテるわけもない、しかし、その実ド厚かましい醜男が主人公の、ひじょうにばかばかしく卑小で滑稽な物語だけれど、これがやたらと痛快で、するりと引き込まれてつるりと読めてしまう。また、恋人に対する非道な振る舞いや口さがない罵倒、彼女の容姿についての身も蓋もない形容など、あまりにひどいのだけれど、ひどすぎて思わずわらってしまう。著者の分身である主人公は、どちらの短編でもセクハラ&モラハラ三昧のとんでもないミソジニスト。なのに、それらの描写がなんら不快感をもたらさず、それどころかかえって爆笑をうむ不思議。果てはこのろくでなしに愛おしさまで感じてしまうのだから、うれしいようなそうでもないような。
投稿元:
レビューを見る
芥川賞の受賞金は「風俗に遣う」。中卒・逮捕歴あり・呑んだくれの私小説作家、西村賢太。久しぶりにはまる作家に遭遇できました。有難き幸せ。
芥川賞受賞作よりもこちらのほうが書評が良かったので読んでみました。
以下、『けがれなき酒のへど』より
「一枚の礼状葉書をしたためるよりも簡単にことのすむ類の女ではなく、普通のかたちでの、ありきたりな相思相愛の恋人が欲しかったのである。」
「それでいて思う程の酔いが来ないので淋しくてたまらず、やっぱり私は恋人が欲しくなる。あの相思相愛の何とも云えぬ、うれしくてあたたかいものを今一度だけでいいから得てみたい。」
たとえどんなに無機的な生活が上手くいっても、こころから繋がる人がいない人生では呑んだくれる毎日なのだろう、と痛感させれられる。そしてそんな理想を夢見る者には、一時的な幸福は得られても永遠の幸福は来ない。悩み続ける毎日を全うするしかないのか。そういう人種にうまれてしまったのだから、ろくでもない生活と文学におぼれるしかない
投稿元:
レビューを見る
この本は、1人の男(=作者自身)の私生活を描いたものであり、何の変哲もない物語・・・と言えなくもない。ハリウッド映画や最近の探偵小説などに毒されたわたしは「何か大きな展開がこの後に待っているのか!?」「どういったオチが待っているのだろう」などとついつい期待しながら読んだものだが、その期待はいい意味で裏切られた。いい意味で・・・というのは、最後まで本が惹きつける力を失わなかったという点につきる。
うまく表現できないのだが、この小説にはネットリとした・・・なんていうか蛇にからみつかれたかのような拘束力がある。1つには私小説ということもあり、内容が非常に身近に感じられる人間くささのある話だからだろう。そしてもう1つには、(平凡な言葉しか思い浮かばず恐縮だが)描写が非常に上手だからだと思う。なんというか・・・ふと気がつくと、小説の中で描かれるシーン1つ1つが、自分の頭の中に克明に浮かんでいるのだ。表現力が素晴らしい。「小説家であれば表現力があるのは当然」とご指摘を受けるだろうが、何というか、この著者の文章には昔の人(三島由紀夫や太宰治など)といった人達と同じにおいを感じるのだ。
文章に重みがある。一見、何の変哲もない”とある男”の私生活の話でありながら、その男の底なし沼のような心理の深淵を覗くような感覚が・・・リアルに伝わってくる。
(詳細は、こちら↓)
http://ryosuke-katsumata.blogspot.com/2011/05/blog-post_23.html
投稿元:
レビューを見る
また西村賢太を読んでいる。
内容的には毎回ほぼ同じ(今回は風俗嬢に入れ込んでだまされる「私」を描いたデビュー作と、恋人と初めての同棲生活を描いた野間文芸新人賞受賞作の二本立て)なので、書くこと(感想)もなくなってくるのだが、まるで中毒のように読みふけっている。
別に西村賢太氏の私生活を盗み見たいわけではない。
やはりなんともいえぬ芳醇な読書体験をしたいがゆえの選択であり、他に気になる作家もいるのだが、何か物足らず、ついつい西村氏の未読の書を探しては、深夜遅くまで読みふける毎日である。
不健康である。
でも、とりあえず今までに刊行されている全作品を読み終わるまで、他の作家の著作には移行できない我が勢いである。
投稿元:
レビューを見る
イラッとする部分と理解できる部分があってなかなかおもしろく読めました。
短気で暴力的なのはいただけないけど、駄目っぷりは好きです。
投稿元:
レビューを見る
芥川賞を獲った西村賢太さんの二作目です。
受賞作より生な印象で、著者の本音、というか感性がダイレクトに出ている感じがします。
これだけ心根の腐ったキャラクターを見事に立てるのはやはり才能でしょう。
そのダサさ、いじましさ、小心さと浅墓な衝動性。
ああ、いやだいやだと思いながら読んでいると、場面によってはあまりの状況下とあまりの反応についつい笑ってしまいます。
