紙の本
沖縄で記憶喪失になった男
2012/01/14 08:25
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
メタボラ 上・下 桐野夏生(なつお) 朝日文庫
上巻を読み終えたところで感想を書き始めます。意味を理解できない方言のような言葉が出てきます。舞台は沖縄本島です。「オゴエッ」驚いたときのうめき声、「ズミ」上等という意味のようです。「ちゃみた」盗んだ。「ボラバイト」まだその意味はわかりません。「メタボラ」なんのことやら。メタボではありません。以前読んだ同作者の「東京島」と雰囲気は似ています。
記憶喪失者のお話です。沖縄で記憶を失った仮名「磯村ギンジ」の物語です。「ココニイテハイケナイ」、「お前、仕事だろう!」この2語の記憶しかない。山の中で伊良部昭光という男と知り合って交流をもち始める。若い女性たちもからんで、ギンジは自分が何者なのかをわからずさまよう。自分の存在を嘘で固めて働く。自分は性的に男性愛好家かもしれないと思い始める。不安定で不気味です。
生まれ変わるためのマニュアル本です。周囲の人たちと「関係」を築いて、就労によって「収入」を得て、生きるための手順を踏んでいく。ギンジは、記憶を失う直前の自分の行動を思い出して絶望します。
第7章「スイート・ホーム」はつまらなかった。第8章「デストロイ」描写は秀逸です。この章だけで単体の作品として完成しています。
「ボラバイト」はボランティアバイトでした。「メタボラ」は、巻末の解説に「新陳代謝」とありました。社会での労働体制の変化を表しているようです。終身雇用の制度を始め戦後形成された日本の会社・家族のありようが崩壊したとなっています。この物語では生まれ変わることを示唆しています。
ふわふわと浮遊している若者男女たちにはルーツ(根っこ)がありません。義務を果たさず権利だけを行使しているようにも見えます。書中に「放浪は死の状態を意味する」というような記述があります。
紙の本
桐野さん全開作品
2020/04/05 12:36
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:chieeee - この投稿者のレビュー一覧を見る
沖縄の方言が少々意味が分からない部分はあるものの、それも雰囲気があってよかった。物語としてもなかなか引き込まれます。たった数日の一緒にいただけの相手が、しっかりと心の支えとなる親友になって、一緒に本島に行きたいと思う目的を持つ。目的がなく一緒にいる仲間もいいけど、目的が一緒の友達を持てるのは数少ない幸せ。でも、物語は決して幸せではない。
投稿元:
レビューを見る
さすが、桐野夏生!独特の世界に一気に引き込まれてしまいました。
なんでこの人の作るキャラクターは魅力的なのでしょう♪
投稿元:
レビューを見る
タイトルの「メタボラ」ってどういう意味なんだろう?と思いながら読みました。似たような言葉で「ボラバイト=ボランティア+バイト」というのは出てくるのですが、「メタボラ」は本文中には出てきません。解説に「新陳代謝(メタボリズム)」から取られているとありましたが、ちょっと分かりにくいですね。
ネット自殺、家族離散、雇用難民、偽装請負などなど、悲惨なことばかりが続けざまに出てくるので読んでいて落ち込みます。ラストも救いはありません。でも昭光の喋る宮古弁の、音読したくなるようなリズム感が病みつきになりました。
新聞連載していたときも読んでいたのですが、細切れで読むと分かりにくいお話のようで、今回まとめて読んでみて、やっとすっきりしました。
投稿元:
レビューを見る
7/30 東京島はなんか生々しい感じがぬるくて、ちょっと苦手だったけど、こっちはすんなり入って行けた。男の人が主人公って実はあまりないんじゃないかと思うけど悪くない。桐野さんが書いてるって途中で忘れていたよ。
投稿元:
レビューを見る
東京島で、「あぁ、もうこの人だめかな」まで思ったけど
これは楽しかった。桐野夏生感が若干薄いのは青年が主人公だからか。女性が主役じゃないのでエロさグロさは
ないけどよく考えてみるとえぐい現状の若者達。
下巻が楽しみ。しかし、メタボラってどういう意味?
