紙の本
「マクベス」のキーワードは”we”
2011/04/02 07:19
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k-kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
さすがに外題が、『深読み……』なので、日頃シェイクスピアなど読んだことのない輩――黒澤明の「蜘蛛の巣城」に触発されて「マクベス」の上演に出向いたわずかな体験しかない――にはちょっとハードルが高いと思ったのだが。
読み進めると、シェイクスピアの戯曲の奥深さが浮かび上がってくる。戯曲のひとつの台詞が、たしかな意味づけを持っていることを教えてくれる。
「マクベス」の翻訳で最大の発見は何でしたかと問われて、松岡さんは”we”と答えている。この単語をどう読むかによって、作品全体にたいする見方が変わると。
スコットランドの王ダンカンを迎えた将軍マクベスが、晩餐の席を退座し国王暗殺をためらって「例のことはもう止めにしよう」と妻に言う。続く二人のやりとりにはどちらにもweがある。
マクベスとレイディ・マクベスは一心同体のカップル。ダンカン王暗殺計画も夫婦の共同正犯で、マクベスが事を成就して王位に就くことを強く願っている。結びつきの強さが、このweの使い方に端的にあらわれているという。
「もし、しくじったら、俺たちは?」、「しくじる、私たちが?」と、weをはっきり訳したそうだ。
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「深読み」と称するのが相応しいかどうかは措くとして、
翻訳者が、稽古場に日参して隈なく付き合えば、其処はさまざま発見の場となろうことは、容易に察しがつく。
「ハムレット」「ヘンリー六世」「リア王」「ロミオとジュリエット」「オセロー」「恋の骨折り損」「夏の夜の夢」「冬物語」「マクベス」が交々語られる。
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まだ3分の一ぐらいしか読んでないけど、久しぶりに脳細胞が生き生きしてくるような感触。シェイクスピアの戯曲は坪内訳と小田島訳で全部読んだけど、未読のちくま文庫全集の訳者・松岡さんの対談? インタビュー? といった内容で、現在進行形で脚本を訳出している人ならではの深い解釈や原典に関する豊富(なんて言葉では表しきれないぐらい豊かな)知識に、小さな章立て毎に感心の溜息が出てしまう。
脚本を訳しながら、逆に演じる役者からインスピレーションを受けて更に脚本そのもの、世界そのものの解釈が深まるというエピソードや、相手を指す「二人称」の使い分けや「know」という中学一年生でも知ってるような動詞から、もう見事としか言いようがないような切り口でもって作品に新たな解釈を付与する手並みが素晴らしい。
小田島さんのエッセイとは趣は違うけど、これまたシェイクスピアを読み直したくなってしまうような本。
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あるいは翻訳者の精読、あるいは役者の直感によって、たったひとつの言葉に籠められていたシェイクスピアの深い人物造形が明らかになる、その発見の瞬間の喜びを手軽に共有できる楽しい本。一語であっても、わずかに感じる違和感から目を背けずに考え・調べつづけると、かならず新しい発見で応えてくれる懐の深さが古典の魅力であり、それは源氏物語にもシェイクスピアにも共通している。
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翻訳者として、セリフをどのように訳すのか?オフィーリアの松たか子、ジュリエットの佐藤藍子、デズデモーナの蒼井優、レオンティーズ(冬物語)の唐沢寿明、マクベス夫人の大竹しのぶらの役者に示唆を受けて脚本を変更していくというのは、訳者がギリギリまでベストを追求している姿だと感じた。シェイクスピアが名セリフだけではなく、さりげないオセロ夫婦の会話の言葉にまで、深い意味を持たせていること、それを蒼井優たちが感じ取っているというのは、凄みを感じる。マクベス夫人が主要人物の中で唯一名前が書かれていない人として夫妻の一体性を「We」という言葉の訳し方から深読みしていく説明にも唸らされる。凄い!