紙の本
弱きものは強きもの
2017/06/25 06:10
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ボストン・テランの新作が出たので・・・読みそこねていたこの作品をあわてて読んでみる。そしてあの当時、いろんなところで絶賛されていた意味がわかったわ。
筋書きはいたってシンプル。でも文体が独特。雰囲気としては『あなたに不利な証拠として』に少し近いというか、似たような空気を感じた(あくまで日本語訳としては、という意味で)。どちらも女性を三人称で距離をとって描いているから?
バイオレントな内容なんですが、その文章故にちょっと格調高くなっているというか、「読んでて具合が悪くなる」ことはない(よく考えたらかなりひどいこと書いてあるんですけどね)。
なるほど、これがボストン・テランか。納得。
舞台は1950年代のアメリカ、ブロンクスから。ニューヨークの北端にある町だが、当時は移民の住む街として治安も悪く、ほとんどが貧困だった時代。そんなところで、イタリア系の両親のもとに生まれたイヴは耳が聞こえない。イヴの母親クラリッサは敬虔なキリスト教徒で、これは髪が自分に与えた試練と考えていて、クズのような暴力夫ロメインにも黙って耐えている。
近所に住むドイツ系(ナチスの迫害からアメリカに逃げてきた過去あり)のフランは見るに耐えかね、クラリッサとイヴを助けようとするが・・・という話。
イヴが生まれてから18歳になるまでの出来事を中心に、冒頭で時間軸を織り込み悲劇の予感を漂わせつつ、この物語は始まる。
『このミステリーがすごい』の上位に入ってしまったせいか、「ミステリーじゃなかった」という批判が見受けられますが・・・「トリック・謎を解く」のが狭義のミステリということなら、「この先、何が起こるのか・何故起こったのか」を追うのもミステリなんじゃないかと(“広義の”となってしまうかもしれないけれど)。少なくとも私は「これはミステリじゃない」なんて考えは浮かばなかった、ただページを追い続けた。
「あぁ、こうなってしまうのか、やはり」と感じつつも、彼女たちの人生を、運命を、見届けずにはいられなくて。三人の女性の痛みはそれぞれに違うけれど、違うからこそわかり合うこともある。三人以外の女性たちの選択もまた、自分の人生をかけた覚悟ばかり。
まさに、「強きし者、汝は女」という話で・・・でも彼女たちを強くしたのはダメな男たちのろくでもない行動の結果で、ある意味、「女から男への絶縁状」ともいえる内容になっています。でも爽快さは伴わない。後味の悪い利己主義や暴力が全編を彩っているから。
なのに、本編はひそやかなまでの静寂を漂わせている。誰かが激昂しても、ショットガンをぶっ放しさえしようとも、どこか静かなのだ。
あぁ、もしかしたらこれが、イヴの世界なのか。耳の聞こえない(でも手話はできるし、リップリーディングも可能、メモ帳に文字を書き意志疎通もできる、ただ音だけが聞こえない)彼女の体験を、読者もまた共有した結果なのか。
だとしたらすごいことでは・・・。
個人的にフランの人生から得た強さには圧倒されました。イヴが心酔するのも当然。弱い女性の代表ともいえるクラリッサとフランが友情を確かめ合う場面では(このままではいけないとクラリッサが自分の弱さから脱却するところでもあり)、電車の中だけど泣いちゃいました・・・。
『音もなく少女は』という邦題は、イヴに寄り添った言葉だけれど、詩的で美しい。ときどき困った邦題のある中、これは正解です。
というわけで・・・今更ながらボストン・テランのすごさに気づいた今日此頃。手遅れにならなくて、よかったです。
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すばらしい作品です。物語のテーマは非常にシンプルで、「ままならない境遇にある者たちが、虐げられ利用され、それでも悪に屈しない」様を美しく力強い筆致で書き切っている。とくに、どんな痛ましい現実にもカメラを持って向き合うイヴの強さと、彼女を支えるフランの優しさが印象的で、結末は圧巻。まさしく傑作です。
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この作品は、ハードボイルドに仕分けできると思う。ただ、チャンドラーやハメットではない。
登場人物は女が3人、男が2人。諦観した女と現状に徹底して抗う女、過去の負を抱きつつ、前進する女。そして、女を食い物にするこでしかアイデンティを保てない男2人。
この5人が複雑に絡み合い、物語は進行し、男たちは惨めな死を、女たちは新たな希望を得ることになる。
本当の愛、勇気は、性に拘らないのだ。真っ直ぐに前を見据えることの出来る覚悟こそが、他者を愛し、それを守る勇気を生み出すと知った。
