投稿元:
レビューを見る
・驚くべき博識、柔らかい感受性、抑制の利いた名文。まさに範とすべき珠玉の文章群だ。しかし、そのような賛辞ですら本質的ではないと思えてしまうのは、氏が本物の思想家であるからだろう。
「この戦争で、日本が米国に負けることはわかっている。日本が正しいと思っているわけではない。しかし、負けるときには負ける側にいたいという気がした」(p34)
「日米交換船に乗るかときかれたとき、乗ると答えたのは、日本国家に対する忠誠心からではない。なにか底に、別のものがあった。国家に対する無条件の忠誠を誓わずに生きる自分を、国家の中に置く望み」(p225)
・その「気」や「なにか別のもの」について、氏は、「ぼんやりしているが、自分にとってしっかりした思想」(p34)という曖昧な表現を与えるのみで、明晰に語ろうとしない。おそらく、明晰に語ることによって、思想が思想でなくなることを深く自覚しているからであろう。氏ほどの文筆家が、「言葉にならない思い」を大切にしているという、この一事を以って、私は氏を本物の思想家と見なす。
・惜しむらくは、過去の著作との重複が多かったこと。
投稿元:
レビューを見る
氏の思想の基層を成しているのは、5歳のときに号外で知った張作霖爆殺と米国による日本への2発の原爆投下という歴史であるように思えました。並外れた知性と感性から語られる言葉のひとつひとつに強い共感を覚えました。また、この書で触れられているピアズ・ポール・リード著『生存者-アンデス山中の七〇日』や水木しげる著『河童の三平』を読んでみたいと思います。
投稿元:
レビューを見る
開戦時にアメリカのハーバードで過ごし、戦時中は海軍で過ごし、戦後は知識人としてオピニオンリーダーとして過ごされている著者の自伝的エッセイ。様々な時代を通り、経験され、足元のしっかりされた人の言葉は心地よい。
投稿元:
レビューを見る
言葉が、心にしみいる感覚がたまらない
一気に読んでしまいました。あふれでる言葉が少しの抵抗もなく、心にしみいる感覚が好きです。ほんとうに文章を読むことの心地よさを充分に味わいました。この一年間に何度も読み返しています。たしかになによりも名文ですね。知人、友人に幾度となく一読することを進めています。ひとつのエッセイに千文字ほどの文字からあふれる言葉から、文章に含まれた普通の人生哲学が、ふっと湧き上がるのを感じます。疲れた気持ちを解きほぐすエネルギーが、かすかに力強く満ちてくる息遣いを感じ取るのです。戦前戦後の日本と世界について、良きも悪いもすべてをはっきりと見据えた個人としての思考が著者の八十年におよぶ経験と行動において、静かなうちにも脈々とわきでる生命力にあふれんばかりです。淡々とつづられた言葉をまたあらためて読みなおしています。今日もまた、先輩の知人に一読するようにうっかりつぶやいてしまったしだいです。
投稿元:
レビューを見る
「波風立男氏の生活と意見」で書いた感想参照→
http://blog.goo.ne.jp/namikazetateo/e/888587fa24219a873c7fe653bb84a2e2
投稿元:
レビューを見る
(2016.01.31読了)(2012.03.12購入)(2010.05.06・第2刷)
鶴見俊輔さん哲学者、2015年7月20日に、93歳で亡くなられました。
追悼を兼ねて、積読の山から探し出して、読みました。
鶴見さんの著作は、ほとんど読んでいないと思っていたのですが、既読リストを見ると、三冊ほど読んでいました。訳書を含めると四冊になります。
この本は、『図書』に2003年1月から2009年12月まで、7年間にわたって連載したものを一冊にまとめたもの、とのことです。
記憶の断片を少しずつつづったもので、同じ話が何度も出てきたりします。何度の出てくる話は、きっと思い出深いものなのでしょう。老人の思い出話に付き合ってみようと思われる方は、手に取ってみてください。
太平洋戦争が、始まったときは、アメリカに留学中で、日本に帰る船が出るというので、その船で帰ってきた。外国語ができたので、軍隊に入れられたときは、外国のニュースを聞いてその内容を新聞にして、軍隊内部の数人に、配布していた。
戦後は、『思想の科学』の発行に参加していた。
ベトナム戦争のときは、べ平連の運動に参加して、アメリカの脱走兵に手を貸す活動に加わっていた。
アメリカの黒人に対する選挙権は、法律上は、早くに認められたことになっているが、実際は、KKKなどにの妨害されて、行使できなかった。行使できるようになったのは、公民権運動などの成果によってである。
アメリカを外からの眼で見ることができるようになったのは、メキシコに滞在する機会が与えられた時である。この辺のことは、「グアダルーペの聖母」に書いてあったように思う。
【目次】
一 はりまぜ帖
二 ぼんやりした記憶
三 自分用の索引
四 使わなかった言葉
五 そのとき
六 戦中の日々
七 アメリカ 内と外から
書ききれなかったこと―結びにかえて
あとがき
●バルラッハ(30頁)
十七歳のころ、ニューヨークの図書館で働いていた。大学の夏休みは長いので、三ヵ月近く、一日おきくらいに近代美術館に通って、たくさんの作品にそれぞれなじみになった。その中にバルラッハの木彫があって、ひざをかかえ、眼をつぶって、歌を歌っていた。
(2006年に、芸大美術館で、バルラッハの展覧会が開かれた際に見ることができました。)
ドイツ・表現主義の彫刻家 エルンスト・バルラハ展
