紙の本
時代を超えてなお変わらぬもの
2011/10/26 22:12
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
天文二年、西暦一五三三年。筒井順興の下に典医として仕える義伯に、ひとりの妻があった。義伯の医術と胆力は稀なものではあったが、その妻・狭霧が持つ見鬼の才は、さらに稀なものだった。普通ならば癒すことができない病であっても、それが物の怪に端を発しているものならば、狭霧はその物の怪を退けることが出来る。そして弱った身体は義伯が癒すことで、筒井順興の深い信頼を得ていた。
しかしその平穏な生活も、順興の末子・力丸が病死したことで一変してしまう。力丸が義伯に祟り、彼は酒におぼれてしまうのだ。そして、彼らの一子・鷲王も死病に罹ってしまう。だが、狭霧には力丸の力が強すぎて祓えない。そんなとき、ひとりの行者が彼女の前に現れ、ある事実を告げる。
戦国乱世のはじまり頃にあって、人間と人間の力を超えたものが、人間の歴史に及ぼしていった影響をひも解く物語。女は平穏を求めながら自らの持つ力が超常ゆえに男に隠そうとし、男はそれを知りながら女を自らの下に留め置き平穏に暮らそうとする。しかしそんな想いも、彼らの力を超えたところで起きる動乱と、それを起こす人間たちの思惑により、押し流されてしまう。
寄り添う夫婦が互いを思うがゆえに離れ離れになり、そしてまたひとつになるという物語を、しっとりと歌い上げている。
紙の本
デビュー作にして正統的伝奇小説!
2016/04/28 18:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タンポポ旦那 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずっと気になっていた作品。ようやく読めた。久し振りに正統的伝奇小説出会えた気がする。デビュー作で驚かされたのも、恒川光太郎以来かもしれない。
時代的には室町末期、大和地方を舞台に寺・武士・衆徒・僧兵と典医の係わりや生き様が描かれているのも興味深い。何より、主人公・狭霧の夫である典医・義伯が仕えるのが、かの筒井順慶の祖父という設定にそそられる。なにしろ時代を下れば子孫の一人に筒井康隆がいるわけだから。
物語の展開、登場人物のキャラクター設定もデビュー作とは思えないほどの完成度と思う。伝奇分野では今後、半村良に迫ることをも期待してしまう。
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本屋で見つけて衝動買いした一冊。歴史や妖という響きに弱いもので...
空気感からしてもう戦国。歴史の波に抗えない人間の葛藤や、時の流れの非情さ、歴史物ならではの無常観のようなものがうまく書かれていたように思います。
登場人物の関係がちょっと分かりにくいと感じたので☆-1。
終わり方や文章の感じが好きでした。
これがデビュー作ということなので、これからが楽しみな作家さんです。
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一言で言うと「夫婦愛×伝奇モノ」といったところ。最初から最後までこの軸はブレない。
しかし、1章「典医の女房」(受賞時はこの1章のみの短編)を読んだ時点と最後まで読んだ時点で持つ印象は変わってくる・・・いや、変わってないけど変わってるというか。うまく言葉に出来ないのが悔しい。
狭霧は怪奇を視ることができる不思議な力を持っていて、夫と二人で怪異によって病んだ患者治療するという話。しかし、ある患者からだんだん大名同士の争いに発展していく。
最後は感動の終章で締められている。若干どうしてこうなった/(^o^)\と思わなくもないが、感動というからには感動です。
主君である順興がなかなかの曲者だった。夫婦の理解者にも見えるし、やはり大名なんだなと思うところもあり(←ここ超語彙不足で申し訳ない)
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物の怪が見えるという秘密をもつ狭霧と、一緒に育った夫の義伯。幸せな日々は戦乱の中へ。狭霧は家族を守れるのか?最後が切なすぎるよ…。
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これは電撃でなく、MW向きだ。
情報が整理されていて読みやすい上、語り口がよくて、さくさく読める。
場面場面のひきもあって、次々ページをめくっちゃう本でした。
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新人賞で期待はしたんだけど・・・。
読みやすいけど、内容が物足りない。
伝奇に読みなれていないからかもしれないけど・・・良くある話。
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時は戦国。不思議な力を持つ狭霧は典医の夫とともに病人を助けていたが、主君の子を看病の甲斐なく死なせてしまう。ふたりは物怪に見舞われ、やがて国を揺るがす陰謀に巻き込まれていく。ふたりの夫婦愛がよかった!派手ではなくともじーんとくる物語。
