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幕末から明治維新にかけて、語られるのはあくまで明治維新後に勝ち組となった人間たちのことばかり。でも、そのような政官学が作り上げたまやかしの歴史観から脱却して、本当の人間を見つめるべき時が来ています。
2011/07/04 20:06
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
佐藤賢一が『女信長』を書いていたことをすっかり忘れていました。だから単純に私は「おお、ついに佐藤はフランスを中心にした西欧歴史小説から、日本の時代小説にまで手を伸ばしたか、あ、そういえばカポネについても書いていたっけ、それにしても、いきなり〈新徴組〉っていうのは「ストレートでの真っ向勝負だな」なんて思ったんです。間違いでした、『女信長』に続く時代小説第二弾! です。〈信長〉に〈新撰組〉ではなく〈女信長〉に〈新徴組〉っていうのが、ちょっとマニアっぽくていいな、なんて。
ちなみに、新徴組は、江戸時代後期に結成された、江戸幕府による警備組織で、京都へ上洛した後に清河八郎に率いられて江戸に帰還、清河暗殺後、新徴組として再組織され、主に江戸市中の警戒、海防警備に従事したそうで、屯所は江戸の本所あり、1864年に庄内藩御預かりとなり、大政奉還、王政復古により江戸幕府が消滅すると解散します。小説にあるように新選組幹部の沖田総司の義兄、沖田林太郎が組頭を務めているなど、新選組との交流もあったそうです(wikipedeia 参照)。
それはともかく、村田涼平の下手ウマな絵がとても心地よいカバーです。何といっても色がいい。正面の山はなんでしょ、小説の中にあった山の名前といえば、鳥海山と月山。東北に足を踏み入れたことのない私には、これがそのどちらか、それとも全く異なる山なのか、全く分かりません。ただ、多分、酒井吉之丞であろう馬上の人間に率いられた庄内藩の人間と新徴組の男たちの隊列のぎこちない歩き方と、ウマの足のあげ方がなんとも面白いのです。でも、こんな洋装をしていたのって、官軍じゃなかったの? なんて思ったりして。で、お話ですが出版社のHPには、
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沖田林太郎。激動の幕末、義のためでも志のためでもなく、家族のために戦った男。
「家族が大事で、何が悪い!?」沖田総司の義兄、林太郎。使命感に燃える道場仲間を横目に無難第一を決め込むつもりが、時代はそれを許さなかった――新撰組の前身・浪士組から発し、江戸市中取締を経て、庄内兵として戊辰戦争に参戦した新徴組の軌跡を、愛する家族のために自分の剣を取り戻す男の姿に重ねて描く歴史ロマン。
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とあります。学芸通信社の配信により、山形新聞(2007年2月6日~08年3月18日)、秋田魁新報、山梨日日新聞、佐賀新聞、南信州新聞などに順次掲載されたものを、単行本化にあたり改稿したそうで、装画は、既に書きましたが村田涼平、装幀は新潮社装幀室、地図製作はアトリエ・プランとなっています。沖田総司の義兄の林太郎って、本当に居たんだ、司馬遼太郎の本に出てきたことあったかしら・・・
主人公は、多分、幕末の人間のなかで最も女性に人気のある沖田総司、の義兄、沖田林太郎です。林太郎は総司の実の姉ミツの夫で、38歳。ミツと夫婦になる前は、井上林太郎といい、後の近藤勇、土方歳三などと同じ道場で剣を学んでいました。総司は、いうまでもなく新撰組の隊士で、剣の天才で、この物語当時20歳です。父の勝次郎は肺を病んで亡くなっているといいますから、総司の病気は父から受け継いだといえそうです。
受け継ぐ、ということでいえば、総司の天才ぶりは、ミツ、林太郎の息子で、12歳になる沖田芳次郎に受け継がれます。総司に直接剣を教わってはいませんが、この少年は叔父譲りの剣の才能をみせる大器と評されます。ことほどさように、このお話における総司の存在は大きく、私などは出版社の内容紹介のことを完全に忘れ、いつ総司がでてくる? どうやって、どのタイミングで、なんてことばかり考えていました。
