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ドミニカを30年にわたって独裁したトゥルヒーリョ(トルヒーヨ、実在の人物)。その最後の一日と、彼を暗殺しようとするグループ(実在)の一日、および失脚した政治家の娘で、トゥルヒーリョ時代から数十年後に一時帰国したウラニア(架空の人物)、の3つのストーリーを交代で語っていく非常に凝った作品。
登場人物が多く、合間に回想が入るため時系列的にも追っていくのが難しいため、前半は物語に入り込みにくいが、トゥルヒーリョの暗殺あたりからは俄然面白くなる。
歴史的事実を踏まえた上で、フィクションとしても一級の作品に仕立てあげており、傑作と言わざるを得ない。
何度も読むとまた新たな味わいを引き出せそうな作品。
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壮大な叙事詩だった。
叙事詩なだけに普遍的で流行に左右されない価値があるのだろうが、
一方で登場人物が多岐に渡り、一人一人の心理や背景の描写が少ない。
文学的な価値は高いのかもしれないが、文学者でも歴史者でもない一般の日本人が娯楽として楽しむことは難しいだろう。
翻訳はとても良かった。
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読み物としても、実際の歴史と照らし合わせても大変興味深い面白い本でした。実際にドミニカ共和国にすんでい
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最後の全部繋がった感が半端ない。ハッピーエンドとは言えないかもしれないが、悲劇的な終わりの中に一筋の明かりを残しておくので読後感は悪くない。
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図書館で。
トルヒーヨ政権の小説、というので借りてみましたがオスカーワオのインパクトが強かったのでこちらはふうん、という感じで読み終わりました。
極悪非道の独裁者も一般人と変わらない人間なんだ、と書くとトルヒーヨだけが悪いんじゃなくて取り巻きも同等かそれ以上に悪いんじゃない?と言う気になってしまう。権力を握った独裁者におべっかを使い、先回りして彼の望みを叶えるべく(そして自分にも権力や富のおこぼれを頂戴すべく)尻尾を振っている政府高官の方が醜いし厭らしい。相当、悪辣な事をしてその地位に上り詰めているハズですからね。とは言え独裁者を擁護する気はさらさらないですが。
という訳でカブレラ氏の娘さんには全然共感できなかった…。というのも彼女や彼女の父が属していたのが支配階級だったからなのかなあ。そりゃあ酷い目にはあってるけどそれを言ったら長男一味に乱暴されて九死に一生を得た女子の方がもっと悲惨だし、被害を受けても助けてももらえなかった一般市民を思うと彼女はラッキーな方だった訳で。ウラニアさんは海外に逃げ出せたわけだけどドミニカに留まりそこで生き延びた人の労苦を思うと… 彼女よりはドミニカで苦労した人の方が独裁者を、ドミニカを糾弾する権利があると思うので。大体そのドミニカの金を(父の送金とは言え)使ってアメリカに留学している時点で一般的ドミニカ人とは言えないしなあ… 父の送金を受け取っている時点で父は絶対許さない、とか言われてもちょっとね(笑)彼女的にはトルヒーヨの息子のラムファス?の方が許せる、と言ってましたが正直、親父の金でやりたい放題しているバカ息子を私は許せないな。
暗殺実行犯達もなんだか…まあ複雑なのはわかるけど、という感じで。なんかちょっと動機が納得できないことも多いなあと。弟が誘拐犯に仕立て上げられた人の話もちょっと首を傾げる。弟は海外で殺人を犯したのにトルヒーヨが罷免してくれた。その時は感謝しかしないで罪をかぶせた後は憎悪するって。ちょっと自分勝手すぎませんかねえ?という訳で個々人の動機もちょっと理解できないこともありました。
オスカーワオは面白い本なんだけどふと考えさせられる事がしみじみと怖かったです。この本よりは独裁政権の圧迫的な息苦しさが感じられてドキドキしました。それというのも成功もしていない、普通の一般市民の立場から書かれていたからかな、と思うのです。
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「ミラバル姉妹のことは噂で知っていたに過ぎないが、他の多くのドミニカ人同様、3姉妹の悲劇に憤りを覚えた。『今や野郎は無防備な女たちまで殺すようになったってのに、誰にも止められねぇのか!ドミニカ共和国はそこまで落ちたのかよ?この国にゃあ蜂起する勇気も残ってねえのか、畜生!』 トニー ‐ 彼は普段は自分の感情を表に出すタイプではない ‐ が声を震わせながらミラバル姉妹の思い出を語るのを聞いて、ペドロ・リビオは堪えきれずに仲間の前で男泣きに泣いた。それは大人になってから彼が泣いた唯一の出来事だった。そう、ドミニカ共和国にはまだ男と呼べる者たちがいたんだよ。この車のトランクでガタガタ揺れている遺体がその証さ。」