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最初は軽いファンタジー物だなって思ってました。
けど、読み進めて行くうちに
怪奇談でありながら
時代背景のしっかりした軸
そこに留まらない深い人物設定と描写。
終盤にかけては、思わず胸が熱くなりました。
続編があったら、読みたいです。
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戦国時代の大和の国、筒井家に典医として仕える義伯の妻狭霧の物語。
物の怪が見え、退治することもできる狭霧は、夫と共に物の怪がらみの病を治していたが、主家に対する呪詛を祓ううち、戦乱に巻き込まれてゆく。
狭霧の原動力は夫と息子に対する愛のみで、これが全編を通じて貫かれている。殺伐としたシーンも多いが、狭霧の心情が救いになっていて、困難な時代だけに、この一家に幸せになってほしいと心から思わせる力がある物語だった。
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これでよい。
そう思えるほど私は強くない。
何故巻き込んだ。
それは、人にないものがあったからか。
人にないものをもつものは、人と同じ生き方はできない。
そういうのか。
これでよいと、思えるなら、強いな。
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時代背景を把握した時点で、少し苦手な部類かも知れないなと思いましたが、お話の展開のテンポが軽快で、苦なく読み終える事が出来ました。
ラストは、普段はハッピーエンドに拘りはありませんが、このお話はもう少しだけ幸せなスパイスがほしかった!と、我儘にも思ってしまいました。期待値よりも遥かに良かったです。
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戦国時代好きなので購入。筒井順興さんって聞いたことあるかもと思って調べたら実在する武将さんでした。時代小説ではありましたがセリフなどはそこまでコテコテの武士語?ではなかったので単語さえ知ってればスラスラ読めます。物語は順興さんの典医(城勤めのお医者さんみたいな人)の義伯さんとその妻の狭霧さんのお話です。どちらかというと狭霧さんに重点を置いていたと思います。狭霧さんは物心ついた頃から妖怪とか普通の人には見えていない何かが見えていましたが義伯さんは見えない。でも普通の病は診れる。文中にもありましたが2人は荷車の車輪のようなもの(どちらも欠けてはならない)というのがよくわかりました。後半呪詛とか話が妖怪だけでは治らない感じになりましたが最後はハッピーエンドなのかな。2人の子供の鷲王がかっこよかったです。
h27.7.10
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戦国時代ものの和風ファンタジー。
神の御使い、呪詛なんかが出てくる。
戦国時代だと殺伐とした戦の話になるかと思いきや、主君の筒井順興が、家臣思いの良い殿さまで良かった。
もう少し、深く掘り下げた話だと、もっと良かったな。
結局は、呪詛よりも、戦よりも、エロ行者に全ての幸せを壊された感じ。
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時は戦国時代。
典医の妻、狭霧には、この世のものとは思えない力がある。
病者についた物の怪が見え、それを調伏する方法がわかるのだ。
それは的確で、夫の仕事の助けになっている。
そんな彼女の元に怪しげな修験者がやってくる。
災いはそれだけではなく、次から次へ彼女を苦しめる出来事が起きるのだ。
彼女はなぜこの力を持ったのか。
修験者の狙いは何か。
第一章から章を重ねるにつれ、狭霧の力は次第に強くなっていき、戦いに巻き込まれていく。
彼女は美しく、強く、そして夫と子を愛した一人の女性だった。
愛する人を守るため、彼女は自らの手を血で染め上げた。
愛しているから話せないことも、助けを求められないことも、その大きさは異なるにせよ、誰しもが経験しているはずだ。
穿った見方をすれば、夫である義伯は愚か者かもしれない。
妻が自分のために苦しみ、悩み、傷ついていることに気づかない。
彼が気付いてさえいれば、狭霧は追い込まれず、幸せをもっと享受できたかもしれない。
しかし、その義伯の愚かさとも見える部分こそが狭霧が安心できる場所であったのかもしれないし、家族と主君、そして自分を守る強さの源であったのかもしれない。
ただ、私にとっては、子の鷲王が不憫でならない。
母は出奔したものと思い、その面影の薄いままであったから。
これが戦国の世なのだ、といえば似たような、いや、それよりはるかに不幸なことは多かったに違いない。
だが、物語の中とはいえ、こう願わずにはいられないのだ、この青年に、春日山の恩寵あらんことを、と。