でも、お話はこちらの期待を裏切り、あくまで沖田林太郎中心で展開していきます。第一部は江戸、第二部は庄内が舞台となりますが、メインとなるのは後半の庄内変であることは間違いないでしょう。その中心にいるのは、現庄内藩主である酒井忠篤のはずですが、なにせ11歳とまだ子供。ということで庄内藩中老酒井玄蕃了明の嫡男、天保13年生まれで、この話が始まる文久三年には未だ22歳の酒井吉之丞が活躍することになります。
吉之丞とともに藩政を動かしていく仲間が、松平権右衛門家の嫡男で、庄内藩中老、天保9年生まれの26歳の松平権十郎親懐で、吉之丞の幼馴染です。そしてもう一人が、元は150石の家柄ですが、その異能が認められ、文久三年には中老の補佐として江戸に送り出されている菅善太右衛門実秀で、文政13年生まれの34歳です。そこで林太郎は・・・
幕末から明治維新にかけて、語られるのはあくまで明治維新後に勝ち組となった人間たちのことばかり。しかも、手前勝手な評価で、同じ人間ばかりが、本当に偉かったかどうかの検証もされずに、持ち上げられ続けてきました。そのような、いかにも政官学が作り上げたまやかしの歴史観から脱却して、本当の人間を見つめる、そのためにも佐藤の仕事は貴重です。改めて、明治維新の真実を見つめたい・・・
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もうひとつの幕末史
2010/11/21 14:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
佐藤賢一作品は、とにかく主人公の破天荒なイメージが強かった。『双頭の鷲』のデュ・ゲクラン、『褐色の文豪』のアレクサンドル=デュマ、そして現在も続く『小説フランス革命』ではミラボーをはじめとして、フランス革命の立役者のうち、誰をとっても個性的。佐藤氏は、遥か遠くにいた歴史上の人物を、「並外れた能力は持っているが、どこかちょっと子供っぽいところがある人」として描くことで、私たちの身近に引きずりおろし、親しみを感じさせてくれた。
だから、長年佐藤作品を読んできた方たちは、本作の主人公、沖田総次郎も庄内藩家老の息子・酒井吉之丞に、意外な印象を持つだろう。何しろ破天荒さが少しもない。彼等は平穏を愛するタイプだ。波風を立てぬように生き、昨日と同じ日常がこれからも続いてくれることを望んでいる。同じ幕末には、倒幕、尊王攘夷、公武合体とさまざまな動きがあったにも関わらず、である。主人公とするならば、総次郎の義弟・総司の方が、よっぽどふさわしいのではないかと思われる。
だが一方で、今年の大河ドラマしかり、【激動の幕末を自分の主義主張を貫いた人々】の話ならば、もう散々見てきたのも事実である。そして、歴史書に書かれていたからといって、数多くの『普通の人々』が、歴史上の人物のように、どちらかの立場に立って激しく争っていたわけではない。どちらかといえば、総次郎のように、なるべくもめごとから避けようと努めていたに違いない。だが、彼らのスタンスや思いは、『普通』であるだけに、作品になりにくいし、地味で読まれにくい。だが、滅びゆくものたちの中にも一つの矜持があり、派手な江戸や京都の戦だけではなく、都から遠く離れた東北の地で、村を焼かれた人々もいたのだ。『普通』であるがゆえに作品とならなかった目立たぬ彼らの生き方もまた、分かち難い日本の歴史の一部であるのだから、もっと作品として出てきて良いのではないだろうか。読まれるかどうか、面白いかどうかは、要は中身次第だ。
本作が、主人公の破天荒さを前面に出さずとも読ませる作品であることは、氏の作家としての幅が広がったということに繋がると思う。
今後、氏がどのような作品を生み出してゆくのか楽しみである。
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沖田総司の義理の兄、沖田林太郎が主人公と言うだけでも珍しい。
庄内藩お抱えの新徴組ということで、何より興味があった酒井玄蕃が登場!楽しみながら読んでます。
