紙の本
ファウストの大なる野望、読書人の慎ましい願望
2010/01/28 22:44
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人生の晩年に若さをとり戻すファウストの願望は、万人の願いでもあるらしい。
第二、第三のファウストは、いつの世にも登場する。
本書の主人公ジェフも、第何番目かのファウストである。
ただし、若さをとり戻す願望は、作者にあって、ジェフにはない。いや、ないとは言わないが、本人の願望いかんにかかわらず、勝手に若くなるのである。
蘇るのはかつて自分が生きた過去の時代であり、前世の記憶を保っているのだから、もう一度人生をやりなおすことができる。当然、未来が予測できるから、賭博に確実に勝てるし、投資も過たない。つまり、経済的基盤の確立は容易で、億万長者への道はたやすい。
なんと恵まれていることか。
と考えるのは早計で、当事者には余人の知らぬ苦痛がある。冨は空しい、というのが最初の再生の結論だった。次の再生ではエピクロス的隠棲を選ぶ。
再生に前世の記憶が伴うと、一種の不老長寿である。よって不老長寿の悲哀も味わわねばならない。自分を知る人々が先立つ寂寥感である。これもまた、再生する者が受けとめねばならない苦痛である。
しかし、再生する者が自分以外にもあるならば、再生のつど再会して、二人して永遠に生きることができる。寂寥は生じない。
ジェフは、もうひとりの再生者、パメラと出会うことができた。永遠の愛を誓う。
再生してから再会するまでの苦労が、ストーリーに起伏をもたらす。
ただし、これだと小説が永遠に終わらないので、本書はひと捻りする。再生しても前世の記憶をとりもどすまでに若干の時間を要する、という設定なのだ。
さらに、もうひと捻りして、記憶が甦る時間が再生のたびに遅くなる、という設定も加えられている。最初18歳で過去の記憶に目覚めた主人公は、中年にならないと過去の記憶が目覚めなくなるのだ。そして、パメラもまた。
一定の年齢に死ぬ定めだから、だんだんと(記憶の)再生から死去までの時間が短くなってくる。甦る時期がだんだんと遅くなって・・・。
二人のうちの一人は、他の一人よりも再生から死までのテンポが速い。よって、永久の死が他方より速くやってくる。とり残されることが確実な者の絶望は深い。
さいわい、本書には救済措置がほどこされているから、読者も主人公に同調して絶望するに及ばない。
余談ながら、小説の読書は、一種のリプレイといえるかもしれない。絵空事に没頭し、現実を忘れる人は、読みかえすたびに小説にえがかれた人生を再生している、ともいえるからだ。
その再生が、ジェフとおなじ運命をたどることになるか、別の運命が開けるかは、当該作品が再読に耐えるか否かによるだろう。
紙の本
アイディアもストーリーもいいんだけど…
2002/05/19 18:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろぐう - この投稿者のレビュー一覧を見る
43歳で死んだ主人公が、人生の記憶と経験を持ったまま18歳の自分の中に蘇る…まるで梅図かずおの『アゲイン』みたいな話だが、これは誰もが願うような夢だろう。でも、こんな基本的なアイディアをいままで誰も小説化しなかったのは不思議だ(あるけど知らないだけかも)。しかし、読み終わってその理由がわかるような気がした。よっぽどの力量がないと、このアイディアを一本のエンタテイメント(長編)に仕立てるのは困難なのに違いない。この作品も、よく頑張ったと思うし、いい話だとは思うけど、「このアイディアなら、もっとぶっ飛んだ面白い話を聞かせてくれー」という不満を感じたのも事実。
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主人公ジェフは43歳で突然絶命する。しかし、気がつくと18歳の自分に戻っている。知識と経験は43歳のまま・・・。人生を再度やり直せたらという究極?の夢を繰り返す男の物語。ロジックは完璧!語り口も上手い。少し人生が見えてきた大人が読むとシンミリとします。胸がキュンと締め付けられます。
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読んだ人は多いんでしょうか?随分昔に買って読んだんですが、未だに書店に置いてあります。
根強い人気がある模様。
私は買ったときに3回ほど読み返してしまいました。近頃友だちに貸したらその友だちも、やっぱり3回ほど読み返してしまったということでした。
何度人生をやり直したら素晴しい人生が待ってるのか?そんな人生が果たしてあるのか?そんな疑問を全編を通じて問いかけてきます。涙なくして読めりゃせぬ〜。SFの名作。
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色々な人生を送ってみたいな、という願望そのまんまの本。
ぐいぐい惹きこまれて、一気読みです。
何度も繰り返し読んだので、すっかり本が黄ばんでしまいました…。でも、これからも何度も読むと思う。
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タイムトラベルものだが、なぜ昔の自分に戻るかってことは重要じゃない。戻ってどう生きるかが話の本筋。持ってる人は何度も読み返してるようですね。私もです。
中盤からのある女性との出会いと、その関係がリプレイで変わっていくあたりが好きです。
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主人公が死ぬトコから始まる物語。ダレもが一度は思う、「今の気持ちのまんま、あのコロに戻れたらなぁ」を実現してくれる一冊。しかぁし! その結末は?
