紙の本
作者の温かい眼差しが心に突き刺さる一冊。
2011/10/19 22:48
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
初出 別冊文芸春秋。
本作は本来女性が読まれて大きな共感を呼ぶ作品なのでしょうが、男性読者の私が読んでも同様の結果を得ることができました。
それは女性としてだけでなく、人間として主人公の梨々子が魅力的に成長をした証しだと思います。
これから結婚しようと思っている女性にも是非読んでほしいです。
結婚してからの良い点と悪い点との両方が巧みに描かれていて良い勉強になるんじゃないでしょうか。
宮下さんの作品は本作で5冊目ですがいずれも外れがなく安心して読めます。
読者が“ああ、読んでよかった”と必ず満足感を得て本を閉じることができます。
私の好きな作家である瀬尾まいこさんが“平易な文章で感動を呼び起こす作家ならば、宮下さんは“美しい文章で感動を呼び起こす作家だと言えそうです。
私的には2人とも共通してるのは“この本に出会えて良かったということ”ですね。
何が好いかと言えば、物語の着眼点&着地点が良いんですね。
全6編、2年ごとに描かれているのですが、心の葛藤が本当に素晴らしいのですね。
冒頭で夫の病気の都合で会社を辞めて、東京から夫の田舎である北陸に引っ越しします。
前途多難が待ち受けてるわけですね。
壁にぶつかりながらも主人公は徐々に田舎に順応していきます。なかなか普通にかつ平凡に生きれないものですよね、人間って。
途中で出てくるアサヒとのミニスキャンダル(心の浮気ですが)の話なんかもいいですよね。
そして前述した着地点、それは主人公の成長による落ち着きですね。
読者は2人の子供(潤君と歩人君)が心配でたまらなくなりますが、おのずと自分の10年後も考えてしまうのですね。
ちょっと頼りなげな夫の達郎、まあうつ病なので仕方ないのですが、イライラする点をも覗かせながらも温かい眼差しを忘れてないのですね。
とりわけ本作でも描かれている夫の妻に比しての子供に対する愛情の薄さなんかは、結構リアルに描けてると思い作者に脱帽です。
作家の力量としてはそうですね、最後の筒石さんとのやりとりなんかは物語全体をかなり引き締めていて良かったと思います。
最後に率直な思いを吐露すると、こんな素敵な女性を妻とした達郎さん、うつ病ですが幸せものだと思います。
達郎さんに代わって2人を引き合わせた藤沢さんに感謝、そう思って本を閉じました。
紙の本
しなやかさを身につけて生きる
2010/11/23 17:42
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
うつ病の夫が退社し
故郷の北陸の小さな町に帰ると言い出します。
夫は、シュッとしててハンサムで
名前も竜胆達郎とカッコイイ。
なにしろ田舎に帰ったら
さっそくモデルの話が持ち上がるくらい。
そして、笑う顔も好き。
こんな人と結婚できて幸せな自分が、もっと好き。
と、東京生まれの美人の梨々子。
戸惑いながらも、そうするしかなく、
専業主婦の梨々子は受け入れます。
梨々子がはじめは現状に流され、主体性がない。
友人未満の知り合いに餞別に気になる言葉とともに
10年日記を送られ、イライラしても、それをつけてみたり。
しかし、彼女はかわっていきます。
無口な息子ふたりのうち、
弟の方がより社会への順応度低いのも
「歩人は歩人」と受け入れてしまいます。
そして動じない。
もちろん、田舎暮らしはそれなりに気を使うことも
生活習慣が違うこともあります。
夫ともすれ違い、別の人に目がいってしまうことも。
孤独を知ることも。
けれど、静かにすべてをこなしていきます。
しなやかな生き方をやわらかく身につけていく梨々子に
深く感情移入でき、田舎暮らし10年を迎えた頃には
すっかり「自分」ができあがっている気分になれるのです。
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<内容>田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、子育てに迷い、恋に胸騒がせる。じんわりと胸にしみてゆく、愛おしい「普通の私」の物語。
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宮下まじーーーーーーーーーーーーーっく。
その2、
(『よろこびの歌』のがあとに読み終えました。)
良かった。
最初は、主婦のおはなしだったからそこまでのめり込めないかな?