会期:2006年4月12日(水)-5月28日(日)
会場:東京藝術大学大学美術館 3F
20世紀に大きな足跡を残した芸術家の一人、エルンスト・バルラハ(1870~1938)の日本で初めての回顧展です。
彫刻、版画、劇作の分野で活躍したバルラハは、生涯「人間」をテーマとし、貧困や飢餓、戦争に直面する人たちの喜びや悲しみを 重厚かつ素朴な芸術作品に表しました。最も注目を集めるのが宗教性をもたたえる彫刻で、生と死の感情が簡素な輪郭線で重厚に表現 され、見る人を深い観照へと誘います。
本展では生涯に約100点制作された木彫の中から12点を出品するほか、ブロンズ24点、素描75点、版画36点、関係資料な ど合わせて約180点の作品を通して、バルラハ芸術の全容を紹��します。(『芸大美術館のホームページ』より⦆
●ベスト・テン(44頁)
私にとってのベスト・ファイヴというと、水木しげる『河童の三平』、岩明均『寄生獣』、宮沢賢治「春と修羅」、ウィルフレッド・オウエン「ソング・オヴ・ソングス」、ジョージ・オーウェル「鯨の腹の中で」があがってきた。
五冊足してベスト・テンにしてみた。魯迅『故事新編』、司馬遷『史記』、夏目漱石『行人』、トルストイ『神父セルゲーイ』、ドストエフスキー『カラマゾフの兄弟』、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィン』。
●三島由紀夫(68頁)
今もって私には、三島について感想をまとめにくい。敗戦後、「春子」などの作品に私はひかれた。やがて六十年安保のデモのすぐあとに書いた「喜びの琴」にも共感をもった。
著者三島のおこした政治行動にはついてゆけない。
●池澤夏樹(122頁)
池澤夏樹の著作では『ハワイイ紀行』が前人未到の試みだった。
池澤の著作に近いものを日本文学にさぐると、大岡正平の小説『野火』と実録『レイテ戦記』に行きつく。
『レイテ戦記』は、これまで日本の戦争小説の書き落としてきた、フィリピン住民からアメリカと日本を見る方向へと一歩踏み出している。
●試験問題(143頁)
試験問題になることのない「なぜ生きているのか」は、今もわからない。ただ、もう少し生きてみようと思って、問題をかかえているだけだ。
●白い丸(144頁)
先生は黒板に白墨で丸を書いて、くばった答案用紙に同じものを書いてごらんといった。一年生はすぐ答えを書いて、ハイ、ハイと手をあげた。その中に、手をあげない子がひとりいた。先生はその子のそばにじっと立って感心していた。その答案は黒く塗りつぶされ、その中に白い丸が注意深く塗りのこされていた。
☆関連図書(既読)
「語りつぐ戦後史(上)」鶴見俊輔著、講談社文庫、1975.08.15
「語りつぐ戦後史(下)」鶴見俊輔著、講談社文庫、1975.09.15
「グアダルーペの聖母」鶴見俊輔著、筑摩書房、1976.07.15
「右であれ左であれ、わが祖国」オーウェル著・鶴見俊輔訳、平凡社、1971.10.25
(2016年2月1日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
戦後思想史に独自の軌跡をしるす著者が、戦中・戦後をとおして出会った多くの人や本、自らの決断などを縦横に語る。抜きん出た知性と独特の感性が光る多彩な回想のなかでも、その北米体験と戦争経験は、著者の原点を鮮やかに示している。著者八十歳から七年にわたり綴った『図書』連載「一月一話」の集成に、書き下ろしの終章を付す。
投稿元:
レビューを見る
他の方がおっしゃるように、繰り返し語られるエピソードがある。それだけ脳に刻み付けられてしまっているのだろう。
投稿元:
レビューを見る
一月一話で連載されたエッセイ
テーマごとにまとめられているが、重複した内容もあり
何か新しい議論をするとか、そういったものではない。
鶴見俊輔がどういった人だったかは知らないが
電車の中で毎日数話ずつ読んでいく
読みやすい
単純に読み流す話もあれば興味深いエピソードもある
偉大な先人が、老年になってまとめた、この著書は
どこか人を勇気づけさせる何かが存在する気がする
●気になったメモ
・ジョン万次郎のエピソード
彼を救った船長は有色人種を受け入れる教会を探して
移籍までした。万次郎は彼に「尊敬する友」と呼んだ
ひざまずき感謝するのでは彼の心にそぐわない
・大臣、国会議員は今年、来年しかみない
歴史的観点でみることができない痛烈な批判
・イランで人質となった日本人
日本では反日分子扱い、自己責任で追い落とす
アメリカでは「社会を前に押し出す」と評価
この違いは何か。
・ある中国人が親から伝えられた日本人観
心をうちあけてはならない。個人として良い人でも
国家方針が変わればがらりと変わる
※日中戦争時代の話
※この本では書かれてないが鶴見俊輔の父親は
家では日本は戦争の敗北を示唆しつつも
仕事では戦争支援(国会議員だった)
日本人というものが何か、と考えさせる
鶴見俊輔は「一番病が日本をダメにする」と
語った
・消滅にむかう老人
昨日までできたことができなくなる
もうろくの中心に、「ある」という感覚
亡くなった人と生きている人の境界があいまい
(そういえばマイルスディビス自伝でも、マイルスは
似たことを発言していた)
・言葉
死刑宣告された韓国の詩人への署名活動
それを届けに行った時に、詩人から受けた言葉
“Your Movement cannot help me.
