腰が浮いてくる感じ再び
2010/09/09 21:58
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
マルクスは大変とっつきの悪い作家である。書いているテーマがあまりに膨大だし、論証は複雑でくどく、文章は(凡そまともな日本語にできていない翻訳家の責任も大だが)難解でまどろっこしい。特に『資本論』は読書会というような形でもとらなければ、とても独力で読める本ではない。
そして。マルクスは近年とても評判の悪い学者である。マルクスを貶す人の論調はこうである──ベルリンの壁とともに東欧社会主義諸国家は崩壊した。故に資本主義社会の必然的帰結として暴力革命による共産主義社会の樹立を予言したマルクスは間違っていた、と。
しかし、マルクスはノストラダムスではない。預言者でも占い師でもないのだ(もうひとつ言うなら革命家でもない)。彼がやったことは現象と本質を見分けること、そして、資本主義社会の本質を見抜くことであった。
マルクスの理論で今の全世界を説明するのはもちろん無理があるだろうが、それはアダム・スミスやケインズの理論だけで今の経済政策を押し切って行けないのと同じである。細部の問題ではないのである。マルクスの仕事は資本主義の表象を分解再構築して本質をあらわにしたことなのである。その業績によってマルクスは、アダム・スミスやケインズがいまだにそうであるのと同じように、経済学史における偉大な学者なのである。
そのマルクスを内田樹と石川康宏の往復書簡という形で読み解いていったのが本書である。とても偉い試みである。
それは、そんなに難解でとっつきの悪いマルクスを高校生向けの案内書として噛み砕いているからである。そして、今の時代にこんなにも旗色の悪いマルクスを臆することなく正面から紹介し奨励しているからである。
しかし、単に内田と石川がそういう勇気のある企画に手を染めたからこの本が褒められるのではない。それは、この本がそういう意図に沿って上手くまとめられているからであり、恐らく意図した読者に読まれているからである。そういう意味では、かつては単なる貧乏学者でしかなかった内田が、今をときめくベストセラー学者になったこの時を選んでこの本が書かれたことが(恐らく狙ってのことなのだろうが)成功の一番の原因だと思う。
さて、経済理論を専門とする石川はともかくとして、違う分野の専門家である内田の読み解き方はかなりの“我流”であり、僕のように大学の4年間にマルクスを読んだだけの者であっても容易に異論を挟む余地があったりもする。読み方がやや一面的であったり、自分への引きつけ方が強すぎたり、何よりもあまりにも解りやすい卑近な例に喩えてしまうところが大変乱暴な気もする。しかし、内田が、いや、内田と組んず解れつのやりとりをする石川も、自らの全身全霊でマルクスを噛み砕き、高校生や初心者にその素晴らしさを伝えようとする熱さはひしひしと伝わってくる。内田が言う「腰が浮く」(37ページ他)感じである。内田や石川が(そして大学時代の僕も)マルクスを読み進むうちに腰が浮いてくる感じがしたように、僕は今本書を読んでいて再び腰が浮いてくる感じがする。
この本はひたすらマルクスを賞賛するための本であると内田は言う(80ページ)。「マルクスの理論ではうまく説明できない事象がマルクスの死後にいろいろ現れてきたとしても、そのことは少しもマルクスの明察を傷つけるものではない」(81ページ)とも言う。そして、その一方で「『マルクスの理論はあらゆる歴史的状況において無謬である』というようなことを、目を血走らせて言うような原理主義者も、『大人でない』という点では選ぶところがありません」(81ページ)とも付け加えている。
そこを踏まえて読み進んで行くと、この本は「ぼくたち(内田と石川のこと──筆者註)のような、それぞれ政治的立場も意見も違う人間同士が、愉快かつ礼儀正しく対話ができて、それぞれがそこから生産的な知見を汲み出しているということを実例として示すということが、けっこうたいせつなんじゃないかなと思うのです」(145ページ)という更なる高みに読者を誘おうとしているのが窺える。
マルクスとリンカーンが同時代人であるなどという新たな視点も持ち込まれていて、読んでいて大変愉しい。唯一の肩透かしは『ドイツ・イデオロギー』という、マルクスの初期の著書で終わってしまっていること。これはまさに、おいおい、という感じである。『資本論』への道は遥かに遠い。どうやら続編を出版するつもりらしいのだが、まあ、できるならいっぺんに出してほしかったなという気はする。
ともかく、帯に書いてあるのと同じことを僕も書いて終わりにすることにする──「いいから黙って読みなさい」。
ただし、マルクスを100倍くらい噛み砕いてあるけど、初めて読む人にとってはやっぱりまだ難しいしとっつきが悪いとは思うよ。
by yama-a 賢い言葉のWeb
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10/06/21。二人のミスマッチが面白い。
06/22読了。
二度目中。『経哲』も『ド・イデ』も言葉の宝庫だわ。あらためて感動。
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2人の往復書簡形式でマルクスの著書を解説。まず石川氏が丁寧に解説、次に内田氏が様々な切り口から語るという進行で、妙なバランスが面白い。
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マルクスのことは全く理解できていない状況で読んでも、マルクスの言わんとしている本質はちょっとかじれた気がする。
マルクスがすごいところは、排他的で階層闘争であった時代に、人間が社会的であることの意味、類的存在、公民と私人とは何かを、自分がブルジョアであっても想像力でプロレタリアのことも理解し語ったことなんだろうな。
丁寧に解説してある石川先生のところは読み飛ばしても(速読上トリガーワードがなかったもので)、内田先生の、本質はだからこういう意味なんだよって解説が心に残る本だった。
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高校生にもわかるように書かれたマルクスの案内書ということで、
5年くらい前に佐藤優にはまったころからずっと気になってはいたけれどきちんと読めていなかったマルクスの思想を、なんとなくだけれども大事なところを理解できた気がする。
史的唯物史観も、毛沢東の人民公社構想の根源も、「類的存在」も、今までいろんな本で触れてはきたけれど、この本を読んでみて初めて腑に落ちた。
