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紙の本
どこにでもある、誰にでもある「我が家の問題」
2011/10/06 11:02
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆう - この投稿者のレビュー一覧を見る
完璧すぎる女性を嫁にもらった男の悩み、両親の間に流れる不穏な空気に気がついた娘、里帰り時の新婚夫婦の戸惑いなど、ごく普通の一般家庭が抱える悩みをユーモラスにリアルに描く家族小説六編。シリーズ第二弾。
モチーフとされる小さな悩みからシュチュエーション、人物の造形に至るまで、とにかくリアルに描かれていて、細かい所にまで共感でき、面白おかしく読んでいたのだが、どの編も読み終える時にはじんわりとした感動で満たされ、何度も泣きそうになってしまった。
ほんの一家族の小さな悩みに過ぎないものでも、当の本人達には重大で、しかし、その切羽詰った状況を脱した後の高揚感は、何ものにも変えがたいものがあり、紆余曲折や困難を乗り越えて得られる力にこそ、人間は生かされているんだと、しみじみと思えて仕方なかった。
ラフに読めて、笑えて泣けて、求めていた作品にやっと辿り着けたような感覚まで覚え、心から堪能できた作品だった。
(集英社)★★★★★
紙の本
問題のない我が家はない。
2011/10/16 18:52
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
我が家の問題 奥田英朗 集英社
現在(いま)のわたしの置かれた状況、あるいは過去にあった環境にぴったりくる設定の短編が6編収められています。しみじみしました。短編の内容に共感します。今年読んでよかった1冊です。
「甘い生活」新婚生活です。文句のつけようがない新妻です。でも、家に帰りたくない。ひとり暮らしをしていた頃、早く結婚したいと思いました。結婚したら、やっぱりひとりのほうがよかったとふりかえりました。鍵となる言葉は「気楽さ」とか「ひとりの自由」です。
「ハズバンド」どうやら夫は仕事ができないらしいという言葉から始まります。家庭で偉そうなことを言っている夫は、仕事場ではお荷物です。妻は、そんな夫でも支えていかなければ生活が成り立ちません。井上めぐみさんはやさしい奥さんです。ほろりとしました。万人がスター(仕事ができる人)ではありません。怒るのではなくあきらめて、やさしく包んでほしい。
「絵里のエイプリル」両親が離婚しそうな家庭の娘浜田絵里(高校3年生)の揺れ動く心理描写です。予想をくつがえす意外な展開でした。
「夫とUFO」6編のなかでは、この短編が一番好きです。旦那が仕事のストレスでおかしくなるのです。UFOと交信を始めます。夢の一戸建てと言います。ローンのために働く。ローンのために仕事を辞められない。男はいつも選択肢のない板ばさみの世界に身を置いています。高木美奈子さんは、なんていい奥さんなのだろう。拍手しました。
「里帰り」新婚夫婦がそれぞれの実家へ里帰りします。札幌と名古屋です。もう20年ぐらい前に崩壊している昔の親戚づきあいです。日本の親族関係は「集団」から「個」へ移行しています。
「妻とマラソン」作者の日常生活でしょうか。有名小説家の妻の孤独です。有名人の妻(お金持ち)ゆえに近所づきあいができない。262ページに書いてある「世間は打算と嫉妬で回っている」は正解です。行き詰まった奥さんは走り始めるのです。夫とこどもたちは彼女の応援を始めるのです。
紙の本
どれも楽しめる話ばかり。なかでも、私は「ハズバンド」がいいかな。自分の連れ合いが、実は無能だった、なんて社内結婚したあとで気付いたりしたら、結構考えちゃうと思うんです。それにしても奥田の小説は読み直しても楽しめるのが有り難い・・・
2012/04/12 19:21
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
写真 本城直季
装丁 大久保伸子
このコンビは、前作『家日和』の時と同じですが、カバー上下の白い縁取りと、ソフトフォーカス気味の写真が色合いもあって、より不可思議な雰囲気をだしています。これって、何度見ても模型にしか見えないのですが、実物でもフォーカスによってこんな味がでるのでしょうか。あまりに気になってネット検索すると wikipedia に