1961年に起こったドミニカ共和国の独裁者トゥルヒーリョ暗殺についての小説。ずっと前から気にはなっていたのですが、”2010年度ノーベル文学賞受賞作品”、”ラテンアメリカ文学の巨人マリオ・バルガス=ジョサの最高傑作”、”大長編小説ハードカバー538ページ”、“定価3,800円(!)”ということでなかなか読む気になりませんでした。しかし読んでみるとこれが文句なく面白い!独裁者トゥルヒーリョ、その腹心たち、排除された元腹心の娘、そして暗殺者たち。各々の視点から描き出された世界が圧倒的で、引き込まれる。自分のスペイン語力でとても心許ないですが、原書も購入しました。
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2012.2記。
この本でリョサデビュー。
1930年代から30年にわたって南米のドミニカ共和国を支配した「総統」こと独裁者トゥルヒーリョ(愛称「チボ」)が主人公。
総統とその執務室を訪れる政府高官たち、失脚した元上院議長とその娘、そして総統暗殺のために路上で待ち伏せる反政府勢力の一隊。三つの場面それぞれの対話、回想が縦横無尽に交錯していく。
ノーベル賞と言っても難解さはない。むしろエンターテインメントとして非常に読みやすく、総統の性欲の旺盛さの描写とか下手すると結構爆笑してしまうくらいのノリなのだが、中盤からは刻々と迫る暗殺予定時刻、秘密警察を通じた想像を絶する圧政など一見バラバラな一コマ一コマがスパイラル状に収斂していき、異常なまでの緊張を強いられる。
総統の凄まじい猜疑心、ドミニカを一代で文明国にしたという強烈な自負、そして防共拠点としてドミニカを利用してきた米国が、人権問題を楯に突然手のひらを返したことへの怒り。
ファミリー企業の役員として経済的に恩恵を受けつつも、踏みにじられたプライドを取り戻すべく報復の日を待望する重臣たち。
トゥルヒーリョを殺せばすべてが変わる、と信じて総統の車を待ち続ける元兵士。
そして、ある意味何より怖いのは後日談のはずの「民主化」の現実。
拷問シーンなどが凄惨すぎてとてもじゃないが「面白かった」という総括はできないが、とにかく数年に一冊レベルの読後感。マジ疲れた。が、それだけの価値はあった。
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一冊で分厚い上に文字もぎっしり系。きついわーと思いつつ読んでいくと、しかし意外や盛り上がっていく後半。これは頑張った人には頑張った分だけ、得るものがあるというか。あれだ、大河ドラマ頑張って見終わったときみたいな充実感と、かなり感情移入してるということか。
何しろ独裁者である元帥が微妙に人間臭いというか、よる年波には勝てぬ、というところが微妙に泣けるじゃないか。いや、メインとしては秀才の娘なんだろうけど、そっちも熱いんだけど、しかしおっさんどうしようもないな。
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ガルシア・マルケス『族長の秋』でも扱われるテーマで,解説によればさらに多くの人々が取り上げたそうだ。ある種のカリスマ性を持った人物なのだろう(良い意味ではないが)。
本作では複数の時間軸からトゥルヒーリョ像を書く技巧を見せている。後年の我々がトゥルヒーリョを正確に捉えることは難しく,それでも本作で見せる彼(とその周囲)の興奮と衰亡は,不思議と説得力が強い。
本作はれっきとした歴史小説であり,小説の技術を駆使して圧倒的な現実に挑戦している。特にウラニアの存在は完全にフィクションなのだが,誠意と悪意を兼ねそろえた証言者として現実を補完する。
読後感はどうかというと,なかなか苦いものであった。大統領の暗殺という,まさにカタルシスへまっしぐらな展開を迎えたものの,残ったのは敗戦処理ばかり。それが確かに存在した歴史である,そして歴史は終わらないことをまざまざと見せつけられる。
至る所技巧を張り巡らせた作品ほど,技巧の存在を感じさせない。変に文学を考えないで,純粋に楽しんで読めばいいと思う。
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人間というものは、最初からそうだと、現在そうであると、将来そうなるだろうと、一度そうなったら永久にそのままになると決まっているわけではなく、ある日突然そうなったり、そうでなくなったりするものだ。