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人生をやりなほせたら・・・
誰しもそんな思ひを持つたことが一度はあるのではないだらうか。
此の本は、43歳で死に18歳に蘇へるといふことを何度も繰り返す男が主人公である。
私は現在、主人公と同じ43歳。
25年前の今頃は、いつたい何をしてゐただらうかと考へてみた。
1979年1月12日。
當時の私は高校3年で、日付は定かではないが、ちやうど「共通一次試驗」を受驗してゐる頃である。
その年からスタートした「共通一次試驗」で820點は取つたものの、志望大學の2次試驗の數學で10點しか取れずに浪人生活を餘儀なくされた、そんな嚴しい1年が始まらうとしてゐた。
この本を讀んでゐると、自分の過去の25年間を振り返つてしまふ。
そして、自分ならどのやうに人生をやりなほすだらうかと考へさせられる。
しかし、この本を最後まで讀むと、今のこの人生こそがかけがへのないものだと氣づかされることとなる。
久しぶりに、讀むべき時に讀むべき本と出會ふことが出來たといふ、感動を味はつた。
2004年1月11日讀了
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SF的にはよくありそうな人生くりかえし話。著者(翻訳者?)の力量を感じる文章でどんどん読めるわりに、たっぷりの分量で満足感がある。
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死の瞬間、突然若かりし日の自分に逆戻りしてしまう。
これだけなら、昔からよく使われる設定の小説ということになるんですが、彼はその後何度も何度も人生繰り返すこととなります。
そして、何度目かの人生のある日、自分以外にもリプレイヤーがいることに気が付きます・・・。
だいぶ内容は異なりますが、この小説を原案としたマンガもあったりします。
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人生を何度もやり直す男の物語…。
人生をやり直せればと思うことはあるけれど、でもたった一度しかない人生の素晴らしさに気付かせてくれる大傑作です。
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43歳の秋に死亡した男が記憶も知識も元のまま18歳に逆戻りして生き返った。
株も競馬も思いのまま、彼は大金持ちに。が再び同日同時刻に死亡。それを繰り返す男の話。
羨ましい話なのか悲しい話なのか、でもオモロイ。
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あのころの自分にもう一回戻って人生をやり直せたら・・と誰でも一度ならず思うはず。是非、この本をどうぞ。SFのカテゴリーだけでは収まらない深い味わいの物語です。似たようなプロットの北村薫「ターン」はファンタジー色の強いSFでこちらもオススメ。
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私が昔、父から手渡された小説です。ある日、亡くなった主人公は若い時の自分に戻ります。今までの記憶を持ったままで……。何度も繰り返される人生、今度こそはと思ってもまた……。頑張る姿、そして苦悩が描かれています。多分2回読んで初めて色々見えてくるんじゃないかな?読みごたえのある小説を探している方にオススメの一冊です!
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もしあなたが奥さんや旦那さん、また彼氏や彼女と行き詰まっていたり、険悪な関係になっているなら、この本を読むといいかもしれません。
1
「私たちに必要なのは・・・」
電話の向こうで妻のリンダが言いかけていたときでした。その言葉の後に続くのは、せいぜい別れの言葉か際限のない非難の応酬のどちらかでしょう。それを聞きながら、地方ラジオ局の冴えない中年ディレクター、ジェフは突然の心臓発作で命を落とします。
次に目覚めたとき、ジェフは大学の寮の自室にいました。どういう訳か彼の人生は学生時代に巻き戻されていて、彼は人生をリプレイするチャンスを与えられたのです。いまひとつパッとしなかった自分の人生を。
突然投げ込まれた状況に戸惑いながらも、彼はほどなく自分が未来の知識を持っていて、それが強力な武器になることに気づきます。ダービー、ワールドシリーズ、株・・・。未来の知識を総動員して、彼はまもなく億万長者になっていました。彼が設立した未来社は世界的なコングロマリットに成長します。
しかし未来を予見する彼の不思議な能力はやがて親しい人々から不気味がられ、友人は離れていきました。元の人生のストーリーどおり約束の場所で再会(?)した妻のリンダも、彼を将来の夫とは知らないままに彼の前から去っていきます。
成功と引き替えの苦い現実。やがて彼は上流階級の女性と結婚し娘をもうけます。妻との結婚生活は味気ないものでしたが、最初の人生で得られなかった娘の存在は彼にとって大きな慰めでした。
しかし時が流れ、最初の人生の最期になった日が訪れます。ピアノを弾く最愛の娘の姿を眺めながら、ジェフはまたも突然の心臓発作で命を落とすのです。
目覚めるとふたたび大学時代に戻っていました。どうやら彼の人生はエンドレステープのような無限ループに捉えられてしまったようでした。
2
人生をやり直せたら、とは誰もが一度は夢見ることでしょう。でもそれが無限に繰り返されるのだとしたら?
