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「ボランティア」(とその前概念としての「奉仕」「事前」)という言葉がどのように用いられ、その言説空間がどのようなものだったのかを、明治30年代から現在までのさまざまな史料とインタビューなどを読み解きながら分析されています。
本書の焦点となっている、<贈与のパラドクス>とは、「<贈与>は、贈与どころか、相手や社会にとってマイナスの帰結を生み出す、つまり版贈与的なものになる」(本書, p.23)という意味論形式のこと。時代によって、これらのパラドクスの解決の仕方は異なるけれども、現代においては、「互酬性」をキーワードに、<贈与>をかぎりなく<交換>の地平に近づけることでこれを解決している。それによって結果的に、ボランティアの言説が、ネオリベラリズムの言説に限りなく接近し、それに対する批判のための足場をなくしてしまってしまっている・・・という分析は、現状の問題点をかなりクリアに説明している。
もはや、新たな社会をつくりだすための有効な概念としては終焉してしまった(かもしれない)「ボランティア」。それでもなお、そこからなにを考えていけるのかを議論していくためのひとつの手がかりを与えてくれる。
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出版社の方に教えてもらう。ボランティア概念の歴史を丁寧に追ったもの。「贈与のパラドックス」というのが少し理解が難しいが、参考になる。
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本書は、「ボランティア」という言葉と実践の歴史的展開を丹念に追うことで、日本における市民社会のあり方を問い直す野心的な研究書です。著者の仁平典宏氏は、ボランティア活動を単なる善意の表れとしてではなく、政治的・社会的文脈の中で生成し変容してきた複雑な現象として捉えています。
全体は大きく3部構成になっており、第Ⅰ部では戦前から戦後にかけてのボランティア言説の誕生と展開が丹念に跡付けられています。特に、「贈与のパラドックス」という概念を軸に、ボランティアをめぐる様々な言説の布置を浮き彫りにしている点が印象的です。
第Ⅱ部では、1960年代以降のボランティア実践の具体的な事例分析を通して、ボランティアをめぐる政治性や主体性の問題が鋭く問われています。大阪ボランティア協会の活動や、右派の影響下で形成された参加型市民社会の変容など、興味深い論点が次々と提示されます。
第Ⅲ部では、1970年代以降の「ボランティア」概念の変容と拡散が批判的に考察されています。自己効用論的な言説の台頭や、NPOの隆盛など、現代的な課題にも切り込んだ考察は示唆に富んでいます。
本書の最大の魅力は、ボランティアという一見自明な実践の背後にある権力性や政治性を暴き出す著者の鋭利な分析にあります。膨大な資料と緻密な理論的考察に裏打ちされた議論は説得力があり、ボランティアや市民社会のあり方について根源的な問いを突きつけてくれます。
一方で、やや難解な理論的枠組みや詳細な事例分析に読み進めづらさを感じる読者もいるかもしれません。しかし、ボランティアの意義と陥穽を見定めようとする著者の真摯な姿勢は、多くの示唆を与えてくれるはずです。
市民社会や公共性のあり方を考える上で、本書は避けて通れない重要な一冊だと言えるでしょう。「ボランティア」を通して現代社会の根幹を問い直したい読者に、ぜひ手に取ってほしい良書です。