紙の本
映画のダイ・ハードを見ているせいか、驚きは感じません。無論、捻りには「ああ、そうか」とは思いますが、どうも快哉をあげたくはない。それと、こういう話なら男の書き手がいるし。男性作家並みではなくて、それを越えてくれなくちゃあ、高村薫みたいに・・・
2012/03/05 20:36
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
女性作家としては珍しい道を歩んでいる気がするのが福田和代です。女性作家といえば心理サスペンス、あるいはややファンタジー味のある推理、あるいは江戸時代を舞台にした人情ミステリというのが専らですが、福田はハードサスペンス、あるいは警察小説、犯罪小説に特化して作品を発表しています。ま、私が読んだのは『赤と黒の潮流』『オーディンの鴉』『怪物』、今回の『タワーリング』をいれて4冊なので断定はできませんが、他の本も一応は内容案内程度はチェックしているので大きくは外れていないでしょう。
文章も、女性らしいというと変ですが、柔らかな表現というよりは男性的。ですから、最初に『赤と黒の潮流』を読んだとき、これは男性ではないか、と思ったほどです。ともかく内容と文章とが見事にバランスしている。となると、読み手の側としても、女性作家として受け止めるのではなく、純粋にハードサスペンスとしての出来をみる。勿論、比べる相手のほとんどが男性作家の作品、ということになります。
で、正直、今までの作品、〈女〉でここまで書くか、とは思わせはするものの、〈女〉という断り書きを取ってしまえば、まあ、平均かな、というレベルでしかありませんでした。確かに、よく調べてはいる。甘ったるい男女関係を持ち込んで、話のベクトルの向きを捻じ曲げることもない。直球勝負というのはわかります。でも、所詮は130キロ台。コースを丹念について、バッターを研究してはいても強打者には勝てない、そういう感じ。ま、『怪物』は変化球で打ち取った、っていう感じではありましたが。
で、お話ですが、簡単に言えば
六本木ヒルズが何者かによってビルジャックされ、犯人たちにビルのオーナーが人質にとられた。犯人グループの要求が不明のまま、時間は推移する。進んだ警備システムに侵入を阻まれた警察、そしてビル管理会社社員の考え出した社長救出作戦は成功するのか・・・
ということです。勿論、実際の六本木ヒルズや森美術館が舞台になっているわけではありません。乗っ取られたビルは六本木の超高層ビル・ウインドシア六本木ですし、管理会社も森ビル株式会社ではなくて株式会社マーズコーポレーションとなっています。でも、イメージとしては六本木ヒルズを思うのがいい。少なくとも東京ミッドタウンではないし、サントリー美術館でもないことは間違いありません。
それはカバーを見てもよくわかります。装幀 新潮社装幀室とあるだけで、カバー画がイラストなのか、CGなのか、それとも写真なのか、オリジナルを加工したものなのか不明ではあるものの、この曲線が目立つビルはミッドタウンの角ばった、ある意味、オリジナルデザインをコストダウンを理由にいじくりまわした、一見高価、でも実は値切りました、っていう外観とは一線を画してはいる。
でも、建物の絵(写真?)はともかく、カバー紙のテカテカと空の夕焼けか朝焼けか知りませんが、安直なグラデーションはないのではないでしょうか。せっかくの建物のハイテクさの足を引っ張って、建物だけみれば20世紀末、でも本の雰囲気は1980年代、ってアンバランスなものにしています。ちなみに、あえて21世紀の建物としなかったのは、シンガポールのあのプールを屋上に乗せた建物を見てしまうと、見劣りがするから。少なくとも我が国の高層ビルデザインは東南アジアのそれに負けている現実があるからです。