とか思ったけど
やっぱり女の子はいつまでも女の子なのだ。
そしてそんな女の子のココロをほんとにリアルに描く
宮下さん素敵。
そりゃ宮下さんも女の子だからなんだけど
ここまで作品として伝えられるのがすごい。
まだ私には主婦の気持ちはわからないけど、
女性としての心情が文字から伝わってくるのです
そして最後に『田舎の紳士服店のモデルの妻』として
ひとりでふんばっている
梨々子に感動
これは主婦層読んだら大ヒット間違いない。
あー宮下さんもっとたくさんの人に読んでほしい読んでほしい読んでほしい!!!!!!!!!
ゴリ押しです。
そして個人的に歩人がかわいすぎてたまらなかった!
「おたあたん!」って!
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タイトルからもっと明るくかるい感じかな、と思ってたけど、実際は夫がうつ病になり、東京から田舎へと島流し(梨々子いわく)にあう話。
風変わりな息子ふたりと、田舎の紳士服店のモデルをする旦那との10年間。
アサヒとの掛け合いがすてきでした。ロマンチックで、きゅんとなる
それと歩人の描いたたのしいかぞくの絵、見たい!笑った!
洗練された文章のなかにあるほっこり感。さすが宮下さん。おもしろかったです。
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田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、子育てに迷い、恋に胸騒がせる。じんわりと胸にしみてゆく、愛おしい「普通の私」の物語(「BOOK」データベースより)
主人公におおまか共感はできないんだけれど、そこここに散りばめられた心の機敏に、思わずハッとさせられる事の多かった一冊。
宮下さんは、こういうの書くのがホントうまい。
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タイトルとジャケで読みました。
が、登場人物に全然魅力を感じなかった…。
のっぺらぼうのまま読み終えました。しゅん。
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自分が結婚して子供を産んで、主人公と同じ立場になったらまた読みたいと思う。
今の私には理解しきれず流し読みしてしまう部分が多かったです。
何も無い単調な展開の中で主人公の考え方や周りの環境が少しずつ変わっていく姿は、現実社会に投影してちょっと気持ちが明るくなれた。
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+++
田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、子育てに迷い、恋に胸騒がせる。じんわりと胸にしみてゆく、愛おしい「普通の私」の物語。
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会った瞬間に輝きを感じ、「この人だ!」と思った夫が鬱病を患い、会社を辞めて田舎に帰るという。東京以外で暮らすことなど思ってもいなかった梨々子だが、夫とふたりの幼い子どもと共になにもない北陸の田舎町に移り住むことになったのだった。物語は、十年日記に記されるようにして進んでいく。
夫との、子どもたちとの、田舎の近所の人たちとの、東京時代の知り合いとの、さまざまな関係のなかに、自分の価値を見出せずに入る梨々子の、ただ息を吸って吐いているうちにきょう一日がまた終わった、というような無為な空しさは、だれにでも思い当ることがあるのではないだろうか。だが、彼女を見ていると、なにかを成さねばならぬという大げさに言えば強迫観念のようなものに自分からどんどんがんじがらめにされているようにも見えて痛々しささえ感じてしまう。しかしこれは前半の梨々子である。日記も終わりに近づくころの梨々子は、少しずつではあるが何者でもない自分を認め、しあわせを全身で受け止められるようになっていくのである。潤の手を引いて横断歩道で立ち止まっている思い出の場面で一気に熱いものがあふれた。普通がとても丁寧に描かれた一冊である。
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結婚四年。
爽やかで健やかで賢くて仕事のできる夫がうつと診断された。
田舎へ帰ろう、梨々子は夫の言葉を受け入れた。