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「失われ、忘れられた過去の値打ちは、その年月にあり、愛にあり、求めることにあり、喜びにあり、友情にあり、希望にあるのよ。そして、それは鋳造されるものでもある、硬貨のように。でも、あなたの内側には涙がある。悲しみにあなたの眼を見えなくさせ、もう二度と何も見たくなくさせる涙がある。そんなところであなたを死なせるわけにはいかない」
ガーーーーーーン。。。。
打ちのめされた・・・
凄い作品なのでした。
本当に、どかんと見えない何かに殴りつけられたような感覚をもってしまうような世界。
いや、この世界自体は広くない。
小さなコミュニティの中で、もがく女たち。
その様は、世界規模ではない。
それでも、そこで考えたり、得たりすることは、とても大きい。
凄い。
とにかく、やられたなぁ・・・
ジェットコースターのように上がって、下がって、上がって、下がって、希望を見いだしたら、絶望にたたき落とされて、
ひたすらその繰り返しだったのだけれど、、、
それでも、彼女たちは、足掻き続けるのだ。
その様が、清々しいほど、カッコいい。
はぁ。。。
凄い1冊なのでした。
【8/19読了・初読・個人蔵書】
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「神は銃弾」のテランが描く聾唖の少女の命の物語。
貧しいイタリア移民の子供、そして聾唖者として生まれたイヴ。
彼女を最低の生活からすくい上げたのはドイツ人移民で、孤独に暮らしているフランだった。
娘が、底辺の生活から抜け出すには学問が、手話が必要だと奔走する母親の姿にまず心打たれる。
そして、そんな母子を助けるフランの壮絶な過去に胸が痛む。
その上、イヴにも不幸が降りかかってくる。
けれど、彼女は何度でも立ちあがる。彼女は、自分の命を母が与え、フランが守ったものだと、知っているからだ。命はそのようにしてつながっていくものなのだ。
それにしても、出てくる男がどいつもこいつも、最低野郎なのだ。(イブの恋人など例外もいるけど)
なのに、憎みきることができない。
母親を虐待し、イブを苦しめ続ける父親でさえ、憎みきることができない。彼は彼なりの、それしかできない生き方をしていたのだと、思ってしまう。憐れみさえ感じてしまう。
この作品の本当にすごいところは、そこなのかもしれない。
憎しみは何も生み出さない。愛だけが、人生の光なのだと。
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小説を読んだのに、心に刻まれたのはイヴの撮る写真。たぶんモノクロの(勝手に想像)。行ったことのない場所なのに、光景も人もヴィヴィットに映像として迫ってくる。それって言葉の力に圧倒されたってことなのかもしれない。
フランがかっこよくて哀しい。映画になるとしたらジーナ・ガーションのイメージかな。
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フランにとても魅力を感じる。
凄惨な過去を抱えつつも、世間に対して心を閉ざさない強さと、
どこか脆さを感じさせる人間臭さで。
ろくでもない夫であり、父親であるロメインの側からの描写も多いので、ろくでなし対迫害される女性という単純な構図から免れているようにも思う。
世間様が騒ぐほどには、のれなかったけれど。
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読んでいる途中で、少し間が開いたからかもしれないが、特に面白いとは思わなかった…女性や耳の不自由な主人公が弱い立場とされてしまう時代を背景にした小説だが、ストーリー展開自体はシンプルで、あまりサプライズなどが無い感じ。まあまあかな。
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断捨離本。中盤から斜め読み。いやあ、こんなつまらないミステリって久しぶり。しかもアメリカの作家で。女性の強さといったものを描きたいんだろうけど、ことばは表面を撫でているだけで、全く内面に染み込んでこない(読了後に調べたら男性作家だった。やっぱりね)。
訳が拙いのも、読みづらかった一因。仮に原文が流れない文体だとしても、もっと上手い訳し方があると思う。肝心な場面でカタカナ英語を使ったために展開がよくわからないとか、致命的すぎる。わざわざ新品を取り寄せて買って損した一冊。あー、がっかり。
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原題のシンプルなWomanも的確で素敵ですが、詩的な邦題も雰囲気に合ってて凄く良いです。あと文庫版裏であらすじを放棄してる紹介文は初めて見た。
徹底的に女性が強い、女傑と言っていい、この物語にヒーローは出てこない。女性を守れる男は出てこない。男たちは残酷に弱く、それ故に女性たちは鮮烈に強くならざるを得なかった。
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いやー、よかった!!