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沖田総司の兄、沖田林太郎の眼を通して描く新徴組と鬼玄蕃こと酒井吉之丞。この酒井吉之丞の佇まいの美しさに、武士の誇りと一人の人間としての生き様が、良く表れていた。
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新選組の兄弟分とでも言うべき「新徴組」。
その新徴組に属していた沖田林太郎(沖田総司の義兄)と、新徴組を預かることとなる庄内藩の酒井了恒(後に玄蕃、作中では吉之丞)、二人の視点から幕末の動乱が描き出されます。
林太郎は、とにかく中庸の精神で事なかれ主義を貫く人物。思想云々よりも「女房子供がかわいくて、なにが悪い」と言ってしまえるような人で、渦中にいながら一歩引いたものの見方(作中では「後ろ足の構え」に例えられることも)をするところが、主人公らしい。
息子・芳次郎(性格と剣の達者っぷりが総司に似ている)との親子関係も物語の一角を担って、特に後半、父親としての林太郎の態度がかっこよかったです。
林太郎が下の人間の視点なら、もう一人の主人公、吉之丞は上の人間の視点。戊辰戦争では「鬼玄蕃」と恐れられ、その後、薩摩藩士には「美少年(よかちご)」と評された御仁です(写真見たら本当に美形でした)。
庄内藩きっての神童であり、飄々として掴みどころのない、けれど誠実な人物として書かれています。先見の明に長けていたが故に周囲に理解されない「神童」ならではの悩みも抱えており、その辺りで林太郎と共鳴したようです。
物語は江戸と庄内で大きく二部に分かれていて、個人的には江戸の方が読んでいて楽しかったです。
新徴組が「新徴組」として活躍するのはやはり江戸でのことですし、あとは、古きに囚われない吉之丞の先見性や穏やかな性格も、有事よりは平時の方が生きているような気がします。
それが庄内へ戻り戊辰戦争となると葛藤を抱きながらも「鬼」になっていくのですが、なんで「鬼」であろうとするのかの動機がいまいち描けていないのか、江戸までの吉之丞とちょっとズレを感じてしまいました。展開が次第に早くなっていくせいもあるのかもしれません。
むしろ庄内では、庄内武士の描写がとても好きです。和む(笑)
あとなんでそこで土方が(略)
さらに、吉之丞が労咳を患っていたということで、沖田総司とキャラを被せたのは良いのですが、ここにさらに芳次郎も被せてきて、似たような性格が三人もいるというのにちょっと違和感。林太郎視点だからこそ重ねて見てしまうというのも心境的に分からなくはないのですが……。
総司と言えば、江戸の最後に総司を訪ねる場面ではやっぱりというかじわっときました。でも、くどいくらい総司を案じる林太郎が主人公なだけに、その後も総司の名前はくどいくらい出てきたり。
(辛辣に言えば、結局、新撰組の沖田総司をダシにしなければ話の土台が成り立たないのか)
新選組繋がりで言えば、思想家としての近藤の書き方もすごいな、と思いました。林太郎と正反対の道を歩んでいるようで、この作品の近藤は嫌いになれること請け合い(笑)
戊辰戦争での庄内藩の役どころと言えば、実際は多分もっとドロドロしたものがあったんじゃないかな、と思っていたりしますが、この物語ではそのあたり綺麗にすっきりまとめています。
わたしとしては、酒井了恒に興味を持てたのが一番の収穫かな。
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新撰組ファン注目。主人公は、沖田総司・・・ではなく、総司の義理の兄(みつ姉さんの夫)、沖田林太郎。ちょっと世間を斜めから眺めている、林太郎さんの視点・行動がとてもよく、あまり知られていない新徴組が骨格になっているところが、幕末好きにはお勧めです。また、フランスやヨーロッパの歴史が主な作者が書いているところが、これまた新鮮味があります。
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これは沖田総司の姉みつの婿、林太郎が主人公。
彼は浪士組として近藤らとともに京都へ上ったが、壬生浪士組には参加せず、江戸へ帰った。