But I will add my name to it
to help your movement.”
単純に「ありがとう」ではなく、自分の主張を込め、
かつシンプルな言葉で伝えることが自分にできるか
鶴見俊輔は自分に問いかける
・日露戦争での誤ち
勝ったのではなく負けなかった
だが日本は「勝った」と考えた
講和条約を結んだことへ反発での焼き討ち
だが続ければ日本は負けていたのではないか
この戦争を評価して大正、昭和が生まれていく
・耳順
言葉の意味に自身が持てなかったが
人の発言から自分に適切な意味の可能性を引き出す、
と解釈している
相手の言葉を聞かず、相手を否定、たたきのめす
それは欧米から日本へ伝わった習慣
ゆとりを持つべきではないか
・文学
戦争中に看護師らが演じたプッチーニの演劇
原作への忠実度はわからない
だが、文学は欠片として人間の歴史の中を伝わる
・横浜事件
2008年最高裁は事件を事実無根と認めることを拒否
この罪は戦後日本の特色
・人の強さ
空襲後。焼け出されて無一物になったことを
ものともしない明るい声。
・黒人
南北戦争後に選挙権は与えられたが行使権はなかった
選挙に行こうとすると、KKKによる首吊りリンチ
鶴見俊輔の知人も車を爆撃された(1970年のこと)
投稿元:
レビューを見る
内田樹氏のブログで「大学生が読んでおくといい本」として紹介されていたもの。
1922年生まれでハーバード大学に行った著者は、第二次大戦中に交換船で帰国したという。そんな世代の思想家が80歳を越えて人生を振り返るエッセイ集。年寄りの思い出話のように同じ話が何回も出てくるが、雑誌に連載されたものだからだろう。
古典的な本かと思ったら2010年3月初版なので意外に新しい。そして中身も割と軽く読めるが、浅いわけではない。あっさりした語り口なのでつい読み流してしまうが、よく考えるとかなり深いことが書いてあった気がする。
投稿元:
レビューを見る
80歳を超えた思想家が、自らの人生を振り返るエッセイといっていいのだろうか。雑誌の短い連載をまとめたものということもあってか、少し断片的な感じがあり、同じ話が何度か出てくるものだから、思想家の人生を問わず語りに聞かされているような、恍惚の人、夢うつつな感覚もなくはない。それでもしっかりと芯を感じさせるのは、やはり著者の生きざまゆえだと思う。
投稿元:
レビューを見る
重いキーノートをバックに美しく複雑な音楽を聴いたような読後感。凄まじい知性と感受性。受けとる側(私)が未熟なため受け止めきれていない感があるが。
投稿元:
レビューを見る
とても、おじいちゃまが書いたとは思えない、するする読める文体でした。
失われた時を求めて。百年の孤独(さらば孤独)など、さらに気になってしまいました。
投稿元:
レビューを見る
妻の書棚にあったものを借りて読む。
味わい深いエッセイ集であるが、プラグマティズムについての言及があり、興味を持つ。
今度、しっかりと勉強してみようと思う。
投稿元:
レビューを見る
鶴見さんの作品を読むのは初めて。いろいろすごい思想と文章を積み重ねて、80代のときにたどり着いた表現という印象を受ける。平易な言葉でくり返し同じエピソードがつむがれる中に、ドキッとするような一文がまぎれこんでいる。
中でも大江健三郎のことを描いた「内面の小劇場」は圧巻。内面のせめぎ合いなしに、何かを主張することはできない。迷いながら、問い直しながら、生きていきたいと思った。
投稿元:
レビューを見る
子どもの頃のことを実によく覚えているな、とその記憶力に舌を巻く。そして、その他愛もない(失礼!)記憶がそのまま鶴見俊輔という思想家の思考の原点/本質となって結実している。肩肘を張らず、見聞きした出来事や書物や人々などの「体感」した体験をそのまま筋の通った思索/思考につなげていくスタンスは実に無理もムダもなく、この小書の中に(も)鶴見俊輔の思考のエッセンスはそのままで立派に息づいている、とさえ言えるのではないか。おおらかに相手/自分の弱さを許容し、立場の違いを超えて普遍的な真理を目指す。これは実にアナーキー