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紙の本
真の意味での警世の書
2006/11/15 13:09
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:後藤和智 - この投稿者のレビュー一覧を見る
世に「警世の書」を謳う書物は多々あれど、その多くが自分の思いこみや若年層に対する愚痴を天下国家と結びつけたような本ばかりである。そのような状況下において、真に警世の書と言える書物がここにある。著者は元東京都職員、それも平成15年から17年にかけて、前田雅英や竹花豊の下で東京都の治安対策に、しかも知事本局治安対策担当部長として深く関わった。その著者が、本のタイトルにもあるとおり「治安は本当に悪化しているのか」ということを、自分が都職員として行なってきたことに対する反省と懺悔として書いている。
治安が悪化している、と多くの人が言う。そしてそこで必ず語られるのが、少年と外国人による犯罪の「急増」である。曰く、自分が子供の頃には起こらなかったような事件が少年たちによって為されるようになってしまった、あるいは、外国人集団が日本で犯罪を起こしている、と。本書はそれに関して疑問を投げかける。確かにここ数年で犯罪の「認知件数」は急増した。なぜか。犯罪そのものが増えたからではない。警察の方針が転換したからだ。凶悪犯罪は増加したが、それは強盗の件数の増加であり、その原因は強盗に関する取り扱いの変化である。また昔も今も、我が国においては、多くの凶悪殺人は身内の間で行なわれている。
少年による凶悪犯罪も決して急増していない。また昔ではありえなかった事件が増えたわけでもない。さらには、昭和41年に為された少年犯罪に対する法務省の解説は、現在とほとんど違うところは見られない。また、外国人における不法滞在者が特に犯罪の温床になっているというわけでもない。これらの点に関しては、既に多くの論者によって語られてきたことである(例えば、浜井浩一『犯罪統計入門』日本評論社、河合幹雄『安全神話崩壊のパラドックス』岩波書店など)。しかしながら、本書は、さらに深いところに不込み、我が国の社会に蔓延する、ある「気分」について解説している。
それは、社会心理学で言うところの「モラル・パニック」と呼ばれる現象である。我が国において、「治安の悪化」は、直接の犯罪被害に関する体験よりも、マスコミの報道や、地域の防犯活動、噂話によって認識されることも本書で明らかにされている。そしてその現象を見事に表しているのが、治安そのものではなく「体感治安」の悪化、という物言いである。
本書最終章においては「治安の悪化」言説が我が国に落としている陰について述べられている。しかしながらそれよりも私が重要だと思うのは、むしろ冒頭における「治安」と「防犯」の違いに隠れていると思う。基本的に「防犯」は、個人的に行なうことも含めて、犯罪が起こることを防ぐ行為であるが、「治安」とは社会秩序の維持という側面が含まれる。そして、近年においては、「防犯」から「治安」へと言葉の置き換えが起こっている。そしてその「治安」の改善のためにターゲットにされるのが、少年であり、また外国人である。特に少年に関しては、近年になって「問題のある」青少年を指すようなカテゴライズが大量発生し、それに対する「教育」への欲望が高まっている。教育基本法の「改正」もこの流れに属するかもしれない。
我々は何におびえているのか。そして我々は誰を排除しようとしているのか。その不安を正しく見ることこそが重要なのであり、特定のカテゴリーに属する人たちに対する徒な批判言説はますます不安を増大させる。そのことを的確に衝いた、真の警世の書こそ、本書である。
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