閑話休題。物語は、プロローグ、本文16章、エピローグからなり、初出は「小説新潮」2010年1月号~4月号、単行本化にあたり、大幅に加筆・修正をしているそうです。で、大雑把に紹介した内容からは、多くの方が映画『ダイ・ハード』を思い浮かべるのではないか、ということです。ま、映画にはタフな刑事が登場し、こちらは17階のオフィスに閉じ込められたビル会社の課長待遇の35歳の独身社員が奇策を思いつくので、違っているのは確かですが、でも雰囲気は一緒です。
ちなみに、その独身社員、船津康介ですが、本の8頁には「およそ十一年前に、株式会社マーズコーポレーションの企画事業部に入社」と8紹介されていますが、部署に入社というのはおかしい。日本語としては「11年前に株式会社マーズコーポレーションに入社、企画事業部に配属される」が正しいのではないでしょうか。
で、お話ですが、結果としてを『ダイ・ハード』を超えることはない印象で、福田の限界が見えた気がします。特に、人間関係のありかたに工夫がなくて韓ドラレベル。ヒネリはあるものの、話の前半で先が読めてしまいます。気になるのは福田が、今の社会、不動産業界などをどう見ているかということが全く伝わらず、単に材料として使っているという点。
どんなに取材をして、情報量をふやしても、それ以上に話が深まりません。ラリー・ボンドなどのハイテク・軍事スリラーがほんの一時期、市場を席巻しながら、あっというまに消えていき、今では振り向く人もいないというのは、マスコミの問題もあるでしょうが、やはり情報を詰め込んだだけの話では、たとえプロットがあったとしても人間が生きてこない、そういう小説には限界がある、という証ともいえそうです。
これでは大リーグには行けません。
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巨大ビルがジャックされ、最上階に住む社長が人質に・・・
巨大ビルの裏側みたいな所は、なるほどな感じでおもしろかった。
でも、ごく私的な動機で他人をこれだけ巻き込んでおいて、この結末って無いよなって思った。
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六本木ヒルズを占拠した犯人と、社長を人質にとられた社員たちの知恵比べ合戦!ハイテクな建物ならではのアイディア戦が面白いです。
ただ、プロローグや間に挿入される回想のおかげで犯人の正体や目的は最初から明かされているのと、ボスの正体もなんとなく想像がつくこと、犯人グループのメンバーがたくさんいる割に動機が弱い、語られないのがちょっと残念。
もう一歩スッキリ感がほしかったです。
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ビルジャック。
「ダイハード」かと思った。
実はいろいろ仕掛けがあるのだが、う~ん、まあ確かにその方が面白さは増えるのだけど、ちょっと無理があったような気がする。
というか、犯人たちの動機も弱いし、人物像もビルジャックの緊迫感もどちらも中途半端な感じ。もっと徹底的にやればよかったのになあ。
それなりには楽しめたけれども。
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このところの作品が安定した面白さながらも、個人的には
実は贅沢にも何か、物足りなさを感じていた福田作品ですが
今作はその物足りなさを満たしてくれる作品でした。
ボリュームもスピード感も作品の内容も全てがバランスが良くて
読み始めたら止まらない一気読みな高層ビルジャック・サスペンス。
高層50階の複合ビルが丸々乗っ取りされるというサスペンス
なのですが、その動機や余りにも痛快で大胆な犯人達の手口は
痛快さを感じてしまい、ドキドキするというよりは、ワクワク
して犯人達側に自分も立って読んでしまいます。今までの福田作品
には見られなかったのは、思わず笑みが溢れてしまうような
何かユーモアのある部分や、暖かみのあるようなストーリーが
押し付けがましくなく響いてくるところでしょうか?
