紙の本
指揮者は何をするのかを分かりやすく描いた新書の決定版
2011/06/26 21:27
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
5月に指揮者の佐渡裕がベルリン・フィルを指揮したことが話題となった。テレビでも番組が編成されて放映されていたので、ご覧になった方も多いであろう。ベルリン・フィルを指揮することにどれだけの値打ちがあるのかどうかは分からない。しかし、テレビ番組を見ていて、指揮者が演奏家を指揮する実態が垣間見えたことは間違いなかった。
コンサートに出かけた聴衆には、ステージ中央の指揮台に乗り、聴衆に背を向けてオーケストラを指揮する姿だけしか、見えないのであれなら簡単だと思う人もいるかもしれない。しかし、実際は相当の準備と相手もプロである演奏家を相手にして、指揮をすることの難しさは理解できたのであろうか。
著者は音楽学者(東大大学院情報学環・作曲=指揮・情報詩学研究室の准教授)であるが、自分で指揮もやれば作曲もやる。指揮するだけではなく、指揮法についての研究も行うという勉強家である。しかし、一般向けの新書を単独で書き上げたのは初めてだと言っている。
さて、その内容は少し欲張りすぎた感がしないでもない。趣旨は指揮者の仕事のやり方が通常の世間での仕事との共通点を見出だし、教訓を得て生かしてもらおうというものだ。それ故に一般向けの新書を上梓したわけである。
指揮者の仕事についてどのように説明するかは、指揮者によっても異なるであろうから、これも一律にこうだとは言えまい。しかし、本書では上記の佐渡裕が味わった演奏家との対話の難しさなどの一端が順序立てて描かれている。また、指揮者がオーケストラを指揮する際に備えておくべき能力も解説されている。こういうことは単に演奏される音楽だけを鑑賞するだけでは決して分からないことである。
クラシック音楽の原点は、グレゴリオ聖歌であると言われているが、言葉が付いた歌の場合は、言葉の意味を伝えねばならないので、指揮者の仕事はより複雑になる。本書ではベートーヴェンの第9交響曲を例示している。さらに、総合力のリーダーシップの例としてワーグナーを取り上げている。ワーグナーの作品は敬遠する人も多いが、その総合性においては比肩しうるものがないほどとして、具体的な作品楽劇『トリスタンとイゾルデ』を取り上げており、分かりやすく解説している。
著者は学者という立場で、世界のマエストロに付いて学んでいる。レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズ、カルロス・クライバー、フォン・カラヤンなどである。バーンスタインとのやりとりなどは大変面白く感じられた。愛好家にはぜひ読んでもらいたい新書の一冊である。
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楽譜を読めない人にも丁寧に説明が施されていて読みやすい本でした。ただ書かれている内容は一読しただけでは把握しきれない箇所もあるので要再読。折角の動画は入力する手間を省く為にQRコードなどで携帯電話で読み取りパソコンへ送信するようにしてあれば丁寧だったかも。
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どちらかというと「指揮者の仕事」であって「仕事術」はあまり書かれていない。著者の興味のあることを詰め込みすぎの感がある。頭はいいんだと思うが、あれもこれも書き散らしてある印象。動画で解るようにYouTubeのアドレスが書いてあるが、読者があんなに長い文字列を打ち込むとは思えない。そんなプレゼンの悪さを感じる。URLにしても、”feature=related”などいらない文字列も付いているあたりに、浅さが見えるかな。そこも含めて押し付けを多少感じる。
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オケのメンバーとの面白いエピソードや本番中のトラブルや資金面・人材面での事が書かれているかと思いきや、第九やオペラの事が中心で思っていた内容とはかなり違っていた。クラシック音楽は好きだがオペラはあまり詳しくないので、後半を読むのは結構つらかった。
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音楽ど素人の私にはとても新鮮な驚きがたくさん、でも難しすぎず丁寧。指揮者はプロデューサーだ。第九のくだり(原書の意味を知る大切さ)が良かった。
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指揮の仕事術はさておき、
後半からのマーラーの指揮者もとい総合芸術家としての仕事がすばらしすぎて感動。
オペラ劇場の構造、音の反響、ステージの調和
総てを取り仕切る役割の仕事。
まさに職人。
ぜひお読みください。
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『指揮者の仕事術』/光文社新書/指揮者に求められる能力や資質から、総合力のリーダーシップ論を論じている。・・・のだが、分量のほとんどがクラシック音楽の舞台裏の話や指揮者の役割について書かれている。あまりリーダーシップ論にふれていないのがちょっと残念だったけど、十分楽しめた。
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正調ではドの音に対してレ、ミ、ファ、ソ、ラ、シがそれぞれ9/8 5/4 4/3 3/2 25/16 15/8倍になっているので、実は各音同士の差は全部違っている(だから絶対音感というのは本来おかしい)。