何より、全共闘時代の代々木の人(共産主義者)である石川康宏さんと、反代々木の人である内田樹さんの書いているのが面白い。
内田先生のブログに書かれている通り、考え方や立場の全く違った二人が、同じマルクスという人に対してどんな解釈をくわえ、どんな対話をしているか。二人の取り上げるポイントは全く違う。
石川先生は、ものすごくマルクスを一生懸命読み込んで、彼の思想を体系的に教えてくれる。
内田先生は、「イデオロギーやドクサを遡及的に吟味する「装置」を備えていない人間は「批評的」とは言えない」と言っているように、マルクスが与える額縁をそれぞれひっぱりあげて、それをわかりやすい言葉に還元して読者に提示してくれている。
現実世界を見るときの材料としてのマルクスの活用。
マルクスは、今の自分の問題を解決してくれない。けれども、マルクスを読むと、自分の問題を自分の手で解決しなければいけないということが分かる。
マルクスのしてくれた教育は、そういうことのようです。
【ブログ】内田樹の研究室
「マルクス本を書いています」(2010年2月14日エントリー)
http://blog.tatsuru.com/2010/02/14_1155.php
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うががが読んだけど。内田樹パートしか理解できませんでした…。がくり。
いつも内田先生の語られるマルクス像がものすごくクールで一度読んでみたくて、その手がかりになればと思ったのですが。
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先日、書店で見かけて内田樹の名前があったので購入。
高校生向けに書かれたマルクスの紹介本らしい。
石川先生がマルクスの著作を大まかに解説し、内田先生がそれについて感想を述べて……という風に構成される。
マルクスを読むと、自分がどれだけ不自由に思考しているかという事を知るようだ。
つまりイデオロギーというやつだろうか。
我々に不自由さを知らせ、自らの手でそこを脱する必要を感じさせる。そこにマルクスの教育的効果があると内田先生は言う。
レヴィ=ストロースは論文執筆の前にはマルクスを数ページ読む習慣があったそうだ。
自分を取り巻く枠組みを抜け出そうというモチベーションを喚起するために、そういう習慣があったんではないか、というような事を内田先生は書いています。
なるほど、そう聞くとマルクスを読むと言うのはずいぶんエキサイティングな営みに思えてきます。
この本では、二人の先生方がマルクスの著作やマルクス自身についてやいのやいの言い合う。
そこから、マルクスに対しての大変な熱意が伝わってくる。
読者がその熱にあてられる事を期待したんだろう。
私に関して言えば、ここで紹介されたマルクスの著書を読んでみたいと感じたので、この本の試みは全く成功したようです。
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こちらに書きました↓
http://esk.blog9.fc2.com/blog-entry-776.html
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この本は、ほんとのこというと良く理解できていない。
時々、何いってるのか意味が分からない。
でもなんか読むのをやめられないし、もう一回読み直してみたい、そんな本。
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高校生向けに書かれたマルクスの案内書
とまえがきに記載があるのですが
取っ付きにくいホンでした
神戸女学院の先生同士
お二人は野沢温泉への極楽スキー仲間でもあり
仲良しだけど、往復書簡の内容は
そこはちょっと解釈が違うということを
いってはばからない仲です
やっぱり内田先生の手紙の方が分かりやすい
「ユダヤ人問題によせて」の手紙は
なるほどと思う点が多かったです
3まで?シリーズ化されるようです
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20100902
自分が高校生だったら、手に取らなかっただろうし、手にとっても理解できなかっただろう。でも、これを手に取って理解もできる高校生がいたらいいと思う。そしてきっといるんだと思う。
マルクス主義とは何かまだ理解していないが、これから理解していってもマルクス主義者にはならないつもりで読み、かつ、これからもマルクス主義関連の書籍を読もうと思う。これを通ると今まで見えていなかったものが見えるようになると思う。このメガネは現代の理解に欠かせないとも思う。
月並みな表現だが、格好の入門書である。
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大学時代、著書のお二人の授業を受けていました。
授業ではいつも、難しい内容をとってもわかりやすく噛み砕いて説明して下さいましたが、この本もまた然りでした。
正直なところマルクスには全く興味がありませんでしたが、軽妙な語り口にどんどん引き込まれ、まだ読み始めですが「マルクスってどんな人なんだろう」とワクワクしています。
往復書簡形式というのも、また斬新で面白いです。
「マルクスなんて私には無理無理・・・」と思っている方こそ是非読んで頂きたいです。
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題名に「読もう」とありますので、既読の『共産党宣言』と、購入済みで未読の『ドイツ・イデオロギー』以外の、『ユダヤ人問題によせて』、『ヘーゲル法哲学批判序説』、『経済学・哲学草稿』(すべて岩波文庫)を購入してきました。
もう「若者」じゃないけど、読もうと思います。
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マルクスの知性と情熱を感じた!難しそうだけど読んでみようかなと思わされた。
この一冊だけじゃちょっと物足りないかな。。
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高校生にもわかるマルクス、というキャッチにやられ、読んでみましたが、あんまりよくわからなかったというのが本当のところ。哲学で使われる言葉自体が難しいのか、翻訳が良くないのか、頭にすぅとはいってこないのです。
まあ、マルクスがいつの年をとるにつれて、どの様に自分の思想を磨き上げて行ったのか、と言う伝記としてのよみならばまぁできるかなと。