紙の本
天正遣欧少年使節のその後
2021/12/31 19:50
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
本能寺の変の直前に、九州のキリシタン大名の名代として、遥かヨーロッパに派遣された四人の少年使節たち。8年もの長きにわたる旅を終えて帰国した日本は、秀吉の世に変わり、数々の政治的、宗教的思惑から、キリシタンたちは激動の渦に巻き込まれるようになっていた。
しかし、使節の4人はその中でも、懸命に日本の信者たちをやみくもな殉教に走らせぬよう力を尽くそうと誓いを新たにするのであった。その中で修道士になりながら、ただ一人棄教した千々石ミゲル(清左衛門)の生涯を、間近で支えた「珠」という女性の視点から語った物語が本作だ。
言語を絶する拷問、弾圧に耐えたキリシタン哀史、という側面だけでなく、秀吉に揺さぶりをかけられてからのミゲルの行動が、肝心なところがぼかされて語られているので、読者はその心情や決意の裏側を探りたいという思いから、ページを繰る手が止まらない仕掛けになっている。実際、第二章で突如、棄教して珠と夫婦になったミゲルには戸惑いを覚えた。他の3人が日本人司祭になるために、マカオに学問の仕上げに旅立つときの、「4人で話し合って決めたこと、4人の心はいつも一つだ」というミゲルの言葉が、並々ならぬ決心であったことをうかがわせるのみで、その謎は最後まで持ち越される。
とても重い物語なのに、随所に現れる表現がとても絵画的で印象的だった。海に落ちる夕日が涙の粒のようににじんだところ、さらに老年のジュリアンが身をやつして危険な布教の旅に出る際に、球が手燭でその足元を照らすところ。静かな炎の揺らめきと内に秘めた信仰への熱い思いとの対比が素晴らしく、ラ・トゥールの絵が自然と目の前に浮かんできて忘れがたい。
ミゲルにとって、ただ一人心ならずも背教者となった心の支えは何であったのか。天使のようなマリータか、難しい議論はわからないながらも、そばで彼を見守り支え続けた珠か、道は違えども永遠の誓いで結ばれているジュリアンたちか。天主の平安を象徴するものとは一体何か。交易がもたらす莫大な利益、政治的な意図を押し付けてくるイエズス会、時の為政者の意図をいち早く読み取り、お家の存続を図ろうと激しい弾圧を加えてくる大名たち。それらの中で、己を捨てて他者のために生きる道を選んだミゲルの苦しくも、毅然とした生き方が全ての問いの答えだろう。
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天正遣欧少年使節のその後を、後に棄教することになった千々石ミゲルを中心に描いている。悲運の人生の物語ではあったが、読後感は爽やか。
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p.106
政が分かったわけではないが、大村が堅固に治まっていなければ、大きく変わろうとしている世に取り残されてしまうのだ。取り残されるとは他国と差がつくということで、差がつけばそこにいくさが生まれる。
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書評でこの本を知り、歴史的な使節団の何も知らずに読んでみたが、とてもおもしろかった。ドラマ化してもおもしろそう。
あえて言うなら、自分が無宗教なので『人生をかけてまでの“信仰”とは何か』をもう少し深く描いてもらえたらもっと共感したかな、と思った。
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戦国時代にキリシタン大名がローマに送った少年使節の日本に戻ってからの、時代に翻弄される姿を描いてある。
四人のうちただ一人、棄教した、ミゲルの一生を、主人公、珠の視点から描いてある。
戦国から徳川の世になるまで、キリスト教がどのように権力者に捉えられたかにより、翻弄されるキリシタンたち。
政治的な思惑。純粋な信仰心。
愛する人を一生おいかける珠のけなげさがもの悲しい。
少年使節だけでなく、マリナ伊奈姫について初めて知った。戦国時代、武家の女性の地位は意外と高く政治的な力を持っていたとは知っていたけが・・・・。戦国時代のキリシタンの女性といえば、細川ガラシャが有名だけれど、たくましく強く生きた、こうした女性もいたのだということに考えさせられた。
有名な浅井三姉妹なども好きだけれど、マリナ伊奈姫のことももっと知りたいと思った。
この本を読んでよかった。
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天正遣欧使節として、4人の少年がローマに派遣された。
帰国後、唯一棄教したミゲルと妻・珠の生きざまを追いかけながら、信仰とは?宗教とは?そして殉教とは?を問う。
豊臣秀吉や徳川家が登場し、ローマの思惑を垣間見せるなど読み応えある作品に仕上がっている。