バイオリンのような弦楽器ではその差を演奏者が微調整して正調で演奏できるけれど、ピアノではその違いをある意味強引に等分し(平均律)ている、この間の違いを指揮者はどう処理するか、というあたりの説明は東大で物理を学んだだけのことはあって理詰めで説得力あり。
そこからリーダー論に話をもっていくあたりはどうも強引な気はする。
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指揮者でありつつ研究者でも作家でもある著者の、本業の音楽での初の単独著書。
何の気負いも無く書かれているけれど、著者は超才人。指揮者修業をしていた若手時代に体調を崩し、しばらく現場に立てなくなったのをきっかけに、認知科学を通して音楽の基礎研究をすることに。
「指揮者ってつまり、何をしているの?」こんな疑問に、チーム内での役割、筋や骨など身体の運動として、平均律・純正律と調和、認知科学と建築から考える効果的な音響、などなど、多方面から答えている本。第九の新解釈も興味深い。
日常に使えそうな小ネタ(大事なことは片耳に向けて、など)もあれこれ盛り込まれつつ、けしてせせこましくならない丁寧な論に、著者の知性・品性が感じられる本。
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指揮者はオペラの時は歌手にも指示をするということを初めて知った。
和音は教会を改造したときにどこで響くかを試した時に「ド、ミ、ソ」がよく響くことを発見したのが始まりらしい。
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チェック項目5箇所。「仮に社長さんがいなくても、工場で職人さんは製品を作れますね。でも優れた経営者がいれば、品物の売り上げを五倍にも十倍にも伸ばすことができるでしょう?」。指揮者の仕事は、自分の芸術的イメージという小さな箱庭を奏者に伝えるだけのものではありません、反対に、自分の限界を超えて、メンバーと一緒に音楽を豊かに飛翔させること、そこにこそ、指揮の最大の可能性があると思います。指揮者はオーケストラの中で唯一、休符を演奏できる演奏家なのです、その意味で指揮者は”沈黙の演奏家”ということもできるでしょう。同じ作品を練習しても、さまざまな巨匠がそれぞれにまったく異なった「素晴らしいリハーサル」を繰り広げます、芸術的には、唯一の答え=正解は存在しません、あるのは、無数の正解か、ないしは無数の誤答です。長い人類の歴史の中で、音楽とは、現実の空間で生身の人間が歌ったり楽器を弾いたりして表現するものでした。
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ベートーベン運命は「ん・ジャジャジャジャーン」、片耳のみに聴かせる、バイロイト劇場のオケピットだけでなく、観客席の下にある木製の空洞が共鳴箱となり劇場全体で1つの楽器となっている・・・ 非常に興味深い話の数々でした。 指揮者が唯一、音を鳴らさない演奏者であるだけでなく、「沈黙」を作る演奏者という説明は大変示唆に富むものです。最後の結論として仕事は「みんなに夢を見せる」ということで、指揮者とは素晴らしいやりがいがある仕事ですね。
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前回読んだ「人生が深まるクラシック音楽入門」があまりにも良かったので、こちらも買ってみました。
著者の来歴が詳しく紹介されており、東京大学入学と同時に音楽もしっかりと勉強されていた経緯がよく分かりました。
バーンスターンやブーレーズとの交流、指揮棒の振り方など楽しく読めます。
感銘を受けたのは音響学。
有名なバイロイト祝祭劇場のホールを写真付きで詳しく紹介し、ワーグナーが求めた音について深く理解することが出来ました。
やはり音はホールで聴くべきだとつくづく思います。
2スピーカーで聴いていても音響ニュアンスが違うんですね。
今は5.1chで録音再生できるので、我が家も5.1chにしたくなったのですが、この前2chのスピーかに買い替えたばかりだと後悔しきり。
余談でした。
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指揮者とは、本番で大規模な事故を起こすことのないように、瞬時瞬時の判断を下し指示・措置を実行しなくてはならない現場監督であり、そのために誰よりも音楽全体の構造を詳しく理解し、度胸があり、コミュニケーション力がなくてはならない、ということ。
伊東氏は物理学の出身だそうだから、コンサートホールの音響についてはうるさそうだな。
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日経ビジネスオンラインなどにもよくコラムを書いておられる、指揮者、東大准教授の伊東乾さんが書き下ろした仕事術の本ということで、指揮者がオーケストラをまとめて総合力を発揮するための方法を学び、ビジネスシーンにおいてリーダーが持つべき信条や仕事術を学びたい、と思って買ったのだが、いい意味で期待を裏切られた。一つ一つの内容が非常に濃いのだ。指揮における関節の動き、バーンスタインやブーレーズのリハーサルの様子、第9交響曲の歌詞に秘められたべートーヴェンの真の思い、ヴァーグナーが設計したバイロイト祝祭劇場の音響効果・・。作者が実感したことが生の言葉で語られ、実に面白い。ただ、これらの内容を一般の仕事術に落とし込もうとするところはかなり無理があると感じた。なぜこんなにオリジナリティに満ちて面白い内容を「仕事術」の狭いカテゴリに収めなければならないのか。出版社の企画ミスだと感じた。