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本城 直季(ほんじょう なおき、1978年1月28日 - )は、日本の写真家。東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。
大判カメラのアオリ(ティルト)を利用して擬似的に被写界深度の浅い写真を撮り、実際の風景や人物などをミニチュアのように見せる手法で知られる。
「small planet」で2006年度木村伊兵衛賞を受賞。
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とあります。要するに、このカバーは実際の都市、東京かその近郊の風景であるということなんでしょう。しかし、被写界深度が浅いだけではなかなかこんな味はでません。言葉では表現できない、というか特別なテクニックがあるのでしょうが、しかし、これが現実か? って思うこと請け合いです。小説を読まなくてもいいですから(ウソですよ)、カバーだけでもじっくり見てください。押絵と旅する男、になったような気分を味わえます。
そういえば、つい先日、こういう効果の映像を持った番組を見た様な気がします。映画かドラマのオープニングでした。何のお話だったか、思い出せないのが残念ですが、でも、この手法で写された風景、例えば海上をいく船の姿や、高速道路、あるいはお台場あたりの様子というのは、おもちゃの世界を見るようで、ともかく面白いものです。ああ、あれ、なんの放送だったんだろう、多分、調べれば本城直季の名前もあったんだろうなあ・・・
とまあ、お話とは関係ないところでかんどうしてしまったわけです。ようやく、本論。まず各話について初出と簡単な内容紹介をしましょう。
・甘い生活?(「小説すばる」2010年2月):田中淳一は18歳で上京して以来、32歳になるまで気ままな一人暮らし。そんな淳一が2ヶ月前、二歳年下の昌美と結婚。なにからなにまで完璧にこなす奥さんの存在に、周囲はうらやむものの、淳一にはその完璧さが圧力になり、つには帰宅拒否症になって・・・。
・ハズバンド(「小説すばる」2009年11月):めぐみが大手事務機器メーカーの営業マン井上秀一と知り合ったのは、二年半前のこと。そして付き合って一年後に結婚して、現在妊娠中。で、今になってめぐみが気づいたのは、どうやら夫は仕事ができないらしいということ。本当にダメ男なのか気になっためぐみは・・・
・絵里のエイプリル(「小説すばる」2010年5月):浜田絵里は女子校の高校三年生。東校の生徒で医者の息子・佐藤雄一から付き合って欲しいと言われているが、不良っぽいのが嫌で無視しているところ。そんな彼女が受けた祖母からの電話。その会話から、どうも両親が離婚するらしいと気づいてしまった彼女は・・・
・夫とUFO(「小説すばる」2010年11月):専業主婦の高木美奈子の夫・達夫は有名私立大学出の営業マンで、42歳、職場の二年先輩で、結婚してもう14年になる。二人の間には、中一の娘・美咲と小五の息子・大樹がいて、それなりに満ち足りた暮らしをしている。そんな美奈子が気にするのは、夫がしきりにUFOを見たということ・・・
・里帰り(「小説すばる」2010年9月):岸本幸一は30歳の中堅IT企業の技術職、実家は北海道。妻の沙代は29歳、大手デパートで催事の仕事をしていて、実家は名古屋。学芸員の資格を持ち、キュレーターとして海外でも仕事がしたいと思っている。二人とも大学入学を機に上京して、つい最近、結婚したばかり。互いの実家に里帰りして披露をすることになったものの・・・
・妻とマラソン(「小説すばる」2011年2月):大塚康夫は46歳の小説家、5年前に名のある文学賞を獲りちょっとしたベストセラー作家になったものの、銀行の資産運用で失敗し、夫婦ともお金のつかいかたに気をつけている。二人には双子の息子、恵介と洋介がいて中三の受験生。そんな大切な時に、妻の里美がランニングにはまった。45歳の専業主婦はマラソンのせいでスリムなっていくが・・・
どれも楽しめる話ばかり。なかでも、私は「ハズバンド」がいいかな。自分の連れ合いが、実は無能だった、っていう事実に気付く妻、っていうのが、なかなかありそうでないお話。「甘い生活?」や「里帰り」は、似たような話を読んだ気がしないでもない、無論、面白いけれどユニークっていうほどでもない。それに比べると「ハズバンド」は発想がいい。奥田 英朗、もう一度読み直したくなる作家です。