ダメだダメだ、笑ってはいけない、それでは向こうの人と同じになってしまうと思いながらも、またまた続くあまりのバカらしさにあきれると同時に笑いが込み上げてくる。
もう笑うしかない、ということになる。
結局、この腐った主人公の話に読者が最後まで付き合ってしまうのは、誰にでもそういう一面がチラリとでもあるからじゃないかな。
少なくとも私にはある。
とことんしょうがないヤツだなあ、と思いつつ、ああ、こういう感情、分かるなあ、と言い当てられた気になってドキッともする。
あまりに当てられているうちに、自己弁護的な感情が働きだし、この程度の腐りっぷりなら可愛いもの。
ジム・トンプスン的な狂人じゃなくて良かったじゃないか、なんて理由にもならないことを感じはじめる。
私は綺麗な物を愛好する乙女的な感性もある人間なので、読み終えた直後こそ、こんな汚らしい作家の小説なんて二度と読むかと思いつつ、三冊目を買わされてしまう。
この勢いだと全部読むね。
女性にはオススメしません。
嫌いだと思う。
でも男の人はオモシロイと思う人、多いんじゃないかな。
投稿元:
レビューを見る
5でもいいんだけど、なんとなくこの作者とは長い付き合いになる気がしているのでここは☆4に決定。
この人の作品には磁力がある。私小説はやっぱりこうじゃなきゃ、と思わせてくれる。生半可なネタの開示ではだめなのだ。徹底的に自己を曝け出し、卑下しつつもナルシシズムも持ち合わせてこそ私小説は面白くなる。いやもしかしたら別に作者は正直に自分を描いておらず実は虚構なのかもしれないが、そう感じさせず「これは私小説だ!」と思わせてしまうだけで充分。
暴力的、偏執的、卑小な性格で性欲の強いこの主人公=作者だが、嫌いになれない。身近にいれば辟易とさせられるような人物であるだろうに、とても興味を覚えてしまい、近づいてみたいと思う。最初に読んだ「苦役列車」の若い頃の作者を描いた作品を読んだ後に30代になった作者が描かれているこの作品を読んだのも良かった。なんとも、とてもこの人を良く知っている気分にさせられる(この点は太宰作品に共通)。
作品を魅力的にしている事に古風な言い回しや文体もあると思う。これがなんとも「本格派」の雰囲気を醸し出していて作品に風格を与えていると感じる。気品すら感じる、と言ったら大袈裟か?でもこれがドロドロした内容に品格を与えていて、作品を昇華させていると思う。
この表現あまり好きではないが「突き抜け感」があるとはこういう事か。主人公が大真面目に思っている事や喋っている事で時々噴き出してしまう所も、なんともクセになる。
ついでに言うと、藤澤淸造にもとても興味を覚えて、読む事にした。これは西村の思うツボなんだろうか(笑)。
投稿元:
レビューを見る
『暗渠』とは…排水用に地下に設けた溝のこと。タイトルに込められているのはそうした薄暗く日の光を浴びることのない日常に沈む、男の生への強い渇望のようなものでしょうか。
全編を通じて展開される力強くて荒々しい描写と、近代文学の名残を感じさせる均整の取れた文章は、他の作家では味わえないような魅力を感じました。
こうした作風の小説を書く文士の中では、西村賢太は白眉とも言える作家であると思います。
ある一人の男を主人公にした物語二篇を収める本作。『けがれなき酒のへど』の後のストーリーを描いた『暗渠の宿』によって、生きることへの渇望を謳った一つの物語は完結します。
大正期の小説家・藤澤清造に傾倒しながら、恋人を持つことに強い憧憬を抱く主人公。
彼の暴力的で服従を強いるような愛し方と、生活の基盤全てを藤澤清造への畏敬の念へと注いでゆく生き方とが、類い希なる筆致で語られていくのです。
本作を読みすすめていくにつけ、物語の男が抱える強い憎念と迫力とが、活字を通して迫ってくるような感覚をおぼえました。
何という身勝手な男だろうと思いながらも、物語にみるみるうちに引き込まれていく自分がいたのです。
読了後すぐに、この人の他の作品も読んでみたいと思いました。
それほどまでに、西村賢太という作家の描く物語は、強烈なインパクトを以て私の心を奪ったのです。
投稿元:
レビューを見る
くだを巻いたように、読点で連結された長文が続くのだけど、聞きなれない言葉づかいがリズミカルに入ってくるのが気持ちよく、この上なく読みやすかった。
その文章が、技巧に裏づけられた確かな筆致であるのに対し、内容は最低であるため、呪われでもしたかのような、不思議な読み心地である。
それはまるで、「清潔感のある汚物」、もしくは、「せっけんの香りのうんこ」を目前にした気分とでもいうか、およそ今までの自分が知ったものではなかった。
男から見た、女の腹立つ部分を、神経質にまくしたてる汚い言葉も大変ステキ。
ぜひ、他の作品も読んでみようと思う。