特別だと思っていた自分の家族が足元から崩れていく。
うつ病を抱えた夫、無口な何を考えてるかわからない二人の子供、笑わない隣人、田舎との関係。
こんなはずじゃなかったのに、ヒリヒリする焦燥感を感じながら時が過ぎていく。
結婚伊念日、そして誕生日、迷い、悩み、とまどい、笑い、それでも何とか前を向いて歩いていく。
宮下さんは人の内面の複雑でナイーブな感情を独特な感性で描いていくのがうまい。
もし僕がうつになったら僕の家族はどうするんだろう。
そんなことを考えながら読みました。
この作品は読み手が男性と女性で物語の受け止め方がまったく違ってくるんだろうなぁ~と強く感じました。
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社内のエリートと大恋愛して、結婚して、社宅住まいで、2児の母。自分の容姿に自信を持っている『東京の人』が、良くも悪くも個性的でない田舎の町に住むことになる10年間。
梨々子が最後に思う「ふつうの幸せ」というものがあまりにも大きいと私は思う。『特別』という言葉はとても甘い囁きだけれど、それは自分を縛ってしまう枷でもあるし、そうやってだれかと比べてしか自分の存在を認識できないことは悲しいことだ。「一番下じゃなきゃいい」 誰かを貶めて自分を立てたところで、所詮は虚しいだけ。普通に見える家庭になにが潜んでいるかわからない。
迷って悩んで流されて、問題を先送りしてでもいいから、生きてかなきゃならない。たまには妄想でも恋をしてはしゃぎたいし、感謝の言葉もかけてほしい。頭の中にはいつだっていろんなことが混在して同列に並んでいる。
自分の中の「生きてる」ってことが、本当にちょっとしたことで感じられるなら、平凡に見える毎日だって、自分にとっては『特別』なのだと思う。変わっていくものを受け入れることで、見つけられるものもある。刻んでいくものがあるなら、それだけで前に進んでいる。
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うつとなった夫と息子2人で、夫の実家がある田舎で暮らすことになった主人公。
田舎とは言っても田園が広がる田舎らしい田舎というわけではなく、大きなデパートや高いビルのない、私立校お受検の心配のない、地方の小都市。
取り立てて変化の無い10年を送ることになるが、家族4人が平凡に暮らしていくには、これしかなかったのかもしれませんね。
(変化を求めるならば、都会に戻っていたのでしょうから…)
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なんということはない日常なのだけど面白かった。ただもう少し起伏があるほうが好みではある。この作者の他の話も読んでみたい。
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結婚して4年、夫が鬱で退職して帰郷することになります。夫の田舎は北陸の中でも一番目立たない県、即ち福井県です。そこの県庁所在地とありますから福井市ですね。もちろん宮下さんの故郷でもあります。
東京を発つときに友人から10年日記を手渡されます。結婚記念日のある10月が10年が2年ごとに描かれていきます。
ストーリーはどうということはありません。夫の鬱もそれほどたいしたことはないようだし、息子らもいろいろありますが、それほど深刻なことになるわけではありません。田舎と言ってもマンション暮らしですからご近所付き合いで閉口するということもないし、姑ともめるわけでもありません。
だいたい八王寺に生まれて東京人だとか都会育ちだとかいうのが、地方人にはちょっと笑えてしまいます。もしかしたら、宮下さんはそういう人たちに冷めた目線を送っているのかもしれませんね。
関東の人たちの都心にいかに近いかへの競争心に呆れたのももう30年以上前になります。その頃よりは少しは治まったのかな。多分あまりかわらないのではないでしょうか。
そういうことも含めて、自分は自分らしく、日々を編むように生きていくことの大切さを丁寧に描いています。
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【収録作品】0年 かすりの梨々子、田舎に立つ/2年 潤とピアノと二人三脚/4年 たくさんの間違い、ひとつの出会い/6年 歩人とたのしいかぞく/8年 誕生日が待ち遠しい/10年 とりあえず卒業おめでとう
痛々しく、苦い読後感は梨々子につい自分を重ねてしまうからか。