原題の“Woman”がぴったりの作品。
真の強さを持った女たちの物語です。
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久しぶりに海外小説を読んだ。
言い回しが日本のそれと違うし、ちょっと考えながらでないと上手く頭に入ってこない。
難聴者の「イブ」とキャンデイー店の「フラン」2人は親子でもないのに、それぞれに影響し合って生きていく。
自分の生きがいをカメラを見つけてからのイブの生き生きとした表情。
どんな苦難を強いられたものでさえ、生きがいを見つけるとあんなにも強く生きていけるものなのか。
日本にはなじみのない、麻薬や銃。
海外ではあたりまえに行われているんだな。
自分たちが幸せであることを考えないといけないな
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『人生とは悲しみに耐えることよ。勇気とはその悲しみを克服することよ。
(略)
わたしたちはなんのために悪戦苦闘しているのか。それがあなたの質問なら、わたしの答えは――次の一日のためよ。』
名作だ。是非翻訳ものが大丈夫な方であれば・・・稀に受け付けない人もいるので・・・ご一読を願いたい。
こんなに骨太な小説を読んだのは久し振り。
繊細さや柔らかさを求めるのであれば間違っているけれども、生きる事の美しさや強靭な魂を読みたいと思うならば良書としか言いようがない。
女から女へ紡がれていく、生きるという事。
それらは耳の聞こえない主人公を軸にするために、彼女たちの指から紡がれる。
その指は、仕事に疲れ、荒れて、貧しさを塵のように積もらせたものなのか。
言葉に出来ない凄惨な過去を乗り越えた、たくましく厳しいものなのか。
それともまだ芽吹いたばかりの初々しい新芽のような、それでいて凶暴性と破壊の衝動を持ち合わせたものなのか。
これをセンチメンタルと呼ぶ人もいるかもしれない。
リリカル? ハートフル?
いや、私にはこれは素晴らしいハードボイルドにしか、思えない。
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貧しい家庭、女で聴力障害者という弱い立場に生まれついたイヴを中心に、過酷な運命に立ち向かっていく女たちを淡々と描いた傑作。
ミステリーではなくドラマチックなストーリー展開もない、重くせつない話だが、イヴとフランが理不尽な仕打ちや哀しみに屈せず、それを静かに乗り越えて進んでゆく凛々しい姿に心を打たれた。私はこんなに強く生きられない。
『神は銃弾』のケイスもそうだったが、この作者の描くヒロインは素晴らしいと思う。
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耳の聞こえない少女イヴを中心に繰り広げられるとても苦しく、愛おしい物語。男が女がねじ伏せようとする話、と僕は解釈した。読みながら思わず舌打ちをしてしまうほど、クソみたいな男ばかりが出てくる。けれど、決して屈しない彼女たちの姿に胸を打たれた。気軽に読める話ではない。重々しく心にのしかかってくる。けれど、素晴らしい小説だ。