紙の本
ぬるさよりきつさの方が効く
2011/09/06 08:12
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「小説はストーリーとキャラクターから成る。わかりきった話だ」。第145回芥川賞の選評にそう書いたのは、今回の選考を最後に選考委員を降りる池澤夏樹氏である。
今回の芥川賞は受賞作なしという残念な結果であったが、それぞれの選考委員の選評を読むとそれもまたやむなしかと思う。では、実際にそうだったのか。
若手演劇人ですでに才能の萌芽のある本谷由希子の候補作『ぬるい毒』を読んでみた。
ある日高校時代に借りたお金を返したいと電話をかけてきた男。しかし、「私」には記憶がない。それがきっかけになって、「私」と男向伊の奇妙な交際を描いたのが本作である。
冒頭の池澤夏樹氏の言葉ではないが、ストーリーはなんとかわからないでもないが、キャラクターが全く理解できないのを小説といえるのだろうか。
主人公の「私」にしても向伊にしても、はたまた向伊の友人たちもその顔かたち造形が見えてこないのだ。
のっぺらぼう。
演劇人の本谷にとって、作中のキャラクターは演じる俳優のものかしらと考えてしまうくらいである。俳優Aが演じたらAの個性が、俳優Bが演じたら主人公はBの個性になるといった具合に。でも、それってどうなんだろう。
この作品の山田詠美選考委員の選評がふるっている。「この小説に生息するのは、ただのいっちゃってるお姉ちゃん。つき合いきれない」。
ここまで言われたら作者としてはショックだろう。
いい評価をつけたのが、宮本輝選考委員。「顕在化しない狂気を感じて、私はいちばん高い点をつけた」とあるが、この作品は変に狂気が顕在化しているから「つき合いきれない」のではないかと思う。
そして、おそらく川上弘美選考委員の評、「向伊の、どこがそんなに魅力的なのだろう。それさえわかれば、もっとこの小説の中の中まで入りこめたかもしれません」というのが一番的を得ている。
本谷にとって今回の選考委員の各評はけっして「ぬるい毒」ではなかったはずである。
きつい毒をどう薬に変えていくか、本谷有希子の闘いは始まったばかりだ。
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自意識って、やはり中学生くらいに多感になっていくんだよね。
本谷さんの訴えるものってやっぱり共感できてしまうんだよねー、不思議。
大好物のテーマが多い。
若いときに信じられている神話ってあるじゃんね。
そのコミュニティの中だけで語られているものもあれば、
自分の中で大人を見ながら感じ取った神話とか。
そういう呪縛を切り離せないでいる人間について。
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新潮3月号にて読了。今までの本谷作品とはまた違ったテイスト。
ジグゾーパズルのような人間関係の中で、自分をどこにはめ込むか。人のパズルの中では自分は何を担うのか。
透けた思惑との距離感。一気に読めた。
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向伊その他嫌な感じの人間ばかりだがざらにおると感じてしまう恐ろしさ。
最後の飲み会の場面はもう吐き気すら覚えた。
面白かった。すっかり芥川賞候補の常連ですな。
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いままでの本谷有希子さんの小説のなかでも、小説らしいはなしだった。
一気に読んでしまった。
人間の憎悪と狂気に満ちた物語。
とにかく向伊がいやなやつ。
だけどそれも主人公の被害妄想なのかもしれないってところが狂気。
あと味悪いよ、なかなか
芥川賞受賞するかなぁ、どうかな。前作に比べると可能性高そうだけど。
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最後の方で、主人公の口から「ぬるい」という言葉がでました。
ああ、なるほど、そういうことか、と感じたときに、
読んでいた自分は、すさまじいショックを受けました。
タイトルが、作品世界そのものということです。
「ぬるい」が故の本当の恐ろしさは、すごいとしか
言いようがありませんよね。
芥川賞3度目のノミネート作です。
本谷さんの描く世界観が審査員にどこまで理解
されるかと思いますが、素晴らしい出来です。
受賞の有無とは関係なく多くの人に、
読んでほしい作品です。
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やたらチヤホヤしてくる向伊という男に、分かっていながら騙されていく有里の物語。
本谷作品にあるコミカルさは少なめで、正直後味は悪い作品。しかしそれにしても本谷さんは女性の気持ち悪さを描くのが上手いと思う。騙されていることでやっと自分が立証できる感じ。有里の持つ痛々しさに共感してしまった。
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人の醜悪さと怠慢さをグロテスクに描いた作品。
ただ、描き方はあくまでぬめりとしていて、「ぬるく」、途中で何度も読むのをやめようかとさえ思った。
これを読み終えることができたのは著者の独特の表現が面白かったり、内容の薄さが幸いしたように思う。
読後、死を経験したような気持ちになった。
「ぬるい毒」というタイトル、なるほど。
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よく分からない。なぜ自分の人生が23歳で終わると考えたのか?
普通の田舎の一人娘というだけで…?
向伊の毒に少しも魅力を感じないのは歳のせい??
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期待しすぎてちと拍子抜け…
節々に散らばる表現とか、心理描写とか凄く好きなんですが…
私の読解力の無さによりよくわからんかったです。誰かに解説していただきたいです…
向伊くんがずっと向井理で再生されてました。
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今までの作品と違って暗い。
わかりやすい暗さじゃなくてタイトル通りぬるい暗さ、ぬるいおかしさ。
象徴的なアイテムとか主人公の「私のすべては23歳で決まる」っていう思い込みとか傷が治る男の挿話とか、設定とエピソードが詰まりすぎてて、他の本谷作品みたいにすんなりとはまりこめなかった。
主人公を馬鹿にしつくしてる向伊ら3人の真の思惑もわかりにくかった。でもそのわかりにくさをすっと察することが出来たのは主人公の育ち故かなと思ったり。細部が良かった。
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芥川賞候補で話題だっので読んでみました。
登場人物(特に熊田と向伊)がいきすぎていた事や、淡々と早く終わってしまう最後が少し物足りないと感じたが
だからこそ、このどうしようもない人間の嫌な感じが、本当に表現出来たのだと思う。
皆、ぬるい毒を持っているのかも知れない。
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本谷作品の中でも
とびぬけて後味が悪い。
まさに23歳で読んだけれど
もっと歳を重ねて読んだら見方が変わるのかな。
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2012.5.3読了。寝る前にちょっとだけ読もうと思っていたのに止まらなくて結局最後まで読んでしまった。もう三時…
読んでいて息が詰まりそうになった。
主人公の女性は、内に内にエネルギーが向かってて、自意識がすごい。
そして、私は向伊のキャラクターに、嫌悪感以上の魅力を感じました。
でもそれは、主人公が思ってるような人間だったらということで、主人公の目線以外から見たら向伊はどんな人間なのだろう。
読んでいてだんだん訳わからなくなってしまった。
もう一回読もう。
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コンプレックスの固まりの主人公が、ぬるい毒とわかって都会に出た大学生に騙された振りをしながら、結局しがらんだ家庭や田舎の生活から逃げ出したかった話なのだろうか。非現実的な話だが、誰にでも主人公のような自意識の過剰さや、大学生のようなぬるい毒があるのかもしれない。