今まで林太郎についてわたしが知っていたのはここまで。だけど実は(もちろんだけど)続きがあった。
彼らは江戸に帰り、新徴組として庄内藩の預かりで江戸の市中見回りの任についていた。庄内藩の政策でいち早西洋式の歩き方などを修得。
その新徴組を束ねるのが庄内藩きっての天才、後の「鬼玄蕃」と呼ばれる酒井吉之丞。
庄内藩はその後、奥羽連合を画策。しかし会津が破れてからは庄内藩も降伏。だけど一度も負けなかったとのこと。
すごいなあ。
新撰組が目立ちすぎたのか、あまり新徴組が知られていないのが残念。
そして折々に総司を思い出して反省する林太郎(笑)
この設定では三段突きは林太郎の技となっています。
年長の林太郎を微妙に煙たがる近藤勇と、それが分かってるからなおのこと好きになれない林太郎。近藤勇も難しかったでしょうねえ。
最後のほうにちらっと出てくる土方さんは格好良かったんですが、やっぱり土方さんと林太郎は微妙な仲(笑)でも土方さん贔屓なので読むのがちょっとつらかった。このとき会津は窮地に立たされていて、土方は単身庄内藩に助力を頼みにくる。(史実なのかな?米沢には行ってるみたいですが)二人の会話はやっぱりぎこちない。庄内藩は今の山形あたりだそうですが、会津になにかうらみでも?という感じもうっすらありました。庄内藩はうまく立ち回ったと言えるのでは。会津に酒井吉之丞のような参謀がいればもう少し違ったのでしょうか。それとも城に籠もった時点で負けが決まっていたのか。
この本の前に「獅子の棲む国」を読んでいたのでなんだかつらい。
理性的だけど、「庄内藩すげーだろ、どうよ!」という感じが(主に会津と比べて)出てて若干苦しくなりました。いいんですけどね。そんくらい刷り込みしないと、庄内藩と新徴組は影ができませんしね…。(長崎人のわたしが言えたものではないですが)
でもまあ、面白かったので★4つで!長かったけど!
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かの有名な新撰組。
しかし、動乱の時代には数多くの人間の物語がある。
西に新撰組があったように、東には新徴組がいた。
これは沖田総司の義兄の沖田林太郎の物語。
最初の林太郎の印象は良くないところから始まってましたが、読み進めていくうちにだんだんと心惹かれていきます。
新撰組の面々も少し出てきますが、イメージは良くないですね。
細かな戦闘シーンよりも、大局の流れや会話を重視してる感じ。
会話が全て「」で書かれているわけではなかったので少し読みづらい部分はあったが、感情移入はしやすいかな。
あと、吉之丞と芳次郎が総司に似てると林太郎が感じると書いてたが、周りに似てる人いすぎというか総司への気持ちが強すぎるのではと感じた。
最後の部分は芳次郎の語りで締められるが、何考えてるかわからなかった芳次郎が語り手となることで時代が動いたことを表しているのかなと。
そして、こっそり父を真似するあたりに過去は未来につながってるとも。
歴史に詳しい人が読むとどうかわからないけど、とても楽しめました。
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沖田総司兄の視点からの幕末動乱。新徴組や庄内藩を描いた作品は少ないので幕末好きなら読んどいて損無し。
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著者の小気味よいテンポでドンドン読ませてくれる。題材としてはマイナーな方であり、自分も余り知らなかったのだが、がぜん興味を持った。
ちょっとだらけ気味になるところもあったものの、そこら辺を読ませる著者の筆力はさすが。庄内藩の幕末(維新の頃)の活躍(?)は知識として知っていたもののこうやって物語として読むと、人物が生き生きとしていて魅力的な話題がつきない。こういったところを取り上げて、見事な小説に仕立て上げるところがすばらしい。メインとなる林太郎だけでなく、その他の人物についてももっと知りたくなった。
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佐藤賢一は男のやるせなさを描かせたら最高の書き手
悲壮感しかない奥羽越列藩同盟と思っていたが