二度目の人生で得た最愛の娘グレッチェンを永遠に失ったジェフは悲嘆に暮れます。いや失っただけであればまだよかったかもしれません。再びはじまった彼の人生では、グレッチェンは元々存在さえしなかったのです。誰も彼女の存在を知ることはない。彼女の存在の痕跡を示すものは何ひとつない。グレッチェンは、築きあげた彼の(二度目の)人生とともに、永遠に消えてしまったのです。
彼は悲嘆に暮れながらも、やがて大学時代の恋人ジュディと今度は幸せな家庭を築くことに成功します(二度目の人生では、つい現代風のアプローチをして嫌われてしまったのです)。
もう二度と子供をつくるつもりはないジェフでしたが、二人の養子をもらい家族4人の幸福な人生を送りました。しかし、運命の日はまたも彼の人生をリセットしてしまったのです。万全を期して身体を心電図につなぎ、24時間監視体制を敷いていたにも関わらず。
人は誰も生活をよりよくしよう、人生をよりよいものにしようと行動します。しかしリプレイは、そんな人間のひたむきさをあざ笑うかのようにすべての成果を無に帰してしまいます。
それは永遠に岩を山頂に持ち上げつづけるシーシュポスの神話であり、またカフカの主人公が置かれた状況であると言えます。何の脈絡もなくある日突然逮捕され、裁判に連れ出される。それが何の裁判かもわからないまま、やがて「犬のように」処刑される「審判」の主人公K・・・。
「ここにぼくの身分証明書がある。」
「それがどうしたっていうんだ?」
極めて理不尽で説明のつかない現実。そこから何らかの意味を汲み取ることさえ不可能な世界。
しかし、現実とはもともとそういう様相のものだったのではなかったでしょうか。人生に意味があると思うのは、私たちが必死になってそこに意味をこめようとするからです。むしろそうして生きる姿をこそ私たちは「人生」と呼ぶのかもしれません。
際限なく繰り返される人生の中で、絶望とやり場のない怒りとあきらめと、それでもなおわずかに残る「やり直せる」ことへの希望の中で、ジェフはやがてひとつの態度を身につけていきます。
それは、逆境に耐え、何事も適切なものとして受け入れる態度でした。それをニーチェの言う「超人」に例えることも可能でしょう。人生に意味を求め、その意味のなさに絶望するのではなく、意味のなさをそのままに受け止め、それとともに生きること。未来に目的を置き、それに向かって現在を意味づけるのではなく、現在それ自体を生き生きと生きること。
そうして周囲を見回してみたとき、身近な誰かが自分にとってかけがえのない存在であることにあらためて気づくかもしれません。戦争という巨大な無意味の下で、ひとつひとつの生や愛がひときわ輝いたことがあったように。
ジュディにつづいて、元の人生で破綻しかけた結婚相手リンダとの関係も、ジェフはやり直しの人生の中で立て直します。やがてそれが無に帰すると知りながらも。
そして・・・。
3
何度かの人生を繰り返すうち、ジェフはあることに気づきます。リプレイのタイミングが少しずつ遅くなっていることに。しかし死ぬ日はいつも変わらない。ということは、彼がやり直せる生はどんどん短くなっているということです。しかもその事態は加速度的に進行しているようでした。
その後にどんな事件が起きるのか、それはこれからこの本を読む人の楽しみのためにとっておきましょう。存分に楽しませ、感じさせ、考えさせてくれることは間違いありません。
ともかく彼が元の人生に戻ってきたとき、途切れてしまっていたリンダのその次の言葉が電話の向こうから聞こえてきました。
「私たちに必要なのは、話し合いなのよ」
答えは最初からそこにあったのかもしれません。ジェフは答えます。
「ああ、話し合おう」
「もう手遅れかもしれない。でも、まだ時間はあるわ」
決して手遅れではないでしょう。現在を構成する幾重もの過去の蓄積に縛られないならば、何度でもやり直しは可能だからです。たった一度しかない人生だとしても、実はそれは変わらない。いやむしろたった一度しかない人生だからこそ私たちはそう考えるべきなのかもしれません。そのことを知るためにジェフは、私たちは、何度もの生を生き直さなければならなかったのでしょうか。
最後に��ェフはこう独白します。
今夜はリンダと話をしよう。何といってよいか分からないが、少なくとも、彼女に対して借りがある、ぐらいのことはいってやろう。(中略)---仕事も、友情も、女性との関係も。それらはすべて人生の構成要素であって、価値あるものではあるが、人生を限定したり、コントロールしたりすべきものではない。自分の人生は自分の責任であり、自分だけのものだ。
可能性は無限だと、ジェフは知った。