こういった犯人側の痛快さを描くクライムノベルはやはり面白くて
心躍るのはルパン三世とか...の影響なのかなー。
ラストはやややり過ぎで蛇足感をかんじなくもないけど、
新たな福田作品の一面と思えば何か一皮むけた気がして
ファンとしては嬉しい。
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250ページ程度と油断して読むとやられる。
一気に読まされたうえに、「え、そうだったけ」と前に戻されることたびたび。
最後にストンと収まって気持ちがいい。
いつもながら犯人の動機は優しい。
そしていつもながらの感想、「もっと読ませろ」。
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サスペンスしては弱いような、そんな驚きの展開はなかった。犯人の脱出計画もなんとなく分かったし、最後のサプライズもなんとなくだった。 新しいビルを作るということは、そこにあった物を壊すということ。
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福田和代お得意のテロものだと思い、楽しみに読んだが、結局は美談にまとまり、何だか拍子抜け。
人情に力を入れたせいか、ビルジャックをされている臨場感がいまいち。
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うーん。
面白かった♪(゚∀゚)
現代の巨大ビルってこんな風になってるのかと
ちょっと詳しくなった気がします。
登場人物もなんだか憎めない人ばかり。
テンポも良いのでサクサク読めた。
が、動機がちょっと弱いようなー…
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読む前は単純に『ダイ・ハード』のようなストーリーだと思っていた。そしてさくさく展開し始めると、クライムサスペンスではなく、人情劇がメインなんだと気づかされる。
ビル内に閉じ込められた人間があまりにも多く、それを犯人グループだけでコントロールしてるというやや無理な設定に対して違和感が拭えなかったが、ハイテクタワーが立ち並ぶ現代と照らし合わせると全くのフィクションにも思えない。
ビルを乗っ取る側と守る側、作中で両者の攻防戦が描かれるが、期待するほどの緊張感はない。そこに加わることになった人間の想いがビルジャックの合間に挟まれるが、これも軽めであっさりしている。ただ何となく脳裏に残るので、人間ドラマの割合が意識下で増えていく。
高度なシステムや設備を巧く絡めたストーリーは面白く、スピード感にもばらつきがないので一気に読める。ラストの展開もいいと思う。ハラハラドキドキというよりは痛快な感じ。胃もたれ感も虚脱感もなく、いい塩梅でさくっと読了することができる。人間ドラマ部分は少し合わないな、と納得していれば、なかなか相性のいい作家なのだと思う今日この頃。
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地上50階地下5階、まるで一つの街のような巨大ビル。バベルの塔か、人類の理想郷か?朝9時、警報ベルが鳴り響く。「我々は、ウインドシア六本木をジャックした!」人質は最上階に住むビル会社社長。駆けつけた警察はシステムに阻まれ、容易に突入することができない。じりじりと過ぎる時間の中、17階のオフィスに閉じ込められたビル会社の社員、船津康介は、ある奇策を試みる…。非常用井戸、備蓄食、発電所を備えた都市の要塞。そのセキュリティと防災システムが、人々を外界から遮断していく。「タワーリング」という題名で思い出すのは「タワーリング・インフェルノ」という映画。パニック映画の雰囲気を期待して読み始めたのですが・・・。後味がさわやかな作品でした。
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前作、「迎撃せよ」ががっかりだったので期待せずに読んだのですが
やはり現代のシステムに関係する描写というか使い方は好きですね。
短くテンポ良く読めました。
もう少し同期やらを語りあるシーンを持つのがセオリーとは思いますが
このへんの溜める所は今後に期待します。
短期間に多くの本を出されてますが、取材不足にならない様に期待したい所です。
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この作品が初、福田和代ならチョット待った!といいたくなる作品です。
パワーダウンが著しい…ダストシュートの部分やロボタンの部分など伏線が判り安過ぎる感アリアリ。
集団パニックになるのは判るような気がする、犯人からの声明で毒ガス出すぞと言われたら、我先に逃げるよね…。
でもなんか、福田和代らしくなかった感じがしました。
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今まで読んだ作品では話を大きくしすぎて結局制御しきれなかった感が大きかったのですが、今回は「ビル・ジャック」という狭い舞台に限定したせいか最後まで落ち着いて読めましたし、そのおかげでおまけも楽しめました。
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福田さんは、
ネタもいいし、下調べもしっかりしてるんですが…、
どぅしても、ラストがぐだぁ~っとなってしまいがちで、
とてももったいないなぁって思ってます…。
今作は、背景や構成もしっかりしていたし、
ラストを、あのような形にしたいのならば、
こぅいう終盤の展開になるんでしょうし、
それも、いぃとは思うんですが…。
福田さんの場合には…、
同じパニック小説でも、『ウィズ・ゼロ』や今作のように、
小さなエリアで物語を展開~完結させる方が、
うまくまとまるような気がします…。
今作は、そぅいう意味ではよかったと思いますが…。
あと、最近…文章力がちと薄ぃような気も…。
期待感が高ぃので、頑張って欲しぃです…。
はい…(^。^)