庄内藩って、こんなにステキな立ち振る舞いだったんだ
勉強になりました
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新撰組から袂を分かち、江戸に戻ってきた新徴組を描いた。
新徴組は、聞いたことはあったが、詳しくは知らなかった。
少し地味で、読んでいて感情移入がなかなかできなかった。
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見事なエンタメ系歴史小説です。
2005-2007年に嵌った佐藤賢一さん、その頃は『傭兵ピエール』などヨーロッパを舞台にした歴史小説でした。それが今では日本の歴史小説に手を出されているようですね。知り合いのHPにあった『遺訓』のレビューを読んで興味を持ち、その前編となる『新徴組』を手にしてみました。
最初はちょっと変わった「一人称ナレーション的な語り」文体にかなり戸惑いました。多くの人が「佐藤さん独特の」と書いているのですが、昔もこんなだったかしらん 流石に10年前だとすっかり忘れてます。
この文体のためもあって史実に沿いながら、どこか個を描くエンタメ小説の味わいになっています。
主人公の沖田林太郎は沖田総司の義兄(総司の姉に婿入りして家督を譲り受けた)です。総司らと共に浪士隊として京都に上洛、その後林太郎は清河八郎らと共に江戸に戻り、新徴組の隊員として江戸の警護を担います。どこか引き気味のオジサンなのですがね、ピンチとなると思い出したように決まってなかなかカッコいい。
面白くなるのは江戸開城の後に庄内に行ってからです。奥羽越列藩同盟と言うと会津が有名ですが、庄内藩も凄かったのですね。会津が悲劇的なのに対し、庄内藩は大富豪・酒田本間家の支援を得て洋式化し、官軍に連戦連勝します。その戦いを主導するのがもう一人の主人公というべき鬼玄蕃こと酒井玄蕃。どこか北方健三の『破軍の星』の主人公・北畠顕家を思わせる清冽な青年武将ぶりがとても魅力的でした。
佐藤さんは庄内藩の藩庁があった山形県鶴岡市出身(藤沢周平さんと同郷)だそうで、故郷の歴史を舞台にした物語でした。
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戊辰戦争では会津藩の悲劇が多く語られますが、庄内藩の庄内藩や新徴組の勇猛果敢な行動を知ることが出来る小説です。山形県民ですが、この小説を読むまで庄内藩の活躍を知りませんでした。
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西洋の歴史小説を得意とする佐藤賢一が、なぜ幕末の日本を?と思ったら、鶴岡の出身なんですね。
長州藩に蹂躙されてぼろぼろになった会津藩と違って、薩摩と闘った庄内藩は、戦後もそれほど大きく所領を減らすこともなく、薩摩とも友好関係を結んでいたと聞いたことがありました。
そして、それが西郷さんの計らいだということも。
戦火を交えて一度も負けたことのなかった庄内藩。
日ごろはぼ~っとした顔で、のんびり呆けているように見えるが、何か事が起こった時には勇猛果敢に前線へと向かう。
だってそれが武士の仕事だから。
それが侍であることの矜持だから。
ほぼ史実に基づいているのに、小説のヒーローのように純粋で頭が良くて剣の腕もある庄内藩の重鎮(ただし若造)の酒井吉之丞。
沖田総司の憧れの義兄であるのになぜか自己評価の低い沖田林太郎。
この二人が交互に語る幕末の世相と庄内藩の藩士たち。
どう考えても庄内藩が朝敵になどなるはずがないのに、時代の流れが彼らをそうさせてしまった。
誰よりも先を見据えて、誰よりも庄内を、奥羽の人びとを守ろうと、命を賭して行動する酒井吉之丞。
圧倒的なスーパーヒーローなのは、小説だからとばかりも言えないのかもしれない。
事実庄内藩は負け知らずだったのだから。
それでも、時代の流れをひっくり返すことはできなかった。
たった一人でひっくり返せるほど、世の中は単純ではないのだから。
でも、無念だなあ。
なぜ戦わなくてはならなかったのか、いろんな本を読んでもわからない。
ただ私怨をはらしただけというには、あまりに被害が大きかった。