投稿元:
レビューを見る
下流の若者たちのサバイバル人生ゲーム。記憶喪失の主人公がまったく状況を理解できないままに森の中を逃げているスリリングな冒頭からずっと緊張しっぱなしなので、愉快でも痛快でもない結構しんどい話なのに読みだしたら止まらない勢いがある。
桐野夏生は社会悪にも、それに翻弄される人々の弱さや抜け目なさやずるさにも容赦がなく、厳しい。特にゲストハウス「安楽ハウス」とそのオーナーの釜田、釜田の恋人の香織など一見いかにも善良な見える人たちの何とも言えないいやらしさがすごくリアル。
ギンジとジェイクが一度別れてからすれ違いの連続でなかなか再会できず、やきもきしました(笑)
投稿元:
レビューを見る
「オゴェッ」「ズミ、ズミ」「○○さー」などのジェイク語が好きだった。大体ジェイクはびっくりばかりしている。ギンジが那覇で働いているとき、やっとジェイクと再開できたシーンで私も感激してしまった。冒頭から始まる不穏な空気というか、このまま普通にハッピーエンドなんてありえない・・・という空気が、ジェイクの存在で明るくなる。なんとかなるんじゃないかなーと・・。まさになんくるないさぁ、の雰囲気。
ジェイクがホストクラブで「慈叡狗」と名前をつけられて、「あばっ、おいらには書けないさいが」(読めもしなかったが、それは言わなかった)というくだり、かなりウケた。これはギンジがもしホストクラブに行ってても笑えるシーンにはならないと思う。そしてギンジが(慈叡狗だって、馬鹿だなあ、とぼくは笑った。相変わらず昭光のすることは可笑しい)と笑ってるのが、なんか印象に残った。
投稿元:
レビューを見る
集団自殺で生き残り記憶を失った青年が山で男と出会う。
二人が辿る人生が対象的。一人はゲストハウスの従業員になり。もう一人はホストになる。二人とも過去を背負っていて、その過去に苛まれ潰されて行く。遣り切れない話。
投稿元:
レビューを見る
記憶を喪失してしまった主人公の若者とその相棒の、突如巻き込まれるかのように始まる沖縄での現代漂流記。2人に居場所を提供するもののどこか不安定で心許ない生活や、また沖縄に自ら好んで日常から離脱してくる若者たちの姿など世相が多層的に描かれていく。相棒の宮古弁まるだしの底抜けの明るさが悲壮さを感じさせず、まるで非日常体験を楽しむかのような感覚で読み出したらとまらなくなった。
投稿元:
レビューを見る
下巻を読んだ後に読む上巻。ギンジの過去を探る形になって、これはこれでよかったかな。
冒頭のやんばるのジャングルの描写が、リアルで凄みがある。生きている森の怖さがひしひしと伝わってきて、すごくドキドキした。
記憶喪失で所持金ゼロ・持ち物ゼロから始めるギンジは着実に、案外したたかに人生をサバイバルし、一方アキンツは持ち前の美貌と愛されキャラで得をしたり損をしたり、なんだかんだで身の振り方が上手い。
ギンジの過去の陰の部分と、アキンツの無邪気な陽の対比が良い。
投稿元:
レビューを見る
新聞に掲載されてた頃からちょこっと読んでたんですが、ちゃんと思って本買いました。
初桐野さん小説。
「どうしようもない」って状況で、皆強いなあと思う。
投稿元:
レビューを見る
久々の桐野夏生です。
この人の作品も大好きで、購入出来るのは全て購入しております(古本屋だけど)。
『顔に降りかかる雨』から読み始めて、かれこれ何冊になるんだろうかな?ってところです。
最近益々アブラがのって、凄いなぁ、なのです。
で、今回の『メタボラ』。
これは職にあぶれた若者を描いた作品、って言っていいかな?
記憶をなくした『僕』が森を抜ける導入部から、かなりハイテンションで話は始まります。
そこで出会う女性、その女性のルームメイト、無一文からのサバイバル、と話は進んでいき、森で出会ったイケメン君の話と並行して話は進んでいきます。
桐野ワールドにしてはややソフトかな?とも思ったのですが、やはり桐野さん。
後半の『僕』の回想は、かなりドロドロになってきております。
それでも最近の桐野さんの作品に比べれば、まだまだソフトな印象です。
解説ではニートがどうのこうの言っておりましたが、個人的には本来そんなモンはない、自分を求めてもがいている人間を描きたいんだろうなぁと思っております。
ここでも記憶という自分の根幹をなくした『僕』が、いつの間にか当座つけられた名前イコール人格(?)に馴染んできてしまい、記憶を失う前の人格よりも親しみをもってしまうとか、ある役割を振り当てられた人間が、その役割に振り回されて、本来の自分を失ってしまうとか、そんな話の流れになっております。
その時々で非常に良いキャラの人物も出てきておりますが、桐野さんは、そういう良いキャラを惜しげもなく捨てていくところも、らしいなぁと思ってしまうのでした。
足掻いて、足掻いて、それでも泥沼から抜け出せない。
それなのに、なぜかそれを楽しんでいるようにも見える乾いた絶望。
そこが桐野ワールドの魅力だと思います。
投稿元:
レビューを見る
これは凄い。
だいず、プリギてる。
調度いい湯加減の黒さ。
抜群のルックスでだうネーネーをちゃみれるジェイクが羨ましい。
すんきゃーいい女はちゃみらないと損さいが。
あばっ。
なんとなんと、うわり驚く展開、この後はどうなるかー。
あっがいー。
ナイチャーだけどおいらもジェイクに学んでミドゥンブリ‥
オゴエッ。
投稿元:
レビューを見る
グロテスクの桐野 夏生さんの作品なので買ってみた。
背表紙の紹介文を読んで面白そうだったので。
作品の紹介
記憶を失った“僕”は、沖縄の密林で職業訓練所から脱走してきた昭光と出会う。二人はギンジとジェイクに名を替え、新たに生き直す旅に出た。だが、「ココニイテハイケナイ」という過去からの声が、ギンジの人格を揺るがし始める―。社会から零れ落ちていく若者のリアルを描く傑作長編。