ただ、日本における信仰や弾圧が前に出ているので、ミゲルに寄り添った珠の人生とはなんだったのかと考えてしまう。
真に純粋だったのは珠ではないかと思えてならない。
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戦国末、ローマに派遣された天正遣欧少年使節。その後、信仰を捨てた千々石みげるの苦悩の生涯。
とにかく、4人の一途で純真な気持ちに、胸を打たれた。
それに引き換え、為政者の身勝手さは、何時の世も変わらずだな・・・
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天正少年使節副使でありながら、唯一棄教した千々石ミゲル。
彼に対する意識のがらりと変わった一冊。
感動のあまり、島原旅行のサブテーマにしてしまったほど。
詳しくはこちらへ
→島原『マルガリータ』の旅へhttp://blog.goo.ne.jp/fc2008/e/c40192f15025437c9b34adc095399216
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この国に殉教者を出しては、いけないというミゲルやジュリアンに共感するよ。命を捨てることが美しいというのは間違っている。なんでそんなにまでして宗教にこだわるのかわからん。
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無宗教なのでキリスト物等はなぜ登場人物がそこまで入れ込むのか
理解しづらいのですが、これは語り部のたまが現代人の宗教観に近く入りやすいです。
一概にキリスト教のみ虐げられた良いものとしても構図ではなく
色々な視点があったのも良かったと思います。
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1582年にローマへ向かった少年4人(正確にはもっといたのですが)。
その内の一人、千々石ミゲルが日本に戻ってから話が始まる。
天正遣欧少年使節の正使として、8年かけてヨーロッパを見聞してきたにもかかわらず、突然の棄教。
その棄教の理由がドラマチックに書かれています。
4人はどんなことがあってもお互いを思いあい、日本のキリシタンの殉教を阻止するために力を尽くすが、その努力もむなしく幕府の弾圧が厳しくなる。
中浦ジュリアンが穴吊りにされる前に「4人の絆が如何に強いか見せよう。1日1人が持ちまわって穴吊りに4日間耐えてみせる。」といったのが印象的。
2007年にやっとローマ法王からその殉教を認められたそうですが「遅いよっ!!」
遠藤周作の『沈黙』と何か通ずるものを感じる。
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幼い頃に訪れた長崎の海と天主堂、雲仙の地獄谷、島原の城下町を思い出しながら一気に読んだ。布教した者とされた者、迫害した者とされた者、棄てた者と殉じた者、ただ流れに身を任せて生きた珠。選んだのか、選ばざるを得なかったのか、歴史やキリスト教だけではなく運命や人生について考え込んでしまう。
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話の内容は私にはとても重かったです。でも友情だけに焦点を置くと、とても良い話でした。何より女子である私は、やはり、この話の語り手ともなっている「珠」の目線で見てしまい、とっても気に病んでしまいました。あと1つとても読みづらかったです。
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安土桃山時代、天正少年使節でありながら、
帰国後キリスト教を捨てた千々石ミゲルが主人公。(実在)
あの時代の九州で
キリスト教が爆発的に広がったのはなぜ?
激しい禁教の波に、棄教より死を選ぶのはなぜ?
本によると、当時の切支丹はものすごい人数だったらしい。
当時の日本、日本人の特性がぴったり符合したのか。
でもそれは何の力・・・?
興味がわいた。面白かった。
松本清張賞受賞作。
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千々石ミゲルが底なしに良い人に思えた。しかしその中でもところどころに人間味があったのが妙にリアルだと感じた。ミゲルというと、一人だけキリスト教を捨てたということであまり良いイメージは無かったが、この物語では形は捨てても心の中ではキリシタンだったという設定なので悪いイメージは全くなく、ただ本当にいい人。
自分は物語中盤まで知らず知らずのうちにミゲルに感情移入していたので、ミゲル以外の少年使節が再び行ってしまう場面は込み上げるものがあった。
そしてなにより、四人の友情が素晴らしい。一人で四人、四人で一人という言葉が今も頭に残っている。
最後の方のミゲルが私はキリシタンだというシーンからラストにかけてはボロボロと泣いてしまった。
この本を読んで良かったと思う